私の男 (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
3.68
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  • (56)
本棚登録 : 5901
レビュー : 756
  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167784010

作品紹介・あらすじ

落ちぶれた貴族のように、惨めでどこか優雅な男・淳悟は、腐野花の養父。孤児となった十歳の花を、若い淳悟が引き取り、親子となった。そして、物語は、アルバムを逆から捲るように、花の結婚から二人の過去へと遡る。内なる空虚を抱え、愛に飢えた親子が超えた禁忌を圧倒的な筆力で描く第138回直木賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • ……川端康成の小説に『眠れる美女』という作品がある。薬で眠らされた全裸の少女と添い寝するという、退廃的な遊戯に耽る老人の話だ。老人は複数の少女を相手にするが、ある少女と寝た時に、ふと、あることを思い出す。……

    『私の男』という扇情的なタイトル。〈私の男は、ぬすんだ傘をゆっくりと広げながら、こちらに歩いてきた〉と冒頭から退廃的な空気を匂わせる。10頁もいかないうちに、語り手・花が「私の男」と呼ぶ男が、婚約者ではなく養父のことであると判明し、物語は加速度的に背徳の色を濃くしてゆく。追いうちをかけるように明かされる、過去の殺人と近親相姦の事実。そして物語は、この父娘の罪と転落の歴史を、語り手を変えながら少しずつ遡って行く。

    ここまででも十分に暗澹たる内容であるが、章を追うごとに次々と衝撃の事実が明らかになり、物語はほとんど絶望的になっていく。そして終盤のどんでん返し。ここにいたって、この父娘の悲劇性は、真のテーマは、近親相姦という特殊な問題ではなく、人間存在の根幹に関わる普遍的な問題らしいと気づかされる。

    ……『眠れる美女』の老人は、少女の体臭に「これは、母の匂いだ」と思い至る。十代の少女の裸体を前に、還暦を過ぎた老人は、在りし日の母の姿を思い起こす。……

    花の養父・淳悟の内面は、最初はほとんど描かれない。物語の終盤になって、初めて彼の魂の叫びが洩らされる。求めても得られないものを求めずにはいられない幼児の叫び。それは、鏡と鏡を合わせたように、花に反射して増幅し、共鳴する。親子の役割が逆転する。

    ほんとうの問題は、性的倒錯というより、母性剥奪にあるのではないだろうか。物語の中でしばしば、海が象徴的に描写される。生命を生んで育む海。一方で、荒れた時には、あらゆるものを呑みこんで奪いつくす海。海は羊水、即ち子宮であり、「母」の隠喩なのかもしれない。抜け殻のように座りながら一心に海を見つめる花も、死ぬときは必ず海に還るのだと言う淳悟も、求めても得られなかった母性に対する憧憬を、無意識に海に求めているのかもしれない。

    孤独な魂には、善意の人々の言葉も届かない。養父の「生きろ!」という叫びも、自分だけ置いていかれたという恨みしか呼び起こさない。老人の命がけの説得も、空ろな心には響かない。事の深刻さも理解できないまま、善悪の彼岸をやすやすと超えてしまう。そうして、母に見放された孤児たちは、偽りの幸福に溺れながら、閉じたループを描いて、いつまでもさまよい続ける。

    淳悟が去って、残された花はつぶやく。
    〈わたしは、これから、いったい誰からなにを奪って生きていけばいいのか〉。
    遺憾ながら、心理学のセオリーに従うかぎり、答えはひとつしかない。自分の子供から奪うのである。淳悟の母が淳悟から、淳悟が花から、順に奪ってきたように。

    健康な母性を花に期待できるだろうか。明るく輝く南国の海を「バカみたい」としか評せない花に? 淳悟の攻撃性が花に受け継がれてしまったことは、第一章の最後、花が小町に暴力をふるうシーンとして描写されている。花の子供もまた、求めても得られないものを求めてあがく空洞になるのだろうか。負の連鎖をとめることは不可能なのだろうか…。

