猛スピードで母は (文春文庫 な 47-1)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (168ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167693015

作品紹介・あらすじ

「私、結婚するかもしれないから」「すごいね」。小六の慎は結婚をほのめかす母を冷静に見つめ、恋人らしき男とも適度にうまくやっていく。現実に立ち向う母を子供の皮膚感覚で描いた芥川賞受賞作と、大胆でかっこいい父の愛人・洋子さんとの共同生活を爽やかに綴った文学界新人賞受賞作「サイドカーに犬」を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 二つの短編物語。
    余分な言葉が削ぎ落とされており潔い。そしてとても読みやすい。短めの物語だが惹き込まれた。
    「猛スピードで母は」は芥川賞受賞作、「サイドカーに犬」は芥川賞候補作ということで、暗く重たい話かなと思っていたが、どちらも想像に反して淡々と軽やかに、ときにユーモアも滲ませながら話は進んでいった。
    「猛スピードで母は」は母子家庭の小学五年生の男の子と常識はずれの母の物語。豪快で常識はずれな母の我が子への不器用な愛情を感じた。
    「サイドカーに犬」は小学四年生の女の子と父の愛人の一緒に過ごした少し奇妙な日々が描かれる。
    子どもの置かれた環境から考えると決して明るい話ではないが、その状況を悲観しているでもなく、子どもの視点から淡々と語られていく。
    ふと子どもの頃の感覚を思い出す。
    子どもって大人が思う以上に感じているし考えているんだよね。
    なんだか独特の雰囲気で魅力を感じる作品だった。

  • 表題作も『サイドカーに犬』も今の感覚で言えばひどい大人達に振り回される子どもの話。でも子どもである慎や薫が親や愛人など大人に対してとる行動が、過度な庇護を求めるわけでもなく淡々と自然で清々しい。寂しさと笑いの物語。

  • 111108さん、ようやく長嶋有さん読みました!
    良い小説でした…。

    ・サイドカーに犬
    母が家出し、小学生女子の薫が、父と、一風変わった父の愛人の洋子さんと、弟と、父の仕事仲間たちと過ごした一夏の物語。
    淡々と綴られていく気だるい夏のエピソード、父の不祥事によって意外に派手にバタバタと幕を閉じるラスト、偽造硬貨で鳴り響く「夏休みの終わりを告げるベル」に、大切なものがなくなる前の最後のきらめきとノスタルジーを感じた。
    何より、大人になった薫が、洋子さんを思い出して「そろそろなんじゃないか」と、人生が劇的に変わる何かを予感するような最終ページが、すごく良かった。

    子供の目から描いているからこそ、洋子さんのかっこよさが際立っている。
    また夏に読み返したいような中編で、個人的には表題作より好き。

    ・猛スピードで母は
    とにかく、母が団地の梯子を登って、ベランダ伝いに自室まで渡っていくシーンからラストにかけてが心に残った。
    私としては、「猛スピード」な母の型破りな愛情が、遠回りして慎に届く場面のように思った。
    こちらの小説も、何度か読み返したらいろいろ発見がありそう。

    • 111108さん
      ロッキーさん、こんばんは♪

      いきなりレビュー冒頭で叫んで?いただきありがたいやら恥ずかしいやらです〜

      勧めておきながら何ですが、長嶋有さ...
      ロッキーさん、こんばんは♪

      いきなりレビュー冒頭で叫んで?いただきありがたいやら恥ずかしいやらです〜

      勧めておきながら何ですが、長嶋有さんそんなに数多く読んでなくってこの本も未読です。お兄さん又はおっさんが主人公という勝手なイメージがあったので、子供が主人公ということがまず新鮮ですね!そして割と何も起こらない系の話かと思ったら激しい展開があるようで?気になります〜
      長嶋有さんの知らなかった面を教えてくれたロッキーさんに感謝です‼︎
      2022/07/28
    • ロッキーさん
      111108さん、コメントありがとうございます!
      やっと読めたの嬉しくなり、冒頭から元気にご報告していまいました。恥ずかしがらせて申し訳ない...
      111108さん、コメントありがとうございます!
      やっと読めたの嬉しくなり、冒頭から元気にご報告していまいました。恥ずかしがらせて申し訳ない…!

