私の男 (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167784010

作品紹介・あらすじ

落ちぶれた貴族のように、惨めでどこか優雅な男・淳悟は、腐野花の養父。孤児となった十歳の花を、若い淳悟が引き取り、親子となった。そして、物語は、アルバムを逆から捲るように、花の結婚から二人の過去へと遡る。内なる空虚を抱え、愛に飢えた親子が超えた禁忌を圧倒的な筆力で描く第138回直木賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 物語の始まりから、漂う、不安定さ、不穏さ、嫌悪感。
    血縁の繋がりで、家族の欠損を補おうとし、何よりも信じすぎる不可思議。

    海で家族を失った少女と彼女を引き取り育てる男性。彼女の結婚から時間を遡ってふたりの関係性を濃密に厭世的に語られる。ふたりに関わった人達の視点も織り交ぜながら。




    小説の雰囲気は、すごく好きなのです。

    なのですが、BLが受け入れられないおじさま達がいる様に、近親系は苦手です

    • moboyokohamaさん
      いいねをいただいたので、流れでかつて自分の書いた感想を読んでみました。
      あの頃は暗くじめっと作品が好きだったんだなあ。
      近親系が駄目ですか。...
      いいねをいただいたので、流れでかつて自分の書いた感想を読んでみました。
      あの頃は暗くじめっと作品が好きだったんだなあ。
      近親系が駄目ですか。
      私も得意ではありませんが姉と弟っていう線だったらありかもしれない。
      特に小説や映画ならば。
      2023/08/08
    • おびのりさん
      コメントありがとうございました。
      ちょっと、ばたついてまして、ブグログへ向かう時間がなくて。

      はい、この小説の雰囲気は好きです。が、流石に...
      コメントありがとうございました。
      ちょっと、ばたついてまして、ブグログへ向かう時間がなくて。

      はい、この小説の雰囲気は好きです。が、流石に、本当の父娘となると、依存し合うのは充分に小説的なのですが、そこまでやっちゃうと、どーも。
      実際、離れて暮らしていたからという設定としても、無理かなって。

      まさか父と息子なら大丈夫だったとかでは、ないです。m(_ _)m
      2023/08/09
    • moboyokohamaさん
      そういえば父と息子という線は聞いた記憶がありませんね。
      そりゃあそうだろうなあ。
      私が姉と弟ならばと考えたのは、自分に兄弟が(姉が)いないと...
      そういえば父と息子という線は聞いた記憶がありませんね。
      そりゃあそうだろうなあ。
      私が姉と弟ならばと考えたのは、自分に兄弟が(姉が)いないという状況からの夢想に近い者だと思います。
      姉を持つ友人からはその存在は女性と認めることさえできず、むしろ敵対関係になりがちな対象らしいですね。
      年頃の女性が男親に嫌悪感を持ちがちなのは近親相関を防ぐための自然の摂理だと聞いたことがありますが、まさにそういう事なのでしょうか。
      2023/08/09
  • ……川端康成の小説に『眠れる美女』という作品がある。薬で眠らされた全裸の少女と添い寝するという、退廃的な遊戯に耽る老人の話だ。老人は複数の少女を相手にするが、ある少女と寝た時に、ふと、あることを思い出す。……

    『私の男』という扇情的なタイトル。〈私の男は、ぬすんだ傘をゆっくりと広げながら、こちらに歩いてきた〉と冒頭から退廃的な空気を匂わせる。10頁もいかないうちに、語り手・花が「私の男」と呼ぶ男が、婚約者ではなく養父のことであると判明し、物語は加速度的に背徳の色を濃くしてゆく。追いうちをかけるように明かされる、過去の殺人と近親相姦の事実。そして物語は、この父娘の罪と転落の歴史を、語り手を変えながら少しずつ遡って行く。

    ここまででも十分に暗澹たる内容であるが、章を追うごとに次々と衝撃の事実が明らかになり、物語はほとんど絶望的になっていく。そして終盤のどんでん返し。ここにいたって、この父娘の悲劇性は、真のテーマは、近親相姦という特殊な問題ではなく、人間存在の根幹に関わる普遍的な問題らしいと気づかされる。

    ……『眠れる美女』の老人は、少女の体臭に「これは、母の匂いだ」と思い至る。十代の少女の裸体を前に、還暦を過ぎた老人は、在りし日の母の姿を思い起こす。……

    花の養父・淳悟の内面は、最初はほとんど描かれない。物語の終盤になって、初めて彼の魂の叫びが洩らされる。求めても得られないものを求めずにはいられない幼児の叫び。それは、鏡と鏡を合わせたように、花に反射して増幅し、共鳴する。親子の役割が逆転する。