    とにかく最初から最後まで呑まれっぱなしだった。私の中ではベスト100に入る傑作だ。

  • 淳悟と花の歪んだ愛の形を遡っていく。
    歪んだ?本当にゆがんでいるのか?わからないけど
    これも真実の愛の形では?
    最初は何か気持ち悪くて⭐︎2だなと思っていたが、読み進めるうちに2人の愛の深さに共感はできないが感動させられた。
    忘れられない一冊になった。

  • 花の結婚式前夜から物語は遡っていく。
    花と淳悟にしかわからない、わかりあえない精神的に閉ざされた世界の中がそこにはある。
    唯一無二の存在。
    言葉にしてしまえばたったこれだけに集約されてしまうけれど、二人が寄り添って壊れていくようすは怖いような哀しいような、胸にくる物語である。
    もともと壊れかけていた二人が出会い、共にゆっくりと溶けあっていく。
    約束した時間を過ぎても結婚式に現れない淳悟。
    時間も迫り父親が不在のまま結婚式を始めようとする周囲。
    花はうろたえながら叫ぶ。
    「だって、おとうさんがいないもん!どこにも、どこにも、行けないわ…」
    生きるために、幸せになるために、淳悟から逃げようとする花。
    縛りつけるわけでもなく、縋りつくわけでもなく、淳悟は淡々とそれらを受け入れる。
    誰と結婚しても、どこへ逃げても、結局は逃げ切れるはずなどないと知っていたのだろう。
    引き寄せられるように禁忌を超えた二人は、ひとつの魂が歪に割れたもの同士だったのかもしれない。
    他の誰とも合うことはない。
    ピッタリと自然にひとつになれる相手は、互いしかいなかったのだろう。
    描かれている場面だけを切り取れば、重く背徳の匂いが立ち込める物語になってしまう。
    けれどそれらを押し退け、圧倒し、上回る孤独と切なさが全編に漂っている。
    刹那的な二人の生き方が胸に迫る物語だった。

  • レビューの多くにある気持ち悪さは感じなかった。ただ、この愛の形は情愛だとか近親相姦なんて簡単な言葉で片づけられる物ではないし、「私の男」というタイトルの意味や淳悟が働かなくなった本当の理由も含め、読後もやもやするものが残った。

    淳悟にとって花は「血の人形」だと言う。
    姿は違っても母であり、娘であり、自分の分身であり、身体の中を脈略と流れる血はひとつ。花は血そのものなのだ。もしかしたら花の身体の奥で繋がった時にこそ、心から血を感じる事が出来るのかもしれない。

    一方で花にとって淳悟は父であり恋人。
    庇護してくれる父であり、たった一人の真の家族であり、甘えさせ、優しさで包んで、守り守られるべき恋人でもある。二人がひとつになることは自然の成り行きで、淳悟の求めに応えることで花は愛を確認できたに違いない。淳悟は花が愛するたったひとりの男なのだから。

    しかし子はいつか親離れし、恋には終わりがある。
    いびつな形とはいえ、花は肉親からのじゅうぶんな愛に育まれて大人になったのだ。もう親の庇護は必要がなくなってしまった。恋の熱はいつの間にか冷めていき、新たな出会いさえ生まれる。
    親離れしても父と娘という関係は変わらないが、恋の終わりは身体の関係の終わりをもたらし、花にとって淳悟は過去の男になった。

    花の恋の終わりは淳悟の心に孤独の影を差す。心が離れてしまった花の帰りを淳悟は待つ。父や母を死によって奪われた淳悟にとって、花を失うことは再びの孤独を意味し、彼女がどこへ行っていようともただただ待ち続けることしか出来ないのだ。

    新しい恋人、結婚、花は過去と決別するチャンスを得る。同時に淳悟も全ての過去、自分の存在すらも清算する。たった一つ、2人の歪んだ愛を捉えた古いカメラを残して。

    淳悟はその後生きているのだろうか。
    花を失った淳悟は孤独に潰されて死を選んでしまうに違いないと思った。
    そして同時に思う。
    もしかしたら今も淳悟は花のすぐ近くで、新たな血の人形の誕生をひっそりと待ち続けているのかもしれない。それだけを心の拠り所として。

