にょっ記 (文春文庫 ほ 13-1)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (179ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167753603

作品紹介・あらすじ

今からジャニーズの一員になることがあろうかと考えたり、電車で武将OLに出会ったり。俗世間をイノセントに旅する歌人・穂村弘が形而下から形而上へ言葉を往還させながら綴った"現実日記"。ほんのり笑って、時に爆笑。フジモトマサルのひとこまマンガ+カットでニヤリもプラス。長嶋有・名久井直子ペアの「偽ょっ記」収録。

感想・レビュー・書評

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  • 「本当はちがうんだ日記」に続く、歌人の「穂村弘」さんの、いつものやつで、現実と妄想と彼の願いとが入り混じった日記風の内容は、どれなのか分からない曖昧さが魅力であるのに、巻末の文春文庫の最新刊紹介では、「短歌の鬼才の爆笑偽日記」と書かれていて、はっきり偽と書くなよと思いましたがね(笑)
    しかも、全部が全部、偽だとは思えないのに(「推薦本」の平井和正の死霊狩りは、たぶん本当)。

    ただ、今回はあまり私のツボにハマらなかったというか、「ふ~ん」って感じでさらっと読めてしまったものが多く、その理由は、長嶋有さんの「偽ょっ記(解説に代えて)」において(名久井直子さんのイラスト可愛い)、『他のエッセイよりも更に俗な気がする』や、『天使というのがまた、俗に対する清らかそうな存在として、なんだか手近すぎやしないか』に肯けるものがあり、穂村さんは独身の頃の方が、実は凄かったのではないかと感じ、初期のエッセイの衝撃的な内容に比べれば、とてもまともになられたんだなと、変な感慨を抱いてしまいました。

    しかし、それでも穂村さん独自の繊細な感性に共感できる部分もあり、「クワガタ捕り」の、『子供には、徒労とか無駄とか虚しいとかみじめとかいう感覚がないのだろうか』には、確かに『懐かしさ以上の眩しさを感じる』ことで、子供時代のキラキラした素晴らしさを実感されているし、他にも、「電車の子供」や「真夜中の先生」、「ピアノ」等には、穂村さんの絵本好きの一面が覗えるし、「セイロガン」は、子供心のやり切れない叫びが聞こえそうで、臭いなかにも切ないものを感じさせられました。

    また、穂村さんの本好きのエピソードである、「科学クラブ」、「夏期學習帖」、「女性百科宝鑑」には、穂村さんの本に対する向き合い方が垣間見えて、興味深いのですが・・・ただ、全部本当なのか気になって、夏期學習帖の問ひの一つ、「織田信長の功績(てがら)を書きなさい」の答へが、「信長の死」。
    うーん、上手すぎる気もして、穂村さんの答えかもと迷ったり、その後の問ひの答へが「バナナ」なのは、ほぼ確実に嘘だと思えそうですが、大正十五年ならあり得るかもしれないとか思ったり、こうした推測のさせ方に、穂村さんの、人間に対する多様な見方や、一筋縄ではいかない面白さを感じさせられて好きです。

    人間の面白さといえば、名久井さんのヒートテックもそうですし(あの名久井さんがというよりは、これぞ人間だと思える)、彼女の表紙の数字のデザインには密やかな喜びが滲んでおり、また、フジモトマサルさんのイラストの「ヤブイヌ」について、実は穂村さんの、あるイメージを表しているそうで、実際にネットで見てみると、つぶらな瞳が可愛らしくて、足が短いのはあまり気にならず、寧ろ、愛嬌のある個性に感じられました。

    しかし、本書のヤブイヌは、もう少し酸いも甘いもかみ分けてきた、大人の熟練さを感じさせられて、独特の雰囲気を醸し出しているのが印象的でした。それでも汗をかいてる姿は、そのまま穂村さんのようで、面白かったですけどね。

    • たださん
      ☆ベルガモット☆さん、はじめまして。こちらこそ、たくさんのいいねとフォロー、ありがとうございます(^^)

      私、人見知りなので、本当にこっそ...
      ☆ベルガモット☆さん、はじめまして。こちらこそ、たくさんのいいねとフォロー、ありがとうございます(^^)

      私、人見知りなので、本当にこっそりと書いたのですが、その後に私の本棚を尋ねて下さったのを知り、嬉しかったです。ありがとうございます!

