クライマーズ・ハイ (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 8213
レビュー : 1123
  • Amazon.co.jp ・本 (471ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167659035

作品紹介・あらすじ

1985年、御巣鷹山に未曾有の航空機事故発生。衝立岩登攀を予定していた地元紙の遊軍記者、悠木和雅が全権デスクに任命される。一方、共に登る予定だった同僚は病院に搬送されていた。組織の相剋、親子の葛藤、同僚の謎めいた言葉、報道とは-。あらゆる場面で己を試され篩に掛けられる、著者渾身の傑作長編。

感想・レビュー・書評

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  • 1985年夏、日航ジャンボ機が御巣鷹山に墜落し520人という犠牲者を出した。

    山も深く傷ついていた。引き受けたのだ。他のどの山でもなく、世界最大の事故を、あの御巣鷹山が引き受けたのだ。

    この一文に、テレビで観た御巣鷹山の情景が、生存者の女の子たちがヘリコプターで救出されている様子が、濃い霧の中から現れてくるように記憶の底から浮かび上がってくる。新聞に載っていたのか、亡くなられた乗客の方の遺書に悲しみで心が震えたことも覚えている。
    その事故の裏で徐々に判明する惨状や真実、原因などをわたしたちに伝えるための『新聞』を作るジャーナリストたちがいた。彼らがそれらの記事を書くために、どれだけの苦悩や諦め、挫折や衝突があったのかということを今初めて知った。
    群馬県の地元紙『北関』で日航全権デスクとなった悠木は、当初事故が長野県であってほしいなどと思ってしまう。けれどこの事故と対峙した7日間で、彼は自分が何たるかを知り、仲間の言葉に涙を流し、そしてその先の人生を決定づける結末へと突っ走ることとなる。悠木は器用な男ではないのだろう。ジャーナリズムに対してとことん真っ直ぐでいようとすればするほど、周りとの摩擦は激しくなる。家庭でも息子とうまくいっていない。そして、一緒に衝立山へ登るはずだった安西は倒れ植物状態となる。幹部の思惑に潰される若手記者の記事、各部署との激しいやり取り、そして世紀の大スクープとなるべき確信の持てないネタへの恐れ。それらを全部悠木はひとりで抱える。更にある女性の投書への対応を見れば、彼が本当は優しく繊細な男であり、真のジャーナリストだと分かる。
    悠木は自分ではたったひとりで闘っていたと思ってたのかもしれない。家庭でも、仕事場でも孤独だと思っていたのだろう。けれど本当は、仲間たちや息子もちゃんと彼の背中を見て、追い続けていたのだと思う。

    「どこへ行ったって、俺たちの日航デスクは悠さんですから」

    この言葉以上に彼への仲間たちの信頼の大きさが表れるものはないだろう。
    著者の横山秀夫さんはこの当時、地元群馬の新聞記者だったそうであるから、この小説は単なるフィクションではなく、もしかしたら、ほとんどノンフィクションなのではないかとさえ思ってしまう。
    それほど、骨太な男たちのこの7日間の物語は熱くひりひりと迫ってくるものがあるのだ。

  • さすがに元新聞記者上がりの横山秀夫さん、臨場感と緊迫感が迫ってくる作品だった♪
    群馬の地方紙で頑固で一徹な記者の悠木が思いがけずに日航機墜落事故の全権デスクに指名される。偶然に彼に山の魅力を教えてくれた同僚は事故直前に倒れて植物人間状態になる。悠木にのしかかる様々な葛藤の嵐に如何に立ち向かうのか?
    最後には温かい終わり方でほっと出来るので読後感は良かった。頁を捲る手が止まらなかった。

  • 「地方紙の世界が活写されている。全国紙にしてやられてきた悲哀、中央政界の人脈を持ち込んだ社長派と専務派の陰湿な抗争、編集局と広告、販売、出版局との対立、「大久保・連赤事件」をよすがに生きてきた幹部記者たち、反目・セクショナリズム・嫉妬……。ジャーナリズムの世界もまた、その人間模様はわれわれ一般社会となんら変わることはない。愛憎を込めた新聞世界のリアルな描写は著者以外には書けないことである。」(p.467 解説「作者のモノを見る眼の深度」後藤正治)

    作中、広告部長の暮坂を若手記者の神沢が殴ってしまうというちょっとした事件があるのだけれど、その片が付く370〜373ページが、個人的にすごく印象に残りました。人間って弱いなあ。「嫌悪と憐憫がごちゃ混ぜになって胸にあった。」ほんとうにそんな感じ。本筋にはさほど影響がない事件なので解説でもふれられていなかったからメモ。人間の描写に理想化されたところがないのが良い。登場人物の誰が嫌いで誰のことは許せるかとか話し合うと盛り上がりそうである。