  • ≪あらすじ≫

    優雅だが、どこかうらぶれた男、一見、おとなしそうな若い女、アパートの押入れから漂う、罪の異臭。
    家族の愛とはなにか、超えてはならない、人と獣の境はどこにあるのか?この世の裂け目に堕ちた父娘の過去に遡る―。
    黒い冬の海と親子の禁忌を圧倒的な筆力で描ききった著者の真骨頂。


    ≪感想≫

    これはひさびさにきました。
    でました★5つ。

    後々ゆっくりと感想を書きたい。
    とりあえずずっと読み返して、ずっと浸っていたいような作品。

    まさにわたしが読みたかったのはこれ。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「これはひさびさにきました。」
      桜庭一樹って、こんなに重いモノを書くとは知りませんでした。
      「これはひさびさにきました。」
      桜庭一樹って、こんなに重いモノを書くとは知りませんでした。
      2013/03/18
    • piyopiyo27さん
      そうですね、
      私も『僕少女』系は全く読まないので桜庭さんは読まず嫌いだったんですが、
      これは本当に面白い小説でしたよね~。
      やはり変な偏見は...
      そうですね、
      私も『僕少女』系は全く読まないので桜庭さんは読まず嫌いだったんですが、
      これは本当に面白い小説でしたよね~。
      やはり変な偏見はだめだな、と改めて思わされた一冊です。
      2013/05/06
  • 初めて桜庭一樹さんの作品を読みました。
    これは、、この本は、感想を書くのが難しいですね…

    ひとりぼっちだった花と淳悟
    お互いを求めるようにして生きた15年間

    歪んだ愛。親子愛?

    ごく普通の家庭で育った私には、理解できるわけもない関係なのだと思いますが、
    なぜか妙に納得させられるというか、分かるような気にさせられるのが、本著の不思議なところです。

    花は、これからどのようにして生きていくんだろう…


    あとは、海の描写がとても多いのが印象的でした。
    特に、紋別から見るオホーツク海は、奈落の底のように暗く、怪物のように恐ろしいもののように描かれていて、この作品の雰囲気とぴったりだと思いました。

  • 時間の経過に応じてこころの変化もあって良い。桜庭先生の暗い感じはなかなか好きかも。
    逆から読み進めてみても面白いのかもしれないと思った。
    七竈 とかも読んでみたい。

  • 久しぶりにガツンとくる本に出会いました。ミステリーで直木賞作品という事ですが、むしろ純文学ですね。倫理的に嫌悪感を抱く人もいるかと思いますが、ある種の人間の業みたいなものを迫力ある筆致で描いています。この作家の作品を読んだのは初めてなのですが、他の作品も読みたいと思いました。

  • 父と娘を繋ぐ、禁断の愛。

    こんな設定のものを読む日がくるなんて思っていませんでしたが、映画化に合わせてインパクトのある装丁に惹かれて、なんとなく読んでみました。

    現在から過去へ、視点を変え、場所を変え、緩やかに巻き戻っていく歴史はなんだかどこか冷たくて、それでいて一定の熱を持っていて、不思議な世界観に引き込まれました。

    存在感がなさそうなのに、淳吾の存在感が常に浮き彫りになっていて、花のことよりも気持ちがそちらに向いてしまう。
    どこか壊れている淳吾。
    でも、憎めない存在。
    彼の心情にあまり触れられていないからこそ、気になってしまうのかもしれない。

    読み終わった後はなんだか切ない。

  • 執着と呼べる様な歪んだ家族愛なのかと思いきや、話が過去に遡って進んで行くにつれ、お互いの欠けている部分を補うように求め合う二人の姿に悲しさを感じた。
    ただ、第4章は花の淳悟に対する気持ちが強すぎて、でもその気持ちを持つには幼くて、読んでいて怖かった。
    最後まで淳悟の気持ちが語られることが無いところも惹きつけられる要素かもしれない。

