まほろ駅前多田便利軒 (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
3.80
  • (1558)
  • (3023)
  • (2280)
  • (274)
  • (59)
本棚登録 : 19227
感想 : 2153
  • Amazon.co.jp ・本 (351ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167761011

作品紹介・あらすじ

まほろ市は東京のはずれに位置する都南西部最大の町。駅前で便利屋を営む多田啓介のもとに高校時代の同級生・行天春彦がころがりこんだ。ペットあずかりに塾の送迎、納屋の整理etc.-ありふれた依頼のはずがこのコンビにかかると何故かきな臭い状況に。多田・行天の魅力全開の第135回直木賞受賞作。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 三浦しをんさんの本は、同じ人が書いたの?と思うくらいジャンルが違い、文体というか作家さんが変わったような印象を受けます。

    「愛なき世界」や「舟を編む」のように淡々と、ほんわり進むお話を読んで忘れていましたが、そうだ、「光」を書いた方だったと思い出しました。
    あれ程の暴力と固執、絶望感と孤独ではありませんが、多田さんと行天さんの抱える仄暗い過去や後悔、暴力的なところは少し似たようなものを感じました。

    世界観もしっかりして、本当にこんな町があってこんな人たちがいるのではないか、実録かな?というくらい出てくる人たちが生き生きとした存在感を感じました。
    テンポよく進む話で、多田さんと行天さんのやり取り、個性的な登場人物がとても魅力的で面白かったです。

    個性的な人が出てくるところは一貫して三浦しをんさんかな、と。
    続編も楽しみ!

  • 高等学校のクラスの人数って40名くらいでしょうか。毎日朝から夕方まで、一年という長い時間を一緒に暮らす、たまたま一緒になった人たち。さらにたまたま隣の席になったから、その時にたまたま好きな歌手が一緒だったから、様々な理由で、たまたま一緒になった人たちの中から友だちという一段上がった輪が、繋がりが生まれます。同じクラスといっても全員と友だちになるわけじゃない。その時たまたま友だちになった人、友だちにはならなかった人。その時、友だちにならなかった、もしくはなれなかったとしても、長い人生かけてみれば、もしかするとその人たちの中にこそ、あなたにとって、あなたの人生にとって知り合うべきだった人がいたかもしれません。あなたの人生に影響を与えた人がいたかもしれません。

    『おおげさに言えば、まほろ市は国境地帯だ。まほろ市民は、二つの国に心を引き裂かれた人々なのだ。外部からの侵入者に苛立たされ、しかし、中心を目指すものの渇望もよく理解できる』東京23区の西部に位置し、『外部からの異物を受け入れながら、閉ざされつづける楽園。文化と人間が流れつく最果ての場所。その泥っこい磁場にとらわれたら、二度と逃れられない。それが、まほろ市だ』という主人公・多田啓介が生まれ、暮らす街・まほろ市。そんな街の駅前で便利屋を営む多田。『庭に猫の死骸があるから片づけてほしい。押入のつっかえ棒がはずれて洋服をかけられないので取りつけてほしい。夜逃げした店子の荷物を処分してほしい』などなど、そんなことは自分でやれ、と言いたくなるような依頼を嫌な顔ひとつせず引き受けていく多田。

    そんな多田が、とあるバス停のベンチに、遠い記憶の中にあった顔を見かけます。『成績はすこぶるよく、見た目も悪くはなかった。校内では変人として有名だった。言葉を発さなかったのだ』という高校時代のクラスメイト・行天春彦。当時繋がりは全くなく、たまたま同じクラスにいただけの人。そんな行天は多田の後を着いていきます。『帰れと言いたくても、行天には帰るところがない。そういう相手に、どんな言葉を告げればいいんだ』仕事を辞め、アパートも引き払い、一文無しだという行天。そんな行天の便利屋での居候生活がスタートしました。

    便利屋として色んな仕事を手掛ける多田。あまり役に立たない行天。そんな行天に給料を支払うようになった多田。でも行天は『犬のように小金を貯めこみ、鶴のように恩返しする男。行天の行動は、多田からすると謎に満ちていた』と、何か訳ありな事情を抱えているようにも見える行天。でもそんな行天との出会いが、多田の人生観に大きな変化を生じさせていきます。

