デッドエンドの思い出 (文春文庫 よ 20-2)

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  • Amazon.co.jp ・本 (245ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167667023

感想・レビュー・書評

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  •  何から書こうかな。
     小説の話ではなく、私の話なのですが、実は最近、入院していた母が、一人暮らしの家には戻らず、ホームに入居しました。
     誰もいなくなった実家に母の荷物を取りに行くと、ひんやりと薄暗いその家の中に母と亡くなった父が作っていた温かい空気と笑い声を感じることが出来ました。
     母はその小さな家で幸せでした。父とかつては私と肩を寄せ合ってささやかに暮らし、孫たちが生まれるとよく預かって面倒を見てくれました。
     病気で倒れる前から、傍から見て一人暮らしは限界であったのに意地を張って頑として一人で暮らしていた母の守りたかったものは、この空気だったのだなと思いました。
     そう思うと塵ひとつ愛おしくなりました。
     よしもとばななさんの書きたかったのはこれに似た空気感だったと思います。
     母は病院で自分の状況がいまいちはっきり分からず、「家に帰る」とまだ意地を張っていましたが、病院のスタッフの皆さんに寄り添われ、諭されて、ホームに入ることを納得してくれました。
     母は80歳を超えてなお、更に大人になってくれたのです。
     ありがとう。そして、ごめんね、お母さん。

    • yyさん
      Mocomi55 さん

      Mocomi55 さんの優しさにあふれるレビューに
      何とも言えない切なさと温かさを感じました。
      よく似た経...
      Mocomi55 さん

      Mocomi55 さんの優しさにあふれるレビューに
      何とも言えない切なさと温かさを感じました。
      よく似た経験をしているものですから…。

      それぞれが少しずつ辛抱しながら
      best ではなく、better を選んでいくしかないですよね。
      お母さまが、これからの人生を
      少しでも幸せに過ごされますように。
      2022/04/01
    • Macomi55さん
      yyさん

      こんばんは。コメントどうもありがとうございます。嬉しかったです。
      yyさんも同じような経験をされているのですね。
      親が歳をとると...
      yyさん

      こんばんは。コメントどうもありがとうございます。嬉しかったです。
      yyさんも同じような経験をされているのですね。
      親が歳をとると、頼りないところばかり目がいってしまい、そのうちこちらが「大変だ」という思いに陥ってしまい…。
      でも、親は何処までいっても人生の先輩なんですよね。自分の体や頭が自分のいうことを聞いてくれなくなるという経験、そんな中で、すがりつきたいものに力一杯すがりつき、最終的には本能的に家族のことを一番考えた選択をしてくれた。そんな姿を人生の先輩として見せてくれたと思います。いつか、この母の気持ちが分かる時がくるのでしょうね。
      よしもとばななさんの本のレビューだったのですが、この渦中にあったので、ついつい母への思いと重なり、自分の話を書いてしまいました。
      2022/04/02
  • せかせかとまわっていく日常のなかに、ほっこりとした物語と、さらにはその物語の中に、せかせかとまわっていく日常では気づけない、大切な、細やかな瞬間を感じたくて、手に取った。

    大切な人を改めて大切だと思わせてくれる描写と、日常的に溢れている何気ない幸せへの気づき、そして、誰かと別れることの、哀しさ。心にぽっかりと穴が空いたような。

    この作品は、その穴に、すっと、優しく入ってきて、包み込んでくれるような温かさがあります。
    誰かを失って、誰かと出会って、誰かの大切さに気づいて、わたしたちは生きてゆく。

    やはり表題作の「デッドエンドの思い出」が一番よかったです。
    一度受けたダメージから回復することって、ものすごく時間がかかることで、目を逸らしていた部分、自分の心の奥深くを見つめる作業でもある。
    そうやって、心を無防備にした瞬間に、人の優しさが、ふわっと、ぐっと、入ってくる。その優しさの質量は、前と変わらないはずなのに、ダメージを受けた心には、その何倍もの質量で、入ってくる。
    だんだんと満たされてゆく心が、大丈夫と思えること、今を大切にできるということ、自分を大切にできるということ。
    ずっと大切にしまっていた、素直な気持ちが現れてくる。
    そんな素直な気持ちで人や物と向き合っていくと、なんだか、どうにかこうにか生きていける気がしてくる。

  • 悲しみをゆっくり溶かすように優しく包み込んでくれるような短編集。素敵な言葉がたくさん散りばめられている。物語を通して、自分の大切な思い出の欠片が次々と思い出され、切ない気持ちになるのだけど不思議と癒された。

    悲しいことが起きる度、こころに蓋をして生きてきた。でも、それはもったいないことだったのかもしれない。悲しい、も大切な気持ちだったんだなぁと。
    感情は自分だけのもの。よしもとばななさんの文章を読むと、どんな感情も味わうことで人生に深みが出るような気がしてくる。

