乳と卵(らん) (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 3256
レビュー : 460
  • Amazon.co.jp ・本 (133ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167791018

作品紹介・あらすじ

娘の緑子を連れて大阪から上京してきた姉でホステスの巻子。巻子は豊胸手術を受けることに取り憑かれている。緑子は言葉を発することを拒否し、ノートに言葉を書き連ねる。夏の三日間に展開される哀切なドラマは、身体と言葉の狂おしい交錯としての表現を極める。日本文学の風景を一夜にして変えてしまった、芥川賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 川上未映子さんの文章には独特の説得力があると思う。
    それは小説にもエッセイにも言えることなのだけど、小説の方がより生々しい気がする。
    簡潔な文章ではないし、意味やら意図を説明出来る程に理解しているかと言われれば答えはNOなのだけど、探るように重ねられる言葉から伝わるニュアンスが妙にリアルに感じられる。
    そして、その言葉に「本当のこと」が隠されているような気がして仕方ない。
    あぁ、そうだ、これなのだ。と思わせる力がある。
    これって何だ?と聞かれても答えられないけれど、読んでいる瞬間は確かに「本当のこと」に触れている感覚がある。

    物語の終わりに
    「ほんまのことなんてな、ないこともあるねんで、何もないこともあるねんで。」
    という言葉が出てくる。
    そうだね。とも、違うとも言えない。
    でもこの場面では、この言葉を言った人と向けられた相手の間ではこれが「本当のこと」だと思った。
    「ないこともある」という表現がリアルだと思う。正しいと思う。すごいと思う。
    そんな言葉や行動がたくさん出てくる。
    共感よりも強い肯定。
    分かるではなく、これが答えだと思わせる力。
    でも掴んだと思った答えはふわりと空気に溶けてしまう。
    明確な言葉ではないから。
    触覚に近い感覚だから何度も追体験してやっと定着するのかもしれない。
    また読みたい。

    「あなたたちの恋愛は瀕死」の方は、ティッシュやチラシを配る仕事について改めて考えさせられた。(本題とは違うかもしれないけれど)
    でも「乳と卵」ほどの感動はなかったのでちょっと残念。

  • 女の頭ん中そのまんま文学にした、女性性をそのまま文章にした、川上未映子の小説は分かりやすく女で溢れている。考えに脈絡なんてない、そう感じるんだという”感じ"。これは"感じ"の文学だ。

    主人公の姉・巻子は豊胸手術のために大阪から東京へやって来て、巻子の娘の緑子は何故だか母親と直接話そうとせずノートとペンで筆談をしている。そんな2人を見つめた主人公の3日間の物語。

    豊胸手術に巻子は何故ここまで執着しているのか、緑子は何故喋らないのか、なんとなくその感じ、分からないけど突き進んでしまう感じ、分かる。分からないことについて彼女たちはとにかく喋る、書く。巻子は豊胸について妹に一方的に喋り緑子は自分の未知なカラダについてノートに書く。誰ひとり雄弁に語る者はいない。まとまりのない、とりとめのない、同じところを行ったり来たり、その感じ、分かる。

    この話には男がいない。私にはなんだかそれが心地よかった。豊胸について考えるにもカラダについて考えるにも、男を出すと全部具体的になって”感じ"が消えてしまう。こういう胸がいいんだこういうカラダがいいんだ、彼らはカタチにこだわる。時に私たちを美しくしてくれるそういう具体性は、時に厄介で苦しい。分からない。ねえほんとうのことを。ようやく喋った緑子は卵を叩きつけて言う。みんな最初はこの卵だ。こんなに悩まなきゃいけないのは卵のせいだ。どれだけ割ったって卵はまだまだ私たちの腹の中にいる。卵が先か鶏が先かなんて言うけれど、人間も一緒だ。女は円環であってどこかでばっさり割り切れるもんじゃないしそれでいい。卵、思春期、凹む胸。ヒトの女の、この長い長い歴史の矛盾と諦め、そんなものを3日間の物語が発散しているように感じた。

  • 文体が、なんというか、抜け出せなくなる感じ。
    女のひとの、性。
    母と娘の、生命のつながりを、呪いのように感じることがあるのは、女性だけかもしれないが、私は、この感情をたしかに知っていると思った。

    「お母さんが生まれてきたんはお母さんの責任じゃない」から、
    生命がはじまった時から、みんなみんなかわいそうなんだと思ったら、すこしやさしいひとになれそうな気がした。