    今まで私は便利屋を利用したことはありませんが、自分の住む街にもあることはチラシなんかで知っています。さて、自分だったら何を依頼するのだろうか?とも思います。専門知識を要するのでないなら、身近な誰かにちょっと手伝ってもらえば済むことなのではとも思います。でも、『近しいひとじゃなく、気軽に相談したり頼んだりできる遠い存在のほうが、救いになることもあるのかもしれない』お金を払ってでも仕事として引き受けてくれる人にお願いした方が気持ちとしては楽になる、そういったことって場面によってはあるのかもしれません。だからこそ、便利屋という稼業は思いがけず依頼者にとても近い部分、その人の生活の深い部分を偶然にも垣間見ることも多くなるのかもしれません。
    『だれかに必要とされるってことは、だれかの希望になるってことだ』
    『黙っていれば、相手は自分にとって都合のいい理由を、勝手に想像してくれる』
    そんな二人の会話の中からは、このようなどこか冷めた、どこか人生を悟ったような言葉も飛び出してきました。そして、二人がそれぞれに背負う過去が語られていくに従って、こういった言葉がどんどん重みを増して胸に入ってきます。

    裏世界の闇、夜の街で生きる人たちの光と影、一見幸せそうに見える普通の親子の希薄な繋がり、まほろ市に生きる色んな人たちの生活を便利屋稼業を通じて垣間見る多田と行天。どこまでいっても他人事、仕事としての便利屋。でも二人は関わった人を放っておけない、事情を知った人を助けてあげたい。そして、最後まで付き合って面倒を見る。時にはケンカしながら、お互いに影響を受け合って最後は助け合って仕事をこなしていく二人。

    なんだか見ていて飽きない、憎めない、どこかホッコリした気持ちにもさせてくれる多田と行天。

    行天が言った言葉『人間の本質って、たいがい第一印象どおりのものでしょう。ひとは、言葉や態度でいくらでも自分を装う生き物だから』確かにそうなのかもしれませんが、第一印象に現れないものもあるように思います。たまたま友だちになる機会がなかった人たちの中にも、付き合ってみたら…という人がいたのかもしれない。時間を経て再び出会った多田と行天。高校時代の第一印象だけでは決して見えなかったものがそこにはありました。深く知り合ってみて初めて見えてくるものがありました。初めて感じるものもありました。だから、人間社会は面白い。そんな風に改めて感じました。

    どことなくノスタルジックな雰囲気の香る街並み、そんな中に今日も生きる人たち、そこに流れるとてもあったかいものを感じた作品でした。

  • 池袋ウエストゲートパークとはまた違った
    トラブルシュート。

    仕事として便利屋をやっている中で
    依頼以上の関わりをする。

    自分の築いてきた世界に、
    新たな出会いが入り、
    それに本気で関わることで、
    また新しい世界が生まれる。

    この2人も、きっとそうだと思う。
    続編も是非読みたい。

  • 都会で、情緒あって、裏には怪しい場所もある各地にありそうな街まほろ。便利屋でなく便利軒というのがいいと思った。駅前の風景が浮かびそう。
    ほっこり、色々な依頼人との交流を描いてゆく、というだけではなかった。
    表紙が気になっていました。この本を手に取ったのは偶然ですが、表紙の印象より深い本だった。
    便利屋を営む多田と風変わりな行天。あつい友情、とも違う。過去にわだかまりがある二人が切磋琢磨しながら見出すものはなにか。
    行天は多田に「俺の小指にさわってみな」という。
    (過去の)傷口に触れるのが苦手な私だったら、無理無理、というところだろう。
    「傷はふさがってるでしょ。すべてが元通りとはいかなくても、修復することはできる」
    この言葉、自分が聞き取る年代によって、受け取り方が違うのだろうな。
    失ったものが完全に戻ってくることはなく、得たと思った瞬間には記憶になってしまうのだとしても。
    幸福は再生する。形を変え、さまざまな姿で、それを求めるひとたちのところへ何度でも、そっと訪れてくるのだ。
    「形を変え、何度でも」なんだなあ。


