半島 (文春文庫)

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  • 文藝春秋 (2007年7月10日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (352ページ) / ISBN・EAN: 9784167703028

みんなの感想まとめ

人生の折り返し地点に立つ中年が、名も無い半島を訪れる物語は、時間の捻れや停留といったテーマを重層的に描き出しています。主人公の内面的な葛藤や、異世界との境界を探る旅は、読者に深い思索を促します。美しい...

感想・レビュー・書評

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  • 素晴らしい作品、の一言。
    人生の折り返しに立った中年が、職を辞して名も無い半島を訪れる、という導入。
    人生における時間の捻れ、停留がファントムな展開で重層的に描かれる。
    雄飛と雌伏、五極の王、と興味深いフレーズが示唆的に登場し、まだ主人公の年齢帯に達しないながら、自分自身考え込む場面もしばしば。
    あとがきの通り、作品それ自体が人生という一つの寓話を成す、極北の文学作品だった。

  • 「異世界モノ」という都市伝説のジャンルがある。こちら側とあちら側。普段は決して行き来することのできない二つの世界が、あるポイントで地続きになっていて、ふとしたはずみで境界を越えてしまう話……。子供じみていて恥ずかしいが、じつはあれが大好きなのだ。恥ずかしいついでに言うと、半ば信じてもいる。
    あれは20代の終わりくらいだった。とあるビジネスホテルに泊まった夜。チェックインしてエレベーターに乗り込んだ。他に乗客はいない。ここまではいい。目的の階に着いて扉が開いた瞬間、私は固まった。真っ暗なのだ。いや、正確には真っ暗ではない。赤っぽい光があちらこちらで頼りなく明滅している。しかし、いくらホテルの照明が薄暗いとはいえ、あまりにも暗すぎる。不気味なのだ。間違った階に来てしまったのか。いや、それにしたっておかしい。耳を澄ませてみるとガヤガヤとたくさんの気配はするが、明らかに人の声ではない。頭の中で非常警報が鳴り響いた。ここはおかしい! ここは何かがおかしい! 急いでエレベーターの閉ボタンを押して1階まで戻った。そして今度は注意深く、しかしさっきと同じ階のボタンを押した。ドキドキしながらドアが開くと、そこは何の変哲もないホテルの廊下だった。私の見たものは、いったい何だったのだろうか。
    境界は思わぬところにある。迫村が地下室で見た鎖に繋がれた子供、**荘の浴場での踊り手たちとのダンス、トロッコの滑走……。いったいどこまでが現実だったのか。しかし、境界を見定めようとしても見えない。気づいたときにはもう越えてしまっている。いや、境界などもともとないのかもしれない。こちら側とあちら側はひとつに溶け合って、いまもわれわれと背中合わせに存在しているのかもしれない。

  • 透明な川のような美しい文体で、ぐいぐい飲み込めた。迫村という中年男がせかせかした東京での生活に嫌気がさしてぶらりと「半島」へと流れ着くというありがちといえばありがちな設定なんだけど、この半島が一癖あり、しかしなかなか尻尾を表さない。酒池肉林とは違う方向で、地味だけれどこの半島は桃源郷。序盤のほうでyen townみたいだな、と感じていたので最後本当にそれっぽい表れ方したのが拍子抜けだったけれど、またあの半島を読みたいと思える、そのぐらい魅力的な「半島」でした。

  • どぶろくがうまそう。

  • 子どもの頃探検ごっこと称して、いつもの遊びのテリトリーから足をのばして知らない道をあるきまわるのをよくした。もちろん放課後のほんの数時間のことで、家からどのあたりと検討をつけながら行ったことのない道を行くだけなのだが、道に迷ってしまい5時の鐘が鳴るのをお腹の下のほうがむずむずする感じでききながら、遠くに見える見知った看板を頼りに駆けたこともあるし、すごく遠くへきたつもりなのに、角を曲がったら近所の見慣れた風景だった、なんてこともあった。

