戸村飯店 青春100連発 (文春文庫 せ 8-2)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (313ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167768027

感想・レビュー・書評

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  • なんやねん、この本、むっちゃおもろいやん。こんな関西弁ばっかりの本、あんまりあらへんのちゃうか。笑いすぎたらあかんでぇ。

    狭いようで広い日本。交通網が発達したことで2時間もあれば、自分が暮らす世界とは環境、文化そして言葉もずいぶんと違うある意味別世界に行くこともできます。特に言葉の違いは歴然。東京から、もしくは新大阪から新幹線に乗ってそれぞれ反対側に降り立つと、特に感じる言葉の違い。これは他の都市間でも同じことでしょう。でも、不思議なのは小説の世界は標準語で書かれたものが圧倒的に多いこと。どうなんでしょう。方言を入れることで、そこに違う色が、もしくは世界が出てしまうことを敢えて避けようとしているのでしょうか。でもこの本はあくまでコテコテで勝負します。その土地を舞台にするならその土地の雰囲気にどっぷり浸りたい。

    『冗談抜きで、俺と兄貴は仲が悪い。』という兄・ヘイスケと弟・コウスケ。『全ての人が阪神タイガースをこよなく愛し、吉本新喜劇で爆笑し、オチがない話をすると、「それがどないしたん」と、戸惑われてしまう町』という大阪のど下町にある戸村飯店で育った二人の兄弟の一年が描かれます。

    6つの章から構成されていて、一章毎に弟兄弟兄弟兄と視点が変わっていきます。『親父は俺には手も足も出して本気で怒るけど、兄貴には声を荒げて怒鳴ることをしない。お袋は兄貴を大事にしているけど、困ったことが起きると兄貴ではなく俺に頼る。』全く性格の異なる二人。両親の二人への接し方も違っています。どんなに親しい間柄でも、その人毎に対峙するスタンスというものは変わるものです。この辺りの描き方がとてもリアルです。

    『先に出て行けるのって長男の特権やん。一つくらい特権あらへんと、長男なんかやってられへん』と一人東京に旅立つ兄。『兄貴の不在は二日で慣れた。』という弟。兄がいなくなったあと、高校を出たら自分が親父の店を継ぐことになる、それがまさか予想外の展開に…。東京の兄に相談に行く弟。『兄貴に相談ごとを持ちかけたことは、今まで皆無だった。相談どころか、兄貴には中身のある話をしたことがない。』でも、そんな弟の窮地に兄は…。兄と弟の-やっぱり兄弟っていいね-というあったかい繋がりが描かれていきます。

    戸村飯店の常連である広瀬のおっさんの『そやそや、恋愛なんてプッシュや。プッシュブッシュ大統領や』、元ヤンキー・竹下の兄ちゃんの『結局はコウスケ、案ずるより生むが横山やすしやで』などなど。もう最初から最後までコテコテの大阪を楽しませていただきました。

    また、瀬尾さんの作品ということで、『親父はエビチリとかカニ玉とか、ちょっとだけよそいきの中華をたっぷりと作ってくれた。』という戸村飯店の中華から、おはぎやビーフストロガノフまで、読み終えても食べ物が登場したシーンがとても印象的に思い出せるのもこの作品の特徴です。

    大阪と東京を舞台に、食べて、怒って、笑って、泣いての一年を綴った、とても楽しくて愉快な作品。それでいて登場人物それぞれの感情の微妙な揺れまで伝わってくる絶妙な表現の数々が人情豊かな人々の力強い生活を感じさせてくれました。そして、何よりも関西弁の会話がとてもいい味を出していたのが強く印象に残りました。

    強烈な書名と表紙のインパクトからなかなか手が伸びなかった作品でしたが、これ『ほんまに』お薦めです。読んで良かったです。

  • 久しぶりの瀬尾まいこさん。
    『戸村飯店青春100連発』

    大阪の下町にある超庶民的中華料理店、戸村飯店の2人息子 ヘイスケとコウスケの青春物語。

    関西の気質とか東京との違いとか物凄い分かる。
    そうそう、大阪と東京って両方都会なんだけど、似て否なるだよなぁって・・・
    いやいや、全然似てないのだ笑
    大学時代を大阪で一人暮らしして、就職後に転勤で関東に出て来た私には、共感する所が多すぎる作品だった。

    そして物語の随所に出てくるコテコテの大阪弁でのやり取りがとっても懐かしく響いた。吉本新喜劇のくだりとか、上手いこと表現されてる。
    流石は大阪生まれの瀬尾まいこさん!
    いつも優しく温かな言葉で癒される作品が多いのだが、いや〜やっぱり関西弁喋らせたら完璧なんやろなぁ笑