  • まほろ駅前多田便利軒 三浦しをん著
    1.購読動機
    三浦しをんさん。舟を編む、風が強く吹いている、きみはポラリスと読んできました。
    こころ温まる、でも少しだけホロリとくる、そのテイストが好きです。
    映画はみずに本著だけ読みました。

    2.物語
    東京南西部に位置する街。
    その便利屋が舞台です。
    ①夜逃げ家族からの飼い猫の面倒
    ②飼い猫の引き取り先探し
    ③中学受験の送り迎え代行
    ④地元悪組織との格闘
    ⑤高校生失踪事件の真相究明
    ⑥育てと生みの親。違いに悩む大人との出会い

    この物語を通じて、便利やが自身よ人生を振り返る、そして新しい一歩に踏み出す物語です。

    3.読み終えて
    「誰かに必要とされること。
     それは、誰かの希望になることだ。」

    穏やかな物語でした。
    何にも、脅かされず、心を落ちつかせて読むことができました。
    まほろ駅。ぜひ、見つけたい。

  • 三浦しをんさん4冊目。主人公の便利屋の多田の家に過去に多田の同級生だった行天が居候する。便利屋の仕事は草むしり、子どもの送迎、旧彼と別れたいなど雑多。2人の仕事には何故かヤクザと関係してしまう。さらにヤクザを追う警察とも顔なじみ。多田と行天の共通点は離婚歴。自分の「こども」への想いが共通点のような気がする。多田はこどもが病死し、行天は生き別れる。この2人の暗い過去、人生の対比、さらに同居。エネルギーを放ち懸命に生きる2人は全く見えない「幸福の再生」に向け歩む。2人の生き様は不格好ではあるが何故か眩しい。

    「不幸だけど満足ってことはあっても、後悔しながら幸福だということはない」BY 行天

  • なんたるハードボイルド!

    タイトルから勝手に「便利屋を通じて出会う市井の人々との心温まる交流」みたいな話を想像して敬遠していたのだが(あながち間違いとはいえないが)『風が強く吹いている』が抜群に面白かったのと、続編のドラマ化の影響でようやく手に取った。

    多田と行天がどうしても瑛太と松田龍平で脳内再生されてしまう。

     「なんじゃこりゃあ!」
      多田は呆然とつぶやき、
     「それ、だれの真似? 全然似てない」
      と行天は笑った。

    『ジーパン』の物真似に息子がツッコんでいる姿を想像して僕も笑った。

    それにしても三浦しをんさんって女性なんでしょう?
    なんでこんなに、30過ぎた子持ち男の哀愁を描けるのだろう。
    女性作家が書く男性って、スキンケアも万全で高級車のCMに出てくるような人ばかりだと思っていたけれど、この雄の匂いを発散させた輩どもよ! そして格好悪いながらもギリギリのラインで踏ん張る矜持。
    三浦さんってなんか特殊な嗜好でもあるのだろうか(褒め言葉です)。

    多田や行天をはじめ、ルルやハイシー、星と清海、由良公に「元妻」凪子など、善悪では割り切れない「心優しき人々」
    一匹のチワワから細く微かに繋がっていく「縁」がいい。

    病院で買ったお茶にカステラを浸し、ふやかしながら食べる曽根田のばあちゃん。
    スーパー横の暗い道にへばりつく何台もの自動販売機と、必要とは思えないほどの数の証明写真のボックス。
    里山の風景などではない21世紀型の郷愁も凄い。

     金色のスプーンでコーヒーに深い渦潮を作ったり、
    等の、何でもないシーンにも随所にさらりと織り込まれた表現も贅沢。

    軽く読めるエンタテインメントのようでありながら寓意に満ちた味わい深い物語。
    早く続編が読みたい。

    • kwosaさん
      まろんさん!

      逢瀬!? ですか!
      実はドラマのほうは初回を観て
      「ヤバい! 面白い!!」と思い、あわてて原作を読み始め、一時中断しているん...
      まろんさん!

      逢瀬!? ですか!
      実はドラマのほうは初回を観て
      「ヤバい! 面白い!!」と思い、あわてて原作を読み始め、一時中断しているんですよね。
      映画版は昨日、早速DVDをレンタルしてきたのでこれから観ます。

      三浦しをんさん、いいですね。
      じわじわとハマってきましたよ。
      すでに『まほろ駅前番外地』と『神去なあなあ日常』が待機しているので、ゆっくり楽しみたいと思います。
      2013/02/16
    • MOTOさん
      あ、そう、そう!