      お兄さんかおっさん主人公のお話のが多い作家さんなんですかね。そういうタイプの小説も気になります。
      平熱な雰囲気はそのままに、この小説は少し動きがあり、私はそこが結構好きでした。よろしければぜひ読んでみてください\( ˆoˆ )/
      111108さん既読の作品も、これから追っていこうと思います!
      2022/07/28
    • 111108さん
      ロッキーさんお返事ありがとうございます♪

      『台所大平記』に続き、こちらももちろん読みたい!読みます!
      ロッキーさんお返事ありがとうございます♪

      『台所大平記』に続き、こちらももちろん読みたい!読みます!
      2022/07/29
  • 羽田圭介さんのYouTubeで紹介されていた本作。
    ちょうど純文学気分だったこともあり、気になり購入、読了。

    いやぁぁぁぁーー、ものスゴく良いーーー(´∀`)

    出会えて良かった。
    久々にどハマりしそうな作家さんに巡り会えた予感…( ̄∇ ̄)

    何というか、とても「潔い」作品だなぁと。
    変に飾り過ぎないストーリーと文章、これ見よがしなザ「純文学」とは対極にあるような感じ。

    さらさらと、そして淡々と綴られていくこの作品の空気感がもう堪らなく最高です(*´∀`*)

    何かこうホッカイロみたいな感じ?の作品ですね、地味なんだけど持ってると心もほんのり暖かい…みたいな。

    ちょっとイマイチ(というか全然)作品の良さが説明し切れていない感じがありますが…
    そもそも「小説」自体が「言葉で表現する文学」なので、その良さを「言葉で表現する」ことにも限界があるんじゃないかと…

    ということで、気になったらぜひ直接本を…

    あと、本作はキャラクターもとても魅力的です。

    「猛スピードで母は」のお母さんとか、ハードボイルド具合が超絶カッコ良かったなぁと。
    息子のためならベランダだってよじ登る(笑)

    理想的過ぎない、写実主義的な作風の良さが出ているようにも思いました。

    完璧過ぎる登場人物は誰一人出てこない。
    短所も含めて表現されているからこそ、とてもリアルな実在する人物のように感じられるのではないかと。

    あと、作品のタイトルもまた秀逸です…
    「サイドカーに犬」、「猛スピードで母は」って、もうこの絶妙な透かし具合…(´∀`)

    この出会いがあるから、読書は辞められない。

    <印象に残った言葉>
    ・パックマンも苺たべるよ(P62、私)

    ・洋子さんにコーラを奢ってもらった自動販売機に、父にもらった偽造硬貨をいれてみた。とたんに警報ベルが夜の路上に鳴り響いた。夏休みの終わりを告げるベルだ。私は走って逃げた。(P74)

    ・慎は新しい担任の先生が嫌いではない。一人で頑張って大変なのはこの人だ。サッカーゴールを守り切れると信じて身構えている。(P115)

    ・しばらく二人は立っていた。須藤君は慎の横顔を何度かのぞきこんだ。「なんで泣いているの」須藤君はいつもより困った口調でいった。慎は上着の裾で顔をぬぐうと「これ預かってくれない」といって手塚治虫の本を手提げごと須藤君に渡した。(P157)

    <内容(「BOOK」データベースより)>
    「私、結婚するかもしれないから」「すごいね」。小六の慎は結婚をほのめかす母を冷静に見つめ、恋人らしき男とも適度にうまくやっていく。現実に立ち向う母を子供の皮膚感覚で描いた芥川賞受賞作と、大胆でかっこいい父の愛人・洋子さんとの共同生活を爽やかに綴った文学界新人賞受賞作「サイドカーに犬」を収録。

  • 二作品の短編には、それぞれ母親、父親、愛人、恋人など子どもの視点からみた大人たちが出てくる。わたしたち読者に、その大人たちは子どもから見た一方面の姿しか映らない。自然とわたしの視点も子どもとなって、母親や父親を見上げるものになっていた。
    あの頃は気づかなかった“変”だったこと、“言葉に出来なかったこと”そんなものが、今なら理解出来るし、想像も出来る。
    子どもって大人が思うよりも敏感に察するところがあると思う。それらの出来事や大切な人の心の動きなんかを、分からないなりにも意外と冷静に受けとめることが出来ていたんじゃないかな。
    子どもっていっぱい、いろんなこと考えていると思うよ。

  • 子供から見た大人たちを、すごく上手に描いている。私も片親で母から育てられた身としつ共感できたし、心情も理解できた。
    親も一人の生身の人間であり、完璧ではないです。読むタイミングとして、若い頃に読んだ方が良いかなと思われた。
    この本は特に何か起こる訳でもなく、ただあの頃の無性に不安で多感だった頃、そう時代とか時期ではなく頃というのが一番しっくりくる、頃の話。

  • #猛スピードで母は
    #長嶋有
    #文春文庫
    #読了
    「サイドカーに犬」と「猛スピードで母は」の2本立て。どちらも子ども目線からみた大人が描かれる。決して模範的でない大人。大人だっていろいろあるということかな…映画化された「サイドカーに犬」の広告動画を読了後に見た。映画も素敵なんだろうなあ。