    性格も見た目もまるで違う兄弟だけど、お互い相手のことを実はしっかり想っている。ラストは心温かく目頭が熱くなった。兄弟を囲む周りの友人やバイト先、戸村飯店の常連さん、可愛い彼女さん達も、みんな大好きになってしまった。

    時として幼い頃の記憶は、本人が思っていた事と、側から思われていた事が相違することも多い。自己表現がまだまだ未熟だからこそ、家族であっても思い違いをしている事はあるだろう。それでも互いを尊重し思いやる気持ちは変わらない。
    本作の主人公ヘイスケとコウスケも同様で、特に兄のヘイスケは周りからのイメージと自身の思いのギャップが大きく、更に傍には単純でノリが良く愛されキャラの弟コウスケがいるため、自分の居場所探しが必要だったんだと思う。
    親元の大阪から東京に出たことで、みえる世界や気付きがヘイスケを成長させたのだから、やっぱり一度は親元を離れるのって大事だよなぁとつくづく感じた。
    きっとこれからも兄弟の絆を少しずつ深めながら逞しく生きていくんだろうと明るい未来が感じられて、優しい気持ちに包まれる作品だった。
    進路に悩める学生さんにもオススメしたい。

    岡野と戸村兄弟の今後も気になるし、ヘイスケの仕事ぶりや、コウスケの大学生活も気になる♪
    これは是非続編も見てみたいと思った。

  • 瀬尾まいこさんの小説に出てくる男子というのは、どうしてこう、オバさんの心を射抜くのだろう…。

    全くタイプの違う兄弟で、仲良いわけでもないけれど、2人ともそれぞれ親のことを思い、兄、弟のことを互いに思っている。

    こんな孝行息子に育ったら、言うことありませんわ!
    やっぱり子どもは、自由にさせてあげんといかんですな。
    2021.8.12

  • まさに青春!兄弟(姉妹)間のモヤモヤした気持ち、親への反発、将来やりたいことが決まらない焦り、周囲の友人がまぶしく見える、自己嫌悪、失恋…あぁそんな感情で頭の中がいっぱいの時期もあったなー。瀬尾まいこさんの小説は温かいですね。

    • koalajさん
      ゆうママさん、こんばんは。いつも11時頃には寝てしまうんですが、なんか今日は眠れなくて…「元彼」表紙がかっこよくて気になってましたがまだ読ん...
      ゆうママさん、こんばんは。いつも11時頃には寝てしまうんですが、なんか今日は眠れなくて…「元彼」表紙がかっこよくて気になってましたがまだ読んでません。今ゆうママさんお薦めの「島はぼくらと」佳境に入ってます。私は読むのが遅くて、ゆうママさん程は読んでいませんが、瀬尾まいこ「あと少しもう少し」道尾秀介「透明カメレオン」ローラン「ミッテランの帽子」が面白かったです。また情報交換よろしくです!
      2021/06/17
    • koalajさん
      ゆうママさん、追伸。
      あとこの前レビューを書いた獅子文六「悦ちゃん」はお薦め!三上延「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズもすごく面白いです(...
      ゆうママさん、追伸。
      あとこの前レビューを書いた獅子文六「悦ちゃん」はお薦め!三上延「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズもすごく面白いです(こちらはシリーズ7冊+新シリーズ2冊が出てるから読むのが大変かな?)
      2021/06/17
    • アールグレイさん
      こんにちは、koalajさん!
      昨夜は大変失礼しました!せっかくの就寝中に申し訳ございませんでした!
      koalajさんは、お若い方?ご主人の...
      こんにちは、koalajさん!
      昨夜は大変失礼しました!せっかくの就寝中に申し訳ございませんでした!
      koalajさんは、お若い方?ご主人のいらっしゃる方?もしご主人が怒っていたらお詫びを伝えて下さい
      <m(__)m>
      我が家では、主人が帰るのは9時半頃、それから食事、後片付けが終わると10時半を過ぎます。時々ドラマを見てしまうと11時過ぎです。いつもは早く帰る息子が今日は8時半から9時だそうです。
      そんな事情であの時間は我が家にとって、まだまだ早いと言うことになります。勝手でごめんなさい(^-^;
      本のことを・・・・道尾秀介さんの「透明カメレオン」もしかしたら読んだかも知れません。が、これっぽっちも覚えていないのです!
      情けなァ~ふぇーん読もうと思います。あと少しもう少し、は絶対に読むつもりで本棚に並べてあります。私は駅伝が好きで、三浦しをんさん「風が強く吹いている」これは超いい!駅伝をよく知らない人でも絶対に感動もの。
      島はぼくらと、終わりましたか?衣花の網元の娘という立場に涙する場面がありました。ラストシーンはすごくいい!爽やかで、目に浮かびます。ラストばかり、何度も読みました!koalaさんのレビュー、待っています!
      (^-^)/
      2021/06/17
  • めっちゃよかったぁ。 

