転がる香港に苔は生えない (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
4.29
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本棚登録 : 404
レビュー : 48
  • Amazon.co.jp ・本 (623ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167717070

作品紹介・あらすじ

1997年7月1日、香港返還。その日を自分の目で、肌で感じたくて、私はこの街にやってきた。故郷に妻子を残した密航者、夢破れてカナダから戻ってきたエリート。それでも人々は転がり続ける。「ここは最低だ。でも俺にはここが似合ってる」。ゆるぎない視線で香港を見据えた2年間の記録。大宅壮一ノンフィクション賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 返還期の香港にまさに入り、感じたことを赤裸々につづる筆者。変わり続ける香港がもしかすると止まるかもしれない返還。これまでの香港に「慣れる」ために、様々な人の話をきき勉強していく筆者。なれるためには今まで生きてきた自分の魂を変化させていくことだ。香港人に戸惑い、傷つき、慰められ、笑顔にさせられ、結局自分のルーツである日本人であることを「誇り」とし、閉じこもった世界で持つ誇りに意味はなく、広い意味で国際交流しての「誇り・矜持」ならば大切であることに気づく。

    僕(このレビューを書いている私)は香港中国返還の10年後、香港で半年間暮らした。悲壮感などなく、10年祭として大賑わいだった。観光で来る大陸人(中国人)たちは、相変わらず、ホテルを荒らしまわり、人民袋ぱんぱんに荷物を詰め込み、ブランド品を手当たり次第に買っていた。そんな大陸人を香港人は、同じ国だけど別の生物のように、少し引いた目で見ていた気がする。
    毎日変わり続ける香港。毎日を生きるために積極的な香港。ゲップをしまくる香港。香港で生まれたことを誇りに思う香港。カナダやオーストラリアに留学する香港。
    人は香港をハブ空港として世界を左から右に、狭い香港にそびえ立つ摩天楼を上から下に、縦横無尽に動いていく。
    イギリスの植民地であったことも利用してさらに進もうとする、一部の経済的自由をもった特殊なその力は、根無し草の集合体が、限られた土地で生きるために選んだ手段なのかも知れない。そして、同じくイギリスに統治されたインドとはまた違う活力を持つ。

    筆者は一度負けた(自分で期限を決めて離れることができず、次期とタイミングで離れた)と思った香港で卒業試験を自分で設け、ピリオドを一度打つ。この本は筆者の香港に恋をしていた話だ。なぜなら僕も同じ思いをしたから。いやなところも、わからないところもあったけど、そして自分は絶対に香港にずっと住むことはできないことがわかっても、好きといえる気持ち。プラトニックな関係は、心に引っかき傷をつくっていつまでも思い返す初恋のような感じで熟熟と膿んでいく。その膿は失ってしまった恋の大きさに比例するが、いつか大きな宝となる。
    また、香港に行きたくなった。

    • だいさん
      本の内容も分かり、
      libraさんの本への愛着も伝わり、
      すごく良く出来たレビューに感心しました。

      >根無し草の集合体が、限られた...
      本の内容も分かり、
      libraさんの本への愛着も伝わり、
      すごく良く出来たレビューに感心しました。

      >根無し草の集合体が、限られた土地で生きるために選んだ手段

      この表現から想いが伝わった。(私もそのように感じる。)

      しかし!
      >プラトニックな…思い返す初恋…熟熟と膿んでいく。
      この表現は!
      初恋に暗い記憶があるのかと考えてしまった。
      2012/12/08
    • libraさん
      >だいさん
      コメントありがとうございます!
      初恋は…普通に言えずに失恋しております(笑)
      >だいさん
      コメントありがとうございます!
      初恋は…普通に言えずに失恋しております(笑)
      2012/12/09
  • 1997年にイギリスから中国へ返還された香港で、返還前後の約2年間を現地で生活したノンフィクション作家、星野博美氏の著書。最初の1年は就学ビザのため語学学校へ通い、2年目からは1か月間の観光ビザを取得するために入出国を繰り返すという、実に気合いの入った生活ぶりである。

    ちょうど歴史的転換点を迎えた香港の様子を描いているのだが、政治的な話はほとんど登場しない。一緒に語学学校へ通うシスターや、大学時代に留学していた中文大学のエリート同級生、借りたアパートの近所の人々とのエピソードを通じて、街の喧騒や匂いが存分に伝わる内容となっている。

    大陸との関係や移民問題、密輸や密入国者が多い事、不自由な住宅事情などなど、もちろん彼女の目線で見る香港が香港のすべてとは思わない。ただ約20年前の作品である事を差し引いても、あまりにアジアの隣国に無知な自分にとっては充分に興味深く、そして刺激的な作品だった。

