世界クッキー (文春文庫 か 51-2)

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 787
感想 : 70
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  • Amazon.co.jp ・本 (187ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167791025

作品紹介・あらすじ

体、言葉、季節、旅、本、日常など、あれこれ。「乳と卵」「ヘヴン」の川上未映子が放つ、魅惑のエッセイ集。

感想・レビュー・書評

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  • 川上さんのエッセイを読んだら、絶対みんなこの人を好きになってしまうと思う。
    たとえば夕暮れ、日常のふとしたときに感じる、訳もない切なさ。
    読んでる間、なんだかずっとそういう気持ちがしている。

    川上さんの小説は、どれもついつい登場人物の向こうにいる川上さんが感じた気持ちのように読んでしまう。
    それはきっと、川上さんがあまりにも多感な一瞬一瞬を過ごしていて、それを言葉にする表現力と記憶力があって、小説を書くときに的確に取り出せるからだと思う。
    だから川上さんのエッセイは小説の根幹が感じられてすごく好き。

    こないだ(2022年3月)勤務書店でこの本を買おうと調べたら、なんと絶版。系列他店舗の在庫を調べたら全国で2冊しかなく、ダメ元で手配したら買えた!
    買えてよかったー!!!
    多分あと1冊…

  • 暑さゆえ寝苦しくて起きてしまった早朝に読了。
    静かで澄んだ朝の空気とぴったりな未映子さんのエッセイは、うるおいのようでもあるし劇薬のようでもある。
    とにかく素敵だった。中原中也賞や芥川賞を受賞されたあたりのあれこれで、ひとりきりの夜空に言葉のきらめきに眼をみはる未映子さんがいた。
    ロボコンにのって自分と世界の境界線にきづいた幼少期と、「春」という単語の存在意義と、「会いたい」という絶対的な感情を手にした時と。ぐるぐる。

  • 川上さんのエッセー集。タイトルのルーツは、

     世界クッキー、なはんて書いてみると「うふふ、世界のほうも、クッキーのほうも、ここで隣り合わせになるなんてことは、夢にも思ってなかったはず」

    と、あとがきにあるように、全然別の世界の言葉の出会いと化学反応に文章を書くことの喜びを見出している作者ならでは。

     章ごとに、からだのひみつ、ことばのふしぎ、ありがとうございました(文学賞受賞などの際の感謝の言葉)、きせつ、たび、ほんよみ、まいにちいきてる、ときがみえます、と、とても面白いカテゴリー分けになっている。

     しょっぱなの「からだのひみつ」から、彼女の独特の感性が爆発。特に、彼女のこだわる「境目概念」。。

    「唾」:口の中にあるうちはぐんぐん飲んだりしてるのに、なぜいったん口外に放出され、外気に触れた途端にきわめて汚物と認定されてしまうのか。爪とか髪の毛もそうですね。(以下略)

     こんなこと思ったこともないけど、おっしゃる通り。

    「世界には絶えず境目が存在し、その時々の入れ物や環境が本質を変革するのです。」
    「境目を超えることになって姿勢や考え方の本質が変化するのなら、いつ何時でも信用できる主体性や本質なんてものはいったいどこにあるといえるのか。ふ、そんなものないのだぜ、と言ったほうがスマートな気持ちもするけれど、それでもやっぱり、そんなこと言わずに、やっぱり何がしかを判断するのは常に自身の中にあるブレない点の機能であってほしい、という願いもあったりして。」

     このエッセイの特徴は、彼女自身の独特の感性から生じる問いを出発点としていること、そこからより普遍的な問題が抽出され、自らの感覚的なものの捉え方に従って、自分なりの解を、願望も込めて導き出していくという流れ。加えて、ときに方言や詩的な文体を用いた文章自体の持つテンポの良さ。どれも本当に素晴らしい。

    いちばんすきだった話は、ほんよみあれこれ、の一節。

     国語の教科書をすみからすみまでなめるように読んだのが読書の原体験であるという作者。
      大人になってしまえば、限られた時間を読書に充てようとすれば自分の好みや必要性に会った本を読むことになり、逆に読みたくないものは読まないで済んでしまえるということで、いやでも出会って読んでしまうという幼少時の読書体験は、本質的に贅沢なものだったなあと述べる。国語の教科書が重いだけで憂鬱で仕方なかった自分との根本的・決定的な差異。思わずため息・・・

    「自分の人生の局面を左右する出来事や決心の多くは、いつでもきっと自分の想像を少し超えたところからやってきて、まるで事故に遭うように出会ってしまい、巻き込まれてしまうものです。」

     人生は自分の望みどおりにならない。自分で選べていることは実は数少ない。神経科学の研究でも、「人間に自由意思はあるのか?」というのは一つの大きなテーマだ。
     作者は、数々の偶然性に支えられた人生を豊かに生きるには、「自分の知らない何かに出会うこと、自分の意識からの束の間の自由を味わってみること」が大事だという。

