邂逅の森 (文春文庫 く 29-1)

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 273
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  • Amazon.co.jp ・本 (544ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167724016

作品紹介・あらすじ

秋田の貧しい小作農に生まれた富治は、伝統のマタギを生業とし、獣を狩る喜びを知るが、地主の一人娘と恋に落ち、村を追われる。鉱山で働くものの山と狩猟への思いは断ち切れず、再びマタギとして生きる。失われつつある日本の風土を克明に描いて、直木賞、山本周五郎賞を史上初めてダブル受賞した感動巨編。

感想・レビュー・書評

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  • 2004年 第31回直木三十五賞受賞
    第17回山本周五郎賞受賞

    物語に圧倒される体験は、そう何度も経験できるものではありません。
    「邂逅の森」は、秋田の貧しい小作農の次男として生まれた男が、マタギとしての生き方を森で学び、マタギとして生き抜こうとした半生の物語です。
    驚くほど力強くストーリーに引き込んでしまう文筆力。数ページでこの男の人生に同調してしまう。引きずり込まれてしまうのです。
    生まれた村を身分違いの恋を咎められ追われてしまう。ここから男の波乱の人生が始まります。
    追われた先の鉱山でも山で鍛えられた心身で働くも 狩猟への想いは彼の奥底に根付いています。
    恋人との別れ、結婚、娘の誕生と人生は流れてもマタギへの気持ちは、失われていませんでした。
    この作品の前作のタイトルは、「相剋の森」
    山との関わりとしてのメッセージになっているのではと思います。相剋は決して剋されるだけではなく、そこから教えられ、鍛えられ、相生への過程となるのではと思います。
    山の神への信仰、狩への禊、それは不浄を取り除くのみならず、獲物への敬意。
    しばらくは雪山に飲み込まれたような読後感でした。

    • NO Book & Coffee  NO LIFEさん
      おびのりさん、こんばんは♪
      読まれたんですね。自分がよかったと思える作品が、
      他の方に伝わるのはうれしいものです。
      あの後を引く読後感をより...
      おびのりさん、こんばんは♪
      読まれたんですね。自分がよかったと思える作品が、
      他の方に伝わるのはうれしいものです。
      あの後を引く読後感をより多くの方に!(^^)
      2024/04/05
    • おびのりさん
      aoiさん、「さぶ」いかがですか?
      ラストにやられてくださいね。
      そして、こちらもどうぞ。骨太の作品ですけど、読み応えありです。
      aoiさん、「さぶ」いかがですか?
      ラストにやられてくださいね。
      そして、こちらもどうぞ。骨太の作品ですけど、読み応えありです。
      2024/04/06
    • おびのりさん
      本とコさん、コメントありがとうございます。
      なかなか、他の作品では経験しない読後感でした。田辺聖子さんは、作品との邂逅と書かれていましたが、...
      本とコさん、コメントありがとうございます。
      なかなか、他の作品では経験しない読後感でした。田辺聖子さんは、作品との邂逅と書かれていましたが、ほんとそんな感じです。
      2024/04/06
  •  物語に圧倒され、完膚なきまでにやられました。読後の心の震えが止まない程の素晴らしい作品でした。史上初の直木賞・山本周五郎賞W受賞も大納得です。もっと早く読みたかった!と言うか、本作の存在について己の無知を恥じ入ります。

     本作は、狩猟を生業とする男(秋田の阿仁マタギ)の物語です。先の河﨑秋子さんの『ともぐい』(北海道東の独り猟師)同様、その土地の風土や厳しい自然を熟知し、向き合い続ける者にしか書きえない傑作だと思いました。凄みさえ感じます。

     秋田の山間に脈々と受け継がれてきたマタギ。狩猟民俗、マタギ文化の学術的な文献は多々あるのでしょうが、これらの視点を見事に小説に落とし込んだ作品は他に知りません。さらに、戦争や飢饉、貧困での娘の身売りや子の間引き等、当時の時代背景も写し取り、重厚で深みのある物語に仕立てています。
     方言の使い方、登場人物の個性の多彩さ、その両面の書き分けが巧みで、物語の面白さに拍車をかけます。男女の獣的な性愛や迫力ある熊との壮絶な死闘‥、いずれの場面描写も見事で、強烈な力で物語に巻き込まれました。

     人間は自然とどう向き合うべきか? これは時代が変わっても大きな課題です。間違いなく本作は、望ましい生命・自然観の一つの解を提示してくれている気がします。
     大正から昭和初頭、紆余曲折を経ながら、マタギを生業とした一人の男の人生・生き様を、揺るぎない筆致で真正面から描き切った感動作でした。
    発掘本として、絶賛推します!

