- 文藝春秋 (2006年10月6日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (636ページ) / ISBN・EAN: 9784167717070
みんなの感想まとめ
多様な人々と文化が交錯する香港の魅力が、著者の視点を通じて鮮やかに描かれています。返還前後の香港の生活感や、そこに生きる人々の喜びや葛藤が、読者に深い共感を呼び起こします。筆者は、香港の喧騒やバイタリ...
感想・レビュー・書評
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長らく積ん読になっていたのは600頁超という量におののいていたのと、1997年と四半世紀近くも前の返還前後のことをいまさら読むのもどうかなと思っていたから。ところが、読み始めると面白くて、どんどん読み進めていけた。四半世紀前の普通の(中の下くらい?)の生活感が何となく味わえる感じがする。騒がしくてバイタリティがあり、大陸人の生きにくさがあり、香港人の生きにくさがあり、隣の人の生活や人生を見聞きしているような近さを感じながら読んだ。
そして、返還前後の香港の空気感を確認できたのもよかった。中国に返還されることによる楽観論も悲観論も右往左往していたあの頃。25年くらいがたって、いまの香港のことを思えば悲観論が勝ってしまったような気がする。ただ、それでもきょうも香港は生きて転がり続けているはず。
この本に出てきた著者の友人・知人の人たち、いまはどうしているんだろう。特に子俊とか肖連といった若い人たちのその後を知りたい。 -
星野博美(1966年~)氏は、国際基督教大学教養学部卒、会社勤務を経て、写真家・橋口譲二氏のアシスタントとなり、1994年に独立しフリーの写真家・作家となる。本書『転がる香港に苔は生えない』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞したほか、読売文学賞随筆・紀行賞、大佛次郎賞等の受賞実績あり。
本書は、大学在学中に一年間、香港中文大学への留学経験のある著者が、1997年7月1日の香港の中国への返還を挟んで、1996年8月から1998年10月まで約2年間香港に住み、そこに暮らす人々を描いたノンフィクションである。2000年出版、2006年文庫化。
私はノンフィクション物を好んで読み、しばしば新古書店で過去の各種ノンフィクション賞受賞作品を物色するのだが、本書もそうして入手した一冊である。
私はこれまで香港を二度訪れたことがあり、その1回目は、中国への返還から十年以上経った2010年で、当時は、返還時の中国側の約束である「50年に亘る一国二制度による高度な自治」が維持されていたはずである。その後、2014年には、次期香港特別行政区行政長官選挙に関する中国政府の決定に端を発した「雨傘運動」が、更に、2019~20年には、逃亡犯条例改正案をきっかけにした民主化デモが起こったが、私はその間、香港に関するTVや新聞の報道を、高い関心を持って見ていたし、それらに関係する『香港デモ戦記』(小川善照著)などの本も読んできた。しかし、現在の香港の状況を見ると、50年間約束されていたはずの自治は、事実上剥奪されてしまったと言え、世界の関心は、既に香港から台湾に移ってしまっている。
他方、本書の舞台は、上記の通り1997年の中国返還前後の香港である。当時、典型的な香港の街中のアパートに住み、毎日街の食堂に通い、多数の普通の香港人と付き合う著者が見た香港は、大半が他の土地から流れてきた人々の集まった、混沌とし、常に摩擦を生じさせながらも、未曽有の活力を持ち、多様性を受け入れる場所だった。その香港を、著者は「好むと好まざるにかかわらず、まるで崖から転げ落ちる石のように、彼らは転がり続けてきた。」と書いている。対して、我々日本人を、「千代に八千代にさざれ石の巌となりて苔のむすまで変わらない安定を望む人々」とも書いている。
