タンノイのエジンバラ (文春文庫 な 47-2)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (225ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167693022

感想・レビュー・書評

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  • 好きな作家・長嶋有さんの作品、久々に読んだことのない作品を…と手に取った本作。

    いやぁぁぁーーー、この作品めっちゃ素敵ですねーーー( ̄∇ ̄)

    長嶋有さんは何作か読みましたけど、一番最初に読んだ「猛スピードで母は」を読んだときの衝動を思い出させてもらった気がしました…
    そうそう、長嶋有さんの良さはコレだよなぁ…と。

    一言で表すと「もう空気感最高過ぎ」なのかなと…(´∀`)
    個人的には「エモ写実主義」ってワードが浮かびました、けっこう気に入ったんだけどどうだろう…(笑)

    潔い装飾しすぎない文章、密度が濃すぎず作品全体に漂う程良いヌケ感、けっして現実を美化し過ぎない(自分はそこがとても写実的だなと感じる、現実っちゃこんなもんよねのラインを逸脱しない)、でもそれでいて希望を忘れない前向きな物語…言葉にするとそんなところが好きなのかなぁと。

    上記の良さがあるので、短編とはとても相性が良いんではないかな…とも思ったりもしました。
    猛スピード…に続く代表作にして良いんじゃないかなと。

    最近アウトドア本ばっかりでサボっていたので、読書熱を復活させてくれた長嶋有さんに感謝( ´ ▽ ` )笑


    <印象に残った言葉>
    ・こういうシチュエーションの映画があるな。孤独な男と女の子が旅するような。比べれば現実はいつも垢抜けない。(P29)

    ・トレイから瀬奈の忘れていったCDが出てきた。ビールを飲みながら改めて聴いてみた。夢は信じるだけじゃ駄目、とかなんとか、聞いたふうなことを歌っていた。(P38)

    ・あぐらをかく姉をみるのは初めてのように思う。忍び込む姉も金庫やぶりをする姉も初めてなのに、私が感じ入ったのはあぐらだった。(P45)

    ・弟は階段の途中で立ち止まった。振り向くと今度はジャンパーのポケットから蜜柑を取り出した。弟はその場で皮を剥き、三つに分けると、姉に二つ手渡した。姉は振り向いて私に一つくれた。(P104)

    ・「そうか」とあっさり納得した。僕に軽く微笑みかけるとまたすぐに目を閉じた。僕は二つ並んだ横顔を横目に、成田までをついに眠らずに過ごした。(P144)

    ・それから、自分でも信じられないほどの大きな声で叫んだ。声が出尽くすと、また息を吸った、金切り声をだした。声を振り絞ると体がびりびりと震えるのが分かった。手をにぎられて、目と耳が熱くなった瞬間に似ていると思った。はずみで目から涙がぽろぽろと出てきたが、気にせずに叫んだ。悲しいのだから、涙は出てもいいのだ、と秋子は思った。(P216)


    <内容(「BOOK」データベースより)>
    人が一日に八時間働くというのが信じられない。八という数字はどこからきたのだろうか。なんだか、三時間でいいんじゃないかもう……(「夜のあぐら」より)。なぜか隣室の小学生の娘を預かることになった失業中の俺のちぐはぐな一夜を描く表題作。真夜中に実家の金庫を盗むはめになった三姉妹を描く「夜のあぐら」。ロードムービーの味わいの「バルセロナの印象」。そして20代終わりの恋をめぐる「三十歳」。リアルでクールな、芥川賞受賞後初の短篇集。

  • 表題作を含む4つの短中編の作品集。
    中でも「夜のあぐら」が、めちゃくちゃ良かったです。
    地味な話のようで、普通の日常生活とは微妙にずれていて、それでいて不自然さもなく、作り物感がない見事な小説でした。
    これ以上に上手く文章で説明できませんが、「夜のあぐら」は最初から最後まで自分好みの小説でした。
    「夜のあぐら」だけで、星5です。

  • 「バルセロナの印象」
    「あれだけが楽しみだった」という、バルセロナオリンピックのキャラクターグッズをめぐるやりとりが面白かった。
    手に入れて舞い上がるほどうれしいわけでもなく、失くして塞ぎ込んでしまうほどでもない。
    でもそのくらいやってのけたのと同じだけ、連れの二人を奔走させる。
    誰の願望も取りこぼしてはならない。悔いが残ってはいけない。せっかくスペインまで来たんだから!
    この意地こそ、海外旅行の醍醐味なのかもしれないと思った。
    大人らしい諦めのよさを大人が手放す数日間。
    けろっと日常にもどるところまで想像できて、それも楽しい。

