- Amazon.co.jp ・本 (298ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167732059
作品紹介・あらすじ
1983年元旦、僕は、会社の先輩から誘われたスキー旅行で、春香と出会った。やがて付き合い始めた僕たちはとても幸せだった。春香とそっくりな女、美奈子が現れるまでは……。
清楚な春香と大胆な美奈子、対照的な2人の間で揺れる心。『イニシエーション・ラブ』に続く二度読み必至、驚愕の「恋愛ミステリー」。ついに文庫化。
感想・レビュー・書評
-
この世には自分にそっくりな人が三人いる。
あなたは自分のことを何をもって自分だと認識しているでしょうか?手、足、そして胴体、これらは全てあなたそのものです。しかし、他者がそれら単独のパーツをもってあなただと言い当てることは難しいでしょう。確かにそれらもあなたではありますが、人を見分けるものにはなり得ないと思います。そう、人はやはり”顔”をもってあなたを見分けます。そんな顔は当然に千差万別です。一方で”この世には自分にそっくりな人が三人いる”とも言われる通り、偶然の空似というものもあるのだと思います。しかし、なかなかにそんな良く似た人物を見かけることはないでしょうし、ましてやその双方と肉体的な関係を持つなどということは確率論としても大きく下がると思います。
しかし、それがゼロでない限り、私たちの人生にそういう場面が訪れることがあっても不思議ではありません。ただ、”顔”がパーツの一つでしかない以上、そんな同じ”顔”をもった人物同士が性格的に似ている可能性はさらに下がるでしょう。
この作品は、『彼女は大学院生です。そういう店で働くような女性ではありません』と、彼女と同じ”顔”を持つ女性が『どこかのクラブかキャバレーのホステス』として働いていることを知ってしまった一人の男の物語。そんな二人の女性と関係を持ってしまった一人の男の物語。そして、それはそんな男性が”美奈子の正体は春香じゃないのか?”と真実を追い求めるその先に、『春香と出会ったときから、こうなる運命だったのだろうか』という衝撃的な結末を読者が目撃することになる物語です。
『サトやん、一緒にスキー行こうぜ』と職場の紀藤先輩に誘われて『自分がなぜ誘われているのか』ピンと来ないと感じているのは主人公の里谷正明(さとや まさあき)。『俺も彼女もまだ初心者だから』と説明され、『僕と先輩と彼女さんと、三人で行くんですか?』と訊き返す正明。そんな正明に『彼女も友達の女の子を連れて来る』、『うまくやればお前にも彼女ができるチャンスがある』と説明されるも『彼女なんていりません』とはっきり返す正明は、スキーに同行することは了承しました。紀藤の彼女・高田尚美を先にピックアップした車は彼女の友達である『ウッチーこと内田春香』を迎えに目黒へと向かいます。今は大学院で学び『いいとこのお嬢様で、おまけに超のつく美人』という内田を車内に迎えるとその存在を意識する正明。スキー場では初心者の紀藤と尚美と離れ、二人で滑りを楽しむ中で関係が近づきます。そして東京へと戻った正明に電話が鳴ります。『先日はどうも。今、よろしいですか?』とかかってきた相手は春香でした。尚美に番号を訊いたという春香は『直接会って…いろいろお話しできたらいいな』と正明を誘います。そして、『渋谷のハチ公前広場』で再会した二人。そんな中で正明は大学進学を諦め、木工所で働き始めるまでの『自分史』を春香に語ります。そんな話を訊いて『里谷さんの靭さ(つよさ)の秘密がようやくわかりました』と答える春香を見て、関係が深まっていくのを感じる正明。しかし、『電話番号を教えてほしい』とお願いするも『やんわりと断られてしま』います。『電話番号を教えられたほうは、電話を掛ける義務があると思うんです。でも里谷さん、電話、しないでしょ、きっと?』というその理由。一方で『二日おきのペースで』春香から電話がかかってくるようになり、毎週デートに赴く二人。そして一カ月が経った二月六日のことでした。銀座で『銀ブラ』をしている最中、『向こうから歩いてきた四十歳ぐらいの』男が『美奈子。お前…お前、よくも騙したな!』といきなり春香の腕を掴みます。『彼女は美奈子なんて名前じゃないです』と割って入りその場を諫めた正明。男は『美奈子じゃないのか?こんなにそっくりな人間がいるのか』と驚いた様子。そして、『歌舞伎町の《シェリール》だよ』と、美奈子という女性が働いている先の話をするのでした。『ホステスと間違うなんて』と不快感を示す正明に『一度会ってみたいような気もする』と言う春香は『正明くんこそ、こっそり行ったりしないでよ』と釘を刺すのでした。それに、『ああ、もちろん』と約束した正明ですが、『その約束はほどなく破られることにな』ります。そして、『正明は《シェリール》に行かなければ良かったのだ』、『春香との約束を守ってさえいれば ー その後の二人の運命も大きく変わっていただろうに』と、正明が『シェリール』を訪れてしまったが故に複数の人間の人生が大きく揺らぎ出す物語が始まりました。
