ゆうとりあ (文春文庫 く 29-3)

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 16
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  • Amazon.co.jp ・本 (525ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167724030

感想・レビュー・書評

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  • 「邂逅の森」を読んで感動!以来この著者に興味を持っていた。適度な緊張感のあった作品だったが、この作品はまるで・・・。世間の評価はあまり良くないけれど、私はとても面白く良かった。

  • 定年後の住処を田舎の山で、蕎麦打ちなんか始めたりして。なんて夢もいざ叶えてみればそこにある現実と間もなく向き合う事に。それでも人は求めてしまう、『ゆうとりあ』に。

  • 熊谷達也の小説、本当に大好き!
    よかった~。
    2009年あたりの作品なのに、リモートで仕事を推奨し、出勤しなしなくてもよいという今のコロナの状況下にぴったりの話だと思う。
    また昨年は熊の被害が相次いだがこの件も、この小説のように人間と野生動物の共存のあり方を多くの人が知っておくとよいのではないかと思う。
    もちろん、共存などできない、怖いから駆除すべきという意見や、人間が動物の場所を借りて生活しているのだから動物を駆除するのは間違っているという意見も消えないであろう。
    でも私は、人間と野生動物を同じ立場と考えて一定のルールの下でおおらかに暮らすのが自らも楽に暮らせるのではないかと思う。

  • 親やすい設定ながら、自然と人間との共存について、というのはこのかたならではの内容だと思う。
    そして、団塊ジュニアとしては、
    団塊の世代って…って気持ちにもなります。

  • 定年退職を機に田舎暮らしを選んだ団塊世代の主人公が、夢と現実のギャップに戸惑いながら過ごし一定の方向を見出すまでの3年間の物語

    読み終わった後にあ~これは何とも都会的なお話だと。都会的に語弊があるなら関東ぽいとか・・・

    団塊の世代とひとくくりにすること自体おかしいのですが、お金と心、生活に充分余裕のある人達の贅沢な悩みとうかがえるような内容。

    自宅がすんなり売れて広い土地付き家に引っ越し。好きな事をして暮らせる余裕があるから趣味で野菜作りや夢の蕎麦屋等とのんびりと言っていられる。子供達や親戚なんかとも揉めることもなく、周りのご近所さんも個性豊かとはいえ特に問題なし。こんな都合のいい田舎暮らしなんかある訳ない!

    実際ユーモラスに描いてあるので深い悩みや重たい人間関係なんかは表現する必要ないんだろうけどお気楽すぎてなんだか私の心に壁が出来てしまいました。

    どちらかと言えばこの後の話があればとても面白かったのではないかと思います。10年後辺りがよさそうではないかと想像しました。暗くというのではなく、老いやその後の生活の変化等がどんどん見えてくるという内容だとこの最初のお気楽さが生きて来るのではないでしょうか?

    そういう意味で言えばまずは田舎暮らしのスタートは理想郷という勘違いから始まるのでは?
    だって田舎暮らしってこの話の後半に出て来るクマヤ猿やイノシシというより虫じゃない?(笑)
    まずは奥様に虫の件で叫んでほしかった(笑)

    久々に文句ばったり言ってみました
    たまにはいいか~ (# ̄ー ̄#)ニヤ

  • P517

  • おもしろい

  • 最近ハマっている熊谷達也。
    団塊の世代の第二の人生を田舎暮らしで。というテーマ。

    広々とした土地で野菜作りはありがちだが、そこはさすが熊谷達也。
    イノシシ、サル、しまいにはクマが登場し、奥山放獣につながる。

    上辺だけの田舎暮らしに憧れる人は多いと思うが、田舎は田舎で大変なんだナ。

    2013.12.10読了

  • 定年退職して田舎に移住した老夫妻と、田舎の個性的な人たち。その暮らしぶりなどを面白おかしく描いた作品、というところでしょうか。

    序盤は田舎暮らしの大変さだとか、アクの強い隣人たちとのやり取りが面白いです。同作者「邂逅の森」がシリアスで感動的だったので、同じ作者が書いたと思えないほどの軽妙さに少々驚き。

    中盤以降は人と自然の共存がテーマっぽく、改めて思いなおすとお堅い話になってしまったように思いますが、読んでいる最中はそれを全く感じることなく興味津々で読んでいました。

    スペクタクルな内容ではないので、強烈なカタルシスがあるわけではありませんが、じわじわ染み入る面白さがある作品だと思いました。

  • 定年をむかえた団塊世代の親父たちの第2の人生を描いた作品。

    物語の中心は、東京から「ゆうとりあ」と呼ばれる富山県のN市(たぶん南砺市だろうと推測)の山村へと移住した、佐竹克弘・麻美ご夫婦。

    「ゆうとりあ」には、ソーラーシステムにバイオトイレと、エコ生活を実践する方がいて。家庭菜園に勤しむ方もいて。美大で教えていた経験を持つ画伯もいて。陶芸にのめり込む頑固親父もいて。