  • 「サイドカーに犬」5…小4女子と父の愛人・洋子さんとの交流。著者と同世代だから余計そう感じるのかもしれないが、完全に精神がタイムスリップした。

    「猛スピードで母は」4…母子家庭の小6男子の淡々とした日常。子供の思考描写がすっと納得してしまうような生々しさがある。

    どちらの作品も「破天荒なオトナ」により閉鎖空間に楔を打ち込まれたときの子供たちの衝撃が描かれていた。
    自分は幸か不幸か周囲が真っ当な(?)大人ばかりだったので、このパラダイムシフトがめちゃくちゃ遅かった。それがコンプレックスでもあり、20代の放蕩生活の遠因になったと思っている。

  • 初、長嶋有作品
    すごい人だ

  • サイドカーに犬
    猛スピードで母は

    大変良質。なんで避けてきたのか。
    少女から見た大人の女性。少年から見た母。
    どちらもややエキセントリックなところがあり、人生にからめとられかけ、しっかり立っている。
    自分の母を思い出したりもして。

  • 古本屋でタイトルに心奪われて読んだ。

    芥川賞を受賞した表題作と、
    文学界新人賞受賞作「サイドカーに犬」の2作を収録。

    『サイドカーに犬』
    母が家を出て行き、替わりにやってきた父の愛人・洋子との共同生活を、少女の目線で描いた作品。
    実の母親と、愛人と、それぞれに対する少女の距離感がさりげなく、かつリアルに迫ってくる。

    『猛スピードで母は』
    母子家庭の息子・慎と、再婚相手を見つけた母の物語が、冷静な子供の視点で描かれている。

    タイトルで予想していたようなドラマチックなストーリーはなかった。
    それでも、読んだあとに、タイトルがまたじわじわと染みこんでくるようで、何度も読み返したくなる。


    どちらの作品も子供の冷めた視点から、大人の女性を眺めているのが印象的。
    文章は平易で、ストーリーはさほど重要視されてないようだ。
    細かな描写から感じる人間観察力の鋭さが個人的に好きだなと思った。
    人それぞれにスポットを当てて、目の前の世界を、主人公の子供の感覚を通して描いている。

    読んでみたら、タイトルの印象が覆った。
    一度じゃ汲みとりきれない旨味があると思う。

  • 目次
    ・サイドカーに犬
    ・猛スピードで母は

    「サイドカーに犬」「猛スピードで母は」のどちらも、子どもの日常が子どもの目線で書かれているのだが、そのどちらもが親との精神的距離がある。
    親を嫌いなわけではない。
    親も、子どもを嫌いなわけではない。
    ただ、子どもの他にいろいろとあるのだ。好きなこと、やらなきゃならないこと。
    子どもはそれを知っているから、いつか、親に捨てられるかもしれないことを心のどこかで知っている。
    それは特に寂しいことではない、とも思っている。
    結局捨てられることはないのだけれど。

    どちらの作品も主人公の心は終始フラットで、時々不安に駆られることはあっても、大笑いしたり激怒したり泣きわめいたりはしない。
    無口ではあるけれど、心の中ではいろんなことを考えている彼らは、自分の感情くらい理屈で納得させることができるのだ。
    ああ、それはまさに、子ども時代の私のようで。

    無口でぼうっとしていた私は、子どもらしくないと言われ、しっかりしろと言われたけれど、心の中では自分の考えをはっきりと表明できる人に憧れた。
    それは「サイドカーに犬」の洋子さんであり、「猛スピードで母は」の母だ。

    それにしても母たちよ、子どもを簡単に捨てるな。
    捨てるなら、その後の生活の保証をしてからにしろ。
    捨てられたと思わせるな。
    と、読みながら思う。

    私は物理的に母に捨てられたことはないけれど、母がもう少しアクティブな性格だったら、きっと捨てられていただろうな。
    そして私は、それを淋しく思わなかっただろう。
    厄介なことになった、とは思うだろうけれど。
    そんなことを考えながら読んだので、読後切なくなってしまったのだ。

  • 文學界新人賞受賞作「サイドカーに犬」と芥川賞受賞作の「猛スピードで母は」の2作を収録した贅沢な本書。
    どちらも、同じ世界を幼い頃の物事をあまり理解していない目と、大人の現実感をもった目で描かれている感じが読んでいて裏表紙にあった"皮膚感覚で描いた"とはこの空気感かと思った。
    とんでもない大事件が起こるわけでもなく、それぞれがもつ人生の一部分をフォーカスしただけの話なんだけど、知らずに岐路になっていた部分って感じがして良かったな。

