- 本 ・本 (352ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167761011
感想・レビュー・書評
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「あんたはきっと来年忙しくなる」
「旅をしたり、泣いたり笑ったりさ」
「とてもとても遠い場所。自分の心の中ぐらい遠い」
まほろ駅前の便利屋の多田が依頼を受けて「息子」として見舞いに行った曽根田のおばあちゃんの予言だ。
新年早々、多田は子犬を預りながら、市バスが間引き運転をしていないか監視をするという仕事をしていた。ふと気付くと子犬がいない。と、バス停のベンチに座っている男の膝に子犬は抱かれていた。
「お前、多田だろ」
その男は高校時代の同級生、行天だった。小指の傷で分かった。高校の工芸の時間、裁断機を使っていたとき、同級生がふざけていて、小指がスパッと飛んだ時の傷跡である。行天はその時すぐに拾ってくっつけたので、くっついてはいるが、いつまでも生々しい傷跡を残していた。
行天は小指が飛んだ時に「痛い」と言った以外は、高校時代、全く言葉を発しなかった。
だから、行天は高校時代、多田だけでなく、誰とも友達ではなかったのだが、何十年ぶりかであったその夜、自分から話しかけてきたのだ。
「あんた、今何の仕事してんの?なあなあ」とちゃらけた感じで。
真冬なのに、素足にサンダル。「今晩、多田の事務所に泊めてくれ」と言う。
二人ともずっとまほろ市にいたのに、高校卒業後会わなかった。行天は多田の予想に反して結婚歴があり、子供も一人いるということだった。多田は順調に幸せな人生を歩んでいるという行天の予想に反して、離婚して子供はいなかった。そして、大学を卒業して順調に就職したにもかかわらず、今は便利屋をしていた。行天は今は家族はおらず、帰るところも無いようだった。
そのまま行天は多田の事務所に居候を続け、たいして役に立たない従業員として働いた。
まほろ市は東京の町田市がモデルになっているそうである。
東京か神奈川かどっちつかずの町。夜はヤンキーであるれる町。東京都南西部最大の住宅街、歓楽街、電気街、書店街、学生街。スーパーもデパートも商店街も映画館もなんでも揃い、福祉と介護制度が充実している。まほろ市民として生まれた者は、なかなかまほろ市から出て行かず、一度出て行ってもまた帰ってくる割合が高いそうだ。
そんな、まほろ市の「便利屋」多田のところには、さまざまな依頼がくる。大抵は自分でやれないことはないのに人にやってもらいたい依頼。
依頼者の代わりに動物を預かったり、探し物をしたり、家族の送迎をしたり、物置の片付けをしたり、人を匿ったり…。
「便利屋」の仕事を通して、様々な人間模様が見えてくる。一見「教育ママ」でありながら子供に無関心な親。その結果、知らぬ間に闇バイトに巻き込まれている子供。DV、風俗、暴力…。
多田も行天も心に深い傷を負っている。そのため淡々としているが、実は傷ついた分、誰かを愛そうと無意識のうちにしているのが分かる。だから二人の行動は滑稽だが暖かい。
「旅に出るよ」と予言があった割には、「まほろ市」の中から出ず、まほろ市の中を深く、そして人の人生の過去を深く旅する小説だった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
東京のはずれまほろ市の便利屋。多田便利軒。
(三浦さん在住のM市ですね。)
なるほど、最後まで軽快に面白く読みました。
三浦さんは、ヘヴィな題材をライトに書いて、作品に引きずり込んでくれます。
バス停で元同級生を拾ってしまい、二人になった多田便利軒。彼らに依頼される仕事から、街の風景や近所の人間模様が見えてきます。
もちろん、怪しい依頼ばかり。
主軸二人のトラウマになている過去部分は読み足りない気もするけど、血縁とか親子とか家族とか、構えず読める良作です。
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2023/10/26
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まやまと同系統かな。
これも良いんだけど、三浦さんはポラリスが好きなのよね。
いろいろ書くよね。まやまと同系統かな。
これも良いんだけど、三浦さんはポラリスが好きなのよね。
いろいろ書くよね。2023/10/26
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三浦しをんさんの本は、同じ人が書いたの?と思うくらいジャンルが違い、文体というか作家さんが変わったような印象を受けます。
「愛なき世界」や「舟を編む」のように淡々と、ほんわり進むお話を読んで忘れていましたが、そうだ、「光」を書いた方だったと思い出しました。
あれ程の暴力と固執、絶望感と孤独ではありませんが、多田さんと行天さんの抱える仄暗い過去や後悔、暴力的なところは少し似たようなものを感じました。
世界観もしっかりして、本当にこんな町があってこんな人たちがいるのではないか、実録かな?というくらい出てくる人たちが生き生きとした存在感を感じました。
テンポよく進む話で、多田さんと行天さんのやり取り、個性的な登場人物がとても魅力的で面白かったです。
個性的な人が出てくるところは一貫して三浦しをんさんかな、と。
続編も楽しみ!
