彼女について (文春文庫 よ 20-6)

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  • Amazon.co.jp ・本 (225ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167667061

作品紹介・あらすじ

由美子は久しぶりに会ったいとこの昇一と旅に出る。魔女だった母からかけられた呪いを解くために。両親の過去にまつわる忌まわしい記憶と、自分の存在を揺るがす真実と向き合うために。著者が自らの死生観を注ぎ込み、たとえ救いがなくてもきれいな感情を失わずに生きる一人の女の子を描く。暗い世界に小さな光をともす物語。

感想・レビュー・書評

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  • ばななさんの作品の中でもかなり好きな本です。
    エネルギーと静けさがせめぎ合っていて、苦しくなるような感じがたまりません。
    おそろしい出来事は日常の延長上に存在する事をあらためて思う一冊でした。

  • 自分が親から貰った愛情を
    きちんと受け取りなおすこと
    自分を客観視すること
    そんな通過儀礼を、
    この一冊通じて体験したような気がした

    自分が決めた愛のイデアみたいな像があって
    それに当てはまらないものは
    見て見ぬ振りをしてきていた
    ほんとうはこの世の中は
    愛でいっぱい溢れているのに

    悲しい思い出がなければ、幸せになれる訳じゃない
    受ける歯車と渡す歯車がかみ合わないだけで
    人ってこんなに孤独になってしまうものなんだなぁ

    未来に心奪われるのは過去に捕らわれるのと一緒
    ただ、今ここの、特別でも何でもない
    一つ一つの手の動き、話す言葉、噛み締める味わいが
    人生を形作って乗り越えさせてくれる
    毎日をしっかり生きる、っていうのはつまり、今の自分の動きにどっしりと集中することなんだなと最近になってよく思う

    よしもとばななと同じ時代に生きられて良かった
    長生きしてほしいなと身勝手に願う
    職業として小説家の体を取っているけど、彼女こそ現代のよい魔女なのかもなぁと思う

  • 私の傷もスーッと包み込んで
    いっしょに溶かしてくれるような本

  • 双子の母親を持ちいとこ同士の昇一と由美子が、昇一の母の遺言をもとに双子である母たちにまつわる過去の悲惨な思い出をひとつずつ紐解いてまわる物語(夢の中の話で、由美子はその事件の時にすでに死んでいた)

    はじめてよしもとばななの小説を読んだ。ここの登場人物の感性がよしもとさんの内側から生まれ出てきたものならば、少年少女時代の感性をここまで緻密に言葉で表現できるものだろうかと驚嘆した。自分自身の原体験を再現するには、記憶の鮮明さだけではなく、子供時代の少ない語彙では言葉にできなかった感情を、あらためて言語化して、可能な限り自然に適合する言葉を選ばなければならない。その際にかかるフィルターはきっと、年を重ねれば重ねるほど分厚いものになっていくが、いかにそれを取り除いてありのままの記憶を言語化できるかが重要になることは想像に難くない。それを、すっと理解できる言葉で表現されているこの小説は、ふと少年時代を思い出したくなった時にはうってつけだと思った。
    また、この小説に出てくる死生観は、今の自分にとって共感できる部分が大きかった。
    「子供を持つって、自分は素直にもう席を譲っていいな、というこんな気持ちなのかもしれないな」って、感じた由美子にめちゃくちゃ同意。自分の席を譲るって表現が割としっくりきて、まさに子供はその席に座ってくれると信じることのできる存在になるのだと思う。別に子供がいなかったとしても、その席に座ってくれる誰かが見つかった時点で、(託せそうな人はすでにいるが)自分の生を捨てる覚悟も然り、その生を楽しむ喜びを素直に掴みにいくこともできるようになると個人的には思われる。
    その生の楽しみ方の一つが、自分の身の回りを大切にし、その小さな世界を観察したり触れ合ったりすることなのだとこの小説を読んで感じた。

  • びっくりした。つらいファンタジー小説。ハッピーエンドになるのだとばかり思ったのに。

  • 自分の人生どうなのかと自問する時、何かを成し遂げたり、望むものが手に入ったりといった確かな幸せの手応えをついつい求めてしまう。でも、周りの人の愛情や日々の小さな思い出も自分を形作っている大切な要素なのだと教えられた。
    作者は暗い小説というが、自分には終始光にあふれた物語に思えた。もしかしたら作者自身もこれを書くことで何か救われたのかもしれない。