  • 複雑に絡み合った鎖のように重く、暗いものだけれど、こんなにもお互いを必要とし合える、愛し合える関係は、いっそ羨ましいと思えるほど。

  • この、読後の悪さを何と表現したら良いものか…。
    まず、日本語の扱いのうまさに脱帽した。「美しい日本語」とはまた少し違うのだが、語感が良く、表現も豊かなのである。こんなに文章がうまくなかったら、ここまで読後が悪くもなならなかっただろう。

    離れなければいけないと分かっているのにどうしても離れられない。世の中にはそんな恋もある。そんな恋ほど、とてつもなくいやらしい。ここまでいやらしく描けるのは、女流作家ならではだと思う。男性にはこんなグロテスクな性描写はできまい。

  • エロといえば桜庭一樹さんの「私の男」直木賞受賞作なのにめちゃくちゃエロくて切ない。癖になってしまう。
    養父との娘の行為を目撃され、口塞ぎに目撃者を襲って二人で逃避する。秘密が色々明らかになっていき、娘が大人になった時に父は手を離す。父である自分では叶わないことがあるから。

    幼い娘が父の母に姉になって恋人になる。関係性の逆転。

    読み手として憧れてしまうけど、幼さを強制放棄させられた側としてはどうなのか。
    映画の配役は浅野忠信と二階堂ふみでそこに歪みはあれど双方に愛はあった。
    フィクションとして秀逸だった。

  • 映画をやっていた頃から気になっていて、最近時間が出来たので読んだのだけど、もっと父親が老けててズブズブのグロテスクな話だと思っていたら、たったの16歳差でわりとイケメン風な父で、2人の関係も、花が25歳、淳悟が40歳までという、なんだかそんなにぬめっとしてなくて、いや物語自体は父子相姦だし人が2人も殺してるし背徳的(というか犯罪ですから…)なんだけど、文がサラッとしてるので漫画のようにあっさり読めてしまうところが凄い。花と淳悟が実際に睦みあってるシーンより、ふとした接触の描写が物凄く淫靡だったりして。

    ロリコンとマザコンが大なり小なり1人の男性の中で併存し得ることは、古典からも描かれてきたし、近親相姦という題材そのものも普遍的なものです。でも、この『私の男』は、その普遍的題材を単純な性嗜好として落とすので無く、その行為のはじまりが、淳悟も花も2人とも、「お母さあん」「お父さあん」と求めあっている、何処かお互い孤独で満たされない想いからだったということを、現在から過去を遡るという構成をとることによって際立たせている、そんな作品だと感じました。

    言うまでもなく、子は親にとって所有物ではないのですが、花から「健全な」家族関係を搾取していた淳悟も、淳悟の母から搾取されていたという事実は虐待の連鎖から言えば、想像のつきやすい事ですが、やはり暗い気持ちになってしまいます。
    淳悟は母=女性にコンプレックスがあり、「竹中」の妻と姦通してしまった。ただ淳悟と「竹中」の妻との不実によって生まれた花が、竹中の家で孤立感を感じていたーつまり竹中の家での花の孤立は淳悟(と「竹中」の妻)が元凶だーとしても、花にとっては「淳悟の為だけに生まれてきた」と妄信するには十分に値したのだと思う。
    花にはその生まれから健全な家族関係は望めなくて、わからなくて、ただ「竹中」の家族の中で自分だけが欠損していた血を本能的に嗅ぎ分けて、純正な存在として淳悟を求めたんだと思う。それはもう本当に、彼女が生きていくために。だから淳悟に血の人形として搾取されたとしても、花の欲していた血を淳悟は持っていた。だから「私の男」。父でもあって、息子でもあって、恋人でもある。共依存と呼ぶにはやはり同情し難いけれど。

    さて物語が最終的にはじまりに辿り着いても、現在時点ではそれは時の流れによって、「理由」では無くなっているのがこの物語の妙で、大人になって花は、自分が淳悟から淳悟以外を搾取されていたことと、自分も淳悟から花以外を搾取していたことを自覚して、淳悟を養ったり、自分も結婚によって淳悟から離れようとしています。

