時が滲む朝 (文春文庫)

著者 :
制作 : 楊 逸 
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 274
レビュー : 45
  • Amazon.co.jp ・本 (164ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167786021

作品紹介・あらすじ

中国の小さな村に生まれた梁浩遠と謝志強。大志を抱いて大学に進学した2人を天安門事件が待ち受ける-。"我愛中国"を合言葉に中国の民主化を志す学生たちの苦悩と挫折の日々。北京五輪前夜までの等身大の中国人を描ききった、芥川賞受賞作の白眉。日本語を母語としない作家として初めて芥川賞を受賞した著者の代表作。

感想・レビュー・書評

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  • 第139回芥川賞受賞作品(2008年)。
    1988年の中国民主化運動に参加した主人公・浩遠と相棒の志強が辿った高揚と挫折と再生の物語。
    学生として参加した民主化運動と結果としての天安門事件。そして、全てが無に帰してもなおこだわり続ける民主化への想いに反して、経済大国化への道へ舵を切った中国。見切りをつけて生活に商売にいそしむ人々が増える中、家族と生活を維持していかなければならなくなった主人公・浩遠の葛藤もここにはじまる。

    表現の技巧には多少のぎこちなさを感じるが、広大な大地と清々しい朝の景色の描写は読者にリアルな自然美を感じさせてくれる。
    主人公たちの転機となった場面にはもう少し膨らみが欲しいところだが、逆に中編ならではの物語進行のテンポの良さがあって、時が経つにつれての主人公・浩遠の言いようのない桎梏がストレートに伝わってくる感覚はなかなか良かった。
    また、「音」の感覚が十二分に取り入れられていて、早朝に湖へ向けての叫びや、宿舎でこっそり聴いたテレサ・テンの歌など、学生ならではの雰囲気を思い出させてくれるような感覚にも魅せられた。それに、効果的に挿入される中国詩などもぐっと心に迫ってくるが、なによりも中盤以降に繰り返されるBGMであり、主人公再生のキーワードでもあった尾崎豊の「I LOVE YOU」は作品全体のテーマ曲としてとても似合っていたのではないか。
    ともすればベタな青春物語になりがちなのを、中国の「あの時代」に生き、そして挫折していった「一般の人」をテーマにしたことで、とっくに現代日本人が忘れ去った(物語中の日本人課長のスタンスでもある)政治の理想と現実生活の狭間でもがき苦しむ有り様を、逆に新鮮な空気感で届けてくれたといえるだろう。

    折しも香港では民主的選挙制度導入を要求した学生デモが続いているが、中国政府の力の発動が繰り返されないよう祈るばかりである。

  • 日中国交正常化を経て、徐々に言論の自由が容認されるやに思われた中国で起こった天安門事件。それを当時の学生の視点で描く小説とあって期待したが、あまりに時の経過が駆け足過ぎる。むやみに成功譚としない主義なのかもしれないけれど、これじゃあ物足りない。

  • まず、中国の大学生活の様子や日常生活の描写に引き込まれた。ムンファンやシャンフェイも農村出身で大学を卒業したこともあって、なんとなく二人を連想して読んでいた。特に英露の小柄でかつしゃんとしていて、逞しさをもつ姿にはシャンフェイが重なって見えた。
    中国の民主化を目指す学生運動、政治運動が物語の核にあったけれど、国を愛する、国を動かすという前に自分の目の前の生活や家族、友人を大切にすること、目を向けること、愛すること、守ることが大切さではないかという投げかけが発せられているように感じた。理想と現実があって、理想ばかりを追い求めるのは孤高の狼。人が生きるということは、理想の前に現実、目の前の生活がある。というリアルが描かれていた。

    心に刺さった言葉
    「好きなら好きって言え。俺らは、英露の恋愛対象に相応しくないかもしれんけど、でも好きになる権利くらいはあるよ。頑張ろう」

  • 読む人によって感想が全く異なる小説なんじゃないかと思う。中国の思想や歴史や文化がバックボーンにあるため、背景を知っているかどうかで捉え方も違ってくるだろう。ただ一つ言えるのは、知っていてもいなくても、楽しめる。それが小説の面白さなのでしょうね。

  • 【内容】
    中国の小さな村に生まれた梁浩遠と謝志強。大志を抱いて大学に進学した2人を天安門事件が待ち受ける―。“我愛中国”を合言葉に中国の民主化を志す学生たちの苦悩と挫折の日々。北京五輪前夜までの等身大の中国人を描ききった、芥川賞受賞作の白眉。日本語を母語としない作家として初めて芥川賞を受賞した著者の代表作。


    【感想】
    中国、時刻を愛するが故に民主化を目指したが、
    報われることなく政府に弾圧され、
    主人公の浩遠もまた運動がうまくいかないが故自暴自棄になり大学を退学となる...

    冒頭に大学に入学し、輝かしい未来を夢みて勉学に励む若者らが色鮮やかに描かれていた為、
    民主化運動なんか参加しなければよかったのに、
    勿体無いなぁと思ってしまった。

    けれども、大学卒業後の輝かしい未来が得られなかったことを悔やむのではなく、
    中国民主化への熱い想いを胸にくすぶり続けている姿は私には正直理解できない。
    しかし、確かにあの時代、天安門事件の際に中国の未来を真剣に考え、中国のために民主化したいという熱い想いがあったことを想像出来た。

    筆者が中国人だからこそ書けた話であると思う。
    そう思うと読み易く価値ある小説であった。

  • 第139回芥川賞

  • 天安門事件における学生と安保時の学生との共通点は、やはり時代に流された事なのかな。淡々として読みやすいが少々物足りない。後半にもっと膨らみが欲しかった。

  • とても駆け足で進むので、時代の流れが掴めなかった。
    「民主主義」の思想に左右される二人の学生。
    革命をしないものは「処刑」という運命
    民主主義が当たり前の日本で生まれた人間には
    理解できないところが多い。

  • 日に日に高まっていく民主化運動に、主人公とその友も運動の波にのまれていく。
    でも時間というものは残酷で、時間が経て経つほど人々の熱は冷め自分の置かれた立場や将来、家族の事を現実としてつきつける。主人公もその狭間で悩み葛藤してく姿が、読んでいて痛ましく感じた。

    改めて"革命"ってなんだろう。って思わせる本だった。

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著者プロフィール

1964年、中国ハルビン市生まれ。2008年、「時が滲む朝」で第139回芥川賞受賞。中国籍の作家として、日本語以外の言語を母語とする作家として史上初めての受賞となった。
2012年より日本大学芸術学部文芸学科の非常勤講師に就任。主な著書に『時が滲む朝』(文藝春秋)、『すき・やき』(新潮社)、『陽だまり幻想曲』(講談社)、『流転の魔女』(文藝春秋)、『あなたへの歌』(中央公論新社)、『蚕食鯨呑』(岩波書店)など。

「2017年 『エーゲ海に強がりな月が』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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