  • 香港に住む前に読み、住みながら読み、帰国した後も読み続けてていて、香港好きな人に何冊配ったか分からない。ガイドブックでは絶対に分からない、香港人や香港に住む様々な立場の人達の生活に触れられる貴重な体験談。返還前の2年間の滞在記録であり、かの九龍城塞や、調景嶺、頭上をビルすれすれに飛び交う飛行機の轟音など、今となっては見ることの出来ない箇所の記述も多く、当時の香港に想いを馳せ、浸れる。そして何よりも素晴らしいのは、流れていく日常が星野さんを通すと何ともコミカルに愛らしく描かれ、つい笑ってしまい、その場に居合わせたかったと思わせてしまう事にあると思う。ノンフィクションを好んで読むようになったキッカケでもある思い出の本。

  • 香港返還を跨いだ滞在記。
    女性特有のというのかどうかわからないけども感傷的すぎる感じはあるのでところどころ何だこの臭さは…と思いながら読んだ。ただ、ひとつの街に夢中になって先走る感情を抑えきれない感じなら経験があるのでまあまあ共感できる。
    大陸人と香港人ではお互いに違う人種と考えているようだけどどっちも同じぐらい猛々しいと思う。図々しさがなければ大陸でも香港でも生きていけない。「賭博をしない男にいい男はいない」という言葉の説得力は後にも先にもこの読書でだけ自分に響くのだと思う。
    さまざまな背景を持つ人間が状況の変化に対応しながら常にどう立ち振る舞えば生き延びられるかを考え、いつまでも気が休むことはない。カオスの街で誰もが終わりのないサバイバルゲームをやっている。流れに身を任せる生き方でなんとかなる街ではない。終章で著者は苔の生すまで巌となる日本は安全であり苔のつく暇もなく転がり続ける香港は安全ではないと書く。600頁を超えるいくつものエピソードはそれぞれ気ままに書かれたようでもここでタイトルと係ってすべてきっちり収まってしまうあたりなかなか秀逸。それにして現地で就労するわけでもなくこんなにたくさんの人としっかり繋がってしまえる著者はすごい。

  • 素晴らしい本。

  • この本はジャーナリズムではなく、香港での生活記というほうがあっています。著者は当時、まだ思春期を抜けきれない、ちょっと浅はかで感傷的で怒りっぽいところのあるアラサー女性。彼女のいくぶん偏った世界観による独りよがりな生活記がだらだらと続き、いい大人の読者ならば最初の数十ページでさすがに「もういいかな」という気になると思います。それでも最後まで読まされたのは、文の上手さと、だんだん心配になってくるんですね。この人これからどこまで成長するんだろうとか、逆に、どこまでとんがって生きていくんだろうとか、結末が気になってきてしまうのです。その意味では読ませる力はあるんだろうと思います。
    一方、香港の人の(20年前の)価値観や生活感は、肌感覚で伝わってきました。日本人とは180度違うと言っていいくらいなので、すごく面白かったです。

  • 昔から香港という土地に不思議と興味をひかれていて、香港に関わる書籍を読もうと思ってまず手に取ったのがこの本。
    読んで本当に良かった。
    リアルな香港が作者目線で瑞瑞しく書かれていて、香港という場所がどういうところか、よくわかった。
    香港へ旅行することになったときに読み返したけど、旅行でも役に立つことが多くあったし、本当、読んで良かった本。

  •  タイトルは日本の国歌「君が代」の歌詞のもじりから。
     返還前後の香港で暮らした30代前半の日本人女性の、瑞々しいレポート。こんな文章書けたらいいのになぁと思う。
     何が良いかって、彼女自身がしっかりと媒介になっている点がブレずに徹底している。人と人との生々しいコミュニケーションの軌跡、街の喧噪やごみの臭いがこちらに届きそうな描写、身を切るような筆者自身の自省を含め、すべてがストンと腑に落ちるように読めるのは、彼女の等身大レンズを通した街や人が丁寧に描かれているからだと思う。それも、留学を機に築かれた10年ものの関係を温め、そして新たな人々の出会いを追いながら、丹念に人の姿を追っていくやり方で。
     根底には、時に憤ったりしながらも失われない、人々への温かい目線。おかげで今まで漠然と捉えていた香港と本土の違いも、いま香港が向き合う課題の背景も、今後は具体的な形を伴って目の前に立ち現れて来るように感じられる。

  • #143

  • 2016.5
    分厚すぎて途中までしか読めず…
    返還直前の香港に著者が飛んだときの話。
    「謝謝!チャイニーズ!」が面白かったから、時間見つけて読み直したい

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