    40過ぎの男が職を辞し、とりあえずのんびりしようとやってきた半島の先の島で囚われていく、夢とも現実ともつかない、妖しく不穏な出来事は、彼の心象風景だ。急勾配に古い街並みと狭い道がめぐる島では坂の途中の一つの扉が思いがけずこちら側と向こう側をつなげていたり、白日の下からトンネルに迷い込むと悪意と秘密が澱む闇に導かれたりする。ときに立ち竦み、あるいは耽美に酔い、放浪の記憶に自身の生きてきた証しと、目の前にある現実(もしかしたら仮初めだが)の意味をたどろうとする。
    そうして気づいていく、自分が信じる己のモラルで生きてきた彼ではあったが、しかし人生なんて”テーマパークの様々なアトラクションを経巡りながら味わういっときの享楽と、その興奮が冷めた後で軀のそこから込み上げてくるうそうそとした寒々しさのことではないのか”と。しかし、そうだとしたら、夢のような享楽も寒々しさも現実だ。あっけない、束の間の。
    夢と現、記憶と今、それはまさしく隣り合わせで、ともするとどちらがどちらかわからない。人生なんてそんなふうにできているのかもしれない。遠くへ来たつもりが、ひょいと角を曲がったら見慣れた風景にでくわすみたいに。

    松浦氏なので(?)、全体に暗く怪しげな色合いと雨の匂いのする文章で、途方に暮れるような終わりかたなのだが、書名は物語となる”島”ではなく『半島』。(その島は50mほどの橋で半島とつながっていて、ひとつの市でもある)そのこと気づくと、少しほっとするのである。

  • キャラクターに愛着を感じてしまったので、ラストがちょっと寂しかった。

  • あー、読み終わってしまった。
    ここに書いてあることは人生のこと。何度も何度も重ねて書いてあってもまだ足りないことってあるんやなぁと思う。好きで仕方ない。ワタシの好きな小説とは、こういうものだとしみじみしている。迫村に好きなひとをあてはめて、心のなかで動かしていたら、変な夢を何度も見るようになった。もう少しで掴めそうなのに手が届かないところもなんとなく恋と似ている。半島って半分島ってことでしょう。ワタシは島が好き。モチーフとしての島が。迷路のようにいりくんだ狭い露地や、不思議な店の地下が繋がっているのとか、A地点と遠いと思っていたB地点が案外ぐるりとまわれば近いとか、人の記憶もそうではないかと迫村が考えるのとか、本当に好きなところだらけ。絶対絶対これは大切な小説になると確信している。再読の時期はいつかな? すぐきそうです。

  • あけすけに言えば、迫村という男が、おじさんの幼稚な妄想を体現しているように思えてならなかった。社会的地位を一応は得たものの、そこに費やしてきた嘘と苦々しさにいくらかの自覚を持っている(まだ救いのある)おじさんの妄想。というのは、辞表を提出する、若い女と寝る、旅に出る、アウトローな人物と付き合いがある、殺人現場に居合わせる、などなど。そして過去を回想する。
    にもかかわらず最後まで読ませたのは、人間以外の描き方とアトラクション的イメージ。だから本書はべつに、幼稚でもいいのである。優等生である著者は、きっとそこまで考えぬいているのだろう。本書で描かれている「半島」は、幼稚な欲望を肯定する一大遊園地なのだ。
    (あと思ったのは、古井由吉を通俗化すればきっとこんな小説ができあがるだろう、ということ)

  • 主人公の迫村は白昼夢を見る。白昼夢の中に昔を思い出し、もう一人の冷淡な自分と会話する。現実からの逃避をし、自由を求める。
    舞台は瀬戸内海につき出した半島、穏やかな海とのどかな生活だが、話が進むに連れ、マカオや香港の半島に思えてくる。
    十分に破綻しているように思えるが、話は破綻させずに進行する。松浦寿輝は破綻させず、話の出口から引っ張っている。手を話すと魑魅魍魎が跋扈する半島に閉じ込められる感じがしました。
    読者の好みが分かれる作家なのかもしれません。

  • (幸太さん)

  • 大学教師を辞めた迫村が寂れた島で暮らすなかで、不思議な出来事に流されていく話。

    ほんと不思議。読み終わって、しばらくぼんやりとしてた。

  • 読書会の課題図書だった.松浦寿輝の小説を読むのはこれが初めて.四十台半ばの大学教授が大学を辞め,瀬戸内の島に滞在し,不思議な体験をするという話.

