裁判長! おもいっきり悩んでもいいすか (文春文庫 き 26-4)

著者 :
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  • Amazon.co.jp ・本 (287ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167801717

作品紹介・あらすじ

まさかの裁判員選出、ド緊張の公判、揺れ動く評議-。逃げ場なしの法廷で、悔いを残さないための想定問題集。シリーズ第3弾。

感想・レビュー・書評

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  •  前2作のような、くすっとほろりとほっこりな傍聴記ではなく、とても重い一冊でした。元は2009年ですので、裁判員制度施行を目前に控えた模試が題材となっています。その模試、様々なジャンルが出題されているのですが、その中でも重かったのは「死刑」という量刑を考えなくてはいけない、「問題」。

     と、まずお伝えしておくと、私は「死刑制度」は必要(悪)だと考えています。

     「将来、一瞬でも悔恨する可能性があるのならばそれを奪ってはならない」とか、「そもそも人が人を裁くのは傲慢だとか」といった死刑反対論も、理解はできます。

     本書の中でも「欧米では軒並み死刑が廃止されている」ので「文明先進国」、その動きに迎合できない日本はいつまでたっても「文明後進国」だとの論があります。ん、申し訳ないですが、この点については、日本においての文化や歴史、宗教などを素養として長年培われてきた、いわゆる「日本人の死生観」について、あまりに無視しすぎているのではないか、と感じました。

     大雑把ですが、神道でいう「禊」の体現の一つとして「死」があると思っています。また、仏教での輪廻転生に伴う「業(カルマ)」の浄化も「死」と密接に関わっていると思います。そのため「死」は現世での全ての終わりではなく、やや乱暴ですが、生まれ変わって再び、現世でチャレンジするための儀式、との感覚があるのではないでしょうか。

     一方、例えばのキリスト教は、死後は今とは異なった「別世界」に旅立つ死生観のため、現世での功徳を少しでも積ませたい、そのチャンスを奪うのは傲慢だろう、との感覚だと思います。宗教を文化のひとつとしてとらえ、その文化が倫理観を養っていくと見れば、これは、どちらが優れている、劣っているとの話ではない、かと。

     ちょっと前に読んだ『傷ついた日本人へ(ダライ・ラマ14世)』の中でも「脳科学者たちも意識が何かわからない」との興味深い示唆がありましたが、、科学的には、輪廻転生が「有ることも」「無いことも」、どちらの証明もできておらず、決着はついていないと考えています。

     なんてことを踏まえると、、裁判員制度の導入に伴って、いわゆる普通の人も「他人の人生(下手すると生死)」に責任を負う可能性が出てきたわけでして。。

     古来より日本社会は「絶対的・唯一的な神」に統治されているわけではなく、あくまでも「人」と「人」とが対等に結びついている社会でしょうから、人が犯した過ちには、同じく人が覚悟を持って向き合い、時には人の生命に対する責任までもを、果たしていく必要があると考えています。

     自分ではない誰かに「死」を与えることについて悩みに悩みぬいていく過程で、その重さと責任を感じていくからこそ、生命の尊さとも向き合えるのではないでしょうか。それがまた、日本人が培ってきた死生観でもあると、そう感じています。

     そう言った意味では、「死」もまた「社会」を保つための責任の一つであるのかな、とも。

  • トロさんの裁判傍聴エッセイを読んだのが2015年。その頃には裁判員裁判が始まっていた。本書は、その裁判員裁判を想定した弁護士との掛合い問答だ。私も何年か前に裁判員候補者名簿に記載されたとの通知をもらったことがあって、とても身近な問題として読み進められた。2009年に施行された裁判員制度は大きな問題もなく、また日本人気質に合ったのか定着したと言える。殺人事件の裁判では、死刑という重い判断(評決)を迫られるかもしれない。その時、自分だったらどうする? 裁判員裁判の副読本として最適な一冊と言えるのではないか。

