伏 贋作・里見八犬伝 (文春文庫 さ 50-6)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (473ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167784065

作品紹介・あらすじ

伏―人であって人でなく、犬の血が流れる異形の者―による凶悪事件が頻発し、幕府はその首に懸賞金をかけた。ちっちゃな女の子の猟師・浜路は兄に誘われ、江戸へ伏狩りにやってきた。伏をめぐる、世にも不思議な因果の輪。光と影、背中あわせにあるものたちを色鮮やかに描く傑作エンターテインメント。

感想・レビュー・書評

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  • 信乃の、そして伏の悲しき背景を知っても、みずからの仕事に徹する浜路。すべてに凌駕する使命感がかっこいい。伏姫と浜路の二人のヒロインを軸に話はスピーディーに進み、どんどんページが捲られていく。面白かった。
    この後、アニメも見てみたが100分に収めるため、だいぶ端折ったり、設定を替えていたが男女の恋愛をメインに置いてて、こちらも楽しめた。

  • 本来の里見八犬伝では、有名な物語の発端として、犬と夫婦になった伏姫が妊娠するものの、自らの身の潔白を証明するために割腹、その腹から8つの玉が飛び出し、それらは正義の犬士のもとへと届くわけですが、この「贋作」では、伏姫が本当に犬の子を妊娠し、結果生まれた犬と人間の混血の子孫たちが江戸時代まで続き、「伏」と呼ばれる一種の残虐なモンスター(人狼的な)として狩られる存在となっているという設定。主人公は「伏」を狩る側の猟師の少女・浜路。兄・道節と協力しあい、「伏」の発祥を調べ存在を追う滝沢冥途という青年に翻弄されつつも、江戸に残った最後の「伏」である信乃を浜路が追いかける…というのが主な筋書き。

    単純にエンターテイメントとして面白く読みきれましたが、当方かなりの八犬伝マニヤにつき(苦笑)、マニア的にはちょっと物足りなかったかな。まあ作者の意図するところは別に馬琴の原典へのリスペクトとは無関係だと思うので、数多の八犬伝から派生したファンタジー作品(ドラゴンボールですらこれに含まれる)の一つだと思えば、かなり良質なほうではないでしょうか。

    以下、南総里見八犬伝を現代語訳や抄訳意訳ではなく岩波文庫で全10巻読んで、さらに研究書や関連書数種類読んでる人間の意見ですので、興味ない方はスルーしてください。

    まず伏姫が本当に八房の子を妊娠していて、犬と人間の子が生まれていた、という発想は面白いと思う。その子孫たる人狼のような凶暴な者たちが「伏」と呼ばれるのも、本来「伏姫」の「伏」の名も「人」と「犬」を合わせたものとして馬琴は書いているのでそこは合っているし(ゆえに、里見義実がその名前に妙なこじつけを付ける部分は無駄な描写だった気はしますが)。

    あとは八犬士のキャラの位置づけに、もうちょっと原作との関連性が欲しかったなあ。まあそのまんま使う必要はないとは思いますが、原典からの取捨選択の基準がよくわからなくて…。道節は浜路の兄ゆえ人間なので別枠として、狩られる「伏」として登場した残り7人の中でも信乃と親兵衛は比較的原作に近いポジションだったものの(でもこの信乃はどちらかというと性格的には原作における毛野に近い)、毛野と現八は出番はそこそこながら原作とは別人だったし(毛野は小僧、現八は医者)、小文吾、荘助、大角にいたっては性別まで変更されて、八犬士の名前を把握してない読者には、彼らの元ネタすらわかってもらえなさそう。さらに謎だったのが、何故か毛野の恋人が雛衣だったこと(※彼女たしか大角の奥さんじゃ)。道節を人間にしてしまったことで、伏の数が7人になり、ひとり足したかったのかもしれませんが、だったら逆に原典から名前だけ引っ張らずに、オリキャラで良かったのに。

    逆にオリキャラは、原作には登場しない伏姫の弟・鈍色と、里見義実の妹・藍色が挙げられますが、この辺はわかりやすく「贋作」のファンタジー部分だと思うので、逆にあまり気にならなかったです。むしろ鈍色は魅力的な人物でした。玉梓、船虫といった悪女キャラを、女義賊みたいにしてあったのも、まあ面白いかなと思えたし。あ、でもなぜたかが義賊の玉梓に、「煩悩の犬となさん」と里見家を呪うほどの妖力があったのかは謎だけど(笑)。

    あと原典からの名前拝借で一番謎だったのが妙真。原典では親兵衛の祖母の名ですが、ここでは何故か馬琴の養女の名前に。この辺の設定は、あえて史実と違えた意味があんまりわからなかったです。確かに晩年の馬琴は目が不自由で、息子の嫁の路に口述筆記を頼んでいましたが、ならば別にこの女性の名は路でよく、あえて妙真にする必要はなかったのでは。息子の「滝沢冥途」は、名前見て一目瞭然架空の人物とわかるようにするために、あえて突飛な名前のオリキャラにしてあっただけに、その辺の基準が謎でした。

  • 「伏 贋作・里見八犬伝」は、三つの話で構成されている。
    一つは主人公の猟師の少女・浜路とその兄などが活躍する活劇。
    二つ目は怪しいかわら版屋の書く「贋作里見八犬伝」。
    三つ目は、「伏」の一人・信乃の語る「伏の話」。

