音もなく少女は (文春文庫 テ 12-4)

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  • Amazon.co.jp ・本 (469ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167705879

作品紹介・あらすじ

貧困家庭に生まれた耳の聴こえない娘イヴ。暴君のような父親のもとでの生活から彼女を救ったのは孤高の女フラン。だが運命は非情で…。いや、本書の美点はあらすじでは伝わらない。ここにあるのは悲しみと不運に甘んじることをよしとせぬ女たちの凛々しい姿だ。静かに、熱く、大いなる感動をもたらす傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 自分の中にこびり付き、侵食してゆく相手。――その恐怖を思うと、クラリッサの決意と行動には胸が締め付けられるようだった。

    イヴとフランとクラリッサ。
    彼女たちを深みから救ったのは、出会いだった。
    傷をなかったものとはしない。人生から逃げない。餌食にはならない。
    それらの「正面に立つ強さ」を得たのも、やはり互いがいてこそだと思った。

    ボストン・テラン。デビュー作も気になってきた。

  • 「いい小説だ。胸に残る小説だ。」って解説の最後にあったけれど、本当にその通りだと思う。『Woman』というシンプルな原題が悲しくもめっちゃかっこいい。いい作品を他の作品になぞらえるのは私本当はあまり好きじゃないんだけど、最後まで読んでミュージカルのレミゼをふっと思い出した。辛いことばかり起きる人生でそれでも生きることの意味、自己犠牲、神の存在、そういうものを読む者(観る者)を包み込むように語りかけてくるところが。
    惜しむらくは、本書を三分の一ほど読んだところで、ツイッターでRTされてきたとある読了ツイートから、主要な登場人物二人にこれから起こる出来事を知ってしまったこと。これはかなり興ざめだった!本気でガックリした!!『百年の孤独』旧版のあとがきを途中で読んでネタバレ食らったときに匹敵する脱力感!!!それがなかったら、久々の☆5だったかもしれない。これからはこういうことがないように細心の注意を払いたい。

    • niwatokoさん
      「その犬の~」よりこっちのほうがよかったかも? これはミステリなんですかね? ちょっと宗教的な感じがしませんでした? 「その犬~」にやっぱり...
      「その犬の~」よりこっちのほうがよかったかも? これはミステリなんですかね? ちょっと宗教的な感じがしませんでした? 「その犬~」にやっぱり「神」とか宗教的なものを感じたのでそういう作風なのかなと。レミゼときいてちょっと読んでみたくなりました。
      2017/07/05
    • meguyamaさん
      ミステリだと思って手に取ったけど、これはミステリじゃないんじゃないかなと思いました。そこがわたしには嬉しかったし読みやすかったです。宗教的、...
      ミステリだと思って手に取ったけど、これはミステリじゃないんじゃないかなと思いました。そこがわたしには嬉しかったし読みやすかったです。宗教的、というのはたしかに最後の方にふんわり感じました。そして、マジでレミゼっぽいです。誰がコゼットで誰がエポニーヌとか全部当てはまる気がする(偶然だと思うし、たぶんに私の思い込みですが)
      2017/07/05
  • 出会う人に手当たり次第に薦めたい。人の勇気とは何かを知ることができる。女に生まれ、聾者に生まれ、暴力をふるう父親の元に生まれ、苦しむ母親の元に生まれ、それでも彼女は生き抜く。ひとりではなく。姉妹と、友と、母と、もう一人の「母」と。誰かに救われ、誰かを救う。誰かから生まれ、誰かを生み出す。それが物理的な意味でなくとも。

  • 長く待っていたので図書館から連絡があってすぐに走っていって一気読み。さすがに面白かった。


    ブルックリンの極貧家庭に生まれた、耳の不自由な少女イヴが勇気のある女たちに守られ成長していく物語。

    母のクラリッサは、耳が聞こえないという障害を持つイヴを、将来味わうだろう人生の荒廃から救うために、教育を受けさせようとする。
    そこで教会で顔見知りになっただけのフランに相談する。

    イヴを育てることでクラリッサとフランは親友になる。

    フランには過酷な過去があった。

    彼女の愛した青年も耳が不自由だった。

    フランの両親は傷害のある子供たちを教育する私立学校を経営していた。そこに彼は入学していた。

    家系に障害のある子供がいると、優生保護のために断種手術を受けなくてはならなかった。
    彼女は青年と逃げるが、子宮を摘出され、恋人は射殺された。
    その後、彼女は一人小さな店を持って暮らしていた。