  • 裁判員に選ばれたと仮定した想定問題と北尾トロ回答及び出題者の弁護士の回答集

    自分でも判決を考えたながら読んだけど、ほとんどが二人の求刑以上か同じだった
    一般庶民の感覚からしたら、事件に関わるという事自体想定の範囲外なので、どうしても厳罰化の流れになってしまうのでしょうなぁ

    個人的に思うことは現状の裁判では刑が軽すぎる
    極端な事を言えば、人一人殺したら、人一人の命で償うのが等価だと思う
    「情状酌量って意味あるのか?」って感じの事を思ってたけど
    加害者が虐待を受けてたとか、そんなケースは確かに情状酌量の余地があるなぁとか思い直した
    あと、介護疲れの嘱託殺人とかもね

    まぁ、ケースバイケースなんだろうけど、人が人を裁くという時点で、専門家がやろうが一般の感覚を取り入れようが、正解はないわなぁ

    とりあえず、自分が裁判員に選ばれた際の心構えの足しにはなった

  • 前二作のようにサラサラっと読みたくて購入したものの、そうはいかなかった。
    裁判員制度の為、うっかり『あー、これ確実にやってんな』みたいな内容には出来なかっただろうし、その為扱う事件も重く、民事みたいな俗っぽさがなかったんだろう。

    これはこれで興味深かった。
    読む前と、読み始めた時のテンションの差が大きく、時間はかかった。

  • 裁判員裁判のことが分かりやすく説明されてて勉強になりました
    相変わらず面白く、傍聴に行きたくなる

  • この方の著書を何冊か読んでたので、その続編かなと思って、中身も見ずに手にとりました。想像してたのとはだいぶ違いましたが、実際に運用されやすい法律の条文を知る事ができ、また、自分が裁判員になったらどういう判断を下しそうか、想像しながら読む事ができました。ですが、ニュースで殺人事件の報道がされるたび、対岸の火事にしか思えない自分がいます。

  • 前二作の傍聴記が面白かったので、何となく続編と思い読み始めたが、重い一冊で、色々考えさせられました。

    裁判員に選任されたらなんて、普段考えもしないが、数字を見ると結構な確率でなるんですね。

    もし、自分が裁判員になったら、人を裁けるほど人格者ではない私は、題名のように、思いっきり悩みそうだが、人生観も変わりそうだな。

  • もしもある日「裁判員」に指名されたら…
    その制度が施行された時には漠然と考えたりしたが、
    最近では重大事件が起きても、その事件の顛末の報道がされなくなれば
    その後の裁判まで考えることはほとんど無い。
    自分が量刑を下さなければならない日が来ることなど皆無に等しい。
    そう思い込んでいる。のは私だけ???
    裁判傍聴に長けた筆者でさえ頭を抱える案件に、自分ならどんな量刑を下すか。
    「その日」が来ないと思いつつもトレーニング(当事者には失礼だが…)入門編として一読してみたらどうだろうか。

  • もっと重い罪を!と思ってしまうが、実際は色々と難しいんだなぁ。弁護士の解説もあって勉強もできる本。
    でも強姦と万引きは、もっともっと重罪にして欲しい。

  • 想定される裁判(例題)について、有罪か無罪かの判断、有罪の場合の量刑の判断を下すという問題集的内容でした。普段ニュースなどで耳にするけれど、詳しい意味はよくわかってない法律の知識(例えば懲役はどういう場合につくのかなど)が少し理解できて良かったです。

    また、裁判員制度について考えさせられました。自分には当たらないだろうと安易に考えていましたが、いざそうなった場合に自分ならどのように考えるか、冷静な判断がつくのか・・・心構えを持っておくことも大切だと思いました。真面目な一冊。

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著者プロフィール

本名、伊藤秀樹。1958年、福岡市生まれ。
小学生の頃は父の仕事の都合で九州各地を転々。東京都立日野高校、法政大学卒。 個人事務所(株)ランブリン代表。NPO法人西荻コム理事長。西荻ブックマークスタッフ。季刊ノンフィクション雑誌「レポ」編集・発行人。

「2011年 『【電子書籍版】昭和が終わる頃、僕たちはライターになった』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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