    作中作がとにかく長い。もしかしたら長編を読みなれていない人は、ここでぐったりきてしまうかもしれない。
    でも根気強く読んでみて欲しい。読み進めるうちに、最初のイヤイヤ感はまったくなくなっているはずだ。それどころか、ああもう終わっちゃうの、と残念に思うだろう。

    個人的には、最後、いつも強気で兄を支える役目だった浜路が、恐怖に「十四歳の女の子」に戻って兄に助けを求めるシーンが好きだ。少女らしさが出ていて微笑ましい。

    映画化もされているから、そちらも観てみたい。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「三つの話で構成されている」
      そうなんだ、、、
      「南総里見八犬伝」を読み直してから読もうと思っていたら、どんどん日が経ってしまって、ずっと積...
      「三つの話で構成されている」
      そうなんだ、、、
      「南総里見八犬伝」を読み直してから読もうと思っていたら、どんどん日が経ってしまって、ずっと積みっ放し(此れだけじゃないけど)。。。
      三つの話は、それぞれ独立しているの?それともヤヤコシク絡まってるの??←聞くよりさっさ
      と読め!って言われそう。。。
      2013/03/05
    • nodoka.さん
      一作目に出てくる「瓦版屋」が書いた物語が二作目の「贋作里見八犬伝」です。三つ目は一作目と同じ世界に生きる伏が語り部の過去のお話になっています...
      一作目に出てくる「瓦版屋」が書いた物語が二作目の「贋作里見八犬伝」です。三つ目は一作目と同じ世界に生きる伏が語り部の過去のお話になっています。
      2013/03/15
  • おもしろかった。読む前にある程度は里見八犬伝の知識があったほうがいいです。まったく八犬伝をしらないとおもしろくないと思う。
    作中に挿入される話や回想が緻密なのに比べて、本編はドタバタしてるだけの感じではあります。そのせいかもう一歩キャラが立ってないのが残念。でも作中話の「贋作・里見八犬伝」はおもしろかった。八犬伝の外郭は壊さずに、ありそうな形、より引き込まれそうな形に収まっていて、なるほどなぁと思いました。
    この本をプロローグにして、この続きがあると、おもしろいかもなぁとか思います。

  • 「八犬伝」と聞くとNHKの人形劇『新八犬伝』が頭に浮かぶのだけど、確かにその時の“仁義礼智忠信孝悌”という8つの珠に浮き出る文字は今でも覚えているもんね。
    と言って、その頃の私は、『ひょっこりひょうたん島』が終わって以降のその時間の番組をまともに見ておらず、滝沢馬琴を手に取ることもなかったので、本当の「南総里見八犬伝」がどんな物語なのかはよく知らなくて、『贋作・里見八犬伝』と銘打たれたこの本、真贋見極めながらという意味ではどこまで楽しめたのか…。
    里見家を守る八犬士たちが、江戸の町を荒らす“伏”として登場し、その首に懸けられた賞金を目当てに道節と浜路の兄妹が追いかけるという物語。
    まあ、馬琴の登場人物を借りた別の物語っていう感じで、間に挿まれる冥土と信乃の語る話はそれなりに面白くはあるけど、色々盛り込んだ厚さの割にはサラッと終わって、物語としての厚みはあまり感じられずでちょっと残念。

  • 狩る者と狩られる者の話なのに殺伐としてない、どちらにも感情移入しきれない感じが「物語を読んでる」という気持ちにさせてくれる

  • 時は江戸時代、山で猟師をしていた浜路は身寄りを亡くし、都に住む異母兄・道節を頼りに山をおりてきた。その頃江戸では伏と呼ばれる犬人間なるものが世間を騒がせており、狩れば懸賞金が出るという。
    兄と共に伏狩りをすることとなった浜路は、伏にまつわる不思議な因果に巻き込まれていく。

    もちろん本書はタイトルの通り、かの曲亭馬琴による南総里見八犬伝を下地としているが、まったくの別物として楽しめるつくりとなっていて、しかも捕物としてのハラハラ感や伏や浜路にまつわる人情モノとしての部分があって、終始楽しめた。
    元となっている南総里見八犬伝もいつか読みたいな。江戸時代にこんなにファンタジックでここまで語り継がれる物語を思いつくなんて、曲亭馬琴は恐ろしい。

  • 本家八犬伝読んでないので贋作も何も「そうなんですか?」って感じで普通に楽しく読めてしまった。善悪が判然としない感じの話は年を重ねるごとに受け入れられるようになるな。

  • なるほど、アニメにするとピッタリな作品。祖父と暮らしていた山から降りて、兄と共に伏を狩る猟師、浜路とその敵である伏、信乃が地下道を共にしたわずかな時間の先にどんな決着があるか、ドキドキしながら読んだものの、アレレ?地下道のやり取りがなかったかのようなアッサリした結末。でも贋作の方の物語はとてもおもしろかったので良しとするかな。里見八犬伝を知っていたら、もっと楽しめていたかも。

  • 里見八犬伝って、小学生のときに読んだ記憶がうっすらあるような無いような。
    もう一度読んでからまたこの本読んだら面白いかも。

    入れ子構造なお話で重厚。
    アニメは正直失敗だと思う。

    桜庭一樹独特の筆致は癖になります。

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著者プロフィール

1971年島根県生まれ。99年、ファミ通エンタテインメント大賞小説部門佳作を受賞しデビュー。2007年『赤朽葉家の伝説』で日本推理作家協会賞、08年『私の男』で直木賞を受賞。著書『少女を埋める』他多数

「2023年 『彼女が言わなかったすべてのこと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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