動物園にできること (文春文庫)

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  • 文藝春秋
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レビュー : 24
  • Amazon.co.jp ・本 (346ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167662035

感想・レビュー・書評

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  • 20年前の本ですが、今でも古びない内容です。動物愛護から一歩進んで種差別やヴィーガニズムがメディアでも取り上げられるようになった昨今、野生動物を捕らえ、飼い、展示する動物園という施設について改めて是非や意義を考えたくて読みました。平易な文章でとても読みやすいです。

  • 動物園が好きだけど、なんとなく感じていた違和感を、この本が見事に表現していて、はっとなった。人間主体、それも先進国の人間からの視点が大きく、環境保護・生息地保護を訴えるけど、自分たちの生活レベルは変えたくないとか、、、。なんて自分勝手!
    もはや地球全体が大きな1つの人間にとっての動物園だと思う。

  • 青木幸子さんのZoo Keeperの最終巻の謝辞に川端裕人の名前があったので.
    動物園とはなにか.考えたこともなかったので考えてる.
    何を見せるのか,動物を見せるのか,生態を見せるのか.
    生態を見るなら現地に行けばいい.現地では警戒心から見せてくれないから擬似的に見せるのか.現地では遭遇確率が低いから見せるのか.
    ただ,手元に一度置くと理解する,っていうのは何事にも共通するから,そこにルートがあるのかも.もう少し勉強を.

  • 動物園の最先端である(当時の)アメリカの動物園への膨大な取材を元に、動物園を取り巻く問題と動物園の取り組み、動物園がなすべき役割等を様々な角度からまとめている良書。以下、印象に残った話
    > 動物園の借り。ゴリラの子供を連れてくるには、家族の絆が強いゴリラの群れの成獣を全て殺さなければならない等、動物園には動物達に借りがある。その借りを返すという潜在意識があるために、アメリカではエンリッチメントや種の保存、環境保護活動が盛んに行われているのではないか。
    > 動物園の問題点。動物園は種の保存や環境保護に対するメッセージを送る事はおこなっており、それが動物園の存在意義の一つである。しかし、実際にどのような環境保護活動をするべきかという方向性の提案まではできていない。一方で来園者は必ずしもそのようなメッセージに興味がある訳ではない(動物園での会話のほとんどが動物の姿形などであり、その動物が絶滅危惧種である等の話までする人はほとんどいない)。
    > 日本の動物園の当時の現状。アメリカの寄付を背景にした動物園管理は、お役所的な遊園地的な日本の動物園には必ずしも全て当てはめる事は出来ない。しかし、限られた財源の中で日本的な発想の元生まれたチンパンジータワーは風景にはとけ込めないがエンリッチメントとしては高い効果があり(あるようにみえ)、それが海外でも逆輸入される等、動物園の分野では遅れている日本でも世界に貢献できる点があるというのは非常に素晴らしい。

  • 多角的な視点と絶妙なバランス感覚が素晴らしい。
    多くの日本人は動物園の動物も愛玩動物としての視点から(つまり「カワイイ!」というだけの感想で)見る、ということ、確かにそうなんだけど、改めて言葉にされると衝撃的だった。文庫のための後書きでも2006年付近の事情だから、2013年の今だったらもっと色々変わっているんだろうな。メディアや周りの来園者からは手放しでほめられている旭山動物園の抱えるジレンマなんかも書かれていて面白かった。行く前に読むと色んな視点で観られると思う。
    あと、2011年を経て2013年の今さんざん手垢のついた「~にできること」という言葉が久々にすんなり心に入ってきた。

    小説も面白いもの書く方だけど、こういったレポートのような本の方が個人的には読みやすかったな。

  • 動物園の複雑な現状を取材したノンフィクション。
    もとは単なる見世物だった動物園だが、多様な価値観のもと変容しつつある。動物の福祉、種の保存、生息地保護、環境教育…
    動物のために、自然のために、社会のために、動物園にできることは何か。

  • 幅広い問題意識が織り込まれていて、「動物園」に対して無条件に肯定的ではない自分でも違和感なく読めた。1999年の本(2006年の加筆あり)なんで、現在の動物園の状況が知りたいな。

  • 旭山動物園でいろいろ話題になった行動展示や、エンリッチメントに触れている先駆け的な動物園本です。自分はこの本がきっかけで川端裕人にはまりました。ついでに動物園にも。
    もっと話題になってもいい本だと思うけど、語り口がわりとあっさりしているのがいいと思うので、そこはしょうがないのかなあ。
    文庫版では旭山動物園の話も出てきて、色々お得。