本書は、本当の香港(人)を知るために、類書の少ない優れた一冊であることは疑う余地はないだろう。しかし、それから20余年が過ぎた現在、その香港(人)とは、今はなき過去のものなのか、それとも、今も変わらず存在し続けているものなのかはわからない。
後者であって欲しいと願うばかりだが、それを知るためにも、著者による続編的作品が読んでみたいものである。
(2024年11月了) -
これまた、『地図のないところで眠りたい』で推薦されていた本。丸善の秋のブックフェアでも推薦されており、この度手にした本。
自分が好きなものへの距離の取り方、そしてその表現の仕方が絶妙である。
いくら香港のことが好きだからといって、人間だもの、時にイライラさせられることもあるし、もう嫌だと思わせられることもある。でもやっぱり好き、そんなもどかしい感じが全編に貫かれており、そのもぞもぞした感じを楽しみながら読み耽った。
本棚において、何度でも楽しみたい一冊だ。 -
返還期の香港にまさに入り、感じたことを赤裸々につづる筆者。変わり続ける香港がもしかすると止まるかもしれない返還。これまでの香港に「慣れる」ために、様々な人の話をきき勉強していく筆者。なれるためには今まで生きてきた自分の魂を変化させていくことだ。香港人に戸惑い、傷つき、慰められ、笑顔にさせられ、結局自分のルーツである日本人であることを「誇り」とし、閉じこもった世界で持つ誇りに意味はなく、広い意味で国際交流しての「誇り・矜持」ならば大切であることに気づく。
僕(このレビューを書いている私)は香港中国返還の10年後、香港で半年間暮らした。悲壮感などなく、10年祭として大賑わいだった。観光で来る大陸人(中国人)たちは、相変わらず、ホテルを荒らしまわり、人民袋ぱんぱんに荷物を詰め込み、ブランド品を手当たり次第に買っていた。そんな大陸人を香港人は、同じ国だけど別の生物のように、少し引いた目で見ていた気がする。
毎日変わり続ける香港。毎日を生きるために積極的な香港。ゲップをしまくる香港。香港で生まれたことを誇りに思う香港。カナダやオーストラリアに留学する香港。
人は香港をハブ空港として世界を左から右に、狭い香港にそびえ立つ摩天楼を上から下に、縦横無尽に動いていく。
イギリスの植民地であったことも利用してさらに進もうとする、一部の経済的自由をもった特殊なその力は、根無し草の集合体が、限られた土地で生きるために選んだ手段なのかも知れない。そして、同じくイギリスに統治されたインドとはまた違う活力を持つ。
筆者は一度負けた(自分で期限を決めて離れることができず、次期とタイミングで離れた)と思った香港で卒業試験を自分で設け、ピリオドを一度打つ。この本は筆者の香港に恋をしていた話だ。なぜなら僕も同じ思いをしたから。いやなところも、わからないところもあったけど、そして自分は絶対に香港にずっと住むことはできないことがわかっても、好きといえる気持ち。プラトニックな関係は、心に引っかき傷をつくっていつまでも思い返す初恋のような感じで熟熟と膿んでいく。その膿は失ってしまった恋の大きさに比例するが、いつか大きな宝となる。
また、香港に行きたくなった。-
本の内容も分かり、
libraさんの本への愛着も伝わり、
すごく良く出来たレビューに感心しました。
>根無し草の集合体が、限られた...本の内容も分かり、
libraさんの本への愛着も伝わり、
すごく良く出来たレビューに感心しました。
>根無し草の集合体が、限られた土地で生きるために選んだ手段
この表現から想いが伝わった。(私もそのように感じる。)
しかし!
>プラトニックな…思い返す初恋…熟熟と膿んでいく。
この表現は!
