私のマルクス (文春文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (414ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167802011

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  •  鈴木宗男事件で有名な元外交官、佐藤優氏の思想的自叙伝。浦和高校、同志社大学神学部時代を回想しつつ、当時の著者のマルクス主義や神学への思索を綴る。個人的には、当初佐藤優氏に対しては非常にネガティブなイメージをもっていた。しかし、その新聞や雑誌での評論などを読むたびに、分析の鋭さ、知識量の多さに唸らされることが重なり、この本を手に取ってみた(このようなタイトルの本ですが、私自身はマルクス主義者ではないことを断っておきます)。
     もちろん私と著者とでは、考え方の異なるところがたくさんあります。また内容的にも、マルクス主義についてはまだしも、神学については私には予備知識がないに等しいためかなり難解なものであったが、非常に知的で面白い本だった。世に保守派といわれる人はたくさんいるが、その中にこれほどの知識量、思考力のある人は一体どれくらいいるのだろうか。
     また、高校時代に当時の共産圏へ一人旅をする、「無神論」を学びたくて同志社大学神学部へ進む、そして民青の学生に極めつけの嫌がらせをしたなど、著者の型破りな青春物語は読んでいて素直に面白い。そして、作中にて著者が仲間や先生と頻繁に訪れる祇園のロシア料理店・キエフへは、この本でそのような場面を何度も読んでいるうちに私自身も訪れてみたくなった。

  • 私が今もっともはまっているといってもいいかもしれない、佐藤優の回想記。「私のマルクス」という題名だが、マルクス論というよりは、自身の高校、大学時代の回想記、という趣のほうが強い。時系列的にいえば、「先生と私」、「十五の夏」の次だ。まさに、私が知りたかった時についてだ。東欧・ソ連を旅した優君が、いかにして佐藤優になったのかが非常によくわかる。あらゆる面ですごい人だということを再認識させられる。佐藤優について、もっと知りたい。続いて、「国家の罠」を読み始めた。

  • 小生は「神学」は全く知らないし、「マルクス」も入り口しか知らない様なものだが、それでも著者の知的遍歴が凄いことは理解出来る。
    1980年頃の京都・同志社大学の騒然たる雰囲気は、まるで70年代の東京の様である。何とも懐かしさをも覚えるが、京都では80年代にもなってもあの状況が続いていたのかと驚いた。
    それにしても著者はよく外務省に採用されたものだ。よほど当時の調査が甘かったのか、それとも組織の懐が深かったのか。
    本書は同時代を生きた人間にとっては興味深いが、それ以外の読者には理屈っぽいと敬遠されるのではないかとも思った。しかし小生には読んで興奮する本であった。

  • もっとマルクスに関する説明や考察がたくさんあるのかと思いきやほとんどが青春時代の想い出や神学論に終始してたように思う。 梯子を外された感はあるけど内容自体は読み応えがあった。 神学論の下りに関しては、相変わらず自分には難解だったかな。

  • 佐藤優の青春期。
    なぜマルクス主義に傾倒していったのか、なぜクリスチャンになったのかが克明に語られている。自ずと佐藤優氏の思想、考え方の土台がわかる格好だ。

    解説が中村うさぎ? というのが疑問だったのだけれど、読んでみると敬虔なクリスチャンであり、キリスト教で禁じられているようなこと(整形、売春、買い物依存など)を実践する中村うさぎは神学を揺さぶる存在なのだそうだ。



    (高校時代の恩師に進路について相談したところ」
    <blockquote>「重要なのはほんとうに好きなことが何かです。ほんとうにすきなことをやっていて、食べていくことができない人は、私が知る限り、一人もいません。ただし、ここで重要なのはほんとうに好きなことでなくてはいけません。中途半端に月なことでは食べていくことができません」(P.119)
    </blockquote>

    <blockquote>マルクス主義は世界観である。従って、マルクス主義を受け入れるためには無神論も受け入れなくてはならない。(P.206)</blockquote>

    <blockquote>官僚が忠誠を誓っているのは国民ではありません。官僚は官吏服務規律の世界に未だ生きています。すなわち天皇に対して中性を誓っているんです。ただしポツダム宣言受託後、天皇に政治的な機能がなくなったことは分かっていますから、抽象的な国家に対して中性を誓っています。国民ではないんです。では抽象的な国家は誰が担っているのか? 完了であります。ですから完了は完了に忠誠を誓っているわけです。(P.363)</blockquote>

