伏 贋作・里見八犬伝 (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
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レビュー : 262
  • Amazon.co.jp ・本 (473ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167784065

感想・レビュー・書評

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  • 本来の里見八犬伝では、有名な物語の発端として、犬と夫婦になった伏姫が妊娠するものの、自らの身の潔白を証明するために割腹、その腹から8つの玉が飛び出し、それらは正義の犬士のもとへと届くわけですが、この「贋作」では、伏姫が本当に犬の子を妊娠し、結果生まれた犬と人間の混血の子孫たちが江戸時代まで続き、「伏」と呼ばれる一種の残虐なモンスター(人狼的な)として狩られる存在となっているという設定。主人公は「伏」を狩る側の猟師の少女・浜路。兄・道節と協力しあい、「伏」の発祥を調べ存在を追う滝沢冥途という青年に翻弄されつつも、江戸に残った最後の「伏」である信乃を浜路が追いかける…というのが主な筋書き。

    単純にエンターテイメントとして面白く読みきれましたが、当方かなりの八犬伝マニヤにつき(苦笑)、マニア的にはちょっと物足りなかったかな。まあ作者の意図するところは別に馬琴の原典へのリスペクトとは無関係だと思うので、数多の八犬伝から派生したファンタジー作品(ドラゴンボールですらこれに含まれる)の一つだと思えば、かなり良質なほうではないでしょうか。

    以下、南総里見八犬伝を現代語訳や抄訳意訳ではなく岩波文庫で全10巻読んで、さらに研究書や関連書数種類読んでる人間の意見ですので、興味ない方はスルーしてください。

    まず伏姫が本当に八房の子を妊娠していて、犬と人間の子が生まれていた、という発想は面白いと思う。その子孫たる人狼のような凶暴な者たちが「伏」と呼ばれるのも、本来「伏姫」の「伏」の名も「人」と「犬」を合わせたものとして馬琴は書いているのでそこは合っているし(ゆえに、里見義実がその名前に妙なこじつけを付ける部分は無駄な描写だった気はしますが)。

    あとは八犬士のキャラの位置づけに、もうちょっと原作との関連性が欲しかったなあ。まあそのまんま使う必要はないとは思いますが、原典からの取捨選択の基準がよくわからなくて…。道節は浜路の兄ゆえ人間なので別枠として、狩られる「伏」として登場した残り7人の中でも信乃と親兵衛は比較的原作に近いポジションだったものの(でもこの信乃はどちらかというと性格的には原作における毛野に近い)、毛野と現八は出番はそこそこながら原作とは別人だったし(毛野は小僧、現八は医者)、小文吾、荘助、大角にいたっては性別まで変更されて、八犬士の名前を把握してない読者には、彼らの元ネタすらわかってもらえなさそう。さらに謎だったのが、何故か毛野の恋人が雛衣だったこと(※彼女たしか大角の奥さんじゃ)。道節を人間にしてしまったことで、伏の数が7人になり、ひとり足したかったのかもしれませんが、だったら逆に原典から名前だけ引っ張らずに、オリキャラで良かったのに。

    逆にオリキャラは、原作には登場しない伏姫の弟・鈍色と、里見義実の妹・藍色が挙げられますが、この辺はわかりやすく「贋作」のファンタジー部分だと思うので、逆にあまり気にならなかったです。むしろ鈍色は魅力的な人物でした。玉梓、船虫といった悪女キャラを、女義賊みたいにしてあったのも、まあ面白いかなと思えたし。あ、でもなぜたかが義賊の玉梓に、「煩悩の犬となさん」と里見家を呪うほどの妖力があったのかは謎だけど(笑)。

    あと原典からの名前拝借で一番謎だったのが妙真。原典では親兵衛の祖母の名ですが、ここでは何故か馬琴の養女の名前に。この辺の設定は、あえて史実と違えた意味があんまりわからなかったです。確かに晩年の馬琴は目が不自由で、息子の嫁の路に口述筆記を頼んでいましたが、ならば別にこの女性の名は路でよく、あえて妙真にする必要はなかったのでは。息子の「滝沢冥途」は、名前見て一目瞭然架空の人物とわかるようにするために、あえて突飛な名前のオリキャラにしてあっただけに、その辺の基準が謎でした。

