- Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167842017
作品紹介・あらすじ
ユニクロ側が二億二千万円の損害賠償で提訴、一審敗訴した問題の書大型旗艦店を続々開き、世界に覇を唱えるユニクロ。だが、その経営哲学は謎に包まれている。創業者・柳井正の栄光と蹉跌とは――。
感想・レビュー・書評
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ユニクロおよび柳井社長批判の書である。著者は、ユニクロから名誉棄損で訴訟を起こされたことでも有名になった(正確には被告は文藝春秋社)。本書の刊行は2011年でかなり前の出版になるのであるが、いまだ成長を続けるユニクロという会社の成功の源泉が、逆説的に批判の書でもあるこの本にあるのではと考えるところがあり、この本の賞味期限は少し過ぎているかもしれないが手に取ってみた。
本書は、『成功は一日で捨て去れ』『一勝九敗』といった柳井さんの著作や、著者が一度だけ実現させることができた柳井さんへのインタビュー、元ユニクロ社員や中国提携工場職員へのインタビューなどを踏まえて進行する。山口の中小商店から、全国展開し、SPAという業態に可能性を見い出して、それを徹底するところは成功譚として読む価値がある。一方で、著者はユニクロで働く人が搾取されているのではないか、その独裁的な企業運営はリスクがあるのではないかと批判的に描いている。
例えば著者は、財務的には万全にもかかわらず、いまにもつぶれそうなことを言って社員やアルバイトを鼓舞する柳井さんのやり方について否定的だ。それは、著者にとってはユニクロをブラック企業として告発するために必要なポジショニングトークでもあるが、経営哲学的な観点ではある意味では、経営者として正当なものであるのかもしれないし、その姿勢こそが成功の鍵であったとも言える。いわく、
「会社というものは、何も努力しなければつぶれるもの。常に『正常な危機感』をもって経営しなくてはいけない。会社を成長発展させようと考えたら、『現状満足』は愚の骨頂だ。現状を否定し、常に改革し続けなければならない。それができない会社は死を待つだけである」
このとき以降特に最近、多くのアパレルが新型コロナの影響を受けて倒産した。日本ではレナウンが倒れたが、海外でもブルックス・ブラザーズ、J.Crew Group、J.C.ペニー、ニーマン・マーカス・グループ、と多くの会社の倒産が続いている。これらは、自社の改革ができず長い間変われないまま、巨大SPAやECサイトに押されてもともと業績が厳しかったところに、新型コロナで最後の一押しをされた形だろう。それがユニクロにも同じことが起きないとも限らない。『現状満足』は愚の骨頂だ、に柳井さんの多くの意志が込められているように思う。
これは、著者が特に批判する2005年の自らが後継者として指名した玉塚社長更迭人事とも整合する。柳井さんはインタビューの中で、成長より安定を望んだから更迭したと言った。著者は、玉塚社長時代の事業成績は決して悪くないし、柳井さんの時代でもよほど悪かったときもあると指摘するが、それは論点がやはりずれているのである。果たして玉塚さんがどういう観点で安定を望んだのかどうかは知る由もないが、著者は事業成績よりもそこを問題にすべきだったのではないか。柳井さんは成長よりも安定を望んだことはなかった。そして、それを徹底できるのは、柳井さん自身が会社の大株主であるからこそであったのである。
また、著者は柳井さんが社員に多くを求めすぎる点についても批判する。10年後(2020年に当たる)には売上高五兆円を目指すと掲げたことに対しても証券アナリストの声として次のように記述する。
「会社としての目標を高く掲げることで、社員からチャレンジ精神を引き出して、ビジネスに対して今までとは別の切り口の発想を求めているんだと理解しています。しかし私には、目標が高すぎるように思えるし、それに伴う負荷とプレッシャーも大きくなりすぎて、働く人と組織が疲れているように思える」
このアナリストは柳井さんの経営手腕を高く評価しているとされていることから、これが正当な発言の切り取り方であるかはわからないのだが、目標を高く上げてストレッチするのは、現代のビジネス的にはリーダーの正しい役目である。
元店長の言葉として、次のように紹介する。
「柳井さんの話は意外なくらい具体性に乏しい」と言う。それでも、「業績が良かろうが悪かろうが、常に反省を強いて、それによって目線を高くして商売に取り組ませる。一言で言えば、言い訳を一切許さない企業カルチャーだね」