    高校生のとき、「自分を大切にできないと人を大切にはできない」と担任から言われたことがある。もしかしたら自分の気持ちを蔑ろにしているように見えたのかもしれない。当時わからなかった言葉の真意が、今なら少しわかる気がする。
    もっと早くこのことに気づけていたら、少しは楽に生きられたのかな。そして人を大切にできたのかな。

    この本に出てくるみたいに、寄り添ってくれる人がひとり、いてくれたら。いや、もうこの本に出会えただけで十分なのかもしれないなぁ。

    ドラえもんとのび太みたいに、ふすまの前で、ふたりともざぶとんに寝転がって、いっしょにどらやきを食べながら、マンガを読んでいる。それが理想だという男の子。
    ほんと、幸せってそういうことなんだと思う。
    今、私は幸せだ。

    • aoi-soraさん
      ひろちゃん、おはよう。

      とっても温かくて素敵な感想をありがとう(⁠ ⁠ꈍ⁠ᴗ⁠ꈍ⁠)
      悲しい、も大切な気持ち……
      そうかもしれない...
      ひろちゃん、おはよう。

      とっても温かくて素敵な感想をありがとう(⁠ ⁠ꈍ⁠ᴗ⁠ꈍ⁠)
      悲しい、も大切な気持ち……
      そうかもしれないね。
      一冊の本で、今の幸せに改めて気付くなんて、読んで良かったと思う瞬間だよね。

      この本、“読みたい”登録したまま未読だったけど、ひろちゃんのレビューで、必ず読もうと思ったよ。
      朝から癒やされました〜(⁠*⁠˘⁠︶⁠˘⁠*⁠)⁠.⁠。⁠*⁠♡
      2022/11/02
    • 松子さん
      ひろ、おはよ(^^)
      朝からひろのレビュー読んで感動してます。

      本ってすごいね。過去の自分をも抱きしめて癒して、前に進んでいく力をくれるん...
      ひろ、おはよ(^^)
      朝からひろのレビュー読んで感動してます。

      本ってすごいね。過去の自分をも抱きしめて癒して、前に進んでいく力をくれるんだね。
      そして、受けとめるひろの真っ直ぐで柔らかな心。

      あおちゃんと同じく、私もこの本読んでみようと思いました。
      ひろの幸せが伝わってきて、ジンとしたよ。
      素敵なレビューありがとう!(^^)
      2022/11/02
    • ひろさん
      あおちゃん、まつ、こんにちは(*^^*)

      ほんと、今の幸せに改めて気づけたし、過去の自分を抱きしめて癒されて前に進む力をもらえたよ~!
      あ...
      あおちゃん、まつ、こんにちは(*^^*)

      ほんと、今の幸せに改めて気づけたし、過去の自分を抱きしめて癒されて前に進む力をもらえたよ~!
      あったかいコメントありがとう( *´꒳`*)
      2022/11/02
  • H31.4.21 読了。

     「幽霊の家」と「デッドエンドの思い出」が良かった。
     よしもとばななさんの他の作品も読んでみたい。

    ・「そういう素直な感覚はとにかく親から絶対的に大切な何かをもらっている人の特徴なのだ。」
    ・「そうやって人の人生の、本当の意味での背景になるってなんてすごいことだろう、と私は感動したのだ。」
    ・「ゆっくり、ちょっとずつ。いつもの動き、いつもの流れで、ていねいに。そしてそれはおばあさんのお母さんから、ずっと続いている暖かくて安心するやり方なのだろう。」
    ・「世の中には、人それぞれの数だけどん底の限界があるもん。俺や君の不幸なんて、比べ物にならないものがこの世にはたくさんあるし、そんなのを味わったら俺たちなんてぺしゃんこになって、すぐに死んでしまう。けっこう甘くて幸せなところにいるんだから。でもそれは恥ずかしいことじゃないから。」
    ・「自分がとらえたいものが、その人の世界なんだ、きっと。」
    ・「人の心の中にどれだけの宝が眠っているか、想像しようとすらしない人たちって、たくさんいるんだ。」

  •  五話からなる短編集です。秋の紅葉の情景がとても似合う気がします。ゆったりと流れる時間とともに、大切な人との思い出が、回顧するように切なくも優しく描かれています。
     冒頭に「藤子・F・不二雄先生に捧ぐ」と献辞があり、「ん?」と思いながら読み始めました。物語の会話で2ヶ所に、「理想の光景」「幸せってどういう感じ」との問いに、「のび太くんとドラえもんが漫画を読みながらどら焼きを食べている」場面・関係性を答える部分があります。何気ない日々の生活の中に、小さな幸せを感じる心をもっていたいと、改めて感じました。また、こう思わせてくれる瑞々しく洗練された文章です。
     筆者は『デッドエンドの思い出』が一番と書かれていますが、個人的には『幽霊の家』が一番気に入りました。
     五話のいずれも、タイトルのような袋小路・行き止まり、将来の展望が見えない終わり方でなく、これからの人生に温かい希望を与えてくれる力をもっています。辛い思いをした人にほど刺さる(と思える)、良質な物語でした。