    淳悟の視点が一切出てこない点も特徴的だけど、淳悟も花との関係を何処かで終わらせようと思う気持ちーそれが父性なのか別のものかはわからないーがあったのではと想像してみると、花は自分のもの、と言いながらそれでも彼女の幸せを願う気持ちもあったのかなあ。20代から40代になれば、淳悟も自分と亡くした両親への気持ちも変わるでしょうし。恋はいつか冷めるもので、子供はいつか離れていくもので、披露宴で花が「ありがとう」でなく「さようなら」と言った、それで2人は終わったんじゃないかなあ、と思いました。

    ところで私は、花と美郎はあの出会い方で、どうやって結婚まで漕ぎ着けたんだろう?と興味深く思う一方、都会育ちで都会的な競争は知ってるけどスマートで苦労知らずな美郎が、花みたいな真逆の匂いのする人間に惹かれてしまうところになんだか哀しみを覚えてしまって、さらに、小町さんの言葉を借りれば花は本当に「ずいぶんうまいことやった」んだなあというか、淳悟を「私の男」にしたことと言い、花って「女こども」で打算的だったんだなあみたいに感じられちゃうのが。勿論お話としての建前もありますが、美郎くらいのレベルじゃなくちゃ淳悟から離れて結婚しないよ〜みたいなところが。そして申し分ない相手なのに、上手く行かなそうなところが……少しだけ残念だなあと思いました。
    花が今後搾取するのは、淳悟や自分にはないものを沢山持っている夫か、はたまた血で繋がった実の子どもなのでしょうか。それとも「これからだって、二人きりで逃げる」んでしょうか。花が喪失感をどう抱えていけるか、「取り返しのつかない」ことをどう克服していけるかが問題だと思います。

  • 娘と父の禁忌と犯した罪を、過去に遡ることによって描いた作品です。性描写と二人の歪な親子関係が圧倒的な表現力で示されていて、文章だけでここまで表現できたのはすごいとただ感嘆しました。

    最後の最後に明らかになる、父が娘の中に見ていたもの。
    そしてそんな父を受け入れた娘。第三者視点からは狂気としか言いようのない愛情がそこにはありました。

  • 「直木賞を取るような作品を、一冊くらい読んでみよう」と選んだこの本。
    著者の名前がなんとなく好きだから、なんとなくこれにした、ただそれだけの出逢いでした。

    文字が映像に見えました。
    雨、狭い部屋、暗い海、小さな唇、実際に見せられているかのような錯覚に陥ります。

    花とおとうさんの関係は、 狂っているし、初めから壊れているし、信じ難いけれど、
    それなのに二人から目が離せません。
    時を遡る物語から頭が離れませんでした。

    普段、私は本を読むとき、登場人物の誰かにたまらなく感情移入したり、恋をしたりすることが多いのですが、 今回はまるでそういうのがありませんでした。
    ただただ狂おしい、けれどどこか美しいモノを見た、という感じ。
    普段とは全く違うジャンルに挑んで、また新しい「本」を知りました。
    「本を読む」って果てしないですね。
    直感で選んだけれど、この本を手に取ったことに後悔はありません。
    忘れないでね。

  • 私は父子家庭で、父親と娘の禁断の愛と銘打ったこの本を読むことがなかなかできませんでした。
    しかし今回の映画化で読んでみて、気持ち悪いなんて思いより、切なさやこの父娘の屈折した愛情が胸にきました。‥ん?愛情なのかな。
    互いが互いの心臓みたいに、お互いが存在しなければ生きていけないふたり。家族なんてみんなどこかしら欠損しているものだと私も思う。
    結末を序盤に知っているだけに余計に胸が苦しくなってくる。
    桜庭さんの描写がこの話のえぐい、どろっとした雰囲気をうまく醸し出している。
    最後の最後まで共感はできなかったけど、男でひとつで育ててくれた父のことを今一度考えさせてくれた。

  • ドロドロしてる…ようでいてそうでもない気もする。淡々とした語り口だから。爛れてるのは確かだけれど。流氷浮かぶ北の黒い海のおどろおどろしさと、女の匂いが香り立つように、あちこち漂っている本。不思議と男の匂いはしない。微かに煙草が臭うだけ。