    それぞれにユニークな個性を持っていて、会話のやりとり・挙措動作もユニーク。読んでいるだけで、なんだかほっこりとしてくる。

    そんな個性的な「ゆうとりあ」の面々の中で、ひときわ目立つのが30代の若さで移住してきた三橋夫妻だ。

    夫は炭焼き職人。妻の加奈子さんはなんと狩猟免許を持ったハンター。克弘夫婦の移住後しばらくしてから出没し始めた野生の動物たちとの闘い(?)は、作者・熊谷達也さんの得意領域である。ただ単に、60歳を過ぎた夫婦の新しい生活をユーモラスに描いた作品にとどまらないのが本作の魅力であり、熊谷さんの魅力でもある。

    物語の後半からは、なんだかハンターの加奈子さんが主人公に見えるほどに、その言動が印象深い。特に、克弘夫婦の家に出没したクマを捕獲した後、「殺すのは可哀相」という克弘に対して言い放った加奈子さんの台詞は大きなインパクトを残した。

    「佐竹さん、それって人間のエゴですよ。クマが出ると怖いし困る。被害を防ぐために駆除してほしい。実際にクマが出た場所に住んでいる人がそう望むのは、人間側の都合です。そして、捕まえたクマが殺されかかっているのを見て可哀相になり、逃がすことはできないかっておっしゃるのも、これまた人間の勝手な都合です。人間のそのときどきの気分や都合で殺したり逃がしたりって、あまりにも勝手だと思いません?彼らと隣人としてつきあっていくためには、ここまではいい、でもここから先はダメという、明確な一線をわれわれがしっかりと持っている必要があると、私は思います。私だって、こんな形でクマを殺すのはいやです。できれば銃器捕獲なんか1頭もしたくない。それでもルールを守るため、ルールというのは法律や条例とかじゃなくて、動物と人間とのあいだの掟を守るために引き金を引くんです。ですから、このクマを逃がすことはできません」

    この文章だけでも深く考えさせられる。都会で暮らしているだけの人間には、到底、考えの及ばない内容だ。下北半島で暮らす写真家の磯村さんが語る場面も印象深い。

    「本来、人間ってきわめてアナログ的なものだとわたしは思います。例えばですね、小さな波が寄せては返す海辺や河川の水際は、境界が曖昧というか、ここからが陸でここからが海や川とはっきり線引きされているわけではないですよね。そういうアバウトな曖昧さが実は大事で、別の言い方をすれば、その曖昧さが心の襞と言えるかもしれない。しかし、現実にわれわれが生きている社会は、コンクリートで造られた防波堤や堤防が既成事実として最初から存在していて、陸と水とがデジタルに分断されている世界じゃないでしょうか。あれかこれか、オンかオフかの二者択一を常に迫られているし、そうした選択の仕方にすっかり慣れてしまっている。それでは野生の動物たちと共存や共生はできないと、正直なところ思います」

    ここで、あれ?と思ったのは、ハンターの加奈子さんと写真家の磯村さんの言葉とが真逆ではないか?という気がしたからだ。

    かたや、動物と人間との間はしっかりとした掟・一線を持っていなければならないという加奈子さん。

    かたや、動物と人間との間には明確な境界を設けずに、アバウトな曖昧さが必要という磯村さん。

    これは、どちらかが正しくて、どちらかが間違っているというわけではない。どちらの台詞にも説得力があるし、納得できる。正反対の内容であるのにもかかわらず、だ。

    つまり、【動物と人間との共存共生の実践】が、いかに容易ならぬことなのかが、両者の言葉からうかがえるのだ。もちろん、これが本作のメインテーマというわけではないが、あるいは、作者の熊谷さんがこっそりと忍ばせた問題提起なのかもしれない。

    …、と堅苦しいことを書いたが、お堅い小説ではない。硬軟を織り交ぜた文章がテンポよく綴られているので、肩肘を張らずに、一気に読み切ることができる。

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著者プロフィール

1958年仙台市生まれ。東京電機大学理工学部卒業。97年「ウエンカムイの爪」で第10回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2000年に『漂泊の牙』で第19回新田次郎文学賞、04年に『邂逅の森』で第17回山本周五郎賞、第131回直木賞を受賞。宮城県気仙沼市がモデルの架空の町を舞台とする「仙河海サーガ」シリーズのほか、青春小説から歴史小説まで、幅広い作品に挑戦し続けている。近著に『我は景祐』『無刑人 芦東山』、エッセイ集『いつもの明日』などがある。

「2022年 『孤立宇宙』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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