  • すごく辛いことがあって、もう二度と立ち上がれないかもしれない。そう思っても、悲しみが永遠に思えても、生きている限りいつかは乗り越えていけるんだろう。未来の自分から「絶対大丈夫だから」って励ましてもらえるような、そんな優しい本。

    • hetarebooksさん
      ぴちほわさん

      はじめまして。コメント&フォロー&花丸ありがとうございます♪雑食な本棚ですが気に入っていただけたら嬉しいです☆

      す...
      ぴちほわさん

      はじめまして。コメント&フォロー&花丸ありがとうございます♪雑食な本棚ですが気に入っていただけたら嬉しいです☆

      すごく気分が沈んでいたときに談話室でこの本を紹介してもらったのがきっかけだったのですが、読み進めるうちにすーっと気持ちが軽くなっていくようで救われたのを憶えています。

      文庫版も同じジャケットで素敵ですよね。音楽や本にはそのときの自分にとって誰の言葉よりも届く瞬間がありますね。

      今後とも素敵な音楽や本を教えていただけたら嬉しいです♪
      2014/09/29
  • 久々に吉本ばなな先生の本、読了!
    吉本先生の独特な世界観に浸ってしまった。
    5つの短編集。それぞれ、生き方の違う女性が登場。幸せもあれば、辛さもあり、無意識に人を傷つけていたり、後悔もある。
    詩人的要素を持つ吉本ばなな先生のストーリーは、日々どこにでもありがちな様子で、話の展開的要素はないけど、なぜか浸ってしまう。
    中でも、最後のストーリーでもある『デッドエンドの思い出』は恋相手に裏切られてしまっても、異性の友情に救われる点はスッキリした!
    また違うストーリーも読んでみたい。

  • 人の縁って、出会いって、いいなぁ。
    夫婦になれたとか、家族になれたとかじゃなくて、自分の心の中の宝箱にそっとしまってある温かいもの。

    温かさという目に見えないものを、うまーく表現して、ほろっとさせてくれる素敵な本でした。
    そういう想い出を、いつまでも大事にしたいです。

  • 5つの短編。
    せつない内容だけど、静かで穏やかで読後じんわり温かい感情が残る内容なので、
    静かな夜、一人で読むのにもってこいの小説だった。

    あとがきに、つらいラブストーリーばかりで、
    人生で一番つらかった時期のことがよみがえる。だからこそ大切な本になったと、

    短編の中のデッドエンドの思い出という小説がこれまで書いた作品の中でいちばん好きだと、
    よしもとばななさん本人のコメントが書かれていた。

    わたしもデッドエンドの思い出がとても良かった。
    ハッピーエンドになるとかは関係ない世界。
    本当に人の感情をこんなにも優しく、やわらかく、丁寧に書けるよしもとばななさんが大好き。

    温かい気持ちになりたい時。
    また読み返したい。

  • デッドエンド(袋小路)の思い出。
    なんとなくタイトルだけで胸がぎゅっとなる。
    この短編集を読み始めて2ページ目でやっぱり私はよしもとばななさんの表現が心の底から好きなんだと思いました。
    どのお話も、「辛い」なんてものではない背景や過去がありながら、それでも今それぞれの主人公がいる場所や手にしているものの大切さや幸せを自分らしさを失わず感じようと、もがきながらも悟りながらも生きようと、生きていこうとする姿が痛々しくも頼もしくも感じられました。
    私は特に「幽霊の家」の岩倉くんと「デッドエンドの思い出」の西山くんが好きでした。

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著者プロフィール

1964年07月24日東京都生まれ。A型。日本大学芸術学部文藝学科卒業。1987年11月小説「キッチン」で第6回海燕新人文学賞受賞。1988年01月『キッチン』で第16回泉鏡花文学賞受賞。1988年08月『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で第39回芸術選奨文部大臣新人賞受賞。1989年03月『TUGUMI』で第2回山本周五郎賞受賞。1993年06月イタリアのスカンノ賞受賞。1995年11月『アムリタ』で第5回紫式部賞受賞。1996年03月イタリアのフェンディッシメ文学賞「Under 35」受賞。1999年11月イタリアのマスケラダルジェント賞文学部門受賞。2000年09月『不倫と南米』で第10回ドゥマゴ文学賞受賞。『キッチン』をはじめ、諸作品は海外30数カ国で翻訳、出版されている。

「2013年 『女子の遺伝子』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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