  • 彼女の魂の物語

    終盤幸せな空気が漂い始めてこのまま終わると思ったら予想外の展開だった。

  • 魔女、母、呪い、というキーワードに惹かれてこの本を借りました。『王国』に出てくるような、生命力の強い善い魔女を期待して読むと、今回は少し違いました。終始暗い過去の話であるはずなのに、涙を流して浄化されるような、心が上昇気流にのって軽くなるようなお話でした。話が順調に進みそうだというところにくると、突然足場がなくなるみたいに不安にとりつかれる。常にぐらぐら揺れていて怖いのに、何度でも立ち上がろうとする。そういうところが私にとってリアルで生々しかった。最後の、イメージの話もそう。私が心の底では確信しつつも、客観的に説明するのが難しく、否定されるのが怖いことを、はっきり肯定してくれた。母に会いに行き帰る電車の中でぼろぼろ泣いた。

  • 半分死んでいる女の子が優しい男の子の手を取って清潔な部屋に招かれる。一言でまとめるとこう。優しいファンタジー。

  • これは大変な話。こころに訴えるパワーが大きすぎて太刀打ちできない。
    いまの私にとても必要な本だった。
    救われたのか救われないのか分からない結末だけれど、癒されてゆく過程を感じられた。
    「自分が綺麗なものを見た時の感情はいつまでも自分のもので、それは変わらない」と決心する幼児の頃の話も美しくて悲しい。
    親からかけられた呪い、というのは最後にわかるのだけれど、どんなものでもその人が呪いだと思えば全てそうなんだだと思う。自分にかけられていると信じる限りにおいては。
    身体感覚で良い悪いを感じるところも好きだ。頭で考えすぎるとおかしなところまで彷徨って帰ってこられないことがあるんだもの。
    自分だけが知っている自分の悪さ、汚さ、惨めさなんかを”制御”する、これはとても苦しそうだけれどきっとおばさんは良い感情でやっていたのだと思う、それは誰でもやってるかもしれないけれどだれも教えてくれないことで、はぐれると戻りづらい。
    芯がある、とか、落ち着いていられる、というのもここに繋がるんだろう。
    主人公は、志半ばで迷子になって、適当でいいのです、という感じだけれど、「私にしかできない考え方と感じ方を持っていて、それだけでよいのだ。」と自分で言えるところがやっぱり芯がある人だったのだと思う。
    でも、それが頑なであることや盲目であることとは繋がっていなくて、一貫していなくてもべつにかまわないのが面白い。

    ママを愛するが故に、ママがどうであっても全て受け入れてしまった主人公は、まさに愛を求める子供だ。あきらめて受け入れることが自分にとって何をもたらすかを考えまいとしていた。親の悲しみを受け取ることは子供がする仕事じゃないのだと思う。
    食べること、痛むこと、皮膚の違和感なんかに敏感なことはとても生きづらいけれど、それによって、手遅れにならずにすんでいるのは感謝しなくちゃいけないのかも。

    幸せの記憶が人間の土台になる、というのは本当に感動した。
    私も素直に誰かに助けを求めて、そして助けたりしながら幸せに暮らしたい。なにかおかしなことも起きるだろうけれど、なんとか上塗りしたりして、笑っていたい。
    主人公は最後に、「ママはもう素直にだれか子供なんかに席をゆずってもいいと思うことができなかったのだ」、と気がついて、そこで許し、というか哀れみをもつことで本当に幸福になれたと思えた。
    私は、なにか目の前で起きている事件にとらわれたりしがちだけど、身体が言うことや、幸せの記憶があれば生きていけるかもしれない、と思えた。

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著者プロフィール

1964年07月24日東京都生まれ。A型。日本大学芸術学部文藝学科卒業。1987年11月小説「キッチン」で第6回海燕新人文学賞受賞。1988年01月『キッチン』で第16回泉鏡花文学賞受賞。1988年08月『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で第39回芸術選奨文部大臣新人賞受賞。1989年03月『TUGUMI』で第2回山本周五郎賞受賞。1993年06月イタリアのスカンノ賞受賞。1995年11月『アムリタ』で第5回紫式部賞受賞。1996年03月イタリアのフェンディッシメ文学賞「Under 35」受賞。1999年11月イタリアのマスケラダルジェント賞文学部門受賞。2000年09月『不倫と南米』で第10回ドゥマゴ文学賞受賞。『キッチン』をはじめ、諸作品は海外30数カ国で翻訳、出版されている。

「2013年 『女子の遺伝子』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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