  • 娘の緑子を連れて豊胸手術のために大阪から上京してきた姉の巻子を迎えるわたし。その三日間に展開される身体と言葉の交錯。

    「わたくし率…」を読んだ後だからか、川上さんの作品をいくつか読んで慣れてきたからなのか、読みやすく感じました。「わたくし率…」に続いて、相変わらず哲学的なテーマも含まれているのだなぁとぼんやり感じました。おもしろかったけれど、川上作品はまだまだ私には難しいかもです。

    卵を割りながら、卵と涙でぐちゃぐちゃになりながら感情を吐露する緑子、巻子、それを見ていることしかできないわたし。無性に切なくて、泣けてきました。
    「乳と卵」、題材とそれにきちんと呼応する言葉選びがうまいなぁと思いました。身体の話がたくさん出てくるので、このお話も読んでいて、とらえどころのない痛みを感じます。

    『あなたたちの恋愛は瀕死』も痛々しいお話でしたが、光の表現の仕方がとても秀逸に感じました。

  • 130807読了。
    表題作「乳と卵」主人公のもとに、姉・巻子と姪・緑子が遊びにくる話。短い2泊3日だが、母子の関係の変化が劇的に描かれる。
    姉・巻子は豊胸手術にとり憑かれ状態、姪の緑子は思春期の「女になりたくない病」真っ只中。冒頭から読点が多く、独特な文体で、体言止め、「いろいろの」、などが乱発する。軽快な関西弁がうまくモノローグにも対応して、生身の人間が体感通りの時間を追っているように見える。
    初日の夕方に姉妹が銭湯に行ったさいの、女性の体を観察していくシーンがとても印象的だった。なるほど確かに女性の体の真ん中には乳があります。
    最後、緑子が自分の思いを癇癪のように爆発させたとき、少し共感があったとともに脱力感もあった。こうして少女たちは母をぼろぼろに消費しながら大人になるわけだけれども、主人公の「叔母」の目から見るだけで大変な体力が必要だ。
    私はもう大人の、どちらかというと叔母とか母とかの目線で読んでいた。

    「あなたたちの恋愛は瀕死」は、美意識は強いものの男と関係を持てない女が、ティッシュ配りの男に殴られる話。「――合格してるのかしら?人間として?」なんてことに媚を売りながら、全部が全部くだらない。最後は悲惨に殴られ道端に横たわる。まさに瀕死の話。

    川上未映子は「ヘヴン」を読んでから次は何読もう何読もうと思っていて、でも全然文庫本出てないし仕方なくまあ芥川賞でも、と思ったら、今回は全然作風が違っていてとても面白かった。彼女の作品はいくつか追いかけて読んでいきたい。

  • 濃ゆい。
    ブンガク的。って感じ。
    好きかって言うとそうでもないけど、たまにはこういうのもいいかも。短いし。

  • なんかすごい不思議な文章だった。

  • まんま口語のような文体は〈わたし〉の脳内に浮かんでは消える言葉が直に入ってくるみたいで楽しい。この地の文と緑子の日記はとても対照的な印象で、〈巻子〉に対する視点の違いだけでなく、それぞれ言葉に対する感覚的なアプローチと整理された思考としてのアプローチというように感じた。そして最後にはどちらのアプローチからも「言葉の足りなさ」に直面すると。これにはとてもハッとする思いがした。そしてあの行動。葛藤が言葉の足りない極限まで行き詰まった結果の爆発。なかなか胸に来るものがあった。人間は言葉に行き詰まるとよく分からない行動に出てしまうけど、それは同時に言葉を超えて行動で表現できるということでもあるのだなと思った。『わたくし率 イン歯ー、または世界』と続けて読んで、なんだか小説の良さを再確認したような感慨を覚えた。言葉の追求と言葉を超えたところにある行動をどちらも表現できるところが小説の優れている点かもしれない。

  • 川上未映子さんの文章には、独特の浮遊感と透明感がある。残酷だけどすてき。女という身体器官に向き合うこと。

  • 女、女、女。
    どこを切り取ったって女。
    女でずっぷり。

    男はこれを読んで面白いと思うのかな?
    女ってやっぱりこえぇ、って思いそう。

    面白かった。

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著者プロフィール

1976年大阪府生まれ。2006年に随筆集『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』を刊行。2007年に初の中編小説『わたくし率  イン 歯ー、または世界』が第137回芥川賞候補になる。同年、早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞を受賞。2008年、『乳と卵』が第138回芥川賞を受賞。2009年、詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』で第14回中原中也賞を受賞。2010年、長編小説『ヘヴン』で芸術選奨文部科学大臣新人賞と第20回紫式部文学賞を受賞。2013年、詩集『水瓶』で第43回高見順賞を受賞。

「2013年 『りぼんにお願い』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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