  • 2018.2.20
    読後感が清々しい!面白かった!
    現在と過去を行ったり来たり、
    どっちも良かった。

    同じ場面を与えられることは二度とない。
    その一瞬一瞬に、人の生きざまは決まるのだ。

    の言葉が強く印象に残りました。

  • みっともないこととかっこわるいことに相関関係はないと思った。「どう生きたいか」この問いに答えはなく、迷いながらもぼんやりとしたものを追い続けるような気がする。ただ、そこに至る自我というものには着目しなければならない。
    報道とは何なのか、何を基準に重要性が決まるのか、絶対と相対が存在する中で報道はどのように事実を伝えるべきなのか、、、思惑を受け取るのではなく、こちら側の考えとつき合わすことが必要だと思った。他人事は他人事であり、当事者にはなりえない状況の中で、どのような関わり方があるのか。
    死という終わりに向けて進む道のそこらへんに転がっているのが幸せ。

  • これは面白かった!
    御巣鷹山の日航機墜落事故がモチーフとなっています。
    新聞記者ものは好きなのですが、筆者の実体験に基づいているだけあって丁寧に書き込まれていて、臨場感と躍動感に溢れています。フィクションとノンフィクションの間の”現場”に自分もいるような感覚を味わえました。
    登場人物の苦悩や葛藤もうまく描かれていています。

    山崎豊子さんの「沈まぬ太陽」と違う視点から書かれていています。どちらもおすすめです。

  • 原著も素晴らしいが、NHKドラマ、映画にもなった。

    前者は佐藤浩一が主演。演技に迫力があった。
    脇役も素晴らしく、秀逸。

  • 記者としてギリギリを攻める状況や、県境で起きた事件を取材するかの地方紙の葛藤などやたらリアルだと思ったが作者が元記者ということで納得。それに加えて登山の過酷さ、何のために登るかの答えを追い求める様など、記者と登山の二つの要素が組み合わさっており作品の深みが増していた。

  • 新聞社を通して日航機墜落事故を描く。なんとも緊張感のある作品で、文庫の割に厚みがあるにもかかわらず一気に読んでしまった。日航機墜落事故に関する小説は初めて読んだが、これを機に別の角度からこの事件を見てみたいと思った。
    後にある解説を読んで、著者が元上毛新聞の記者であったことを知る。なるほど新聞社に詳しいわけだ。おかけでリアリティのある作品が読めた。

  • 最初、厚いし登場人物多いし(名前と関係を覚えるのが大変だった)私には難しすぎたかな…と思ったけど、読み始めたら止まらなくなった。
    人が死なないのに泣ける小説をかけるのは、本当に力がある人だと考えている。横山さんは泣きたいのに泣かせないという、その上を行く人だった。主人公の緊張状態が伝わってくるくらいの臨場感があるからこそ読者も気を抜けない。ずっと泣きそうなまま読んでいて、ラストでようやく気が緩んだ。
    新聞記者の仕事への想いや使命、立場の難しさ、社内における様々なプライドのぶつかり合いが詳細に書かれていた。記者は相手をみる目が肥えているから社内のいざこざが余計に難しくなる気がした。(相手のことを言葉以外のすべても含めて察知してしまうから)
    権力に負けず、スクープと真実の狭間に立ち、常識や正論さえも飛び越えていくストイックさと、本当に必要な読者に届ける思いやり。それが真の新聞、マスコミなのかなと思った。業界の人は一度これを読んでほしい。

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著者プロフィール

横山 秀夫(よこやま ひでお)
1957年東京都生まれ。国際商科大学(現・東京国際大学)卒業。1979年に上毛新聞に記者として勤務。『ルパンの消息』でサントリーミステリー大賞佳作を受賞したのをきっかけに退社。以後フリーランスライターとして活動。1998年「陰の季節」で第5回松本清張賞を受賞し小説家デビュー。2000年『動機』で第53回日本推理作家協会賞(短編部門)受賞。2002年『半落ち』が「このミステリーがすごい!」1位となり、第128回直木賞候補作となるが、そこで起きた様々な論議から、直木賞決別宣言を出すに至る。『半落ち』は2004年に映画化されて高い評価を得ている。その後、2004年『クライマーズ・ハイ』で第1回本屋大賞第2位、映画化されヒット。2013年刊行の『64(ロクヨン)』で第10回本屋大賞第2位、「このミステリーがすごい!」「週刊文春ミステリーベスト10」各1位を勝ち取り、大ヒットとなった。

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