    • NO Book & Coffee  NO LIFEさん
      レビュー楽しみにしてま〜す(^^)
      レビュー楽しみにしてま〜す(^^)
      2024/03/22
    • ひまわりめろんさん
      おびー予約中か
      じゃ、やめようかな(なんでやねん)
      おびー予約中か
      じゃ、やめようかな(なんでやねん)
      2024/03/23
    • おびのりさん
      ご一緒いたしましょう。
      ご一緒いたしましょう。
      2024/03/23
  • まず、この本に出会えたことが何より嬉しい
    読み終えた今の感動をどう言葉にしたらいいものか、困り果てている

    マタギとして生きた富治の半生の物語であるが、私には真実の愛を探し求めた富治の半生の物語とも言えるのではないかと感じた

    厳しい自然と対峙するマタギであるが、いつも自然への畏敬の念を忘れない。自分たちの生活の糧となるアオジシやクマなど獣への敬意を忘れず、決して命を無駄にせず、すべてをいただくその姿勢に胸を打たれる

    あたかも人間が地球上で、一番利口な生き物であるかのように好き勝手に細工し、挙げ句の果て、取り返しのつかない地球環境の破壊をもたらしてしまった驕った姿勢は微塵もない

    しっかりとした下調べされた秋田の方言やマタギの掟などが、この物語をより重厚なものにし、読者をぐいぐい険しい冬の山へと誘ってくれる

    力強い男の物語であるが、貧しい農村の女性の悲しい生き方や夫や子供の無事をひたすら祈り帰りを待ち侘びる健気な女性の生き方が根底に流れているので、女性である私も引き込まれてしまった

    終盤の山のヌシの化身であるコブグマと富治の一騎打ちは、息をもつかせぬ迫力だった
    私は、富治がどうか無事にイクの元へと帰れますようにと祈りながら読み終えた

    もう一度、じっくり読み直したいと思わせてくれる本だった

  • 大正時代、秋田でマタギを生業としていた富治。
    村の地主の1人娘の文枝と恋仲になった為に、村を追い出され強制的に鉱夫となる。
    弟分の小太郎と新たに猟を始め、マタギに戻る人生。
    文枝に夢中で、頼りない若者だった富治が、鉱山の厳しい世界で大人になり、またマタギに戻った時には村人から頼られる存在に。
    山の掟や、山の神、山言葉など民俗学的な内容も良く、終盤の巨大コブグマとの死闘の描写は映画を観ている様な迫力があった。
    東北人の自分には方言も心地よく、写真でしか見たことの無い父方の祖父が、やはり山に入って山で亡くなったという話を思い出した。

  • なんとまぁ力強い作品なのか。
    ぐいぐい私をひっぱり、山の奥へと連れていく。読み終わった時は、滋養ある山菜をお腹いっぱい食べた気分になった。

    大正~昭和初期のマタギの話。
    忍者も然り、日本には超人的で神秘的な仕事をする人々がいる。

    そして熊はいい。
    熊はカムイ。
    私は大雪山で逢ったことがある。
    最強の子連れ母熊に。

    人情味たっぷりの物語、男女の目合いの場面は相当に艶めかしく、山々の気高さと有り難さも堪能できる。

    人の道はまさに邂逅の森だと思い、手を合わせる気持ちにもなる。

    面白かった。

  • 著者、熊谷達也さん、どのような方かというと、ウィキペディアには次のように書かれています。

    熊谷 達也(くまがい たつや、1958年4月25日 - )は、日本の小説家。東京電機大学理工学部卒業。
    2004年、『相剋の森』から始まり『氷結の森』で終わるマタギ3部作の第2作『邂逅の森』で、初の山本周五郎賞と直木賞のダブル受賞を果たす。

    今回手にした、『邂逅の森』は、今現在、著者の代表作になっています。
    実際に読んでみて、中々の出来映えと思いました。

    この作品の内容は、次のとおり。(コピペです)

    秋田の貧農の家に生まれた冨治。マタギとなり獣を狩る喜びを知るが、地主の一人娘と恋に落ち、村を追われる。直木賞の感動巨篇!

  • マタギの話なのですが、熊がめちゃくちゃ怖かったのを覚えています。手に汗握る熊との対決。果たして勝敗はどちらに!?