  • 「八犬伝」と聞くとNHKの人形劇『新八犬伝』が頭に浮かぶのだけど、確かにその時の“仁義礼智忠信孝悌”という8つの珠に浮き出る文字は今でも覚えているもんね。
    と言って、その頃の私は、『ひょっこりひょうたん島』が終わって以降のその時間の番組をまともに見ておらず、滝沢馬琴を手に取ることもなかったので、本当の「南総里見八犬伝」がどんな物語なのかはよく知らなくて、『贋作・里見八犬伝』と銘打たれたこの本、真贋見極めながらという意味ではどこまで楽しめたのか…。
    里見家を守る八犬士たちが、江戸の町を荒らす“伏”として登場し、その首に懸けられた賞金を目当てに道節と浜路の兄妹が追いかけるという物語。
    まあ、馬琴の登場人物を借りた別の物語っていう感じで、間に挿まれる冥土と信乃の語る話はそれなりに面白くはあるけど、色々盛り込んだ厚さの割にはサラッと終わって、物語としての厚みはあまり感じられずでちょっと残念。

  • 本家八犬伝読んでないので贋作も何も「そうなんですか?」って感じで普通に楽しく読めてしまった。善悪が判然としない感じの話は年を重ねるごとに受け入れられるようになるな。

  • なるほど、アニメにするとピッタリな作品。祖父と暮らしていた山から降りて、兄と共に伏を狩る猟師、浜路とその敵である伏、信乃が地下道を共にしたわずかな時間の先にどんな決着があるか、ドキドキしながら読んだものの、アレレ?地下道のやり取りがなかったかのようなアッサリした結末。でも贋作の方の物語はとてもおもしろかったので良しとするかな。里見八犬伝を知っていたら、もっと楽しめていたかも。

  • 話の内容よりも
    文体や世界観に惹かれた。

    元を知らないけど
    この本だけでも楽しめたと思う。

    でもやはり元は気になる…。
    機会があれば。

  • 伏とゆう犬人間と、それを狩る猟師の女の子と、巡る因果の話。
    落語のようにテンポよくさっさと進む。伏の悲しい運命やそうなるに至った経緯などは心惹かれる。悲しい伏に相対して主人公は明るく元気な猟師なのもバランスがいい。終始話の内容は暗いはずなのにそれを打ち消す存在感。伏姫の話はどことなく不気味でよかった。
    伏、白い犬、猟師、銀の歯の森、江戸、村雨丸、里見八犬伝、天守閣。

  • ライトノベルのような一冊。映画化されていたが、なかなか映画で見るとおもしろいかもしれない。ただ、この本に関していえば純粋に活字を楽しみたい人には少々物足りない印象を受けるかもしれない。だが、わたしは桜庭さんは『私の男』のイメージが強かったため、このようなライトタッチな文章も綴れるのだな、と感心が大きい。

  • ”贋作・里見八犬伝”が一番面白かった。
    他の部分は、あまり内容がないような・・・。
    文章が、瓦版の呼び込み語り口調のようで、雰囲気を煽ってくれる。

  • アニメを見たからでも見るためでもなく、南総里見八犬伝が好きだから読んでみた。また浜路がヒロインかというありきたり感と、イメージが違い過ぎて違和感ありまくり。「んん」がわざとらしくて嫌だった。劇中劇の「贋作里見八犬伝」もちょっと。伏姫をあんな姿にする必要があったのか。伏がやたら人を傷つけるのもいくら半犬でもやり過ぎだ。読後感もスッキリしない。映像は綺麗になるだろうけどね。

  • 本家・里見八犬伝を切り崩して、ここまで別物の話に纏め上げた
    のはお見事。
    ただでさえ登場人物が多い八犬伝ですが、新しい個性をもった
    キャラクターとして1人1人が作中で、とても生き生きと描かれて
    いたのが、読んでいて楽しかった。
    また今回、映画と原作の両方を見ましたが、話はどちらも別物で
    あり、色々なパターンの結末が楽しめる作品だと思いました。

著者プロフィール

桜庭 一樹(さくらば かずき)
1971年、島根県生まれの小説家。
1999年「夜空に、満点の星」で第1回ファミ通エンタテインメント大賞小説部門佳作を受賞しデビュー。
『赤朽葉家の伝説』で第60回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編部門)、『私の男』で直木賞を受賞。他の代表作に『GOSICK -ゴシック-』『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』『赤朽葉家の伝説』などがある。
ゲームのノベライズやライトノベル作品や、山田桜丸名義でゲームシナリオを手がけるなど幅広く活躍している。

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