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便利屋を営む多田の元に高校時代の同級生だった
行天が転がり込む。
便利屋に舞い込む仕事の中には怪しい依頼もあり…
多田と行天は高校時代の同級生ではあったけれど
友達でもなくて。
淡々としたやりとりをしているけれど、
少しずつ絆のようなものを感じ取れてよかった。
〜本の中で心に残った言葉〜
失ったものが完全に戻ってくることはなく、得たと思った瞬間には記憶になってしまうのだとしても。
幸福は再生する、形を変え、さまざまな姿で、
それを求めるひとたちのところへ何度でも、そっと訪れてくるのだ。
「幸福は再生する。」多田と行天はそれぞれに過去に傷を持っているけれど、少しずつ前を向いていく姿がよかった。
コメディとシリアスの塩梅も良く楽しめて読める作品です。 -
高等学校のクラスの人数って40名くらいでしょうか。毎日朝から夕方まで、一年という長い時間を一緒に暮らす、たまたま一緒になった人たち。さらにたまたま隣の席になったから、その時にたまたま好きな歌手が一緒だったから、様々な理由で、たまたま一緒になった人たちの中から友だちという一段上がった輪が、繋がりが生まれます。同じクラスといっても全員と友だちになるわけじゃない。その時たまたま友だちになった人、友だちにはならなかった人。その時、友だちにならなかった、もしくはなれなかったとしても、長い人生かけてみれば、もしかするとその人たちの中にこそ、あなたにとって、あなたの人生にとって知り合うべきだった人がいたかもしれません。あなたの人生に影響を与えた人がいたかもしれません。
『おおげさに言えば、まほろ市は国境地帯だ。まほろ市民は、二つの国に心を引き裂かれた人々なのだ。外部からの侵入者に苛立たされ、しかし、中心を目指すものの渇望もよく理解できる』東京23区の西部に位置し、『外部からの異物を受け入れながら、閉ざされつづける楽園。文化と人間が流れつく最果ての場所。その泥っこい磁場にとらわれたら、二度と逃れられない。それが、まほろ市だ』という主人公・多田啓介が生まれ、暮らす街・まほろ市。そんな街の駅前で便利屋を営む多田。『庭に猫の死骸があるから片づけてほしい。押入のつっかえ棒がはずれて洋服をかけられないので取りつけてほしい。夜逃げした店子の荷物を処分してほしい』などなど、そんなことは自分でやれ、と言いたくなるような依頼を嫌な顔ひとつせず引き受けていく多田。
そんな多田が、とあるバス停のベンチに、遠い記憶の中にあった顔を見かけます。『成績はすこぶるよく、見た目も悪くはなかった。校内では変人として有名だった。言葉を発さなかったのだ』という高校時代のクラスメイト・行天春彦。当時繋がりは全くなく、たまたま同じクラスにいただけの人。そんな行天は多田の後を着いていきます。『帰れと言いたくても、行天には帰るところがない。そういう相手に、どんな言葉を告げればいいんだ』仕事を辞め、アパートも引き払い、一文無しだという行天。そんな行天の便利屋での居候生活がスタートしました。
便利屋として色んな仕事を手掛ける多田。あまり役に立たない行天。そんな行天に給料を支払うようになった多田。でも行天は『犬のように小金を貯めこみ、鶴のように恩返しする男。行天の行動は、多田からすると謎に満ちていた』と、何か訳ありな事情を抱えているようにも見える行天。でもそんな行天との出会いが、多田の人生観に大きな変化を生じさせていきます。
今まで私は便利屋を利用したことはありませんが、自分の住む街にもあることはチラシなんかで知っています。さて、自分だったら何を依頼するのだろうか?とも思います。専門知識を要するのでないなら、身近な誰かにちょっと手伝ってもらえば済むことなのではとも思います。でも、『近しいひとじゃなく、気軽に相談したり頼んだりできる遠い存在のほうが、救いになることもあるのかもしれない』お金を払ってでも仕事として引き受けてくれる人にお願いした方が気持ちとしては楽になる、そういったことって場面によってはあるのかもしれません。だからこそ、便利屋という稼業は思いがけず依頼者にとても近い部分、その人の生活の深い部分を偶然にも垣間見ることも多くなるのかもしれません。
