蜻蛉始末 (文春文庫 き 21-3)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (442ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167679200

感想・レビュー・書評

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  • 大阪の街中にある藤田美術館の横を通って。

  • 明治に一代で財を築き上げた豪商・藤田傳三郎の生涯と、彼に影として寄り添った一人の男の人生を描いた一冊だ。

    萩の一商人が、いかにして関西の財界の重鎮となったのか。明治の政治家たちとの関係はどんなものであったのか。

    謎が多いとされる藤田の人生を厚みたっぷりに描いていて、藤田という人物にもともと興味があった自分には非常に面白い内容だった。
    幕末から明治の権力の流れがあちらこちらへと揺れ動く様や、そこに生きた人たちの欲望がまざまざと伝わってくる。

    藤田の影として描かれたもう一人の主人公「とんぼ」の存在も印象的だ。

    怠け癖があり身勝手でものを考えることをしない、言ってみればイライラするような男でありながら、なんとも言い難い味があり、ラストの流れには引き込まれた。

  • 明治十二年、政商・藤田伝三郎は贋札事件の容疑者として捕縛された。その十七年前、高杉晋作の元に集まる志士たちの中に伝三郎がいた。幼馴染みの“とんぼ"宇三郎が影のように寄り添う。奇兵隊結成、禁門の変…幕末から明治にかけての激動の世の中で「光」と「影」の宿命を負った二人の友情と別離、対決を描く傑作歴史長篇。
    (2001年)

  •  明治期の政商・藤田傳三郎と、幼馴染みの“とんぼ”こと宇三郎。
     光と影の如く交錯する、男たちの人生を描いた歴史小説。
     幕末の動乱に翻弄され、傷心し、目まぐるしく変わりゆく時代を必死に生き抜く二人の、友情ともつかぬ絆と、別離。
     激動する奔流を泳ぎ渡りながら、少しずつ変貌しつつも、変わらぬ心底を持つ彼らの、深い繋がりが痛ましい。
     その関係を下地に、実在の人物も複数登場させ、世に言う「藤田組贋札事件」が解釈され、創作されている。
     事件前後の、宇三郎から傳三郎に対する呼称の変化に胸を突かれ、さらに終盤の回復に涙した。
     また、この時代の名立たる人物の、『陰勤め』となった男たちの生き様が、作品の側面を支える。
     そうした陰をも背負い、あるいは踏み台として生きる、著名人らの強かさと怖ろしさ。
     急激に発展し、故に歪んでしまった近代日本社会。
     作中にて、明治とは新しい時代の名前ではなく、ただの化け物だと称される。
     その怪物に食い荒らされる、人間たちの凄惨と悲哀を底流に、物語は静かに終息する。

  • 序章の結末を引っ張った割には、間延び感が・・

  • 長州藩というものは、幕末期を描いた小説、ドラマなどで見聞きしているが、長州藩を主体としたものは一つもみた事がなかったので、ある意味新鮮でありました。

  • 藤田組贋札事件って・・・ヤクザの話かと思ってました~( ̄▽ ̄;)  歴史小説だったのか~・・・って、いやいや、これがまた、めっちゃ面白くてですね!一気読みでした!!んもう、こういう小説って、めっちゃ好き♪ 四の五の言わずに、さっさと手に取って、お読みになることをお勧めします!!

  • 明治維新、長州藩に興味のある方は、もっと面白く読めたと思います。

  • ≪内容覚書≫
    贋札事件の容疑で逮捕された藤田傳三郎。
    身に覚えのない傳三郎だったが、
    贋札に「蜻蛉」が印刷されていると聞き、黙秘を貫く。

    果たして、「蜻蛉」に、どんな物語が、秘められているのか。

    ≪感想≫
    読み応えのある歴史小説だった。
    藤田傳三郎や贋札事件については一切知らなかったが、
    十分に楽しめた。

    最初は、傳三郎にも宇三郎にも好感が持てず、
    読み終えられるか心配もしたが、
    途中から、ぐいぐい引き込まれていった。

    蜻蛉を見捨てきれない傳三郎。
    一心に傳三郎を思う宇三郎。

    光と影の宿命を持った二人の男の対決、と、
    紹介されているが、それほど対決した感じはしなかった。
    なぜか、恋愛小説よりも切なく苦しい思いに駆られた。
    この結末に不満はないし、
    こう終わるしかなかったのだろうと納得もしているが、
    それでも二人が笑って終わるハッピーエンドを見たかった。

    微妙に史実が入る歴史小説は、
    想像の翼を広げやすくて、本当に面白いと、
    改めて思わせてくれた一作。

  • 歴史小説・時代小説が好きな人にはおススメ!
    幕末から明治という動乱の時代に生きた商人とその幼馴染の交流と離別、そして裏切りなどを描いた人間ドラマが中軸となるのだが、そこに政治的な皺苦などが絡まり、複雑な展開を繰り広げるのだが、北森鴻はやっぱり話を書くのが巧い! 登場人物たちの愛嬌ある性格が、物語を活き活きとさせていて、すらすら読める。
    もう本当に面白い!
    北森鴻は池波正太郎に影響を受けているのだが、これはむしろ司馬遼太郎的だと感じたのが印象的だった。