しかし、その例として「『考えます』、『努力します』という回答は絶対にしないで頂きたい」と言ったことを挙げている。強いプレッシャーをかけていることを伝えようとしているのだが、それはまた当然のことなのではないか。
「店長の仕事で一番大事なのは「売上高と利益の極大化」である」というのも、ある意味では当然のことだ。
もちろんそういったことが、店舗や工場の劣悪な労働環境につながっていることが、批判されるべきところではある。そしてそれが、本書の主旨なのだろう。それはそれで改善されるべきなのだろう。離職率が高い点も経営リスクではあるだろう。後継者が育っていないところも中長期で見ると指摘されるように課題となることだろう。
しかし、それ以上に著者の意図におそらく反して、ユニクロと柳井さんの成功の理由がとてもよくわかったような気がするのだ。
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『ユニクロ潜入一年』(横田増生)
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4163907246詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
経営の特徴と歴史、関係者の証言をもとに調べられた柳井正の来歴と人間性、国内外の労働者たちの目から見たユニクロなど、多方面からユニクロの在り方に迫ったルポルタージュ。巻末には単行本刊行後の本書への提訴とユニクロ側の完全敗訴を伝えるとともに、関係者への調査が追加されている。
タイトルは「光と影」だが、主に「影」の部分を伝えることを目的としたルポといえる。そして本書によれば、その企業の性質からユニクロに迫るということは結果的に経営者として全ての権限を握る柳井正がどのような人間であるかを知ることに直結する。つまりは、経営者としての柳井氏の暗部を浮き彫りにすることが本書の骨子となっている。
一社で全行程を支配するSPAというビジネスモデルによって、それまでのアパレル業界の虚飾を剥がし大きな成果を上げたユニクロだが、その成功は労働者の人間性を無視することにも拠っていることを伝える。職場としてのユニクロはマニュアル万能で上意下達の軍隊的な組織によって成り立っており、長時間労働が常態化し、監視のプレッシャーが強い職場は、継続的に多くの従業員が入れ替わる。著者はそのような組織の原点を、柳井氏と亡父との峻厳な親子関係に求める。柳井氏が話したり、自著で書いていることが、その行動と一致しないことが多いことも印象に残る。そのほか、柳井氏へのインタビューをはじめ、中国の縫製工場労働者への聞き取りや、柳井氏がライバル視するZARAとユニクロとの違いなども紹介している。
序章で著者が紹介している、アマゾン物流センターでの「効率化を掲げるIT企業の舞台裏で行われている労働が砂を噛むように味気ないという現実」を考え合わせると、経営としての正解が労働環境としてのそれとは直接的に何の関係もないという事実を、改めて思い知らされる。 -
ユニクロでシームレスボクサーブリーフを買った帰りにブックオフにあったから読んでみた。そんなに興味のない柳井正について無駄に詳しくなってしまった。10年前の本なので今のユニクロの体質がこの時のままなのかには興味がある。この著者のアプローチは公平でなかなか好感が持てる。ZARAとの比較の部分がめちゃくちゃ興味深くて良い切り口だと思う。ZARAは正社員にちゃんと人件費を払っててユニクロはそうじゃないってのはいいコントラストだよなあ。柳井氏から店長たちに対して慰労の気持ちが見えないのはなかなか残念だね。
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どうしても影が目立ってしまう内容でした。
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ユニクロの衣類を愛用している私には非常に興味深い本だった。
ファーストリテイリングの柳井氏はオーナー創業者兼最高経営者なので
この本に書かれているようなことを実際にやっているのだと思う。
どうすれば社員一人一人にまで仕事にやりがいを持ってもらうことが出来るのか?
非常に難しい問題である。
私はとても経営者になれる気がしない。 -
【文章】
読み易い
【ハマり】
★★★★・
【共感度】
★★★・・
【気付き】
★★★・・ -
ユニクロは柳井さんの王国なんだな。
国内編の働く人が面白かった。
社長が何億もの役員収入もらってて、従業員の実情がこんなで、よくみんな辞めないなぁ。