  • 短篇集。
    どうも文章が頭に入ってこない。

    職安通いをしている主人公(男)が、隣家の女に押し付けられた娘の世話をする一日を描いた表題作がいちばんわかりやすかった。

    正統派な純文学なのだろう、こう波長が見事に合わない感。
    好きな人は好きなのね、という感じだった。

  • 一定のテンションで話が進むイメージ。登場人物のテンションも(特に主人公)なんとなく一定。
    でも行動の方は結構アクティブで、文章はつらつらしてるけどきっとこのときのテンションはやばかったんだろうな、とか想像しながら読んだら面白かった。

  • うまいしおもしろい。

    長嶋有という作者は強烈なインパクトのある話を書くわけではないけれど、なんかあの作家すきなんだよね、と私の頭に必ず浮かぶ。
    この短篇集はそんな作者の長所が盛り込まれている。
    まず、説明が少ないところが好き。
    情景描写だったり登場人物たちの輪郭からじわじわと話の核を攻めてくる。
    そして最終的に読者に不明瞭な点を残さない。
    2人の姉と引きこもりの弟の奇妙な話を描いた『夜のあぐら』では特に、そう思った。話の組み立て方のうまさが際立っている。

    また、人間の描き方がとてもリアルで、急に気が変わったりする。このキャラクターはこういう人だから、とかそういうセセコマシサがない。キャラクタではなく、まぎれもなく人間。

    あとは単純に言葉の選び方が好き。
    タンノイのエジンバラを題名にもってくるあたり、相当いい。何度も声にだしたし、現物もネットで調べた。誉めすぎか?

    幼少時の些細な記憶とか
    思い出した。とくに姉、というキーワードが私にはよかったのかな。

    長嶋有をみんなに知ってもらいたいと思う反面
    だれも知らなくていいとも思う。

  • もうね、この人の本は、ベストジーニストのキムタクみたいに殿堂入りさせようかってくらいいちいち響いてくるんだよね。
    別格です。

    だからあえてもうこの人の本には5つ星はつけずに4つ星にしときます。

    誰もが、本人すら気づかないような痛みをかかえて生きている。
    本人が気づかないように強がっている痛みを抱えている。
    でも、時にはそっとその無理を吐き出させて上げないといけない。

    いつのまにか、その無理が心で抑える間もなくあふれ出てしまう瞬間がある。
    ただ、それはそもそも抑えるべきものではなく、人間の心の自然の発散作用。
    だからなすがままにするのがよいんだ。

  • エリザベス女王が亡くなって頻繁にエジンバラというフレーズを聞いてたタイミングで、あ そうやと思って読んだ。タンノイのエジンバラってそういうこと〜?って表題作読んでなった。四作とも題名が出てくるタイミングが絶妙〜と思った。と同時にそこを題名にするんやおもしろいという感覚にも。

  • 短編集。表題作は、隣家の母親から娘を預かる男も、男に預けられた女の子も、どこか緩い。山も谷もないが、一期一会の思い出には十分な一夜の話。「夜のあぐら」愛人、ニート等々、複雑な家庭環境ながら陰湿な感じはなく、三姉弟や父娘の淡泊で不器用なコミュニケーションが目立つ。姉妹が、実家の金庫を盗もうとする様子もどこか笑いを誘う。「バルセロナの印象」弟夫婦と姉のスペイン旅行。「三十歳」哀愁が残る読後感。

  • 最近続けて「長嶋有さんよき」だったので、初期を再読。よき。

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著者プロフィール

小説家、俳人。「猛スピードで母は」で芥川賞(文春文庫)、『夕子ちゃんの近道』(講談社文庫)で大江健三郎賞、『三の隣は五号室』(中央公論新社)で谷崎潤一郎賞を受賞。近作に『ルーティーンズ』(講談社)。句集に『新装版・ 春のお辞儀』(書肆侃侃房)。その他の著作に『俳句は入門できる』(朝日新書)、『フキンシンちゃん』(エデンコミックス)など。
自選一句「素麺や磔のウルトラセブン」

「2021年 『東京マッハ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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