イッツ・オンリー・トーク (文春文庫 い 62-1)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (188ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167714017

作品紹介・あらすじ

引っ越しの朝、男に振られた。やってきた蒲田の街で名前を呼ばれた。EDの議員、鬱病のヤクザ、痴漢、いとこの居候-遠い点と点とが形づくる星座のような関係。ひと夏の出会いと別れを、キング・クリムゾンに乗せて「ムダ話さ」と歌いとばすデビュー作。高崎での乗馬仲間との再会を描く「第七障害」併録。

感想・レビュー・書評

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  •  いわゆるミステリやSFといったジャンル小説に分類されない、現代文学の女性作家で初めてちゃんと読んだのが絲山秋子作品で、なおかつこの『イッツ・オンリー・トーク』だったと記憶しています。いや、もしかすると正確には最初ではないかもしれないのですが、そのくらい鮮烈な印象を受けたという意味で、間違いなく原体験のひとつ…なのですが、どうやら紙ではすでに古書でなければ入手困難になっているようでした(Kindle版は有り)。読めないわけではないにせよ、やはり悲しい…。

     さて、短編集というよりは、中編が2作収録されていると言ったほうが正確かもしれない本作。
     表題作の語り手である優子(=私)は、かつて新聞社に勤めていたが、心の病を患ってからは画家として糊口をしのいでいる。ある時、転居を決めた途端に男に振られ、それでも気持ちを切り替えて引っ越してきた蒲田の街と、そこで出会う男たち。議員になった大学の友人、パチスロ漬けだった居候のいとこ、メンタル系サイトを通じて付き合いの始まった鬱病のヤクザ、そして出会い系サイトで知り合った「痴漢(※出会い系経由なので合意の関係として)」。そもそも男性と体の関係を持つことにほとんど躊躇がなく、距離を計りあうコミュニケーションよりも寝たほうが楽だと考える傾向にある主人公。でもその実、蒲田に住んでからの彼らとの繋がりは、何気ないようでくすりと笑ってしまう機知と軽妙さを伴う会話を通して、とてもデリケートな距離感で保たれながら、再会したり離れたりと、少しずつ状況とともに関係も移ろっていきます。
     とりわけ「痴漢」なるkさんという人物の造形が絶妙かつ出色で、一見もっとも即物的に見える性描写を含む関係性とやりとりの中に、ハッとするほどの含蓄や気づきがいくつも散りばめられ、また温かく描かれていて憧れすら覚えるほど。
     併録されている『第七障害』では群馬の高崎を舞台に、乗馬をめぐるつながりと再会が描かれており、共通して主人公の心に深い「喪失」の穴が穿たれていることが、どちらも読むにつれて分かってくる構成になっています。その先にある、ゆるやかな結びつきと、出会いと、別れ。豊崎由美さんによる「もうここにはいない者によって支えられる、今ここにいる者の物語」という表現がほんとうに腑に落ちる、とても優しくも静かに胸に迫る2編を堪能できる一冊です。

     あぁ、復刊か再録してください~!

  • 表題作、頭のおかしさ、真っ当じゃなさ、わかる。こういう救われ方もある。
    馬の話もとてもいい。

  • 読んでる間は終始心地よくて、あっという間に読み終わってしまった。
    分からないけど何となくわかる気もする
    表題も好き。

  • 「キング・クリムゾン」に目を奪われて購読。期待を裏切らない素晴らしさだった。

    「イッツ・オンリー・トーク」は、キング・クリムゾンのエレファント・トークのなかで繰り返しぼやかれるセリフだ。これと同名の本作品は、まさにキング・クリムゾン的な世界である。

    暴力的な狂気とニヒリズムが渾然一体となっている。それは作中で「へんなの。不気味だよ」と言われるような、変な世界なのである。
    しかし、この変さは、決して乱雑なものではない。むしろ整然としている。この丁寧さも魅力的であり、とてもうまいと思った。

    「第七障害」もよかった。すごく丁寧に創られている。上州弁がさりげなく出てきて、ニヤついてしまった。ただ、キンクリ感はあまり感じられなかったのは残念だ。

    解説で、絲山作品にはAとBがある、Aは芥川賞的で、Bはキンクリ的だ(と私は解釈した)、とあった。なるほど、Aもいいが、やっぱりBを読みたいなあ。

  • 映画「やわらかい生活」を見て原作も読もうと思って2年近くも経ってしまった。
    優子は寺島しのぶ、祥一は豊川悦司になってしまうのは仕方がない。結構強烈なイメージだったから。
    登場人物は一致しているが、ストーリーは少し違ったような。
    蒲田も重要な役(目)だったように思う。ヨーカドーあったんだ。

    初期の頃の絲山作品は結構読んでいるつもりだったが、デビュー作は読んでなかった。なんとなく実際の蒲田を知った今の方が雰囲気がわかって良かったと思う。逆に蒲田を知らなかったら(それが正しい味わい方のような気がするが)、映画も見ていなかったら、どんな感想だったのか。