作品の最後に書かれたたった二行の記述で読者の前に見えていた世界観をひっくり返してしまうという乾くるみさんの代表作「イニシエーション・ラブ」。この作品は続編ではありませんが、”「イニシエーション・ラブ」の衝撃、ふたたび”と宣伝文句にある通り、「イニシエーション・ラブ」同様の強烈な”どんでん返し”を意図して書かれた作品です。
そんな作品は「イニシエーション・ラブ」同様に、どこか引っ掛かりのあるタイトルを持った12の章とそれを挟み込む〈序章〉〈終章〉から構成されています。「イニシエーション・ラブ」では、『当時流行った曲は、やっぱり胸にキュンとくるんですよ(笑)。そういう曲にインスパイアされて物語を書きました』と乾さんがおっしゃる通り〈君は1000%〉、〈Lucky Chanceをもう一度 〉、そして〈Show Me〉など80年代の日本を彩った”流行曲”がそのまま章題となっていました。一方でこの作品「セカンド・ラブ」はどこか引っ掛かりを感じる妙なタイトルがつけられています。〈緩やかな動き〉、〈二番目の愛を〉、そして〈北へと向かう翼〉。残念ながら自力でこの意味を見出すことができなかった私ですが、色々なサイトの分析を見せていただき、これらが、中森明菜さんのヒット曲の数々だということを知ることが出来ました。そんな中森さんの曲のリストと対比させると、なるほど、上記はそれぞれ〈スローモーション〉、〈セカンド・ラブ〉、そして〈北ウイング〉に相当します。一方で章題にはそんな中森さんの作品の中では同定できないものもあります。〈時は自動的に〉、〈あなたに夢中〉、そして〈貴方のために〉などの章題です。こちらは、なんと宇多田ヒカルさんの楽曲群。〈Automatic〉、〈Addicted to you〉、そして〈For you〉とそれぞれ同定できそうです。「イニシエーション・ラブ」では、曲の歌詞を先に読んでから読書をするということで、乾さんがどのようにその曲からインスパイアを受けられたかを知りながらの読書となりましたが、残念ながら、まさか、こんな同定があるとはよもや思わず「イニシエーション・ラブ」のような読書とはなりませんでしたが、最後の終章〈北へと向かう翼〉=〈北ウイング〉だけは、なるほどと読後に納得しました。乾さんという作家さんを、てっきり女性だと勘違いして読むことになったこの作品ですが、この章題の考え方、そして”どんでん返し”へ向けた緻密な構成など、非常にこだわりのある作家さんなんだなあと改めて思いました。
さて、そんな作品のレビューは「イニシエーション・ラブ」同様に極めて微妙です。下手なことを書くと一気にネタバレになってしまうからです。そして、この作品はネタバレで読むことには何の意味もない!と言い切って良い作品です。そんなこの作品も「イニシエーション・ラブ」同様に作品の最後の二行で読者をあっ!と言わせる作りになっています。そんな作品は先輩の誘いで二対二の男女でスキーへと赴き、主人公の正明が内田春香という女性と知り合うことから始まります。同行した尚美に、二人の結びつきを蹴しかけられるも『住む世界がぜんぜん違ってますから』、『さすがに、高卒のただの木工所の工員と』というように自らを卑下する正明。そんな正明は、『今はもういない両親に振り回されて』ここまできた『自分の人生というものをなかば放棄』していました。『自分が捨てた人生に、単なる我欲で、誰かを付き合わせるわけにもいかない』と真摯に思い詰める正明。しかし、春香からの積極的なアプローチもあって付き合い始めた二人。そんな中で春香のことを『こんなにそっくりな人間が他にいるのか』という人物が現れます。その示唆で『歌舞伎町の《シェリール》』という店を正明は知ることになり、”知りたい”という思いのままに店を訪れて、半井美奈子という春香と瓜二つな女性と出会ったことで、正明の人生がさらに動き始めます。”この世には自分にそっくりな人が三人いる”といった言い方がされることがあります。私自身は出会ったことはありません。この作品でもそんな二人の両方を知る正明の一方で、春香と美奈子が直接対峙することはありません。しかし、”美奈子の正体は春香じゃないのか?”、主人公の正明はその真相を訝しがります。どう考えても同一人物に違いない、その一方で二人は全くの別人であるかのような演出がなされていく物語。「イニシエーション・ラブ」と同じように騙されたりはしないぞ!と息巻いてそんな二人の存在に意を払いながらの読書となりました。しかし、一方で、もしその結果がいずれであっても「イニシエーション・ラブ」のような衝撃を受けるものではない、そんな風に思いながらの読書でもありました。