    何度もほろりと涙ぐんでしまいました。
    大阪下町の戸村飯店という中華料理屋さんで
    育った一つ違いの兄弟がのお話です。

    同じ親から生まれた兄弟であっても
    性格がまるで違うというのは
    本当どこのお家でもそうやと思います。
    お互いなんとなく、ライバル的に複雑な気持ちもあり、リスペクトする気持ちもある。
    相手を羨ましく思ったり、理解できへんと思ったり腹が立つと思うこともあります。

    近すぎると見えない相手に対する感情も
    少し離れると認められるようになったり
    心配もできるようになったり。

    本当に自分のことも兄弟 親の気持ちも
    わからないし居心地が悪く離れたいと感じる時もあるけれど、やっぱり家族っていいなぁ。と心から思いました。

    温かく本当に優しいお話で、大好きな本になりました。

  • 「そして、バトンは渡された」の解説で、上白石萌音さんが、瀬尾麻衣子さんのイチオシ本として挙げてたことで、気になって手に取りました。

    読んだら面白くて、
    元気になりたい時、ちょっと読書したい時、たぶん大体どんなシチュエーションで読んでも、さらさら読める本だと思いました。

    外に出て、いろんな環境や人に触れることって、自分には予想しない形で、役にたつ時があるのだろうなと感じました。
    私はヘイスケと同じ長男ですが、器用でもないし、卒なくこなせるタイプでもないけど、ストロガノフをサラッと作ってあげれて、自分はお茶を飲んで、ニコッと笑っていられるお兄ちゃんになりたいと思いました笑

  • 年末に読むのにぴったりの面白くて、人情を感じる温かい作品。大阪の下町で町中華を営む両親のもと育った兄弟ヘイスケ・コウスケが交互に語り手となって話が進んでいく。高校生活やアルバイト、恋に進路に悩んだり、こういう人いるな、こういう感じあったなととても親近感が持てた。加えて両親やお店の常連客のさりげない優しさにもじんわりする。瀬尾さんの本は初めて読んだが、人気なのもうなずける。大満足の1冊。

  • 大阪の下町にある中華料理店で生まれ育った2人の男兄弟の青春物語。
    クールで要領のいいお兄ちゃんと不器用でまっすぐな弟。キャラクターは違えどお互いがお互いを心の中では認め合っているけれど、決して表面上は繋がり合おうとしない、このくすぐったい感じ。
    登場人物すべてが素敵な人間で、あぁこんな場面でこんなこと言える男になりたかったなぁ、みんなの器の大きさに自分に言い聞かせるように読んだ。
    折に触れて読み直したい、最高な1冊でした。

  •  笑いあり、涙あり。再読したいと思えた素敵な一冊。

     こてこての大阪ワールドに、何度も笑えた。

     一緒にいる時は分かりあえなくても、離れてから存在のありがたさに気づく。そんな素敵な家族の物語に、温かさを分けてもらえた。

     器の大きいお父さんが大好きになった。彼の言動から泣きそうになった。

  • 全く好みじゃないタイトルと表紙!(すみません!)でも、瀬尾まいこさんだから…と思って、読んだら、めちゃくちゃ面白くてあっという間に読んでしまった。
    正反対のタイプの兄弟のお話なのですが、どっちもいい男の子!!うちの子もこういう風に育ってくれないかなーと思いました。高校生ってまだ思春期だよね?って思うほど、家族や周りの人への思いやりに溢れてる。特に弟のコウスケの思考が面白すぎて可愛すぎて、爆笑でした。逆に兄のヘイスケは、切なくてキューっとさせられた。
    嫌な登場人物が全くおらず、穏やかな気持ちでサラッと読めた。特に北島くん、品村さんのキャラが良かった。

著者プロフィール

1974年大阪府生まれ。大谷女子大学文学部国文学科卒業。2001年『卵の緒』で「坊っちゃん文学賞大賞」を受賞。翌年、単行本『卵の緒』で作家デビューする。05年『幸福な食卓』で「吉川英治文学新人賞」、08年『戸村飯店 青春100連発』で「坪田譲治文学賞」、19年『そして、バトンは渡された』で「本屋大賞」を受賞する。その他著書に、『あと少し、もう少し』『春、戻る』『傑作はまだ』『夜明けのすべて』『その扉をたたく音』『夏の体温』等がある。

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