    ほんとうの問題は、性的倒錯というより、母性剥奪にあるのではないだろうか。物語の中でしばしば、海が象徴的に描写される。生命を生んで育む海。一方で、荒れた時には、あらゆるものを呑みこんで奪いつくす海。海は羊水、即ち子宮であり、「母」の隠喩なのかもしれない。抜け殻のように座りながら一心に海を見つめる花も、死ぬときは必ず海に還るのだと言う淳悟も、求めても得られなかった母性に対する憧憬を、無意識に海に求めているのかもしれない。

    孤独な魂には、善意の人々の言葉も届かない。養父の「生きろ!」という叫びも、自分だけ置いていかれたという恨みしか呼び起こさない。老人の命がけの説得も、空ろな心には響かない。事の深刻さも理解できないまま、善悪の彼岸をやすやすと超えてしまう。そうして、母に見放された孤児たちは、偽りの幸福に溺れながら、閉じたループを描いて、いつまでもさまよい続ける。

    淳悟が去って、残された花はつぶやく。
    〈わたしは、これから、いったい誰からなにを奪って生きていけばいいのか〉。
    遺憾ながら、心理学のセオリーに従うかぎり、答えはひとつしかない。自分の子供から奪うのである。淳悟の母が淳悟から、淳悟が花から、順に奪ってきたように。

    健康な母性を花に期待できるだろうか。明るく輝く南国の海を「バカみたい」としか評せない花に? 淳悟の攻撃性が花に受け継がれてしまったことは、第一章の最後、花が小町に暴力をふるうシーンとして描写されている。花の子供もまた、求めても得られないものを求めてあがく空洞になるのだろうか。負の連鎖をとめることは不可能なのだろうか…。

    とにかく最初から最後まで呑まれっぱなしだった。私の中ではベスト100に入る傑作だ。

  • 上映時間も何も見ずに
    その中で時間帯の合う映画を見た。「白紙で」
    それがこの映画だった。

    もちろん桜庭一樹の作品とも直木賞作品とも
    何も分からずー
    今でも鮮烈にそれぞれの場面が鮮烈に浮かぶ
    とにかく怖かった、暗かった。
    登場人物も限られた中
    雪深い
    氷の世界、
    ただただ逃げていく場面
    息ができなかった、どうなる
    主人公「男」を信じられなかった
    どうなる?どうなる?息もつかず場面に釘付け
    苦しかった、悲しかった

    映画館をでて、ずっと後も残ってる
    「あれはなんだったのだろう?」
    深い深い愛
    こんな二人の出会い方でなければよかったかもしれない。
    彼女に「花に」
    まともな「何がまともかは別にして」結婚生活はできない。

    そして今ならわかる。、
    人間、追い詰められると怖い。


    本当は
    映画と比較するためにも
    もう一度
    この作品を読むといいけど、前の記憶は忘れてる、
    好き嫌いは別にして秀逸だろう。

  • 愛し合う父娘が養父養子でよかった、でなければこの物語がとたんに読めなくなってしまう。と思いながら読んでいたら…えっ…
    禁断の愛を貫くためには邪魔者を殺さなければならなかったんだろうと思ったものの、やはり普通の感覚の人間ではないと思った
    人を殺してすぐに押し入れに隠す...そこまでは百歩譲って理解してもそのままセックスできるか?絶対できない
    現在から過去へ遡っていく展開が過去になにが起こったのか気になり読む手が止まらなくなった
    愛とは..考えさせられる物語だった

  • 淳悟と花の歪んだ愛の形を遡っていく。
    歪んだ?本当にゆがんでいるのか?わからないけど
    これも真実の愛の形では?
    最初は何か気持ち悪くて⭐︎2だなと思っていたが、読み進めるうちに2人の愛の深さに共感はできないが感動させられた。
    忘れられない一冊になった。

  • 花の結婚式前夜から物語は遡っていく。
    花と淳悟にしかわからない、わかりあえない精神的に閉ざされた世界の中がそこにはある。
    唯一無二の存在。
    言葉にしてしまえばたったこれだけに集約されてしまうけれど、二人が寄り添って壊れていくようすは怖いような哀しいような、胸にくる物語である。
    もともと壊れかけていた二人が出会い、共にゆっくりと溶けあっていく。
    約束した時間を過ぎても結婚式に現れない淳悟。
    時間も迫り父親が不在のまま結婚式を始めようとする周囲。
    花はうろたえながら叫ぶ。
    「だって、おとうさんがいないもん!どこにも、どこにも、行けないわ…」
    生きるために、幸せになるために、淳悟から逃げようとする花。
    縛りつけるわけでもなく、縋りつくわけでもなく、淳悟は淡々とそれらを受け入れる。
    誰と結婚しても、どこへ逃げても、結局は逃げ切れるはずなどないと知っていたのだろう。
    引き寄せられるように禁忌を超えた二人は、ひとつの魂が歪に割れたもの同士だったのかもしれない。
    他の誰とも合うことはない。
    ピッタリと自然にひとつになれる相手は、互いしかいなかったのだろう。
    描かれている場面だけを切り取れば、重く背徳の匂いが立ち込める物語になってしまう。
    けれどそれらを押し退け、圧倒し、上回る孤独と切なさが全編に漂っている。
    刹那的な二人の生き方が胸に迫る物語だった。