初恋に暗い記憶があるのかと考えてしまった。
2012/12/08 -
2012/12/09
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勤める業界のOBが勧めていて手に取った。
4ページ目で、筆者が香港の返還を北極星に例える描写がロマンティックで、それなのに華美ではなくて、この本は絶対に面白い、素晴らしい本を手に取った、と確信した。
実際に、うんざりしつつもどうしようもなく香港に惹かれている筆者による香港の喧騒の描写が素晴らしかった。香港の様子がありありと思い浮かんだ。
この本に出てくるエリートや密航者、街の飲食店に勤める人々はいまどうしているだろうかと思わずにはいられない。いまどこで過ごし、いまの香港の現状をどんな風に受け止めているんだろう。 -
香港返還を跨いだ滞在記。
女性特有のというのかどうかわからないけども感傷的すぎる感じはあるのでところどころ何だこの臭さは…と思いながら読んだ。ただ、ひとつの街に夢中になって先走る感情を抑えきれない感じなら経験があるのでまあまあ共感できる。
大陸人と香港人ではお互いに違う人種と考えているようだけどどっちも同じぐらい猛々しいと思う。図々しさがなければ大陸でも香港でも生きていけない。「賭博をしない男にいい男はいない」という言葉の説得力は後にも先にもこの読書でだけ自分に響くのだと思う。
さまざまな背景を持つ人間が状況の変化に対応しながら常にどう立ち振る舞えば生き延びられるかを考え、いつまでも気が休むことはない。カオスの街で誰もが終わりのないサバイバルゲームをやっている。流れに身を任せる生き方でなんとかなる街ではない。終章で著者は苔の生すまで巌となる日本は安全であり苔のつく暇もなく転がり続ける香港は安全ではないと書く。600頁を超えるいくつものエピソードはそれぞれ気ままに書かれたようでもここでタイトルと係ってすべてきっちり収まってしまうあたりなかなか秀逸。それにして現地で就労するわけでもなくこんなにたくさんの人としっかり繋がってしまえる著者はすごい。 -
香港返還前後を描いた2年間の記録。帯にあったその言葉に惹かれて手に取った本作。
2年のあいだ度々香港へ旅行した記録ではなく、実際に住んで、香港に暮らす人々と会話した内容がわかりやすくまとめやれていて読みやすい。
驚愕したのは茶餐廳で一目惚れ(?)した男の子が暮らす街に引っ越して、その男の子と親しくなるという行動力。令和の日本ならストーカーとか言われそう。土地柄なのか、時代なのか。
大陸出身の方の身の上話や、カナダパスポートを取れたから勝ち組というわけでもない話、めまぐるしく変わる香港に暮らす人々の順応性は興味深い。
「いつ奢ってくれるの?」と香港人が言うのは親しいから、麻雀は社会でのよくできたコミュニケーションツールである、など、香港人ならではの感覚も面白かった。
今度香港に行くときには、著者が暮らした深水埗に絶対行こうと思った。
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中国に行く前に中国の風を感じたくて読み始めた。
文章が上手い、綺麗な文章とかいう意味でなく、文章の密度が濃く、感情や状況を言語化するのが上手い。この著者の存在は、米原万里さんの読書日記で取り上げていて知ったが、米原さんの中国版という感じ。
香港人の食に対する考え方(不味い冷凍肉は食わないがo157の危険のある新鮮鶏肉を食べる)とか博打の考え方がよかった。
著者の他の本読んでみたい。
2025.5.21 -
香港返還前後に住んだ筆者のフィールドワークである。500ページを超える大著なので、文庫本も厚いと思われる。香港に行く前にこの本を読むと、観光でない香港が味わえるであろう。ガイドブックにもこの本をお勧めで掲載した方がいい。
フィールドワークでの推薦本やテキストでは紹介されていないのは大著であることと関係するのかもしれないが、沢木耕太郎の一瞬の夏も大著であるがフィールドワークとして詳細している。一瞬の夏というボクシングというスポーツを扱うよりも、この転がる香港の方がフィールドワークとして適していると思われる。 -
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眼の前に香港があるように感じた。あのガヤガヤした感じは今も変わらず残っているんだろうか。
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あらゆる出来事や物に対する、星野さんの繊細で暖かく、時にハッとさせられる洞察力に感嘆。
星野さんがその目を通じて見たもの、感じたことが、丁寧に丁寧に書かれています。
正直、読んでいると香港の街はなんて生きづらく、香港人と接するのはとても苦労するな…なんて思うことはたくさん!笑
