ある人殺しの物語 香水 (文春文庫 シ 16-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (351ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167661380

感想・レビュー・書評

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  • 調べものをしていて行き当たった本を、
    目的とは無関係だが面白そうだと思って購入、読了。
    2019年9月、第20刷。
    ドイツ人がドイツ語で描き出した
    18世紀のフランスが舞台の奇想天外な物語。
    雅やかなタイトルだが、
    中身は相当にエグい(いい意味で)。

    未婚の母から望まれずに産み落とされた男児は
    ジャン=バティスト・グルヌイユという名を与えられ、
    修道院などで養育された後、皮鞣し職人の見習いとなったが、
    生まれながらにして類稀な嗅覚に恵まれ、
    あらゆる匂いを嗅ぎ分ける能力を持っていた。
    彼はパリで評判の香水屋バルディーニの弟子となり、
    精油を調合し、頭の中に立ち込めていた無数の香りを
    香水として世に送り出すまでになったが……。

    【引用】

     p.41
      少年は空想のなかで匂いを組み合わせるすべを
      心得ており、
      現実には存在しない匂いですら
      生み出すことができたのである。
      いわばひとり当人が独習した
      厖大な匂いの語彙集といったところで、
      それでもって思いのままに
      新しい文章を綴ることができるというもの。

     p.156
      富を稼ぎ出そうとは思わない。
      ほかに生きるすべさえあれば、
      生活すらたよりたくないのである。
      自分の内面にひしめいているもの、
      それこそ地上のいかなる栄耀栄華よりも、
      はるかにすばらしいものと思えてならない。
      これを香水によって表してみたいだけだった。

    言葉や絵筆でなく、香りによって
    自身の内に渦巻く物語、
    あるいは渇仰のイメージを現実化せんと試みた青年。
    目的のためには手段を選ばず、
    関わった人々をほぼ漏れなく不幸の谷に突き落とす
    “蛙男”(グルヌイユとは「蛙」の意)の一代記。

    華麗な調香の世界の話かと思いきや、
    非常に下世話で人間臭く、ゲスい小説だったので、
    ヘラヘラ笑いながら読んでしまった。
    デヴィッド・マドセン『カニバリストの告白』(料理界の話)
    https://booklog.jp/users/fukagawanatsumi/archives/1/4047916072
    を連想したが、
    こちらの方が小説としてのクオリティは
    ずっと高い気がする。

    訳者文庫版あとがきに曰く、
    映画の中で匂いをどう表現するのか、
    「やはり映像よりも、活字を通しての想像にこそふさわしい」
    とあり、私もそう思った。
    けれども、文章で香り/匂いを表現するのは、
    味について書くことに輪をかけて難しいとも言えよう。

  • 殺人の話なのだか、とても美しい表現の数々に感嘆の連続であった。
    匂いの世界を言葉で表現する難解さをいとも簡単な打ち破っている。
    原文と去ることながら、役者の能力の高さも間違いないだろう。
    世界の醜さと可憐さを詩人のように綴ってくれた。
    難しい事をやってのけると、こうも素晴らしさが強調されるのだ。

  • 嗅覚に取り憑かれた男性の物語。

    主人公は、嗅覚で全てのものを認識するので、暗闇や壁の向こうのものも見えずとも認識できる。

    人は視覚や聴覚で事物を認識していると思っていたが、嗅覚も侮れない感覚器官だなと感じた。

  • 面白かったです。映画を先に観てしまったけれど原作のこちらも凄かった…削られてるエピソードあったんだな。。
    天才的な嗅覚を持ってて香りで何もかも知る事ができるけど、自分自身には匂いが無い…それをグルヌイユが思い知るシーンが何度かあって、それも至高の香りを求めることへ拍車をかけたのかなと思いました。
    確かに、見たくないものは目を瞑れば見えなくなるし、聞きたくないことは耳を塞げば聞こえなくなる。でも臭いを完全に遮断する事は難しくて、良い匂いも悪い臭いもダイレクトに心に影響を及ぼしてくる。そう思うと臭いを掌握することで人を支配できるというのは強ちトンデモでもないのかも。
    「神はこの程度の香り」みたいなグルヌイユの思考にハッとしました。
    でも映画でも原作でも、ラストにグルヌイユが食べられるのが分からないです。キリスト教には聖体拝領があったりするから、聖なる高貴なもの=取り入れたい体内に、という考えで捉えるのかな?と思っているのですが正しいのかわからなくてもやもや。(キリスト教徒の人にこの辺の教えを請うていますが無教会派だった為カトリックは詳しくないようで、まだ答えがない為後々追記しにくるかも)