      そして、ベルガモットさんも、穂村さんへの愛を感じさせる、たくさんの著書・・短歌に限らず、バラエティに富んでいたのが、また嬉しくなりました♪
      それから、私の場合、最初に第一歌集「シンジケート」を読んだのが良かったと思っていまして、あの穂村さんを知っているから、単に面白いだけではない、その裏には、繊細で奥深いものが宿っている印象を抱けたのではないかと思っております。

      それから、穂村さん以外にも、読まれた本に共通点が多かったのも嬉しかったですし、穂村さん以外の歌人のレビュー、とても印象的で、これから読みたい歌集の参考にさせていただきたく思いました。
      こちらこそ、これからよろしくお願いいたします(^-^)
      2023/05/10
    • ☆ベルガモット☆さん
      たださん、こんばんは☆

      穂村さん本だけでなく歌集やその他の本もいいねいっぱいくださってありがとうございます!
      たださんの穂村さん初読...
      たださん、こんばんは☆

      穂村さん本だけでなく歌集やその他の本もいいねいっぱいくださってありがとうございます!
      たださんの穂村さん初読みは、第一歌集「シンジケート」なんですね!「繊細で奥深いものが宿っている印象」をちゃんと感じ取ってらっしゃる正統派の穂村さん好きで羨ましいです。「シンジゲート」は改訂版を購入して再読もしているのですが尊すぎてレビューできてません。私の穂村さん初読みは、又吉さんの本で紹介されていた『世界音痴』が最初で歌集はだいぶ後なんです。
      いいね含め時々コメントなどもお邪魔いたしまーす。
      2023/05/12
    • たださん
      ☆ベルガモット☆さん、こんにちは♪

      こちらこそ、昔の作品も含めて、たくさんのいいねを、ありがとうございます(^^)

      『「シンジケート」は...
      ☆ベルガモット☆さん、こんにちは♪

      こちらこそ、昔の作品も含めて、たくさんのいいねを、ありがとうございます(^^)

      『「シンジケート」は尊すぎてレビューできてません』、分かる気がいたします。今思えば私の場合、初の穂村さんの作品の感想で、まだその懐の深さや凄さを知らなかったから、怖いもの知らずだったのもあると思いますし、短歌に限らず、あとがきにかえての『ごーふる』も含めた、あの感情を激しく揺さぶられた衝撃は今でも忘れられず、歌集というより、一つの文学作品のようでした。

      『世界音痴』、穂村さん初のエッセイですよね♪ あれも、別の意味で衝撃的でしたが、穂村さん独特の視線は変わらないものがあった気がして、とても印象的でした。

      実は、ベルガモットさんの本棚、全て見きれていないので、またお邪魔すると思いますので、ベルガモットさんも、どうぞお気軽にお越し下さい。
      お待ちしております(^^)
      2023/05/13
  • 登録してないことに気づいて再読。まともじゃないけど爽やかそうに綴る穂村さん。それとクールにかわいいフジモトマサルさんのイラスト。解説は長嶋有さんの偽にょっ記(イラストは名久井直子さん)という好きなものづくしで嬉しくてたまらない。

  • かたちあるものからそうでないものへ。また、それらの間にあるうやむやな部分を穂村先生が’言葉’によってほじくりつつきまわした感じのエッセイ。

    長嶋有・名久井直子両先生による〈偽ょっ記(解説に代えて)〉によれば、「(穂村さんは)俗な現実の中に実は無数にある形而上のものを、天使などのイメージを借りることで浮き上がらせようとしているのだ。」(p176)、「穂村さんは(中略)あらゆる形而下のものを形而下とは信じてない(自分自身の膀胱すらも疑っている)。」(p177)と解説されている。〈偽ょっ記〉の読みどころはまさにこの部分を理解することに尽き、これを踏まえて冒頭から読み返すと、踏まえる前よりもちょっぴり穂村先生の真意に近付けたような、胸を張りたいような気分になりました。
    あ、〈偽ょっ記〉のもう一つの読みどころに名久井氏によるフジモトマサル先生っぽいゆる挿画の数々も挙げられるでしょう。ゆるいぞ!

    本編はいずれも摩訶不思議なくっすり読める心地の文章。私が特に好きなのは〈5月29日 天使と車〉(p34)と〈12月17日 相談〉(p119)と〈1月12日 タイヤキ〉(p128)。

    読めば読むほど味が出るタイプのスルメ本だと思います。そもそもタイトルの時点でめくるめく思考の世界が広がっているような。


    9刷
    2023.7.27

  • 穂村さんはいつまでも少年のような人ですね。

    日々の生活なかの、ちいさなちいさなとても些細なことに
    目を向け耳を傾けて、そこから感じ取っているひらめきと発想は
    物事をまっすぐ正直に受け止める純真無垢な子供の心のような感じがします。

    日々目にするなんということはないものに、穂村さんのように
    純粋な心で向かい合えるようでありたいなと思いました。

    5月2日 お~いお茶
    まさにまさに。こんなことを考えるのは
    純な心を持っているからこそ。

    6月6日 冗談を思いつく
    もう~大爆笑。。ツボでした。

    8月21日 おりまーす
    その場に居合わせあたらきっとはーい、と言っちゃってるかも。
    だけど女の 「子」 じゃないからなぁ...泣いてはもらえませんね。(笑)

    11月4日 猫
    発想のセンスがなんかいいです♪

    1月8日 目薬
    そうそうそうなのよ。どうしてなんでしょうねぇ.....

  • “◯月◯日
    夢のなかで、私は大相撲の実況をしていた。
    おおきいですねー
    うわ、こっちもおおきい。
    ふたりともはだかです。
    だきあっただきあった”

    あちこちで話題の(?)穂村弘さんのファンになってみたくて。でも、メジャーすぎてもう、読んだことないって言えなくて。ここは読書仲間に頼ろうと。短歌集をたしなんでいる読書友達に、ほむほむのおすすめって何?と尋ねて教えてもらったのがこの本。

    え、短歌じゃないの?