そして、「イニシエーション・ラブ」と全く同じく、作品は最後の二行で、えっ?という衝撃的な記述で唐突に幕を下ろします。もちろん、この作品で読者の注意を引きつけていた”美奈子の正体は春香じゃないのか?”という点への決着は”一応”きちんとなされます。しかし、最後の二行はそんなレベルではありませんでした。もちろんその超ネタバレな内容をここに書くわけにはいきませんが、乾さんが最後の最後で読者に突きつけるのは、そんな次元ではない、そもそも論の大前提を揺るがす内容でした。「イニシエーション・ラブ」もそうですが、この作品も”読後にすぐに再読したくなる”作品という感想が出るのはよくわかります。私も読書中に少し引っ掛かりを感じていた部分に再度目を通しましたが、確かにそこになるほどと思われる記述を見つけることができました。これから読まれる方は、どうしても流し読みをしがちな〈序章〉や春香の何気ない一言なども気にしながら読まれると、もしかすると途中で乾さんの仕掛けを見破ることが出来るかも知れません。
一方でそんなこの作品は、たまらなくイヤミスな作品です。結末の驚きは「イニシエーション・ラブ」の方が遥かに上ですが、イヤミスの度合いはこの作品の方が圧倒的です。考え出すと吐き気が止まらなくなるくらいのイヤミスです。この作品を読まれる方にお勧めしたいのは、この作品は単に”どんでん返し”を楽しむ作品である、以上!と単純に割り切られ、間違っても登場人物に感情移入をするような読み方はされないことをお勧めしたいと思います。”どんでん返し”の答え合わせで、”読後にすぐに再読したくなる”作品という考え方はわかりますが、一冊の小説としては二度と読みたくない、早く内容も忘れてしまいたい、そんな風に心から思う、あまりに”胸糞悪い”読後感を味わう羽目になりました…。
『実際、正明は《シェリール》に行かなければ良かったのだ。春香との約束を守ってさえいれば ー その後の二人の運命も大きく変わっていただろうに』という運命の分岐点の先に展開する衝撃的な物語。そこには、”美奈子の正体は春香じゃないのか?”と同じ顔を持つ二人の女性が全く異なる雰囲気を纏う中に、二人に隠された真実を知ろうとする主人公・正明の悩める様が描かれていました。作品の最後の二行が強烈な”どんでん返し”を導く「イニシエーション・ラブ」と同じような衝撃的な物語構成は、こういう作品もあっていいのかもしれない、でも、最悪の読後感が待つイヤミスの極みのこんな結末はごめん被りたい!二度と読みたくない!手元にも置いておきたくない!そう感じた作品でした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
どんでん返しも、あまり刺さらなかったでした。
-
何となく読む本が無かったのでツナギで読んだ一冊。
何かある・・・と構えて読んでしまう(笑)
浜松北高校とか、とても馴染みのある名前が出てきたり
あっという間に読んでしまえる本なので、ちょっとした時間向き。 -
最後のまぁ胸クソ悪い事 悪い事 (つд;*)
その胸クソ 悪いまま、冒頭読み返したら なるほど!ってなった。
解説読んで更になるほど! 「中森明菜」でしたか♪
なら 仕掛けは「TATTOO」(シール)でも良かったかな?
※時代的になぃか…
残り 10ページ弱でどぅ?回収するのかな?って思ったケド 回収どこか ひっくり返しましたね♪
女性不信& ミステリー作家 不信になりそぅ(笑) -
恋愛ミステリ第二弾。
前作、イニシエーション・ラブが青春時代のほろ苦い恋愛物語を下地にしているとしたら、今作は二人の魅力的な女性の間で揺れる男性の心を下地にしている。
個人的には前作のほうが好み。とはいえ、今作もミステリとしてよく出来ているため、ミステリ好きにとっては面白い作品となっている。
ただ、主人公に関しては、あまり好みじゃなかった。なんか、読んでいてイライラしてしまった。
こういう自分を正当化しようとするような主人公だからこそ成り立つストーリーだとは分かっているが、どうも受け入れられなかった。
ミステリだからこそ楽しく読めたが、もしこれが恋愛小説だったら、早々に投げていたかもしれない。 -
イニシエーション・ラブの後に読んでほしい作品。
基本的にはイニシエーション・ラブと似たような感じがありつつも展開に捻りがあってまた違う面白さを醸し出しています。
スッキリ爽快な終わり方ではないですがこのモヤモヤする感じこそ乾くるみ先生の良さですね。
読み終わった後また最初から読み返したくなること間違いなしです。
面倒でも冒頭のシーンだけは読み返した方がいいですね。
記憶が薄れてきた頃にまた読みたいです。 -
イニシエーションラブよりも衝撃
解説よんでさらに衝撃
冒頭謎が解けると胃が痛いがそこが面白い! -
*
イニシエーション・ラブの乾くるみさんの小説
最初の導入部分から、
くるな⁉︎と思わせる書き出し。
どう繋がるか、と気にしながら
読み進めました。
冴えない独身男の正明
上品で驚くほど美人、知性的なお嬢様の春香
接点のなかった二人が友人を仲介にして知り合い、
釣りわないので夢も希望も見ないと
自分に言い聞かせていた正明は春香からの
電話をきっかけにこれまでの日常が崩れていく。
正体の見えない春香の対応にも、
舞い上がる正明は自己解釈を重ねる。
幾つもの違和感はフラグであり、伏線でもある。
だからと言って読み手の思う通りに
物語は進むのか、の思いきや、、、、。
イニシエーション・ラブの乾くるみさんが
作者だけに、セカンド・ラブと言う題名も
成る程と頷けました。