平日 (文春文庫 い 83-1)

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (263ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167801793

作品紹介・あらすじ

月曜日。駅前広場にソースの香りが、吹きだまる。木曜日。踏切のまえで待つ男に追いつき、女がならぶ。水曜日。御殿山に日はかたむく。金曜日。通勤電車は、スカートの女が多いことになっている。「平日」の東京が見せる豊かな表情を活写。ときに妖しく、ときに切なく、ときに奇妙なユーモアに満ちた珠玉の文章群。

感想・レビュー・書評

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  • 今も昔も関西暮らしだが、東京へ何年か赴任したことがあった。帰任することが決まり最後の休みにどこへ行こうかと思って、上野動物園へ繰り出してみた。人気者のパンダはその時はおらず、冬だったこともあってか全体的に静かに感じた。

    石田千さんの「平日」は上野から始まる。そこにはどんな上野が書かれているだろうと思ったが、まるで知らない姿がそこに表れる。でも、きっとこういう風景があったはずだと思ってしまう。こういうものを書かれる方だと知らなかったので、かなり驚いた。

    アルバムを見ているような本である。一つ一つ石田さんの体の中に入ったものが変換工程を加えられて出ていく。工程、と言ったけれど本当に次々と出てくるのである。これが驚くところ。中には動物や他の人の視点を借りることもあるのだけれど、やはり石田さんの五感が感じられる。語彙というか、言葉のいろいろな運用の仕方を知っている、という感じもある。

    会社人間になってしまうと、平日の街の昼の雰囲気に触れることが少ない。でも確かに平日は違った顔をしているはず。タイトルを「平日」ってしただけで目の付けどころのよさを感じる。

    円山町の一編は村上龍さんの『トパーズ』なんかと合わせて読んでみたいなあと思う。
    石田さんの本はたくさん出ているようでこれから楽しみだ。

  • エッセイと小説の間…現実と虚構、光と薄暗さが同時に存在するこんな混沌さが東京かぁと思いました。面白かったです。
    平日だから普段の顔かと思いきやそうでもなく、どこか旅先のような気分です。東京はいまだに訪れたことがないけれどますます行きたくなりました。
    あとがきにあったように、本当に書き手の性別も年齢もわからない不思議な文章です。石田千さん、好みです。
    写真の東京の切り取り方も好きです。1枚目に写ってるアコーディオン弾きながら歌ってるかた、黒色すみれのゆかさんにそっくり……文字は見えないけれど彼女はゆかさんでは?

  • 土地によって印象が全く異なる。東京ってすごいなあ、著者の感性もすごいなあ。著者は東京を「傍観」している様で、著者の綴る風景は当たり前のもので、確かに東京にあって、それは歴史であり、人の営みであり、人と人との関わりであるのだと思った。
    実は5年くらい前に購入した時、東京のことよく知らないからか上手くイメージできず進まなくて、数ページで読むのをやめた本だった。今も東京のこと全然知らないけど、5年という歳月でこの本を楽しめるようになって、とても嬉しい。

  • 平日の東京をぶらりと連れられ歩いているような、ゆるやかな雰囲気。
    エッセイと言うよりは短編集。
    写真はクラフト・エヴィング商會さんとよくお仕事をされている、坂本真典さんでした。
    見たことがあるわけではないのに、何処か懐かしいような街並み。

  • 都内の10の街を舞台に綴られた物語と、はとバスの小さな都内旅のレポートが収録されています。

    最初は、単なる散策記録かと思いましたが、3編目の「早稲田」で、いきなり語り手が猫になり(しかも古本屋の奥さんという設定)ああ、一人称の物語なのだと気づきます。

    それにしても、古本屋の妻である猫、時々人間になって、たい焼きをかじり、雀に端を投げてやったりしており、なんて羨ましい!
    (これから、何になりたいか聞かれたら、この短編の猫になりたいと答えよう)

    たぶん、ご本人が街を歩いて感じたことや、考えた内容や、見た風景も混じっているとは思いますが、幻想的な部分も多く、「それぞれ違う主人公がいる」と考えた方が面白く読めるな、と思いました。

    早稲田(古書店とその界隈)と十条(商店街)と平和島(ボートレース)の話が特に気に入り、平和島には行ったことがないので、一度は行って、ボートレース(ギャンブル)もやってみたくなりました。
    石田さんの描く街は、現実より三割り増しぐらいで魅力的に感じられるので、行ってみると「あれ?」となるかも知れませんが。

    普段と変わらない日々、日常の中にも、気づくことはいっぱいあるなあ、ちょっとしたきっかけから想像力を飛翔させることができるんだなあ、とあらためて感じました。
    そこまでは多くの人ができるでしょうが、著者はその切り取り方、展開の仕方が独特で、ぶつ切れ気味の文章とマッチしていて魅力です。

    また、観光バスに乗った話は、クリスマスイブに一人で参加しているという設定で、一度真似してみたくなりました。(でも、一人は淋しいな、女同士がいいなあ)
    冬ということもあるのでしょうが、やたらとトイレに行っているのと、皆が集合時間より早くバスに戻っているというのが可笑しかった。

  • 2014/04/14

  • 言葉の選び方が独特で、ゆっくりかみしめて読むのに相応しい文庫。
    「むかいのワシミミズクのメスは、仲代達矢にそっくりだった。」

  • エッセイと見せかけて、小説。
    小説と見せかけて、韻文。
    本当と嘘と虚像と現実が混ざり溶け込む優しい東京の一日。

  • 2012 5/27

  • 本屋さんの文庫新刊のコーナーで、平積みされたシンプルな表紙に目を惹かれ、裏表紙にある短い紹介文のみをみて購入。

    著者の男女も分からないままに読みはじめました。
    読みはじめても、銭湯に入る件までは判断がつかなかったりしました。
    そんなことは気にならぬほどに、少し意地悪で、独特な綺麗な文章に引き込まれました。

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著者プロフィール

石田千(いしだ・せん)
福島県生まれ、東京都育ち。國學院大學文学部卒業。2001年、『大踏切書店のこと』で第1回古本小説大賞を受賞。「あめりかむら」、「きなりの雲」、「家へ」の各作品で、芥川賞候補。16年、『家へ』(講談社)にて第3回鉄犬ヘテロトピア文学賞受賞。16年より東海大学文学部文芸創作学科教授。著書に『月と菓子パン』(新潮文庫)、『唄めぐり』(新潮社)、『ヲトメノイノリ』(筑摩書房)、『屋上がえり』(ちくま文庫)、『バスを待って』(小学館文庫)、『夜明けのラジオ』(講談社)、『からだとはなす、ことばとおどる』(白水社)、『窓辺のこと』(港の人)他多数があり、牧野伊三夫氏との共著に『月金帳』(港の人)がある。

「2022年 『箸もてば』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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