でもそれと同じくらい、魅力に溢れる場所であり、力みなぎる人々なんだと思わせてくれる。それはひとえに、星野さんの力でもあります。
面白かった!他の作品も読みたい! -
香港返還時期に立ち会った生き証人。生々しく生きる人々から学んだ香港の光と陰。著者は「日本はいい国だ」という言葉の意味は、自分たちが無防備でいられることだという。単一のほうが楽だから、楽な方向に向かおうとし、異物を排除しようとする。
「今我々に必要なのは誇りではなく、多様性だと私は思う」
今から16年以上前に著者が感じたことだ。そして現在、我々はその時から変わっているのであろうか。世界を震撼させ続けている疫病を理由に再び楽な単一を選ぼうとしているのではないだろうか。 -
1997年にイギリスから中国へ返還された香港で、返還前後の約2年間を現地で生活したノンフィクション作家、星野博美氏の著書。最初の1年は就学ビザのため語学学校へ通い、2年目からは1か月間の観光ビザを取得するために入出国を繰り返すという、実に気合いの入った生活ぶりである。
ちょうど歴史的転換点を迎えた香港の様子を描いているのだが、政治的な話はほとんど登場しない。一緒に語学学校へ通うシスターや、大学時代に留学していた中文大学のエリート同級生、借りたアパートの近所の人々とのエピソードを通じて、街の喧騒や匂いが存分に伝わる内容となっている。
大陸との関係や移民問題、密輸や密入国者が多い事、不自由な住宅事情などなど、もちろん彼女の目線で見る香港が香港のすべてとは思わない。ただ約20年前の作品である事を差し引いても、あまりにアジアの隣国に無知な自分にとっては充分に興味深く、そして刺激的な作品だった。 -
香港返還直前から直後まで、普通に暮らす人の視点から、眺めようとした試み。さまざまな背景を持つ人が、お金があることを唯一の指標に、何としてでも稼ごうとしたたかに立ち回り、騙されるほうが悪いといわんばかりのこすっからさ、しかし、ひとたび知り合いになり身内と認められれば、どこまでも助けてもらえ、そのかわり、自分も何かを差し出すことを求められる。休まることなく緊張する大地ですごし、けど、時として人の情けにホロリとする。刺激的で興味が尽きず、日本と異なった考え方に翻弄されつつも、愛憎ともに強く、惹きつけて止まない。そんな30年前の香港。今はどうなっているのだろう。そして、ここに出てきた人は。特に阿強の今が気になってやまない。/わずか二回あってみんなで記念写真を撮って、ごはんをたべ、その後音信不通になってしまった阿彬。保険にとパスポートをとるためにカナダに渡り、ろくな仕事につけず、香港に帰ってきたら不動産バブルに乗り遅れ、不本意な仕事につき、現状を受け入れられず、大学へ足をはこび、攻撃的になっている阿強。「自分が何者かわからない、でも今は香港に住んでいる」ということを香港人の定義にすればいい。こんな風に考えるってこと自体、僕が香港人である証拠だと思うよ、と語る文道。この街で危険な目に遭いたくなければ、自分の正体を他人に知られないこと、他人から興味を持たれないようにすること、とルビー。「香港じゃ、貧乏はただの貧乏で、精神なんて関係ないもの」と利香。どこへも行かない。人を信用する。他人と自分を比較しない。香港で生き抜いていくために必要と思われることの、すべて逆を実行していた劉さん。今日働くのは今日食うため。明日働くのは明日食うため。一番大事なのは食うことだ。返還を祝っていたら食えなくなる、とタクシーの運転手。/「誰よりも早く決断しなければ遅すぎる」「どこかで賭けないと埒があかない」香港で生き抜く上での厳しい哲学/友達の概念の違い、どれだけ相手の生活に食い込んだかを、親しさの指標にする。貧しい人のためになろうとする宣教師たちの西と東の問題への嗅覚の鈍さ。外の人間に通じない言葉で好きなことをいい、溜飲をさげる、支配者へのささやかな復讐、だから広東語を学ぶことは彼らの聖域を侵すことで歓迎されないことも多々有る、と。
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大切にしたい本が増えて嬉しい。
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香港返還時期のお話でした。
凄く面白かった。 -
97年中国返還前後の香港で、著者の体感した「香港とは」と香港の移り変わりがとても率直に書かれていて面白い。
著者の半端ない逞しさと香港への好奇心がなせる良書だと思う。
30年近く経ち、もうこの本にある香港を見つけることのほうが難しいのかもしれないけど、もし香港を訪れることがあれば、もう一つのガイドブックとして、この本を持って行くことだろう。
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著者プロフィール
星野博美の作品