    日記風情であることで、ぐぐっと興味が湧いたため図書館で借りてみた。

    短歌を詠む人の目に映る日常の風景や
    それをあらわす言葉がとても
    おもしろくて・・・
    そうか、こういうことか。

    “「ごうとうってなに?」と天使は云った。
    「乱暴な泥棒のこと」私は云った”

    あとがきは長嶋有さんで
    これもまた、ねえ。本編かな?というおもしろさで。そら、あらためて表紙を見たよ。

  • いつもはそんなことしないのに、こないだは何を思い立ったのか電車の網棚にバッグをぽんと置いてまぁここまで言ったらもう分かっちゃうと思うんだけど、降りるときまんまと忘れてしまったのですよね。やんなるね。
    結局は終着点で駅員さんが保護してくれてみつかったのだけれど、当たり前にそこまで取りに行かねばならなくて。そのとき「えっ本がない!」と思ってまずやったことが書店にダッとかけこんでバッと穂村弘さんの棚を見てシャッと抜き取ってピッと華麗に電子決済!(スマホはポケットにありました)
    なんかこういうとき(忘れたバッグを終着点に取りに行くときなど)に読むべき本って穂村弘さんのエッセイな気がしない?したんだよね。フジモトマサルさんのイラストのカワウソ?オコジョ?クマ?もこちらを呼んでいる気がした。
    おかげで行き帰りでさくっと読めました。バッグは中身もすべて無事でした。穂村弘さんはあいかわらずへんなことを考えてへんなことをしてへんなことに気づいていました。

  • 3冊めのにょにょにょっ記を先日読んだばかり。順番が逆になっちゃったけど、にょっ記シリーズ(?)の1冊めをやっと読めました。あぁ面白い。フジモトマサル氏のシュールな絵と穂村弘氏の文章の書き方がとてもツボにハマる。母もこの本を読んでいて親子でファンです。「女性百科宝鑑」は声を出して笑ってしまった。

  • 地震に遭いました。生まれて初めての震度6は、恐怖で立ちすくんでしまうほどの揺れでした。翌日は大雨の予報で避難指示まで出て、少しでも明るい気持ちにしてくれそうな穂村さんにしました。先に読んだ『にょにょっ記』のほうが笑えたけれど、これもいっぱい笑わせてもらいました。下ネタに走っても、ハイジのパンツを覗いても、なぜか上品なお方。同じことをリリー・フランキーとかみうらじゅんが言ったなら、たぶん私はゲゲ〜っと言ったでしょう。あ、おふたりとも好きですからね(笑)。沈んだ気持ちも本に救われる。ありがとうと言いたいです。


  • 「これ知ってる。」息子は突然私が読んでいた本を横取りして読み出した。
    あのさ、母さんまだ途中だけど。

    「なんて知ってるの?」
    「この間お父さんといったマルジナリア書店に置いてあった。」
    「へえ〜あそこ狭いなのにね。」
    「にょにょっ記もにょにょにょっ記もあったよ。」
    そう言いながらゲラゲラと笑いながら持って自分の部屋に帰っていった。

    おいおい、だから母さんはまだ途中だって!

    穂村弘の一冊めは食に纏わるエッセイだったですが、今作も相変わらず鋭い観察力と突拍子のない発想に笑撃を受けました。なんだろう。大人になるとなかなかこんな目線で物事を見れなくなるが、大人になった穂村さんはまるで大きい子供のように、いろんな発想を文字にしてくれた。

    読み終ったら、感想を聞かせてね。と、息子にもこんな自由な人間になってほしいと思うばかりでした。

  •  この表現形式が「商売」になるところが、すごいといえばすごいのではないでしょうか。
     「ああ、センスあるな」というのとと「まあ、いいけどね」というののが適度の混ざっているところが「芸」なのでしょうが、とか何とかいいながら、おもしろがって読んでいるこの僕はいったいどう何を考えて暮らしているのでしょうね。
     まあ、世界中が、いや「日本」中がか、ヒマなのでしょうね。暇に任せて書いてるブログの感想、読んでやってください。よろしく(笑)
     https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202110020000/

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著者プロフィール

穂村 弘(ほむら・ひろし):1962年北海道生まれ。歌人。1990年に歌集『シンジケート』でデビュー。短歌にとどまることなく、エッセイや評論、絵本、翻訳など広く活躍中。著書に『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』、『ラインマーカーズ』、『世界音痴』『もうおうちへかえりましょう』『絶叫委員会』『にょっ記』『野良猫を尊敬した日』『短歌のガチャポン』など多数。2008年、短歌評論集『短歌の友人』で伊藤整文学賞、2017年、エッセイ集『鳥肌が』で講談社エッセイ賞、2018年、歌集『水中翼船炎上中』で若山牧水賞を受賞。

「2023年 『彗星交叉点』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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