『だれかに必要とされるってことは、だれかの希望になるってことだ』
『黙っていれば、相手は自分にとって都合のいい理由を、勝手に想像してくれる』
そんな二人の会話の中からは、このようなどこか冷めた、どこか人生を悟ったような言葉も飛び出してきました。そして、二人がそれぞれに背負う過去が語られていくに従って、こういった言葉がどんどん重みを増して胸に入ってきます。
裏世界の闇、夜の街で生きる人たちの光と影、一見幸せそうに見える普通の親子の希薄な繋がり、まほろ市に生きる色んな人たちの生活を便利屋稼業を通じて垣間見る多田と行天。どこまでいっても他人事、仕事としての便利屋。でも二人は関わった人を放っておけない、事情を知った人を助けてあげたい。そして、最後まで付き合って面倒を見る。時にはケンカしながら、お互いに影響を受け合って最後は助け合って仕事をこなしていく二人。
なんだか見ていて飽きない、憎めない、どこかホッコリした気持ちにもさせてくれる多田と行天。
行天が言った言葉『人間の本質って、たいがい第一印象どおりのものでしょう。ひとは、言葉や態度でいくらでも自分を装う生き物だから』確かにそうなのかもしれませんが、第一印象に現れないものもあるように思います。たまたま友だちになる機会がなかった人たちの中にも、付き合ってみたら…という人がいたのかもしれない。時間を経て再び出会った多田と行天。高校時代の第一印象だけでは決して見えなかったものがそこにはありました。深く知り合ってみて初めて見えてくるものがありました。初めて感じるものもありました。だから、人間社会は面白い。そんな風に改めて感じました。
どことなくノスタルジックな雰囲気の香る街並み、そんな中に今日も生きる人たち、そこに流れるとてもあったかいものを感じた作品でした。 -
多田便利軒に舞い込む様々なお仕事依頼に対応しながら、2人の妙なコンビが奮闘する物語。
便利屋を営む多田啓介のもとに、ふとした再会で高校時代の同級生 行天春彦が転がり込んでくる。
謎めいた居候を始めた行天は、多田の仕事を手伝うわけでもないのに、常に多田について回る。
一方、多田の方も秘密にしている過去があり・・
多田の秘められた過去が小出しにされるので、
気になって一気読み。
更に、実は行天にも知られざる過去がある。
おまけに2人の高校時代においても蓋をしている過去がある。
便利屋に舞い込む一筋縄ではいかない依頼に、
真摯に取り組む多田と
飄々と大胆な応対をする行天。
事件簿というに相応しいような依頼が繰り広げられながら、終盤に仕掛けられた『親子関係は血縁か心か』という予想外の展開には驚いた。なかなか重めのテーマも幾つか盛り込んである。
2人の微妙な距離感が付かず離れずなのに、いつしか必要な存在に変わっていく様子は、文書構成が緻密に計算されているからこそ描けるんだろうと思う。
多田と行天の明確なキャラクターと、それぞれの魅力がしっかり感じられるのもまた素敵だ。
ヒューマン系かと思いきや、ミステリー要素だったり、コメディタッチな部分もある。
はたまたDV彼氏やら麻薬の密売やら、家庭内暴力やら風俗に殺人事件など、てんこ盛りなのに
軽快で疾走感もある。
何とも濃密で満足度の高い読書タイムだった。
これは是非、次シリーズも読んでみよう♪
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作者の初読み。
本当は、「風が強く吹いている」を購入したかったが、なくて……。
今年もひそかに初読みキャンペーン継続中。
同級生と一緒に便利屋を営み、日頃の色んな出来事が絡み合う物語。
ほのぼのと読める感じでした。多田さんの心の中のツッコミがたくさん出てきて面白い。
シリーズ続いてるようなので、次以降の方が楽しそう……また期間あけて購入してみよう。
あら、、三浦しをんさんって舟を編むの作者なんですね、、!!私これは映像で観てました。
生田斗真だったから。笑
もしかしたら、10年前にきみはポラリスも読んだかも!!