  • 読み終えてしばし、言葉も出ない。


    時代は大正、秋田の山奥で狩猟をするマタギの若者の物語。

    まず何より、秋田だったり山形だったりの方言や、土地の言葉、マタギの言葉が出てくるが、その含みがとてもいい。登場人物や相手によって方言と標準語を使い分けたり、町の方の商人や田舎でも教養のあるお嬢様は標準語を話していたりとか、近代化がまだ兆しとしてしか入り込んでいない世界で、都市と奥地、近代と前近代のそれぞれの人のあり方が、話し言葉の差異によってうまく対比されている。

    物語の中の世界は、私達の生きている世界に比べてだいぶ生々しい。クマを狩るという命のやり取りもそうだし、雪国の自然の厳しさ、当時の社会の貧困や、夜這いや身売りといった性にまつわる物事など、おそらくとても丹念な下調べの上に描かれた風俗だけでも十分ひとつのエンターテインメントである。けれど、そういう楽しみはちょっと覗けば満足する井戸みたいなもので、もうそろそろいいかな、となりかけたところでこの物語のもう少し奥にあるテーマがあらわれてきた。そこからはもう引き込まれて一気読み。

    マタギにとって狩りの対象であると同時に神性の一部でもあるクマが、常に傍らで、人間という生き物の秤のように存在していた。人間は知能の優越を誇っているが、少し引いてみればクマの食欲と性欲と変わらない、自己保存と種族保存の本能を満たすことに汲々としているだけの存在だ。狡猾で、時に度を越している分、むしろそれ以下かもしれない。ふと読んでいて仏教の「無明」という言葉が頭に浮かぶ。このワイルドな世界の住人たちは、現代の私達よりも素朴な分、よりハッキリとした獣性をみせている。そんな世界の中だからこそ、物語の後半で主要な登場人物たちがみせる獣性を越えた行動原理には、心を揺さぶられた。これをなんと呼べば良いのだろうか。陳腐だけれども、「善」の一字が浮かんだ。人として生まれたからには、99%は獣と同じ、無明にまみれて生きざるを得ないとしても、最後の1%では善に辿り着いて死にたい。それだけが人生の争点ではないだろうか。そんなことを熱っぽく考える。

    そんなハイテンションで最終章に臨みながら、読み終われば冒頭の一行である。これ以上は書くのも野暮なので、あとは読んでいただきたい。テーマの重厚さと、1頁1頁を読み進めさせるエンターテインメントが両立してるので、安心してオススメできる一冊。

  • 大正の初め、東北の寒村に生まれたマタギの富治。
    身分違いの恋が原因で故郷を追われ、その後鉱山で働くものの山と狩猟への思いを断ち切れず、再びマタギとして生きようとするのだが―。

    久しぶりに出会った、重厚で力強い、圧巻のストーリー。
    ごりごりの男の世界を堪能しました。

    全ての音を吸いつくす一面の銀世界、獲物をひたすら待ち続ける時の息づかい、熊と対峙した時の全身の緊張感…まるで自分もそこにいるかのような臨場感。
    当時のマタギの生活や狩りをよく調べて克明に描いており、自分の現実の人生とは違う人生を疑似体験できるという小説の醍醐味を存分に味わうことができました。

    自然界の掟と卑小な人間の営みまでも超克し、最後の熊との一騎打ちに至るまでの波乱に満ちた富治の人生に、自然と涙が出てしまいます。

    こんな、自在に物語られる筆さばきとお話の強度とを兼ね備えた小説ってなかなか無いと思う。
    今まで読まなかったことをほんと、後悔。

    • nico314さん
      シスターさん

      はじめまして。
      私もこの本を読んでいるとき、日頃手に取りがちな本と違って心をがしがしとつかまれるような気持になりました...
      シスターさん

      はじめまして。
      私もこの本を読んでいるとき、日頃手に取りがちな本と違って心をがしがしとつかまれるような気持になりました。

      また、おじゃまします。よろしくお願いします。
      2013/01/01
  • マタギを描いた傑作。
    通常の生活では体験できないことを知る。
    熊、雪崩、山を通じて自然の偉大さを知る。
    単に「自然には逆らっちゃいけない」ということではなく、「人間の及ばない、人知を越えた大きなものが世にはある」という畏敬の念、本書に何かメッセージがあるとするなら、“決しておごらないこと”。

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著者プロフィール

1958年仙台市生まれ。東京電機大学理工学部卒業。97年「ウエンカムイの爪」で第10回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2000年に『漂泊の牙』で第19回新田次郎文学賞、04年に『邂逅の森』で第17回山本周五郎賞、第131回直木賞を受賞。宮城県気仙沼市がモデルの架空の町を舞台とする「仙河海サーガ」シリーズのほか、青春小説から歴史小説まで、幅広い作品に挑戦し続けている。近著に『我は景祐』『無刑人 芦東山』、エッセイ集『いつもの明日』などがある。

「2022年 『孤立宇宙』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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