  • 無理。読めない。
    ひさびさリタイアしました。
    女子中高生向けのエロ本としては文句ない設定・描写だと思う。
    こどもの頃に天涯孤独になって若い浅野忠信に拾われて、この世にふたりきりで、いつもじっくりと見つめてくれて、性愛の場面でだけは私があの人のお母さんがわりなの!って、いいよねー憧れるよねー(棒)ってかんじ。
    近親相姦というテーマが嫌なのでは決してなく、文体から漂う「この暗い恋愛、素敵っしょ」かげんが苦手です。
    例えて言うなら不倫自体はべつにいいと思うけど、女子などに現在進行形の不倫のつらさ・苦しさ・「でも好きなの!本当の愛なの!」みたいな話を聞かされてるときのスーパー眠いかんじに似てる。

  • ああ、これはなかなか 久しぶりにねっとりと
    からみつくような、からみつかないような、

    女流作家なら誰かが書いていそうで、意外にない感じ。
    表面的な題材からいえば、そりゃあ、何人も書いてるけど
    このインパクトはなかなかなかったなぁ

    これはしかし、描く方向が非常に決定的ですね。
    妙に読後感が絵画的で 屈折したほのぼの感。。。

    楽しませていただきました。

  • 痛々しいけど好き。お薦めはできないけど。濃密すぎると離れるしかない。

  • 10歳で震災孤児となった少女・花
    彼女をひきとったのは25歳の青年・淳悟だった

    24歳となった花の結婚の日から始まり
    過去にさかのぼっていく形式

    壊れて空っぽだった2人の出会い
    禁忌の愛

    とても受け入れられないと思いながらも
    引きつけられて読んでしまう、圧倒的に美しく倒錯した世界

  • 完全にタブー。はっきり言って好みの作品とは程遠いが、それでも脱帽させられた。震災孤児となった小学4年生の花を引き取ることにした親戚の25歳の淳悟。二人の背徳の物語。始めは淳悟にゾクッとさせられ、次第に花に狂気を感じ、ゾワゾワするようなおぞましい気持ちになりながらも....ダダ洩れるエロチック・北海道の海の暗く、ドス黒い雰囲気。とにかく文章力・表現力には圧倒され、本来ならタブーな関係にもやるせない気持ちに。一つ疑問だったのは、花の本当の母親は誰だったのか?そこが私には読み取れなかったのが残念。

  • 中1のときに読んだきりでもう6年以上は経っていた
    内容が、近親相姦もので、章ごとに時が遡る形式で、男は最後いなくなって、女は泣き叫んだ……っけ……?くらいのあやふやな記憶で再読
    私自身桜庭一樹はGOSICKシリーズでハマりその後片っ端から読み倒した一番好きな作家さんではある
    ただ、すべての作品が好きなわけではなく、直木賞作家なのだとかそういった理解もなかったので、この作品を読んだときはいけ好かないという印象しかなかった
    だって近親相姦なんだもん といったように

    ただこうして時がたって読むとなかなか面白い
    ぶくぶくと太っていく女や古いカメラや煙草や語り部の独特な間は桜庭一樹だなぁ~と思う
    物語の中にある独特な雰囲気もそう ファミリーポートレイトや傷痕や製鉄天使に似てる
    ただ、時が遡るたびに人間として当たり前だけれども若返っていく二人が眩しく思えたし、その二人の出会った頃から別れるまでの緩やかな下り坂をあえてゴールから書くことで読了後の余韻が内容のわりに爽やかになっていると思う だって二人はこれから始まるんだからサそこで読み終わるんだもん
    他にも趣向が凝らされていてそれに気づけるような歳になってやっとこれは桜庭一樹の代表作や!!!とわかるようになった

