新装版 馬を売る女 (文春文庫) (文春文庫 ま 1-129)

著者 :
  • 文藝春秋
3.62
  • (4)
  • (10)
  • (15)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 99
感想 : 11
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (346ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167697303

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 「松本清張」の短篇集『馬を売る女』を読みました。

    『危険な斜面』に続き「松本清張」作品ですね。

    -----story-------------
    金を貯める女、奪おうと企む男。
    傑作ミステリー短篇集

    高速道路の非常駐車帯で独身OLが殺された。
    彼女は社長秘書という立場を利用して、競馬情報をサイドビジネスにしていたのだ。
    その金を狙う男の完全犯罪は成功したかに思えたが…。
    したたかなようで情にもろい女の哀しさを描いた表題作に、題材に妙味のあるミステリー『駆ける男』 『山峡の湯村』を併録。
    -----------------------

    本作品は昭和48年から昭和52年に発表された、以下の3篇で構成されています。

     ■馬を売る女(原題:利)
     ■駆ける男
     ■山峡の湯村


    『馬を売る女』は、31歳の独身で、女性としての魅力は乏しいものの、テキパキと業務をこなし社長秘書として有能で、金に執着の強い、女秘書が陥る哀しい運命を描いた物語、、、

    日東商会の社長は競馬馬を七頭も所有するほどの競馬好き… 有能で信頼されている社長秘書「星野花江」は、金の亡者で金への強欲があり、社員に金を貸して利息を得たり、社長の電話を盗聴して得た競馬情報を会員に流して小金を儲けていた。

    そのことを知った日東商会の孫請け会社社長の「八田」は、「花江」の貯めた金を目当てに偶然を装って近づいて深い仲となり借金を重ねるが、返すあてのない借金の返済を迫られ、「花江」を殺害する… 完全犯罪と思われたが、思わぬところから綻びが出て、真相が発覚する。

    小さな綻びから、真相が明らかになる展開が面白かったですね。

    オープニングで名前まで出て、その後、全く登場しない「石岡寅治」… 序盤で登場して終盤まで登場しないが、真相究明にあたり重大な証言をするアベック(終盤では夫婦になっていますが… )等、脇役の使い方が印象深い作品でしたね。

    そして、「花江」の容姿についての記述、、、

    やせた三十女で、頬はくぼみ、眼は細く、鼻の先がすこし上向いて、唇はうすく、髪はゆたかではなく、それもちぢれており、額は広く、男性に魅力を感じさせることが少ない… 徹底的に魅力のない女性に描かれていましたね。

    映像化した際、原作どおり演じられる女優は、いないんじゃないかな。



    『駆ける男』は、会社経営をしている男性が後妻に入った若い妻に殺される物語、、、

    瀬戸内にある一流ホテルに夫婦で逗留していた「村川雄爾」は、割烹での食事中に割烹の女中頭「鎌田栄子」が挨拶した直後に「あいつが、いた…」という言葉を残し急になっているホテルへの長い階段を全力疾走で駆け出し、心臓麻痺で死亡する。

    「栄子」は、三十五年前に「雄爾」が捨てた女… 心臓の弱い「雄爾」は、その女を恐れて遁走した結果の自然死と思われたが、思わぬところから犯罪であることが発覚する。

    『馬を売る女』と同様に、小さな小さな綻びから、真相が明らかになる展開が愉しめました。

    本作品も『馬を売る女』と同様に、脇役の使い方が印象深い、、、

    「村川」夫婦と全く関係がなさそうにみえる、ホテル備品の蒐集狂「山井善五郎」が、窃盗容疑で逮捕されたことから、局面が変わるところが面白かったですね。



    『山峡の湯村』は、岐阜県のひなびた温泉町にある谷湯旅館に宿代を支払わずに逗留している老作家を中心にして、旅館の女将やその亭主、女将の愛人、旅館の息子の婚約者、老作家を慕う作家志望の青年等の複雑な人間(利害)関係や愛憎を描いた物語、、、

    旅館の一人息子「梅田勇作」は、偶然、嘗ての高名な時代小説家「小藤素風」と出会い、実家の旅館に逗留して執筆することを薦める… その後、「勇作」は婚約者の「お元」を残して行方不明となる。

    女将で義母の「栄子」は、「勇作」が新しい恋人と駆け落ちしたという噂を流すが、「素風」や「お元」は「栄子」の吹聴する噂に疑問を持つ、、、

    その後、「素風」が行方不明となり、温泉近くの仙竜湖畔に「素風」の草履が落ちており、彼のおしめが湖面に浮いていた… 病気療養のため温泉に宿泊した「太田二郎」が探偵役となり、二人の失踪事件を解決する。

    最後は自殺してしまう老人の絶望感… 哀しい物語でしたね。

    『馬を売る女』や『駆ける男』に比べると、やや物足りない感じかな、、、

    でも、3篇とも愉しめました… さすが「松本清張」作品ですね。

  • 表題作「馬を売る女」は、他の文庫に収録されていたのを読了済なはずだが、他の作品も含めて一気に読んだ。やはり面白い。

  • 40年前の作品たち。
    携帯やメールのない時代の情報屋は一軒一軒電話をかけるという手間のかかるもの。面白い。

  • 『馬を売る女』『駆ける男』『山峡の湯村』という3作品をおさめた短編集。
    事件の本筋には直接関係しない脇役の存在が光る。
    読み手に親切な布石が置かれつつ、植物や歴史にも精通した清張ならではの種明かしがおもしろい。

  • 馬を売る女
    真綿で首を締める様に犯人を追いつめて行く あくまでも犯人が主役で
    ある。時代を感じさせるのは DNA鑑定も無い、携帯電話も無い 女性からの精液採取も無い。かつて警察が自白強要に頼った事も頷ける。

    駆ける男
    コソ泥とハシリドコロと昔別れた女と、若い妻 これはドタバタ喜劇。面白い
    清張だから殊更 面白い

著者プロフィール

1909年、福岡県生まれ。92年没。印刷工を経て朝日新聞九州支社広告部に入社。52年、「或る『小倉日記』伝」で芥川賞を受賞。以降、社会派推理、昭和史、古代史など様々な分野で旺盛な作家活動を続ける。代表作に「砂の器」「昭和史発掘」など多数。

「2023年 『内海の輪 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

松本清張の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×