次は、、、、ミステリーかな、、昨日また数冊仕入れ済み( ✌︎'ω')✌︎-
なんなんさん
「舟を編む」も忘れず読んでくださいね(๑´ڡ`๑)
いいですよ!
もちろん「まほろ〜」の続きもですwなんなんさん
「舟を編む」も忘れず読んでくださいね(๑´ڡ`๑)
いいですよ!
もちろん「まほろ〜」の続きもですw2023/02/03 -
1Q84O1さん、おはようございます。
舟を編む。も!!ですね。渋滞中。笑
まほろ〜も。
読みたいのがたくさんありすぎますが楽しみ!
・:*...1Q84O1さん、おはようございます。
舟を編む。も!!ですね。渋滞中。笑
まほろ〜も。
読みたいのがたくさんありすぎますが楽しみ!
・:*+.\(( °ω° ))/.:+2023/02/03 -
なんなんさん
おはようございます~♪
きっと本の渋滞はずーっと解消されないんでしょうね…w
自分もヤバいです(^o^;
もっと時間が欲しいで...なんなんさん
おはようございます~♪
きっと本の渋滞はずーっと解消されないんでしょうね…w
自分もヤバいです(^o^;
もっと時間が欲しいです〜!2023/02/03
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池袋ウエストゲートパークとはまた違った
トラブルシュート。
仕事として便利屋をやっている中で
依頼以上の関わりをする。
自分の築いてきた世界に、
新たな出会いが入り、
それに本気で関わることで、
また新しい世界が生まれる。
この2人も、きっとそうだと思う。
続編も是非読みたい。 -
東京のはずれにあるまほろ市の駅前で便利屋を営む多田啓介のもとに高校時代の同級生・行天春彦がころがりこみ住み着くように。
この二人の関係性・やり取りがたまらなく好きだ。
きな臭い事件に巻き込まれて?引き寄せてる気もするけれど、二人の仕事っぷりや言葉が心に響いて、何度か泣きそうになった。
二人の過去は重く苦しい。登場人物がみな何か抱えている。葛藤もしんどい気持ちももろもろ抱えて生きている。その姿が地に足をつけて、もがきながらも生きようと思わせてくれる。
シリーズ追いかけよう。映像でも見たい。 -
都会で、情緒あって、裏には怪しい場所もある各地にありそうな街まほろ。便利屋でなく便利軒というのがいいと思った。駅前の風景が浮かびそう。
ほっこり、色々な依頼人との交流を描いてゆく、というだけではなかった。
表紙が気になっていました。この本を手に取ったのは偶然ですが、表紙の印象より深い本だった。
便利屋を営む多田と風変わりな行天。あつい友情、とも違う。過去にわだかまりがある二人が切磋琢磨しながら見出すものはなにか。
行天は多田に「俺の小指にさわってみな」という。
(過去の)傷口に触れるのが苦手な私だったら、無理無理、というところだろう。
「傷はふさがってるでしょ。すべてが元通りとはいかなくても、修復することはできる」
この言葉、自分が聞き取る年代によって、受け取り方が違うのだろうな。
失ったものが完全に戻ってくることはなく、得たと思った瞬間には記憶になってしまうのだとしても。
幸福は再生する。形を変え、さまざまな姿で、それを求めるひとたちのところへ何度でも、そっと訪れてくるのだ。
「形を変え、何度でも」なんだなあ。
著者プロフィール
三浦しをんの作品