  • アメリカの動物園は種の保存や環境教育の場としての役割を第一に担っていることがよく分かりましたが、日本の動物園はそれよりも市民の娯楽の場としての側面が強いように思えます。
    動物園に来た大半の人は動物の説明が書いてある看板を読まないで素通りします。また、身近な犬猫との原体験に引き寄せて「かわいい」で思考停止しています。しかしそれも、環境教育を受けたいと思って動物園に来る人はとても少ないでしょうから仕方ないことのように思えます。
    あと気になるのは、日本の動物園の展示手法は動物よりも来場者目線のものが多いことです。例えばホッキョクグマの展示は雪山を型どったハリボテを舞台にしています。来場者は自然で暮らすホッキョクグマを錯覚することができますが、実際にそこで暮らすホッキョクグマからしたらハリボテと雪山の住み心地は全くの別物ですので、自分の暮らしている場所を雪山と錯覚することはないと思います。動物園もビジネスですので、このように動物よりも来場者を楽しませるための展示が多くなってしまうのも当たり前なのかも知れませんが、見てるとどうしても悪いことをしているような気持ちになってしまいます。
    本物に近い環境下での展示には莫大なお金が必要でしょうし、とても難しい問題です。いずれにせよ、自然界から動物をお借りしている以上は、動物園が種の保存への取り組み等を通して人間だけでなく動物にも利益をもたらす存在になるといいなと思います。これから先動物園がどんどん進化していくのが楽しみです。
    とりあえずこの本で取り上げられてるアメリカのジャングルみたいな動物園に行ってみたいです。

  • 興味の幅が広く、中立的な視点を心がけた丁寧な取材で定評がある川端裕人の、アメリカの様々な動物園を舞台としたノンフィクション。
    ハードカバー版の初出が90年代後半ということで、もう10年以上前に書かれた作品ですが、書かれている内容はいまだ古びず、どの章もとても刺激的です。

    檻の中に閉じ込めるだけだった「見世物小屋」時代から、動物の権利が意識されるようになった20世紀後半に生まれた、「できるだけ自然の状態に近づけよう」という思想であるランドスケープイマージョンの隆盛、「自然な状態はいいけど動物が豆粒みたいで見えないよ」といった客側のニーズ、「そもそも動物園は、何に向けて存在するべきか」という根源的な問い、費用の問題、広大なテリトリーを必要とする動物や、象などの危険性が高い動物を収容することの是非、出産サイクルが早い動物、寿命が長い動物の管理の問題、動物園同士が協力し合うことで遺伝子の多様性を保とうという「種の保存計画」等々。

    動物園先進国であるアメリカが直面する様々な問題や取り組みが綿密な取材によって書かれており、「生き物」を扱うということは、かくも複雑で難しいことなのだなと思ったり。


    「実際のとこ、どうなの?」と動物に直接たずねることができない以上、動物に関わる事物は人間のエゴと切り離せない関係にありますが、「エゴだから良くない」「自然が一番」で思考停止するのではなく、「エゴかもしれないけれど、それを認めた上で今やるべきこと、そして、この先出来ることはなんだろう」といった、様々な問題を前に考えることをやめない姿勢は、とても信頼できるものだと思います。

    この作品を読んで面白い!となった方は、イブニングでかつて連載されていた良作漫画、『ZOO KEEPER』(青木幸子/全8巻)もオススメです。こちらもぜひ。

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著者プロフィール

川端 裕人(かわばた ひろと)
1964年、兵庫県明石市生まれの小説家、ノンフィクション作家。東京大学教養学部卒業後日本テレビに入社し、記者として科学技術庁、気象庁を担当。
1995年『クジラを捕って、考えた』を執筆し、ノンフィクション作家としてデビュー。1997年日本テレビを退社後、1998年『夏のロケット』で第15回サントリーミステリー大賞優秀作品賞を受賞し、小説家デビュー。
その後も小説とノンフィクション二つのジャンルで活躍を続け、2000年『動物園にできること』で第31回大宅壮一ノンフィクション賞候補、2004年『せちやん 星を聴く人』で第25回吉川英治文学新人賞候補。2018年『我々はなぜ我々だけなのか』で科学ジャーナリスト賞、講談社科学出版賞をそれぞれ受賞した。

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