  • あらすじを読んで読みたくなった本。洋書を読むのはすごく久しぶり。ドイツ文學界最大のベストセラーらしい。匂いに関して超人的な能力を持つ男が主人公。距離的に離れていても匂いをかぎ分け人を魅力する香水を作ることができる男。その男の匂いを求めて放浪する様はあり得ないと思いつつも美しい女の子から香りたつ匂いってあるかもしれないと作中の美少女たちを想像した。ラスト主人公が自分にふりかけた香水は何?匂いで人を思うように操れることもあるかも?と思ってしまった作品。面白かった。

  • 匂いのない無個性な男であるときは、彼の人間性に何の親しみももてないように描かれている。しかし、人間の体臭を放つ香水を手にしたあとの、(覚醒とも思われる)変貌ぶりを読むと、匂いというのがいかに、この作品に置いて重要であるかが伝わってくる。古典のような単純な構成ではあるが、匂いの描写が緻密で、とても面白い小説であった。

  • amazonprimeの映画で観た。なんとも宗教的なお話…耽美、背徳、信仰、愛、そういったもの…
    処女の死体から出来上がった香水は、人が持つことを赦されない、神聖なものだった。香水の香りを嗅ぎ、処刑場で我を忘れて無垢に愛し合う人間達は、宗教画のようだった。殺人という作業さえ、崇高なものに感じられた。
    あの香水こそ、本物の「愛と精霊」だったんだろうか。

  • 初読

    ミステリなのかと思って読み始めたらそうではなく、
    時代小説のような不思議な小説…幻想文学か。なるほど。
    匂いの天才、無臭のグルヌイユ。

    18世紀フランスの情景が鮮明に脳裏に浮かぶような
    緻密な濃厚な描写。
    バルディーニの香水店の酔うほどに匂い立つ圧倒的なディテール。
    ここを読むのが1番気持ち良かった。
    気持ち良かったのです。香りを嗅ぐみたいに。

  • 匂いのみで世界を構築する存在がたまたま人の姿で生を受けたその時から、彼の欲望が、同族であるはずの人間のすべてから理解されずに捨て置かれることは決まっていた。たとえ彼がその術を持って世界を征服しようとも。

    ページを繰るごとに襲ってくる匂いの洪水に、けれども身構えることなかれ。
    物語の構成は丁寧で緻密、骨子がしっかりしていて盛り上がりも文句なし、世界で200万部超を売り上げたというのも納得、匂いの渦の中を翻弄され、話の進むままにただ流されたくなる、たいへん読みやすく、面白い小説でした。
    難を言うなら流麗で軽快な文章がために、おぞましいはずの場面にもある種の華やかさが漂ってしまうところ。個人的にはもう少し重くても良かったかな。

    それでも所々に覗くユーモアにはやっぱりクスリとさせられ、特に主人公のグルヌイユが行く先々で関わり合いになる人々のその後の顛末など、どれも大層ブラックながら思わず笑ってしまうような可笑しみがありました。エスピナス侯爵の無謀な挑戦とか滑稽で哀しかったなあ。

    神の存在など一顧だにしなかったグルヌイユ自身の、気まぐれな神の手のひらで渇きにのたうちまわるがごとくな人生にある種の皮肉をおぼえずにはいられませんが、残り香がふいっと立ち消えるような、孤独で鮮やかな彼の幕引きには、ほっと息をつく美しさがありました。
    あとはその余韻をこわさぬよう、そこにかつて存在した香りの跡形をそっとなでるのみ。

  • 途中から面白くなる。あらすじで面白そうなストーリーと期待したが、期待に応えうる内容。

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