  • 気持ち悪かった

  • 2008年第138回直木賞受賞作。
     
    章が進むごとに過去に遡っていくという構成。
     
    小説を書く者の立場から見て、
    情景描写が巧みな作家だな
    というのが最も強く残った印象。
     
    正直私にはマネすることすら難しそう。
     
    それくらい上手いです。
     
     
    逆にストーリーの構成はいまいち。
     
    最初の3章はそれなりにおもしろいけど、
    後半の3章はない方がよかったかな、
    という印象。
     
    ラストの展開は第3章くらいで読めてたし。
     
    情景描写が美しい作品を読みたい方には
    おすすめできる作品です。

  • 読み進めるうちに不快感と知りたいという好奇心が交差する不思議な感覚でした。
    こういう愛の形もありなのかと思わせてしまう、ねじれているけど、心の奥にありそうな見たくない感情を見せていく小説です。
    そして、大事な所は読者の想像力にゆだねている。
    人に寄って、様々な読み方が出来そうな気がします。

  • 直木賞作品なので、タイトル程度は知っていたけど、読み始めてしばらくは「男にこんな文章書けるのか?」と驚いてしまった。しばらくして、この筆名の人物は女性だったと知り、腹に落ちた。(まあ作者の性別で物語の面白さが左右されるわけではないけど)倒叙形式で不思議な男女関係の謎が解れていくお話。

  • 気持ち悪いし到底理解はしがたい。
    それでも、現在から過去に遡って描かれている構成によって、二人の背景を知るべく引き込まれた。
    結局最後まで、二人を突き動かしたものがなんだか、わかったようなわからないような…。
    混沌としたままなのが、この作品のよさなのかもしれない。

  • 直木賞受賞のあと映画化してたし、当時の知人が桜庭一樹さんが好きだって言ってたから気になっていた作品。
    養父と娘の倒錯的な愛の物語。

    文学作品としてどうか、という見方ではなく一人の人間として読んだとき、どうしても精神的な気持ち悪さは拭いきれない小説だった。
    読んでいる間じゅう、あまり良い気持ちはしなかった。
    でも単純なその感想は多分それほど間違ってはいないというか、もしかしたら作者も、読者の多くがそう感じることを想定した上で書いたのかも?と想像したりもした。最初から理解は求めていないというか。

    震災で家族全員をなくした9歳の少女・花は、親戚である25歳の男・淳悟に引き取られ、養父と娘になる。
    しかしそこには大きな秘密がいくつか隠されている。
    物語は花が24歳になり結婚する場面から始まり、そこから時を遡っていく形で、様々な登場人物に視点を変えて進んでいく。

    愛というより共依存に近い二人の関係。
    それは複雑な生い立ちが背景にあることは読んでいてわかるけれど、とくに淳悟に関しては事実は分かれどその心理に迫った描写がほとんど無いから、彼がどうしてそうなってしまったのか理解出来ない気持ちが強かった。
    そしてそれは、もしかしたら作者の狙いなのかもしれないと思った。敢えて心理描写を避けたのかもしれない、と。
    花に関しても、元々いた家族に対する違和感を抱えていたことはわかるものの、冷めていてあまりにも全てを受け入れすぎている様が奇妙で、読んでいる側にも不思議な違和感を与えているように思った。

    周囲の人々はみな、ごく常識的で、この二人はそういう常識的な人々を蹴散らしながら二人だけの倒錯した世界に生きている。お互い以外は何もいらない、というような世界。
    それなのに場面は花が結婚するところから始まるから、それも奇妙でならない。

    評価が難しい作品。文学としては多分凄いのだと思うけど、心理的にはなかなか受け入れ難い。
    でも引き込まれてしまうのは間違いない。
    後味が悪いような、でも変に惹かれるものがあるような、そういう小説だった。

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著者プロフィール

桜庭 一樹(さくらば かずき)
1971年、島根県生まれの小説家。
1999年「夜空に、満点の星」で第1回ファミ通エンタテインメント大賞小説部門佳作を受賞しデビュー。
『赤朽葉家の伝説』で第60回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編部門)、『私の男』で直木賞を受賞。他の代表作に『GOSICK -ゴシック-』『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』『赤朽葉家の伝説』などがある。
ゲームのノベライズやライトノベル作品や、山田桜丸名義でゲームシナリオを手がけるなど幅広く活躍している。

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