  • 佐藤優が、学生時代の出来事について書いたもの。彼の鋭い論調と激しい性格が形作られた背景がよくわかった。学生時代に多くの本を読み、多くの人と付き合い真剣に議論し、死ぬ気で闘った体験はすさまじい。その熱意と行動力に驚かされた。誰でも、何か人間の核をつくる「本」を読んでおかなければいけないという、彼が平素から口にする言葉の意味をよく理解できた。
    「私の理解では、マルクスは資本主義が自立した円環をなすシステムで、産業社会においてこのシステムを壊すことは、ほぼ不可能なくらい難しいことを論証したのだ」p14
    「(マルクス経済学を学ぶことで)資本主義システムの内在的論理と限界を知ることが重要なのだ。時代を見る眼から恐れと不安を除去するために二十一世紀初頭のこの時点で「資本論」を中心にマルクスの言説と本格的に取り組む意味があるのだ」p15
    「二次大戦で600万人のユダヤ人が殺された。ただユダヤ人であるという理由だけでだ。そのときどの国家もユダヤ人の命を助けてくれなかった。この物語の持つ意味はわれわれ(ユダヤ人)にとって大きい。僕たちは、他人に同情されながら絶滅するよりは全世界を敵に回してでも生き残ることを選んだ」p24
    「中学生時代もいわゆる学校秀才型の生徒とは肌合いが合わず、学校では暴走族予備軍のような元気がいい連中と仲良くしていた。これには2つの理由があった。まずこの元気がいい連中は、教師に告げ口をせず、身内を守る。互いに助け合い、仲間内の掟に忠実で、この感覚が私の性に合ったからだ。第二の理由は、私の狡さを反映しているのだが、番長格の参謀役をつとめていると攻撃させることがないからだ。元気がいい連中とのつきあいを通じ、私は安全保障とはどういうものかを体感した」p38
    「この(予備校の)教師は受験勉強は理解ではなく暗記に尽きるという哲学の持ち主で、徹底的な詰め込み教育を行った。知識を徹底的に詰め込むと、ある段階から知識自体が動き出し、自分の頭で考え始めるようになることを私は学習塾で体得した」p38
    「人間は環境への順応能力が高い保守的動物なので、どのような体制にでも適応して、それなりに快適な環境を作っていくことなのだと思う」p55
    「外務省内部の派閥抗争、路線闘争に熱中しているときも、いつも神学生時代に同志社大学で経験した内部抗争を思い出し、私自身を含め人間は本質的なところで進歩したり成長することはないのだという確信を深めた」p220
    「今や収奪されるべきものは、もはや自営的な労働者ではなく、多くの労働者を搾取しつつある資本家である。この収奪は、資本主義的生産自体の内在的法則の作用によって、資本の集中によって、実現される。つねに一人の資本家が多くの資本家を滅ぼす」p281
    「もし近未来に4人が再会し、再び議論を始めれば「資本論」が解明した資本主義の内在的論理は正しいという結論に至ると私は信じている」p285
    「マルクス主義の本質はヒューマニズム」p373

  • 素晴らしい。同じ京都の大学に通っていたものにとっては共感する部分がある。

  • 浦和高校時代から同志社大学神学部で学生運動にかかわりながらマルクスとキリスト教神学を学んだ時代を語った、著者の自叙伝です。

    著者には、キリスト教神学、マルクス主義、国家主義という、容易には結びつかない3つの思想的根拠がありますが、その中でも著者の思想の根幹となっていたのは、やはりキリスト教だったということが分かります。神の前での自己批判を求めたカール・バルトの主張を、著者が学んだチェコの神学者フロマートカは、無神論者を含む隣人の前で自己批判することとして受け止めました。そしてこの態度こそ、マルクス主義と真摯に向き合い、やがて「人間の顔をした社会主義」の運動につながったと著者は論じています。

    また、著者が宇野弘蔵の経済学から大きな影響を受けたことも、本書の中で語られています。著者は宇野の立場を、資本主義の内在的論理を捉える「科学」(Wissenshaft)としての経済学として捉えます。革命を志向するイデオロギーとしての唯物史観から科学としてのマルクス経済学を切り離すことで、マルクスの言説とキリスト教神学を接合する道が開かれることになります。

    他方で著者は、廣松渉の物象化論=関係論より、人間学的マルクス主義の疎外論の思考に親近感を抱くと述べています。著者にとって「科学」としてのマルクス経済学は、あくまでキリスト教神学と接合可能なものでなければならない以上、廣松やアルチュセールの構造主義的な発想とは相容れないのも、考えてみれば自然なことのように思います。

  • マルクスについてというより、佐藤優の思想の変遷。影響を与えられた幼少期のエピソードを、同志社大学神学部自体を中心に綴っている。凄まじい人生。人との出会い、自らの好奇心で突き進む道、正義感が齎す学生運動への関与。外務省入省への決断。

    難しい思想を理解し、人生を複雑化し語るのは正しいだろうか。事物には連関性があり、個々の事情を考慮すれば、複雑さを伴う。その事情に秩序を齎すのが、政治システムであり、経済システムであり、宗教であろうか。それらは、所詮、共通の概念に過ぎず、フィクションだ。フィクションを皆で信じる事により、実存化する。

    神とは何か。神もまた、偶像に過ぎず、人の頭の中に生まれた解釈であり、記号に過ぎない。こういう考えは、浅いだろうか。

  • マルクスの両親はラビの家系だった。
    ドイツでは総合大学と称するためには神学部を擁している必要がある。この伝統は無神論国家を標ぼうしていた東ドイツでも引き継がれいていた。

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著者プロフィール

佐藤 優(さとう・まさる)
1960年東京都生まれ。作家、元外務省主任分析官。1985年、同志社大学大学院神学研究科修了。外務省に入省し、在ロシア連邦日本国大使館に勤務。その後、本省国際情報局分析第一課で、主任分析官として対ロシア外交の最前線で活躍。2002年、背任と偽計業務妨害容疑で逮捕、起訴され、2009年6月執行猶予付有罪確定。2013年6月、執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失った。『国家の罠』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『人をつくる読書術』(青春出版社)、『勉強法教養講座「情報分析とは何か」』(角川新書)、『僕らが毎日やっている最強の読み方』(東洋経済新報社)、『調べる技術 書く技術』(SB新書)など、多数の著書がある。

「2022年 『世界史の分岐点』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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