  • 作者としては珍しい本格時代長篇。やっぱり上手いじゃん。 藤田組贋札事件は「警視庁草紙」にも出てきたエピソードだが、 藤田伝三郎自身はそんな魅力的な人物ではない。 しかし、そこに宇三郎という魅力的な人物を 狂言回しとして配したことにとてもセンスを感じる(山本周五郎の「さぶ」を思い出した。そして「山風が好きなんだなぁ」というのを 存分に感じさせてくれる点で、なによりポイントが高い!

  • 正直言って、中盤までは読むのが辛かった…。ただ、「最後まで読まなきゃ面白さが分からない。」と言われて読み始めたので、意地になって読んでました。ある所でそれまでの話しが収束し、「ああ、やられた。。。」と思う事請け合い!

  •  北森鴻の中で一番好きな作品です。

     題材になった藤田組の偽札偽造疑惑なんて歴史があることも知りませんでしたが、維新の有名人も裏で糸引いているしで、けっこう大きな疑獄事件みたいです。
    北森さんは山口出身なので、この長州出身の財界の豪傑特別な思い入れがあったんじゃないしょうか。 
     偽札を偽造する場面の鬼気迫る描写が、とくに気に入ってます。
     
     

  •  「暁英 贋説・鹿鳴館」にて絶賛されていたので再読してみる。

     幕末から明治にかけての傳三郎と宇三郎という2人の男を中心に光と影を描いた……だそうなんだけども、いまいち物語の筋が弱い。そもそもある程度その時代の歴史を知らないと、とっつきにくくすら感じてしまうかもしれないと思った。

     宇三郎は、よくわからない人物で途中まで面白いんだけど、後半の転節が激しく、一周して「まったく意味不明」になってしまったのが残念。読み込みが足りないのかなぁ。
     傳三郎は、宇三郎に比べればまっとうなんだけど、それゆえに地味かつ、活躍している箇所がなぜか後世の伝説の引用になっており、見せ場がなくてかわいそう。
     終盤駆け足過ぎるので、もう少しドラマがみたかったなぁ。

     あるいは短編連作で各場で盛り上がりがあると「わかりやすい」話になったのかもしれない。

     著者はこの作品も、「暁英 贋説・鹿鳴館」や「なぜ絵師に頼まなかった」も、幕末から明治である。きっとこの時代がすきなんだろうなぁ。もう少し他の作品でもこの時代を見てみたかったなぁと。

  • 藤田伝三郎のことは全然知らなかったけど、小説として面白かった。
    愚直で一途だった宇三郎が何故?って冒頭に示される結末に向かう、傍から見ると狂気、本人の中では正当な論理に従う心の動きに引き込まれる。
    それが実は影だけではなく光も…。価値観を他者に求める人は怖い。

  •  ミステリーかと思ったら、歴史小説です。

     政商、藤田傳三郎と幼馴染の物語り。時代は、幕末から明治にかけて。場所は、長州から大阪。
     
     歴史小説、実は司馬遼太郎以外は、好きではない。なのだが、これは面白かった。おそるべし、北森鴻。こういう隠しだまをもっていたか。
     にしても、長州人を主人公にしたあたりは、山口への偏愛っぷりがわかるってもんで。ホント、山口すきだよね。
     これの面白さは、読めばわかる!ってもんなんだが、私としては、禁門の変から維新がなるあたりが、ものすごい駆け足だったのが残念。大村益次郎なんて名前出てきたなって思ったら、すぐに暗殺されちゃったよ(苦笑)
     と、高杉晋作像が、他とちょっと変わってるようで面白かった。場面としてはあまり出てこないんだけど、しっかりインパクトがあった。

     …と、書いてると、だんだん司馬遼太郎と比較したくなってきたので、ここらでやめときますww
     うん「十一番目の志士」とかと比較したくなっちゃったよ。

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著者プロフィール

1961年山口県生まれ。駒澤大学文学部歴史学科卒業。’95 年『狂乱廿四孝』で第6回鮎川 哲也賞を受賞しデビュー。’99 年『花の下にて春死なむ』(本書)で第 52 回日本推理作家協会賞短編および連作短編集部門を受賞した。他の著書に、本書と『花の下にて春死なむ』『桜宵』『螢坂』の〈香菜里屋〉シリーズ、骨董を舞台にした〈旗師・冬狐堂〉シリーズ 、民俗学をテーマとした〈蓮丈那智フィールドファイル〉シリーズなど多数。2010 年 1月逝去。

「2021年 『香菜里屋を知っていますか 香菜里屋シリーズ4〈新装版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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