    併録の「第七障害」も良かった。こちらも地名が具体的にたくさん出てきて、その土地を知っているともっとリアルな感じがするのかと思った。

  • 「イッツ・オンリー・トーク」は、それぞれにキャラクターのちがう男たちとの関わり 身体を介さないコミュニケーション(痴漢を除いて)、即物的でない繋がりの方が向いているひとたちだ お互いになにも期待しない気安い関係のほうが心地よいときもあるよね
    「第七障害」は馬術の話だ、馬・群馬・篤、馬づくし 年下男のよさ、ありますね〜
    どっちも感想書くの難しいけど、好きな感じでした

  • イッツオンリートークは様々なだめんず達が出てくるけど、みんなそれぞれに人間臭いどころがあって、絶妙に心を揺さぶられました。
    第七障害も良かった。涙を誘われました。
    登場人物が下手に飾られてなくて、すごく現実味がある感じが好きです。

  • 『イッツオンリートーク』はパッとしない何かを抱えた登場人物たちが交わって時間が流れる。なんて事ないような気もするし、鮮烈な人生のような気もする。ただずっと聞いていられるムダ話。感情移入できなくともなんか面白かったです。『第7障害』はちょっと動物大好き系フリーターの僕には辛かったけど、傷付いて、距離をおいて、許して、って優しくて切ない時間の流れを感じられる名作でした。馬はみんな天国に行く、それは絶対そう。ヨギボーのCMみたいなとこやろなぁ。

  • この人の小説はラストが好きだ。淡々とした文章が続いてゆっくり降り積もったもののエッセンスが、最後にすこしだけ滴って落ちる感じ。
    「イッツ・オンリー・トーク」の優子の「なんかさ、みんないなくなっちゃって」も、「第七障害」の篤が順子の頬にそっと触れた余韻も本当にいい。ぐっと心をつかまれてゆっくり離されて、余韻がじんわり広がっていく。

    私は「第七障害」の方が好みだった。前の話でダメ男たちを見てきたせいか篤くんの一途さと素直さの好感度がガンガン上がる。かわいい。解説によると痴漢さんはすごく人気あるらしいけど、どうしてなんだ…?点の優しさより、べったりした面の優しさの方が好みなのかも。そして男たちより美緒が魅力的だった、こんな人と友達になりたい。かるーいふわふわしたノリで、いつでも歌を歌ってる人。あこがれるなあ。
    光に向かっていくお話だけど、あくまで淡々とした姿勢は崩さず、ゆっくりゆっくり氷が溶けていく様子を見守る感じで、ほんのり温かいから安心して寄り添える。何回も読みたくなる。

  • <内容>
    引っ越しの朝、男に振られた。
    やってきた蒲田の街で名前を呼ばれた。
    EDの議員、鬱病のヤクザ、痴漢、いとこの居候―。
    遠い点と点とが形作る星座のような関係。
    ひと夏の出会いと別れをキング・クリムゾンに乗せて
    「ムダ話さ」と笑い飛ばすデビュー作。
    高崎で乗馬仲間との再会を描く「第七障害」併録。

    <感想>
    絲山作品3作目読破。
    すっかり絲山秋子の文章の世界にハマってしまってる。
    小気味良い文章。素っ気なく、味気ないのに時折心にズバッっと突き刺さってくる。
    絲山氏の描く主人公の女性が自分と似てるとか、好きだとか実はそんな事はなく、むしろ、友達だったら遠慮したい人かも知れないのだが、主人公の抱えてる事はわかると言うか、きっと絲山氏が伝えたかったのはこの感覚なのだろうなと言う部分が的確に理解できる気がするから心惹かれるのだろう。

    表題作「イッツ・オンリー・トーク」の主人公の橘優子は友達だったらキライなヤツかも知れない。しかし、彼女を取り巻く人々(EDの議員・鬱病のヤクザ・痴漢・いとこの居候)の抱える<何か>が橘優子と共鳴しているのがわかるし、痴漢との関係性のは納得できないのに(なるほどなぁ)とさえ思ってしまった。

    一転、併録されている「第七障害」はとてもリアリティーがあった。過去読んだ小説の中でも初めてに近い状況設定。主人公・早坂順子を客観的に見て書いてあるので、感情を極力抑えて書かれてあるのだが喪失感・孤独感・虚脱感・漂流感が伝わった。乗馬は絲山氏の趣味らしい。

    2編ともに彼女の描く男性像がわりと気に入っている。
    「第七障害」の永田篤と早坂順子との関係は好きだ。温かな空気を感じられた。

    ところで、映画「やわらかい生活」は本作品が原作だったらしい。
    35歳、鬱病を抱える微妙な女性を寺島しのぶが祥一役をトヨエツが演じると言う。早速観てみようと思う。

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著者プロフィール

1966年東京都生まれ。「イッツ・オンリー・トーク」で文學界新人賞を受賞しデビュー。「袋小路の男」で川端賞、『海の仙人』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、「沖で待つ」で芥川賞、『薄情』で谷崎賞を受賞。

「2023年 『ばかもの』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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