      私も、この本…(じゃなかった。未だに未読!でも、映画見て。それと、『風が強く吹いている』の印象も、兼ねて)

      「しをんさ...
      あ、そう、そう!

      私も、この本…(じゃなかった。未だに未読!でも、映画見て。それと、『風が強く吹いている』の印象も、兼ねて)

      「しをんさんって、なんでこんなに男心がわかるんだろう??」と、同じ疑問を抱いておりました♪
      作品に充満している、あの男くささは一体どこからくるのでしょうね。
      >特殊な思考の持ち主・・・。

      あはは♪実際、そうじゃなければ、こうもリアルに女性が男性の心情描ける事は無いかもしれません。
      kwosaさんのレビューを読んで、ますます本のほうも楽しみになってきました!
      (でも、購入した本って、ほんと後回しになるからつらいとこです~~)

      2013/07/06
    • kwosaさん
      MOTOさん!

      花丸とコメントをありがとうございます。

      >作品に充満している、あの男くささは一体どこからくるのでしょうね。

      本当に思い...
      MOTOさん!

      花丸とコメントをありがとうございます。

      >作品に充満している、あの男くささは一体どこからくるのでしょうね。

      本当に思いますよねぇ。
      最近、エッセイ『本屋さんで待ちあわせ』を読んだのですが「なるほど、そんなご趣味が......」
      謎の解答の一端を垣間みた気がします。
      そう考えると『風が強く吹いている』が男二人の入浴シーンから始まるのも......いやいや邪念が頭をよぎりました(笑)

      >(でも、購入した本って、ほんと後回しになるからつらいとこです~~)

      MOTOさんの心の叫びに激しく同意!
      僕も、続編の『まほろ駅前番外地』読みかけのまま積んでます。
      ああ、はやく読まなければ。
      2013/07/06
  • 私、町田駅前に住んでいるので、あっさり★5つ。(笑)

    ここの登場人物は皆、この街のあるあるな人達です。
    このごった煮具合の雰囲気は親近感しかありません。苦笑

    「探偵物語」を彷彿させるハードボイルド感、
    シリアスな中にも笑いとホロっとさせるところがいい。
    レイモンド・チャンドラーのマーロウが言う
    「やさしくなくては生きていく資格がない」って奴か。

    何がいいのか、うまく言えない。でも、いい。
    続編も楽しみです。

  • 舟を編むを読んで他の作品もと思い読書。
    始めはただおもしろいという感じでさらさらと読めてしまったけれども、途中からそれだけではなかった。登場人物はあまり世間一般的には褒められるような人達ではないかもしれないけれど、人を思う気持ちが優しくて。
    多分今は上手くいけてなかったり、人から見たらあまり幸せとはいえない環境でも彼らはみな幸せが何かを知っているような気がする。
    映画の方も観てみようと思う。

  • 三浦しおんの多彩さに舌を巻く。「風が強く吹いている」「舟を編む」そして「まほろ駅前」。同じ作家が書いたとは思えない。時に若者の目線で、時にハードボイルドのタッチで読者を話に引き込む筆力には脱帽。事前の細やかな取材がバックグラウンドになっているのだろう。

    過去を引きづる便利屋多田と心を置き去りにした相方行天。二人がまほろ市民の問題を解決していく話。今、どういう状況にあっても前に進んでいけば、違う幸せが待っている⁈ということかな。

全2153件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

三浦しをん

一九七六年東京生まれ。二〇〇〇年『格闘する者に○』でデビュー。〇六年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞、一二年『舟を編む』で本屋大賞、一五年『あの家に暮らす四人の女』で織田作之助賞、一九年『ののはな通信』で島清恋愛文学賞及び河合隼雄物語賞、『愛なき世界』で日本植物学会賞特別賞を受賞。その他の著書に『風が強く吹いている』『光』『神去なあなあ日常』『木暮荘物語』『政と源』など。『ビロウな話で恐縮です日記』『本屋さんで待ちあわせ』『ぐるぐる 博物館』などエッセイ集も多数。

「2021年 『愛なき世界(下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

三浦しをんの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×