     僕は、感受性が鋭い人は本質的に傷つくことも多いんじゃないかと思うのだが、川上さんの本を読んでいると、傷つくことを恐れていてはいかんのだと思わされる。素直で力強い。関西の女ゆえ?
     そして、彼女がもう一つ大事にしていると思われる「自分と対象とのかけがえのない「一回性」の共有」ということ。その一回性のなかで生まれる感情や情景をことばにすること、に真摯に向き合っていると感じる。それは、彼女の表現方法が小説にとどまらず、詩や音楽まで多岐にわたることとも無関係ではあるまい。

     傷つくことを恐れずに言葉にする勇気を持とう。

  • 川上未映子さんのエッセイも喋り言葉みたいにつらつら並んでいるので、話している事を聞いてるようにすとんと入ってきます。文章を読んでいる感覚があまり無い。
    でもそれでも、ハッとする表現があったり立ち止まって振り返る部分があるので、楽しかったです。
    多和田葉子さんももっと読みたくなりました。

  • この独特のテンポ、まるで樋口一葉のような、、と思ったら作者は樋口一葉が好きみたい。
    しかも色んな雑誌に掲載されていたのを集めたから、独特の上に文章の長さやテーマが全然違ってて、あっちこっちに揺られている感覚がした。

    ストレートパーマの話や甥っ子の話はすっと頭に入るけど、概念や哲学のような抽象的なことを言われると途端に、あれ、この話はなんの事について言ってたんやっけ、、となっていた。

    『乳と卵』が芥川賞を受賞した辺りに作者がテレビに出ていて、確か哲学書を何冊も持っていたし読んでいたのがすごく印象的。こんな綺麗な人と哲学、、その組み合わせが不思議だと感じていた。

    その時から私は哲学はちょっと興味ないなぁ、たぶんこの作者の本を読むことはないだろう、、と正直思っていたけどエッセイならなんとか読めた。
    普通の日常を書いたのが面白いから、日常系ばっかり集めたエッセイなら読みたいかな。

    20170110

  • 未映子氏のおしろぺろんをわたしは飛行機の中で読んだのだけどどうにも我慢できなく笑ってしまってその時離陸した。
    テーマごとに分かれて合って、年代は前後していると思う。そのせいか文体も少しずつ変化があっておもしろい。
    わたしは書きなれてきた感のあるまさにエッセイ風味の文章が好き。(旅行のあたりとか?)
    しょうじき、この人は生きていてしんどいだろうなあと思うような感受性というよりはもうイタコっぽいところがあると思われる。
    わたしも色々としんどいことこの上なしだけど、この人よりはましだと思える。あ、心が軽い。
    誰にも傷つけられているわけでなし、攻撃もなく自分から勝手にグシャグシャになってしまうこのしんどさ。
    もとい、ひとつの発見が。
    あまり好んでいなかった太宰治をまた読み進めはじめた。まず積読本にあった「ろまんドウラン」から手にとると、
    これまでみたことのない太宰がいて、これがみんなの言う太宰の面白さなのだろうと初めて体験した。
    今、読んでてとても面白い。笑ってしまう。未映子様ありがとう!

  • 「乳と卵」で芥川賞を受賞した川上未映子さんのエッセイ集。
    なるほど、この方はこんな文章を書くのね、と、俄然興味のわいた一冊となりました。
    豊かな表現力と、丁寧に一つ一つを確認していくかのような思考の仕方、とても、よかったです。好みです。

    その人を知るという行為はすなわち、その人の考え方を知るということにほぼ等しいと私は思っていて、そういう意味でもかなり作者について知ることができた、いい読書体験でした。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「丁寧に一つ一つを確認していくかのような」
      とっても破天荒な方だと思っていたので、意外でした。
      「丁寧に一つ一つを確認していくかのような」
      とっても破天荒な方だと思っていたので、意外でした。
      2012/12/27
  • 今このタイミングで、この本に出会えて良かったと思いました。こんなに心が動く文章を読めたことが幸せです。他の川上未映子さんのエッセイ集と比べて、作家であり、歌い、演じたことのある川上未映子さんだからこその視点や思考が多い章もあり、楽しめました。

  • ただの日常も、川上未映子の目を通り、文章になると違ったものになるのが楽しい。語り口調であったり、詩であったり、独特の文章がいい。好きな一文があったりして手元に置きたい一冊。

  • 表紙の女の子が微妙に怖いけど、中身は女の子らしい感じ。

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著者プロフィール

大阪府生まれ。2007年、デビュー小説『わたくし率イン 歯ー、または世界』で第1回早稲田大学坪内逍遥大賞奨励賞受賞。2008年、『乳と卵』で第138回芥川賞を受賞。2009年、詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』で第14回中原中也賞受賞。2010年、『ヘヴン』で平成21年度芸術選奨文部科学大臣新人賞、第20回紫式部文学賞受賞。2013年、詩集『水瓶』で第43回高見順賞受賞。短編集『愛の夢とか』で第49回谷崎潤一郎賞受賞。2016年、『あこがれ』で渡辺淳一文学賞受賞。「マリーの愛の証明」にてGranta Best of Young Japanese Novelists 2016に選出。2019年、長編『夏物語』で第73回毎日出版文化賞受賞。他に『すべて真夜中の恋人たち』や村上春樹との共著『みみずくは黄昏に飛びたつ』など著書多数。その作品は世界40カ国以上で刊行されている。

「2021年 『水瓶』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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