    三人の女性が、運命と卑劣な男たちに翻弄されながら勇気を持って生き抜くものがたり。

    文章は繊細でダイナミック、時には詩的で、上質な文学的な香りを持っている。

    彼女たちが、過酷な出来事に打ちのめされながらも、立ち上がるたびに、読んでいても何度か胸が一杯になった。

    評判どおり読み甲斐のあるいい本だった。

  • 邦題に惹かれて読みました。
    暴力ですべてを支配することが出来ると思っている男たち。
    そんな男に支配や従属を強いられ、絶望に立たされながらも光を求める女たち。
    女(破壊者)は、母という別の生き物(創造者・保護者)になることが出来る。またそれを望んでいる。

    音もなく少女は「      」
    本の内容自体もですがタイトルも深い余韻があって素晴らしかったです

  • ミステリー作家の作品とのことで「このミス」でも上位に評価されていた作品だが、内容は全くミステリーではない。生まれつき耳が聞こえない少女イヴの孤独と救済それと絶望の物語といっていいだろう。

    イヴの父親ロメインは麻薬の売人。イヴは小さいころから知らない間に取り引きの手伝いをさせられていた。その後も、とにかくどうしようもない悪としてイヴの前に何度となく立ちはだかる。

    ようやくできた彼氏チャーリーも幸せな生い立ちではなく、養子の妹ミミの実父ロペスがイヴにとってのロメインのような存在になる。

    このようなどうしようもない人間を身内に持ってしまう不幸はすさまじい。人間なのだから、いいところもあるだろうなどと思ってみることすらできなくなる。暴力が溢れるストーリーではあるが、イヴの純粋さに救われる。

  • 「神は銃弾」が有名なボストン・テラン。
    こちらも、やや作風は違うようですが~このミスなどでも評価が高い作品。
    鋭い描写で完成度高いですが~
    辛い話なので、ちょっと一時中断…
    他の本を読んで一息入れてから読了しました。
    イブ・レオーネは生まれつき耳が聞こえない。
    母のクラリッサは美しかったが、夫ロメインに虐待され、イブのこともクラリッサが悪いとされて、夫婦関係は悪化。
    ロメインは麻薬密売の隠れ蓑に娘を利用する有様。
    娘を学校に行かせたいと悩んでいたクラリッサは、手話を使っていた知的な女性フランを見かけ、勇気を出して声を掛ける。
    聾唖者の学校を両親が経営していたために手話が出来るフラン。伯父が遺したキャンディストアを経営する自立した女性。
    じつはナチスに聾者の恋人を殺され、自らも手術を受けさせられたという凄惨な過去があった‥
    イブはカメラを貰い、写真家としての才能を次第に開花させていきます。
    父が刑務所に入ったために、聾学校ではいじめられますが‥
    最低というか危険な男共が複数出てくるために、女と子供の運命は恐ろしい試練にさらされ、絶望と怒りがこちらにもずしっと迫ってきます。
    何をされるかと怖がっているとそれが起きてしまうんですが、そこで決して負けはしない女たち。
    イブにはチャーリーという優しい恋人も出来ます。
    混血のチャーリーは黒人のドーア夫妻が里親となって育ててくれ、さらに引き取ったミミという女の子を妹として可愛がっていました。
    ところがミミの父親ロペスというのがまた・‥
    フランに守られたように、ミミを守ろうとするイブ。
    みんなを守ろうと父の家に出向く幼いミミの勇気。ロペスには甘い母親が孫のミミはこんな所に来てはいけないと返してきます。
    近づかないように裁判所命令をとるが、それでも‥

    痛切な愛と烈しい勇気の物語。
    すごい迫力でしたー!

    著者はサウスブロンクスのイタリア系一家に生まれ育つ。1999年作家デビュー。本書は第四長篇。

  • ニューヨークの治安が悪い地域で負の連鎖が続いていく。
    これ以上悪いこと起きないでーっと、一気に読了。

    絶望を味わいながら助け合い、自立していく女性の強さが描かれている。

    宗教が時おり語られるなか、最後のページがイヴらしい答えで、美しいラストでした。

  • ボストン・テラン著『音もなく少女は』文春文庫

    9月30日時点で私の2021年文芸作品ナンバー1です(たいして数は読んでおりませんのに恐縮ですが)。いやはや・・・震えました。そしてほぼ一ヶ月と読み終えるまでの時間はとても長くかかりました(ボリューム自体は文庫版480ページです)。数ページをめくるごとに息継ぎをするように本を閉じて目を閉じて休まないと、この作品に掻き立てられた自分の感情に埋もれて溺れそうになるからです。

