氷平線 (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 562
レビュー : 71
  • Amazon.co.jp ・本 (262ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167836016

作品紹介・あらすじ

真っ白に海が凍るオホーツク沿岸の町で、静かに再会した男と女の凄烈な愛を描いた表題作、酪農の地を継ぐ者たちの悲しみと希望を牧草匂う交歓の裏に映し出した、オール讀物新人賞受賞作「雪虫」ほか、珠玉の全六編を収録。北の大地に生きる人々の哀歓を圧倒的な迫力で描き出した、著者渾身のデビュー作品集。

感想・レビュー・書評

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  • 桜木紫乃さんの初単行本である短編集。
    6つの短編全て舞台は北海道(主に釧路)で、一筋縄ではいかない男女の関係が描かれている。以前読んだ「誰もいない夜に咲く」とも通じる部分が多かった。
    前も思ったけれど風景の描写が素晴らしくて、それも北海道の雄大な景色とかではなく、寒々しい北国の港町だとか裏ぶれた田舎町の描写で、読みながら寂しいモノクロの町が目の前に浮かんでくるみたいだった。

    幸せ、とは呼べない男女であったり夫婦の関係。人は根本的には独りだからこそ、誰かと寄り添ったり縋ったりしたくなる。
    性描写もほぼ必ず出てくるけれど、そのシーンが何よりも一番寂しい。欲望というより、どうしようもなさを感じた。

    女性歯科医がだらだらと付き合い続けた院長との関係を精算して僻地の診療所で新しい生活を始める「水の棺」と、窮屈な田舎町を出て東京で出世したけれど地元で一度関係を持った売女のことを忘れられない男が主人公の表題作がとくに好きだった。両方寂しくて、寒々しくて。

    どこか鬱屈とした地方の町で生まれ育つと、そこから抜け出したい気持ちを多くの人が持つはずで、飛び出すのも留まるのも自由だからそこで道は分かれるけれど、外の世界に憧れながらも留まる理由を作ってそこに居続けるという矛盾した感情もあったりする。
    私自身地方の町で生まれ育ってるからすごく解る。外に出るか留まるかで、本当に大きな隔たりが生まれるから。
    そういう鬱屈としたものが全体に漂っている小説で、苦しいけれど共感出来た。

  • 桜木さんが生れ住む北海道を舞台に、男女の愛を描いた短編集。
    「雪虫」「霧繭」「夏の稜線」「海に帰る」「氷の棺」「氷平線」の6編。

    それにしても独特の雰囲気を持った上手い作家さんだと思う。
    この人の描く北海道はいつもどんよりと重く、性愛を通して描く男女の愛はひたすらやるせない。
    一度嵌り込むとなかなか抜け出せない様な魅力が有ります。

    ”関係”とか”結末”に”血”や”業(ごう)”をかき混ぜて発酵させると”因縁”とか”宿命”が出来る。
    物語をじっくり深く発酵させるのが桜木さん。酸味が強くなった古漬け。味わい深い。歌で言えばPopsでは無く艶歌・怨歌の世界。
    しかし、私の好みは浅漬けなのです。
    そんな訳で少し離れていた桜木さんですが、ある人のレビューをきっかけにこの本を読みました。

    2007年発刊の桜木さんのデビュー作です。
    そのせいなのでしょうか発酵度合いはやや浅く、平均すれば私の範囲内。
    なかなか読み応えがありました。

  • 北海道の美しい情緒と男女のなんとも言えない重苦しい情念がわざとらしくなく、描かれている
    全体にちょっと昔の邦画を見ているような、懐かしくも重苦しい、美しくも暗いそんな読後感であった
    仕事の描き方もリアリティーがあってよかった
    短編集ながら、印象深い作品

  • 北海道の凍てつく寒村を舞台とした、6編からなる短編集。

    作者の作品を漏れなく読もうと思い手に取ったのだが、デビュー作品集とは思えないほど、すでに独自のカラーが確立していて驚いた。
    逃げ場のないどんよりとした灰色の空と海を背景に、あきらめをまとった主人公たちが無表情に生きている。淡々と描かれる底なしの哀しさと、熱を帯びた生々しい息づかいとが交錯して、どの作品も人物像が立体的に浮かび上がる。見事だ。

  • 桜木紫乃さんのデビュー作である【雪虫】を含む第一作品集。
    【ホテルローヤル】で直木賞を受賞されるまで、桜木紫乃さんのことは全く知らなかった……
    この本が4冊目。
    男女のどうしよもなく切ない関係が胸に響く。
    桜木さんはインタビューで『知らない空は書けない』と言われているそう。
    その言葉が作品から伝わってくる。
    桜木さんの作品は舞台が北の大地だからなお読む人の胸に染みるのだと思う。
    他の作品も読んでみよう。