    長嶋有さんの本はこれが初めてだったんだけど、色々読んでみたくなった。

  • この作家は初読。なんか賞を取った本なんでしたっけ?母親が家出して、また帰ってくる家族の話と、母子家庭の話の中編2本を含む。いずれも視点が子供だが、一人称ではなく、あくまでも傍観という形で描かれている。

    登場人物は、各作品とも非常にアクの強い人ばかりなのだが、「○○した」と、徹底して情景を細かく淡々と述べることで、非常にあっさりとした描写である。起こる事件もものすごく大きいものではない。

    そんなもんだから、1作目はなんだこれ?と思っているうちに読みきり、2作目で少し作者のペースに入れた感がある。

    淡々と起伏がなく退屈という人はいるだろう。一方的な視点のみで、ライトノベル的なところも無いでもない。しかし、つい読ませる「何か」があるので、退屈感・不快感などはなかった。

    もう1冊くらい読んでから、判断してみたいと思う。

  • これはタイトルに惹かれて読みました。
    良かったよ。泣いたよ。また。

    表題作が芥川賞受賞作。もう一遍収録「サイドカーに犬」は候補作。
    こっちもイイ。泣いたさ。また。

    あー、なんだか最近泣くね。よく、泣く。
    齢かね。やっぱり。
    あ、芥川賞面白いのも、齢??
    みんなにフシギに共通してるのは、”こどもの視点”で書いてある。
    本屋で選ぶときに、無意識にフィルターにかけてるのかな?
    いつまでも、こどものつもりで困ったもんだね。
    そのくせ齢は取って。

    …あー。 だから、泣くのか?

  • 母強し?

  • 「猛スピードで母は」というタイトルから勝手に、もっとドタバタしたコメディっぽいものを想像していた(なんでだろう)
    読んでみたら全然違った。カッコいい母親とどこか冷めた息子の物語だった。
    なんかいい。
    よかった。

  • 芥川賞としては、あっさり読みやすく所謂モヤモヤする感じは無く軽め。

    文章構成は上手いし平易な文体で手に届く小さい世界を上手く描いてる。

    難解さはなく不快感もほぼない。作者自身の人柄が前向きなんだろうと思う。

    ただ、人の奥に潜んでる闇や美のようなものは描かれていないのが、芥川賞にしては物足りないと思われ、選評もやや割れていた笑。

    選評委員では宮本輝氏、池澤夏樹氏、河野多恵子氏が◎

  • 小説2本立て。どちらも貧困一歩手前で家庭に問題を抱えていて...というような設定であるが、一般的にいう毒親みたいな大人は出てこず、大人たちは子供に彼等なりの庇護を与え子供たちも自然にそれを受けているように見えた。常識的にそれは如何なの?という点はさておき、愛情の形は様々でそれぞれに逞しく美しいと感じた。

  • 約10年ぶりの再読。
    自転車のサドルが盗まれたら隣の自転車のサドルをとって使うと即答する父の愛人洋子さんと、ためらわずに男子トイレに入るような母、どちらも非常識といえばそうなのだが、豪快で芯があってかっこいい。

    洋子さんと薫は友達宣言していたし、慎は慎一さんのことを徐々に受け入れていたのに、突然別れはやってくる。どちらも大人の都合で付き合わされ、大人の都合で会うことができなくなる。大人って勝手。

    『猛スピードで母は』は母の愛を感じた。猛スピードな母の愛!母が最後キレながらはしごをのぼっていくシーンは愛そのもの。
    憧れのワーゲンを抜いて先頭を爆走する母は、母の生き方が表れてる様でおもしろい。
    慎一さんは母と別れてひと月程(夏休みの旅行後に別れて、9月に病院で会った時に結婚宣言してるから、読み間違えじゃないよね!?)で別の人と婚約していてなんて奴だという感じ。学校の先生は片親の家庭環境を細かく気遣うくらいだから、いじめにも気が付いてくれよと思う。

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著者プロフィール

小説家、俳人。「猛スピードで母は」で芥川賞(文春文庫)、『夕子ちゃんの近道』(講談社文庫)で大江健三郎賞、『三の隣は五号室』(中央公論新社)で谷崎潤一郎賞を受賞。近作に『ルーティーンズ』(講談社)。句集に『新装版・ 春のお辞儀』(書肆侃侃房)。その他の著作に『俳句は入門できる』(朝日新書)、『フキンシンちゃん』(エデンコミックス)など。
自選一句「素麺や磔のウルトラセブン」

「2021年 『東京マッハ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

長嶋有の作品

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