    本書の特徴の一つはその文体だろう.読点をあまり用いないうねるような独特の文体で,最初はいくらか戸惑うが、すぐに慣れて意外とするすると読めてしまう.著者は詩人でもあるらしく、この技はそれによるものだろう。こういった「テキストの自然さ」には職業上の関心があるので、注意しながら読んだ。読点の少ない文章は、読点による係り受けの曖昧性の抑制の恩恵を受けられないので、曖昧性を解消するために冗長になりやすい。例えば、そういった文章で省略を頻繁に使ってしまうと読み手が文意を正しく復元できなくなってしまう。しかし、著者の文章は冗長性が抑制されていながら曖昧性が少なく、そのためするすると読めてしまうのであるが、これはさすがの手腕である。

    文体はさておき,本書では,人生における一つの変化点に直面しこれまでの自分の人生を省みるなど,いい齢をしてある種の価値観の混乱に見舞われながら(もう四十而不惑,という時代でもないのだろう),かといって劇的な変化に身を投じるわけでもなく居心地のよい日常に埋没してしまう中年男性の心象風景が描かれる.舞台は瀬戸内の想像上の島.主人公はベトナム料理店で働く中国人女性と懇意になり,島の住民と酒を飲んで二日酔い,午前様でその女の家に帰宅,というまったくいい加減な男なんだが,この舞台となる島がとにかく魅力的で,まさに中年男性のためのワンダーランド,といった趣になっている.

    酒が好きで仕事に倦んでいる30代以上の男性におすすめ.不真面目な性格であれば更によし.

  • いきることは文学を読むことににているし社会はまるっきり文学みたいだと私はしばしば思うわけだが、綴れ織りの坂をつらつらあるいてアラーこんなところにキレイな花がとかマァ珍しいとかげねーとかそんな風にして進んで、一人きり、他に語らう誰もおらず自分と向き合うしかないのが人生なんでしょう、

    で、

    それを実際に中年のおじさんが執着とか未練とかおいらくの理想とかを背負いこんだまま夢の国(といっても知識人のおじさんなのでネズミの国とかじゃない、適度に萎びていて景色がよく語らえる同年代のじいさんと尊敬してくれる青年と自分に笑いかけてくれる若い女がいるところだ)に行ってみるとこうなるんじゃないですか、多分。でもねえ夢は夢なんですよね。それは形骸で、うつしみの肉体も思想も夢から醒めたあとで大きな口を広げる虚無とか絶望とかのなかにしか、ないのかも知れません。たそがれどき、けうといひかり、鬼に食われて死ぬのはだあれ。

    でもこれ好きです。
    緻密でシュールリアリズムかとも思うような描写も好きだし短調さもほの暗い救いのなさも好き。私はこんな風にいきるのだと思う。こんな風に生きてると思った。

  • 仕事を辞めた迫村が辿り着いたのは半島。落ち着いたようでいてどこか幻惑的なそこで、迫村は様々な人間と出会い、夢と現実の境を彷徨う……。うっとりして良かったけど、結末はあまり気に入らないなあ。