  • 既に「起終点駅(ターミナル)」と「誰もいない夜に咲く」を読んでいるので、デビュー作の本作は読む順番を明らかに間違えていた。
    しかし、表題作は作者の中でもとても良かった。普段と作風が違うような印象を受けたが、それが良かった。少し駆け足のような感じがしたし、最後のシーンは唐突で、そこが目新しくも後味がなんとも絶妙だった。

    他だと、「海に帰る」の床屋の師匠から「いいか、失敗したなと思っても、その素振りはは絶対に見せちゃいけない。謝ることで楽になったぶん、客は不満を持つんだ」「恥はお前だけのものだ。満足させるんだ。それが技術じゃないのか技だけじゃ何も作れないぞ。人間相手なんだからな」サービス業で働いている者としては耳が痛かった。

  • モノトーンなのに鮮やか。冷たいけど生々しい。
               (瀧井朝世さんの解説より)

    ​忘れられない思いの作品だったので、再読しました。
    しかし、
    自分の3年前の感想​​を見ますと、忘れられない作品と思ったわりにはあっけらかんとブログしておりました。

    特に短編6篇(「雪虫」「霧繭」「夏の稜線」「海に帰る」「水の棺」「氷平線」)のうち最初の「雪虫」が何とも言えずいいのです。オール読物新人賞デビュー作だそうで、これで世に出ましたという作品だからでしょうか。そもそもの桜木さんワールドのはじまり。

    どんな風にいいのか?ストーリーがうまい。情景が湧いてくる。
    芳しい牧草の中での交歓、牧歌的風景。高校以来付き合ってるいい年の男女の紆余曲折。
    持っていかれる感情。明るい中の哀歓をかみしめたくなる。余韻が嫋々とそして納得する。

    *****
    <3年前の感想>

    桜木紫乃さんの短編集『氷平線』と『誰もいない夜に咲く』にはまって

    「格差社会の現代の片隅に生きている」短編の主人公たち(『誰もいない夜に咲く』解説)
    「一億総中流」の昭和に駆け抜けたわたしからみれば、「庶民の哀歓」になる
    やっぱりちょっと古いかなあ(笑
    つまり、いつの時代も庶民は悲哀に満ちた人生を送っている、ってこと

    主人公たちが
    けしてお金持ちではなく、家庭が崩壊しかけてるか、肉親同士が解り合えず
    夫婦円満でないか、離婚してるか、恋人フラれているか、さびしい、きびしいひとり身か

    しかし
    この作者の短編の数々が一見「暗いものがたり」を編んでいるようにも
    背景にからっとした空気の北海道の風景がそこはかとなくはめ込まれてあるので
    そこに目が行く、目だけで無く、そこへ旅行したくなる不思議さ

    その風景の中で哀歓をかみしめてみたい、なんてさ
    だからうまい作家ってことになるのだけれど

    北海道がからっとしているという感想もわたしの幻想なのかもしれない
    霧の摩周湖は行った時、ほんと霧で何も見えなかったしね(笑

  • 北海道が舞台の短編集。
    どんよりと空が曇って、霧の雫と雪が窓に積り、モノトーンで見える景色が読む手さえもかじかみそう。
    個人的には「夏の稜線」が共感出来た。無事に東京まで辿り着いて欲しいと思った。本当に、望んで此処にいる人は、一体どれくらいいるんだろうか。
    表立っては書かれていないけれど、「依存」という言葉がどれも当てはまる気がしました。違う筆者を勝手に比べるのはアレですが、「ふるさと銀河線」が陽なら、この「氷平線」は陰かな、と思いました。表側と裏側、という感じで紙一重だと感じました。

  • 霧繭が良い
    和裁で生計を立てる主人公の仕事の仕方が凛として、本人の意識しない美意識を、感じさせる。
    表題作の水平線は、悲しい。傷ついた母親は、気がつかずに息子の恋人を傷つけて、絶望させてしまっていた。どちらも主人公を守ろうとしていたのに。

  • モノトーンなのに鮮やか。冷たいけれど生々しい。確かにそうだ。どの作品にも絶えず薄暗い雪雲がかかっている印象があるが、時折きりりとした原色が現れる。北国の透明な冷たさと、そこに生きる人々の体温を同時に感じさせる。ある種の諦念を持った芯の強い女性像と、流氷の上を歩くシーンが印象的。表題作『氷平線』と、新人賞受賞作の『雪虫』が特によかった。

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著者プロフィール

1965年北海道生まれ。2002年「雪虫」で第82回オール讀物新人賞を受賞。07年、同作を収録した『氷平線』で単行本デビュー。13年、『ラブレス』で第19回島清恋愛文学賞、『ホテルローヤル』で第149回直木三十五賞を受賞。『ワン・モア』『起終点駅(ターミナル)』『ブルース』『それを愛とは呼ばず』『霧(ウラル)』『裸の華』『氷の轍』『ふたりぐらし』『光まで5分』『緋の河』等、著書多数。

「2020年 『砂上』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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