     もともと、馳星周『少年と犬』が直木賞を獲って話題になっている頃、私のなかで気になっていた小説は、TBSラジオ「アフター6ジャンクション」にゲスト出演して本を紹介していた野良読書家集団Riverside Reading Clubがとりあげたボストン・テラン著『その犬の歩むところ』でした。早速『その犬の歩むところ』と、Riverside Reading Clubが『その犬の歩むところ』を読むきっかけになったという『音もなく少女は』を購入して、そのまま積んでしまっていたその2冊のうち表紙が気に入った『音もなく少女は』を先に読み始めました。

     翻訳はミステリを中心に膨大なキャリアを持つ田口俊樹氏。安心のブランドです。その田口氏の仕事も素晴らしく、翻訳作品ながらボストン・テランの文体が静かに炸裂していました。設定と世界観はハードボイルドで文体もそれに沿ったものではあるのですが、登場人物の心情描写や主人公イヴの撮る写真の描写にとてつもなく詩的で美しい表現が散りばめられて素晴らしいのです。暴力描写にスラング表現も有りながら、時折スイッチが入ったように、途端に神々しいまでの言葉の綺羅星が溢れてくる。信仰とその否定というテーマも織り込まれており、そこにも絶妙に呼応した生き死にや愛憎にまつわる結晶化した言葉の数々。本当に豊かな読書体験でした。

    <あらすじ>
    貧困家庭に生まれた耳の聴こえない娘イヴ。暴君のような父親のもとでの生活から彼女を救ったのは孤高の女フラン。だが運命は非情で……。いや、本書の美点はあらすじでは伝わらない。ここにあるのは悲しみと不運に甘んじることをよしとせぬ女たちの凛々しい姿だ。静かに、熱く、大いなる感動をもたらす傑作。(解説・北上次郎)

     ・・・ごくごく単純化すれば、クソみたいな男達とそいつらが作った社会に抗う女性たちの連帯と悲痛な運命、愛と暴力の物語です。

     辛い、辛い、泣く、立ち上がる、戦う、辛い、辛い、打ちひしがれる、光を見る、戦う・・・。ケネディ大統領が暗殺された1963年前後の米国ニューヨークの貧困街で聴覚障害を軸に引き寄せられ絆を結んだ数人の女性の文字通り血の滲むような生き様が描かれます。

     フェミニズムが明示的に語られることはないのですが、これはフェミニズム文学の傑作と呼んでよいと思います。ディーリア・オーエンズ著『ザリガニが鳴くところ』が好きな方には是非読んで頂きたい! 恵まれない境遇の女性が学び、これぞという得意分野を持つことで社会と繋がり、そして残酷なのに爽快なクライマックス。『ザリガニが鳴くところ』が純文学との境界をゆらゆらと跨ぎながら最後までミステリプロットを隠し玉的にキープし続けたのと対照的に、本作ではオープンリーチのベタ足インファイトボクシング。それだけに導入分の仕掛けの回収とラストのドラマチックなこと! 鳥肌と涙と鼻水が一度に出ました。

    最後に、私がこの小説の真髄だと感じた一節を引用します。

    『 イヴがそんな愛を交わしたいと思うのは、チャーリーには直接言えないことながら、感じているからだった――ミミにしろ、自分にしろ、フランにしろ、クウィーニーにしろ、男たちには誰も守ることなどできないと感じているからだった。もちろん、それをチャーリーやナポレオンのせいにするのは正しくない。彼らが悪いのではないのだから。しかし、心から愛する相手に、自分が知っている中で最も強かったのは女だなどとどうすれば説明できる? その女性といるときが一番安心できるなどとどうすれば言える? どうすればそのような考えを超えてこの愛する男にたどり着ける? この愛する男を傷つけることもなく、怒らせることもなく。傷つけたくも怒らせたくもないのだから。
    眠れぬ夜を過ごしながら、イヴは思った――そういった点でも自分はほかの女とどこかちがっている。しかし、それは自分のこれまでのおいたちのせいで、特別でたまたまのことなのだろうか。それとも、自分が思っているよりずっとありふれたことなのだろうか。ほかの女もみな感じ、知っていながら、あえて口には出さないことなのだろうか。』(P.344)

    ハードカヴァーで出版されていないのが残念なくらい大好きな作品になりました。

  • 美し過ぎる邦題。

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著者プロフィール

ニューヨークのサウス・ブロンクス生れ。1999年、『神は銃弾』でデビュー。CWA賞最優秀新人賞を受賞し、本邦でも「このミステリーがすごい!」2002年版海外編で1位に輝く。以降、『死者を侮るなかれ』『凶器の貴公子』『音もなく少女は』などを発表。

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