私の男 (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167784010

感想・レビュー・書評

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  • エロといえば桜庭一樹さんの「私の男」直木賞受賞作なのにとてもエロくて切ない。癖になってしまう。
    養父と娘の行為を目撃され、口塞ぎに目撃者を襲って二人で逃避する。秘密が色々明らかになっていき、娘が大人になった時に父は手を離す。父である自分では、叶わないことがあるから。
    幼い娘が父の母に姉になって恋人になる。関係性の逆転。
    読み手として憧れてしまうけど、幼さを強制放棄させられた側としてはどうなのか。
    映画の配役は浅野忠信と二階堂ふみでそこに歪みはあれど双方に愛はあった。フィクションとして秀逸だった。

    追記:令和の今だといろいろと難しいだろうなぁ。

  • 腐野花は、鎖の花じゃないのかな。
    チェインギャングにかけていると思う。
    この本を越える本はない。

    • りいこさん
      はじめまして、こんばんは。
      ”チェインギャング”、ブルーハーツの曲のことですよね? たしかに言い得て妙で、目からウロコでした!
      はじめまして、こんばんは。
      ”チェインギャング”、ブルーハーツの曲のことですよね? たしかに言い得て妙で、目からウロコでした!
      2012/07/06
  • 面白かった。

    最初は淳悟が気味悪く、24歳の花のように嫌悪感を抱く。
    品が良く優雅で、花に愛情を傾ける描写があっても、やはり歪んで壊れて見えるし、だからこそ好きになりきれない。
    そして淳悟と花の関係性にも、序盤は謎が多くある。

    読み進めているのに過去に遡っていく。
    ページも進むし、読み手の抱く謎が解明され、
    物事は進んでいくように感じる。

    そして遡るほどに淳悟が若く、良い男になっていく。
    ひどく壊れ、腐っていくも、どこか美しい男から、
    美しく、そして人懐っこい、どこか気づかない部分で壊れた男へ。

    序盤はあんなに気味が悪かったのに、魅力的に蘇っていく。
    1章で小町は淳悟のことを「ゾンビ」と表現したが、過去へ進み淳悟が魅力的になっていく様子は、蘇りと呼べるはずだ。

    読み終わった後にもう1度、1章を読みたくなる。
    この男が、どこまで腐って枯れたのか。

  • 泥を飲んだような気持ちになった。なんだろう、この読みやすいのに重い、気持ち悪いのに惹かれる、忘れようとしても忘れられないお話。

    最後の章を読み終わったときに最初の章に戻って来て、花が淳吾と同じ道を歩む様を示唆するような描写を読み返すと、もう淳吾はどこにもいないんだっていうことがわかって胸がギュってなっちゃった。章ごとに逆行していく手法がすごい。最後の章では「ずっとこのひとの隣にいるんだと思った」って花は感じて本は終わるのに、最初にされた未来の話では、それが実現しないってこと、読んでる人間はわかっているの。ほんと、すごい。

    倫理観とかほぼない。世間というものや良識の擬人化である(って勝手に思ってる)大塩さんがああ言うふうになるんだから。小町さんは俗世の擬人化。
    大塩さんや小町さんはかわいそうだが、それでも、読んでよかった。
    それにしても湿ったにおいの描写がすごいなあ。汗のしみた布団、湿気を多く含んだ冬の空気、指にまとわりつく女の気配、雨のにおいのする男。
    正直、めちゃ暗い話だが嫌な気持ちになるわけじゃなくて、やりきれん寂しさが残るようなお話だった。

  • 初めは義理の父親と娘の禁断の関係という風で好奇心で読み進めていたが、途中で花と淳悟の本当の関係が明かされ、とても驚いた。花を通して描かれる淳悟の愛と執着と花の淳悟に対する愛が読んでいるうちに自分の想像していた以上のものでだんだんと怖さが勝ってきた。互いが失った部分を互いに与え合うような二人の姿は、美しくも暗く、恐ろしいと感じた。

  • "私の男は、ぬすんだ傘をゆっくりと広げながら、こちらに歩いてきた。"初めて読んだ時もこの出だしのこのフレーズで一気に引き込まれてしまいました。
    救助された花が水をたくさん飲んでもどこか渇いていると感じるシーンで"砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない"に出てくる藻屑が常に2Lのペットボトル水を持ち歩いていてたびたび飲み干すシーンのことを思い出しました。桜庭先生の中では、大量の水を一気に飲み干すという描写は、常に渇いていてどこか満たされない気持ちをなんとかして埋めたいという登場人物の心理の表れなのでしょうか。

  • 好き〜〜〜〜〜。私には想像もつかないような依存の愛がこうして存在するのかもね、ってぴらぴら見せられた感じ。
    フィクションだからこうして美しいと思えるんだよ。

  • 歪んだ愛、共依存、血の呪い…大好物三昧です。

    3回目の読了になるかと思います。
    脳に直接麻薬をゆっくりと注ぎ込まれるような
    恍惚的な快楽がある作品です。
    こんな文章が描けるのは桜庭一樹さんただ一人。

    構成として、過去を遡っていく形式なのは珍しく、
    淳悟と花の犯した罪・禁忌的な関係性が分かっていく。
    そのため、前章の内容が読み進んでいくたびに別の意味が
    帯びていくことも特徴です。
    章ごとに語り手も変わり、特に小町さんの語りが私はお気に入りです。将来の太ったおばさんになる小町さんの若き時。感情描写が秀逸で、閉鎖的な地域環境の扱いも上手でした。

    また、情景描写も美しいの一言に限り、流氷とオホーツクのドス黒い化物のような表現。怖さを感じながらそこに憧れを持ってしまうことも淳悟と花が共通して『海』に郷愁を見ている部分が切々と感じられる。ぜひ流氷を見に行きたいと思いました私自身も。

    淳悟と花の関係を咎めるおやじさん、または世間と言ってもいいでしょうが、これ以外に生き方がなかった状況において誰が咎めることができるのだろうか。他人の意見てのは傲慢で聞くに耐えない。ひっそりと生きてく人間たちに自身は善意の発言・行動をするが、とても怒りを覚える。お前らが正しいって誰が決めたんだ。みんながそう言ってるからとそういう奴らは答える。多人数てのは虐待に近い。淳悟と花を私は羨ましいと心の底から思う。こんな生き方誰にも真似できない。

  • 一言で言えば、近親相姦。まさに、歪んだ愛の形だが、むしろ2人が愛し合う姿は純愛に見えてくる。過去に近づくにつれ、ずっとこの2人を見守っていたいという気分になる。

  • どの立場から読んでも、終始重苦しい。
    薄暗い世界を生きる花と惇悟。二人の世界がねっとりとした湿度を伴って、自分にまとわりついてくるような感覚でした。その感覚がどんどん麻痺して、読み進めて行くうちに、どっぷりハマっていたみたいです。
    絶対に理解できないような世界が、桜庭さんの描写にかかると、なぜか少しだけ理解できるような感覚に陥りました。現実にあったら、拒否反応だけど、小説だから受け入れられる、そんな世界。小説の醍醐味なのでしょう。久しぶりに物書きの偉大さにひれ伏した。

著者プロフィール

1971年島根県生まれ。99年、ファミ通エンタテインメント大賞小説部門佳作を受賞しデビュー。2007年『赤朽葉家の伝説』で日本推理作家協会賞、08年『私の男』で直木賞を受賞。著書『少女を埋める』他多数

「2023年 『彼女が言わなかったすべてのこと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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