  • 10年以上前に読んだのでうろ覚えですが…流氷のシーンがやけに印象に残っています。物語が、現在から過去へさかのぼっていくのに、何故か進んでいるという不思議な感覚も。

  • すこし前に直木賞をとった桜庭一樹さんの『私の男』
    ありえなくて現実的「養父との困った関係」
    内容を言うとネタバレになるから困るが...
    現実的というところが現代の家族関係の希薄さを露呈しているような
    ファザーコンプレックスの裏返しのような
    なんともすごいのがさらりと

    彼女の読書日記『少年になり、本を買うのだ』はおもしろいし
    とても参考になる一冊しか読んでないが、その読書欲には感心した
    もっと読みたし、でも読みたい本が増えるのは困る

  • いまいち?!
    第138回直木賞受賞作
    「禁断の愛」「切なくも美しい、究極のエンターテイメント」とありましたが、どろどろっと暗く切ないストーリ。
    「利休にたずねよ」同様に、過去にさかのぼって事実が明らかになっていく語り方。

    なので、ストーリを語るのは難しいですが、主人公「花」が結婚するところから始まります。
    その花が語る「私の男」がその花の養父である「淳悟」。
    花と淳悟の関係は?
    花の過去とは
    淳悟の過去とは
    隠された事件とは

    と言ったところが、過去に遡り、明らかになっていく物語。

    ぶっちゃけ、二人は親子の関係を超えた肉体関係なわけですが、淫靡な関係でもあり、切ない関係でもあります。
    結局のところ、花は淳悟の実の娘で、その実娘でありながら、淳悟が花に求めたものは、母親。
    また、花が求める家族像、男像。

    そんな世界観なわけですが、そもそも、9歳の実娘にそういうことする?
    ちょっと受け入れがたい。

    さらに、そんな二人は殺人事件も起こしています。
    しかし、その殺人事件については、二人の関係性を物語るエピソードとして描かれていると思いますが、それでいいの?って感じ。殺人だよ..

    インモラルな世界観とそこで生きる男と女を描いているのだと思いますが、ちょっといまいちでした。

    好きか嫌いかでいうと嫌いな部類です

  • レビューの多くにある気持ち悪さは感じなかった。ただ、この愛の形は情愛だとか近親相姦なんて簡単な言葉で片づけられる物ではないし、「私の男」というタイトルの意味や淳悟が働かなくなった本当の理由も含め、読後もやもやするものが残った。

    淳悟にとって花は「血の人形」だと言う。
    姿は違っても母であり、娘であり、自分の分身であり、身体の中を脈略と流れる血はひとつ。花は血そのものなのだ。もしかしたら花の身体の奥で繋がった時にこそ、心から血を感じる事が出来るのかもしれない。

    一方で花にとって淳悟は父であり恋人。
    庇護してくれる父であり、たった一人の真の家族であり、甘えさせ、優しさで包んで、守り守られるべき恋人でもある。二人がひとつになることは自然の成り行きで、淳悟の求めに応えることで花は愛を確認できたに違いない。淳悟は花が愛するたったひとりの男なのだから。

    しかし子はいつか親離れし、恋には終わりがある。
    いびつな形とはいえ、花は肉親からのじゅうぶんな愛に育まれて大人になったのだ。もう親の庇護は必要がなくなってしまった。恋の熱はいつの間にか冷めていき、新たな出会いさえ生まれる。
    親離れしても父と娘という関係は変わらないが、恋の終わりは身体の関係の終わりをもたらし、花にとって淳悟は過去の男になった。

    花の恋の終わりは淳悟の心に孤独の影を差す。心が離れてしまった花の帰りを淳悟は待つ。父や母を死によって奪われた淳悟にとって、花を失うことは再びの孤独を意味し、彼女がどこへ行っていようともただただ待ち続けることしか出来ないのだ。

    新しい恋人、結婚、花は過去と決別するチャンスを得る。同時に淳悟も全ての過去、自分の存在すらも清算する。たった一つ、2人の歪んだ愛を捉えた古いカメラを残して。

    淳悟はその後生きているのだろうか。
    花を失った淳悟は孤独に潰されて死を選んでしまうに違いないと思った。
    そして同時に思う。
    もしかしたら今も淳悟は花のすぐ近くで、新たな血の人形の誕生をひっそりと待ち続けているのかもしれない。それだけを心の拠り所として。

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著者プロフィール

1971年島根県生まれ。99年、ファミ通エンタテインメント大賞小説部門佳作を受賞しデビュー。2007年『赤朽葉家の伝説』で日本推理作家協会賞、08年『私の男』で直木賞を受賞。著書『少女を埋める』他多数

「2023年 『彼女が言わなかったすべてのこと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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