囮弁護士 上 (文春文庫 ト 1-9)

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  • Amazon.co.jp ・本 (349ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167661809

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  • トゥローの描く架空の郡、キンドル郡を舞台にしたリーガルサスペンスは過去に登場した弁護士、判事、検事らが重層的に混在して登場し、さながら一大サーガを展開しているようだ。主役が各作品で違うため、それら主人公達から描かれるレギュラー出演者も各々の主観が入り、面白い。その描写は第1作から終始一貫して登場人物らの性格は変えず、違和感なく物語に入り込めるのがトゥローの素晴らしい所だ。特にサンディ・スターンは今までのシリーズ全てに顔を出しており、自叙伝『ハーヴァード・ロー・スクール』に彼のモデルになる人物(名前もそのまま)を作者は高く評価していることからこのキンドル郡サーガにおいてなくてはならない人物だと捉えているようだ。

    今回はキンドル郡の法曹界に蔓延る贈収賄事件の一斉摘発がテーマ。
    贈収賄に関わる判事ら、特に首席裁判官であるブレンダン・トゥーイを摘発せんとセネット判事はその中心人物の一人、ロビー・フェヴァー弁護士を囮としてFBI捜査官と共に手練手管を使って証拠を掴み、容疑者の連鎖の綱からトゥーイを捕まえようと企む。
    FBIのハイテク機器を駆使して判事らの証言を取得する中、実はロビーが無免許弁護士だったと判明する。捜査も大詰めの中、セネットは不退転の決意で捜査の続行を決意するのだが...。

    主人公は題名にもあるとおり、囮となる弁護士ロビー。プレイボーイで口達者な一筋縄でいかない曲者弁護士として描かれるが、彼の根底にあるのはルー・ゲーリック病に冒され、日々衰弱していく妻ロレインへの愛だった。
    プレイボーイである彼が妻への献身のため、FBIの囮となる事を了承する、一見ありえない設定だが、これをトゥローは実に説得力豊かに描いていく。特にロビーの秘書として付き添うFBI女捜査官イーヴォンの眼を通して幾度となく語られるロビーの妻の看病シーンはとてもこの物語のサイド・ストーリーとは思えぬほどの濃密さである。実際、今回の登場人物で最も印象に残るのは捜査の中心人物セネットでもなく、囮弁護士のロビーでもなく、また時に狂言回しとして使われるイーヴォンでもなく、このロレインだった。特にロレインがイーヴォンに語る、ロビーへの愛。これが綺麗事ではなく、寝たきりの身でさえロビーの体が欲しくて堪らないという動物的本能の吐露だというのが実に激しく胸を打つ。本当の夫婦とはこれほどまでに愛や肉欲が深いのかと感嘆した。
    最後の幕引きもやはり夫への愛に満ち足りている。恐らくロレインの眼には笑顔で手を差し伸べるロビーの姿が映ったことだろう。
    (下巻の感想に続く)

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