  • 長編でしたが、うーん、先に読んだ短編2冊のほうが面白かったかなあ。「半島」という場所は、文中にもあったようにそれ自体がまるでテーマパークのようで、色んなアトラクションが思いがけない場所に繋がっていたりして、迷宮のようでもあり、どこまで現実でどこから夢なのかわからないような世界観は好きなのだけれど、一点だけどうしてもリアルのほうが私の中で勝ってしまう箇所があって…それがどうしても溶けずに固形で残っているような違和感があって、ちょっと駄目でした。物語の核心になるエピソードだし、序盤から伏線は張ってあるんだけど、どうも取ってつけたような浮いてる感じがして。こういった問題に関しては『闇の子供たち』を読んだことがあるから、ちょっと個人的に過敏になっているのかもしれません。

  • 「ほんのまくら」で出会った小説。全体的に薄暗いイメージ。ひとつひとつの説明や比喩の文章が長かった。最後あの橋を渡ってくれていたらそれが救い。

  • 松浦寿輝「半島」
    今月はほぼこの長編小説にかかりっきりになってしまった。
    それほど味わい深く、かつ難解なところがある小説だった。
    手法は古典的で、「中年の日本版不思議の国のアリス」といった趣の作品だった。日本のどこかの半島と、そこから橋がかかった島に位置するS市が舞台である。
    そこに大学教授をリタイアした中年の男が迷い込むようにして住み着く。
    この半島の地形は入り組んでいて、まっすぐ行ったつもりが緩やかにカーブしていたり、突然切り立った崖になっていたり、建物も二階かとおもって入ったら地下室だか一階だかわからない建物があったり。

    ふと角を曲がったところに現れる不思議な空間。
    それは自分の認識の歪みとあいまってどんどん不確実な空間を形成してゆく。知覚のあいまいさが主人公が酒に酔っていたり体調がわるかったり眠りに落ちる直前だったりしてどんどん増幅される。その奇妙なシチュエーション、夢とうつつの間のを自由に操り「生」とはなんぞや、という問いを投げかける作者の意図が見える。

    最近よんだ松浦寿輝の著作の中で心に届いた一節を抜き出す。
    なぜ抜き出すかというと、これはだれだったかとある小説家の模倣で、その作者の文章を丸々書き写すことで文章の呼吸を学ぶことができる、ということらしいのだ。

    ---
    「なあ、『老後』なんてものはないんだよ。甘い夢なんだよ。壊れかけた自転車でよろけながら走って、走って、走りつづけて、あるときもうこれ以上は無理だと自分でわかる。怖いもんだ。力が尽きてペダルが漕げなくなり、それでも惰性で数メートルか十数メートルか進むかもしれんが、そこでばったり倒れ、それで一巻の終り。そのほんの一瞬と言ってもいいような惰性の走りの部分を老後と呼びたきゃそれでもいい。ただし言っとくが、それは悠々自適なんてもんじゃないぞ。一瞬後にはただ倒れるだけってことがわかってて、それでも必死に平衡だけは保とうとハンドルにしがみつき、ただ、待つ。待っているだけ。それだけのことだよ。後も前もあるもんか。途中なんだよ、いつでも途中なんだ。今ならあんたにもわかってるはずだと思ってた。この期に及んでまだわからないとはな」

    ---

  • 松浦寿輝の舞台装置にはわくわくするものがあるが、それに過度に頼りすぎな感じがする。『花腐し』のほうがよい。

  • たまにあります。ながあく感じる小説。それでした。

  • 「流浪でもなく定住でもなく、その間をどちらともつかずゆらゆらと揺れていたい」主人公が紛れ込んだ半島の生活。
    次々と現れる からくり屋敷 の迷路。 それがいったい夢なのか現なのか、最後まで明かされない。

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著者プロフィール

1954年生れ。詩人、作家、評論家。
1988年に詩集『冬の本』で高見順賞、95年に評論『エッフェル塔試論』で吉田秀和賞、2000年に小説『花腐し』で芥川賞、05年に小説『半島』で読売文学賞を受賞するなど、縦横の活躍を続けている。
2012年3月まで、東京大学大学院総合文化研究科教授を務めた。

「2013年 『波打ち際に生きる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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