小さいおうち (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
3.84
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本棚登録 : 3729
レビュー : 549
  • Amazon.co.jp ・本 (348ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167849016

作品紹介・あらすじ

直木賞受賞作品が文庫化!
小さいおうちは中島京子さんの小説です。2014年に山田洋次監督によって映画化もされている作品です。昭和初期の東京を舞台にした作品で当時の街や人々の暮らしなどが描かれています。女中のタキの視点で坂の上の小さい家で暮らす人たちを中心に物語は進んでいきます。戦争によって少しずつ時代に流されていく家族の物語です。

感想・レビュー・書評

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  • 昭和の初期から戦争が本格化する時代にかけてが青春だったという一人の少女・布宮タキ。
    タキは昭和5年、家族の口減らしのためわずか13歳で故郷山形の農村から上京し
    女中として働くことになる。

    元々好奇心旺盛で田舎を離れて上京する事に期待さえあったタキは、持ち前の
    気転のきく賢さで女中としては重宝がられ、幾つか奉公先を変えながらも
    長年に渡り女中として仕える生涯を送った。

    やがて老境を迎えたタキは女中としての生涯のうち、決して忘れることのできない
    ある一軒の家族に仕えていた時のことを大学ノートに書き記すことを始める――。

    赤い瓦屋根のモダンな家。それは"小さいおうち"ではあったけれど、女中タキには
    女中部屋が与えられ、玩具会社の役員の旦那様と時子奥様、恭一ぼっちゃんの
    三人の家族に仕え、中でも時子には誠実に尽くすことを誇りにしていた.....。

    晩年のタキが回想録を書き記している現在の暮らしと、女中として仕えていた
    娘時代のタキの暮らしとが交互に描かれた戦時中の昭和から平成に至るまでの
    時代の移り変わりは、決して平坦ではなかったはずなのだけれど、タキの過ごした
    "小さいおうち"での暮らしには、優しく穏やかな愛おしさに包まれた温かなぬくもりが
    感じられます。

    赤い瓦屋根の"小さいおうち"での暮らしが生涯で一番忘れられない想い出であるタキ。
    だけどその赤い瓦屋根の"小さいおうち"が生涯の心に残る想い出であった人は
    実はもう一人ひっそりといたということが哀愁を漂わせる、しっとりと美しい物語です。

  • 最終章『小さいおうち』の頁をめくって数行に目を通す。
    「この物語を読み続けてよかった」読書の悦び。
    読了。
    本を閉じて表紙をじっと見る。じーっと見る。
    「ああ」
    ため息とも感嘆ともつかない、こみ上げてくる何か。

    なんとなく、女優の故・高峰秀子さんのエッセイを思わせる「タキおばあちゃん」の手記から始まる導入。
    そして、尋常小学校を卒業して「女中」として東京に出た、昭和五年から始まる「タキちゃん」の物語。

    現代に生きる僕らが想像する「女中」よりも、どちらかというと「お手伝いさん」と呼んだ方がイメージにしっくりくる。

    赤い三角屋根の文化住宅、桃の缶詰を使ったムースババロア。
    鎌倉の大仏に、翡翠色のワンピースと麻の日傘。
    資生堂の花椿ビスケットと『みづゑ』の特集記事。
    明るく利発なタキちゃんと、元気でお洒落でユーモアもある時子奥様との日々は、銀の器にのったフルーツの盛り合わせのように総天然色できらきらと眩しい。
    「戦争に塗りつぶされた暗い時代」という単一のイメージで語られがちな昭和初期の東京における家庭や日常の風景を、女中・タキの目線から描き出す、とは巻末の言葉。

    そしてひそやかな愛の記憶、とは帯の文言。
    「頭のいい女中」の話。
    読み終わった僕の頭のなかでは、いろんなことがぐるぐる回る。

    再び表紙に目を落とす。
    秘密のノートとタキちゃんも『小さいおうち』の内と外、だったのかもしれない。

    • kwosaさん
      ayakoo80000さん

      読み終えたらぜひ感想を教えてください。
      レビュー楽しみにしています。
      ayakoo80000さん

      読み終えたらぜひ感想を教えてください。
      レビュー楽しみにしています。
      2013/01/09
    • MOTOさん
      こんにちわ。

      私は、この本は購入し、手元においてある本でしたので、
      ひじょ~にゆっくりじっくり時間をかけて読みました。
      なので、
      今、改め...
      こんにちわ。

      私は、この本は購入し、手元においてある本でしたので、
      ひじょ~にゆっくりじっくり時間をかけて読みました。
      なので、
      今、改めてkwosaさんのレビューを読んで、
      まだ、初々しいタキさんと奥さまのキラキラ眩しかった日々を、アルバムを眺めるような気持で、懐かしく振り返る事が出来ました。
      (書店で『みづゑ』を見かけると、なんとなく手にとってみたりなんかして。^^;)

      そして、読後、いろんな事が頭のなかをぐるぐる回る。kwosaさん同様、私もいろんな事を考えさせられました。

      ただ、人って本当に愛おしいものなんだなー。
      ・・・とは、改めてしみじみ感じましたよ♪
      2013/05/10
    • kwosaさん
      MOTOさん!

      コメントありがとうございます。

      直木賞を受賞した時には、何となく遠くから眺めている感じだったのですが、文春文庫の新聞広告...
      MOTOさん!

      コメントありがとうございます。

      直木賞を受賞した時には、何となく遠くから眺めている感じだったのですが、文春文庫の新聞広告を目にした時はすぐに書店に走りました。
      じっくり味わって読みたいという気持ちがありながらも、頁を繰る手が止まらず一気に読み終えてしまいました。
      せっかく手元にあるのですから、僕も時間をかけて再読してみようかな。

      >ただ、人って本当に愛おしいものなんだなー。
      ・・・とは、改めてしみじみ感じましたよ♪

      しみじみ感じますね。
      僕は男性なので特に「あの視点」には、ぐっと心にくるものがありました。
      2013/05/10
  • 昭和初期、山形の田舎から、女中奉公のために上京した少女タキ。
    赤い三角屋根、玄関脇のステンドグラス、応接間の丸窓。
    明るくモダンな雰囲気の新しい家で暮らす豊かな一家。お洒落や買い物を楽しむ美しい奥様、常務になった旦那様にぼっちゃん。
    奥様に心酔し、心からの忠義をもって勤めた10年間。
    平井家での女中としての生活は、タキの青春のすべてだった。
    老年のタキがつづった手記から、意外な形で現在へとつながっていく。

    深い余韻の残る秀作。
    明るい未来に向かっていると信じていられた前半から、戦争の影がひたひたと迫ってくる手記の後半。
    そしてタキの没後明らかとなる、タキが生涯抱えていた秘密、苦悩…。
    面白かった!という本の中でも、読了後そのまますぐにレビューが書けるものと、余韻で全然書けないものとに分かれる。
    この本は私にとって絶対に後者だ。こういう本は本当に困る。
    うまく言葉にしようとすると、たちまち変容してしまう。
    繊細で壊れやすいものを、どうやって掬い取ればいいのかと思う。

    「奥様、わたし、一生、この家を守ってまいります」
    新しい家に引っ越してきたとき、タキが目を輝かせて奥様に語る決意が健気で切ない。
    守りたかったのは赤い三角屋根の家、奥様の幸せ、奥様の笑顔。
    その決意は、戦争になっても揺らぐことなく、だからこそ守れなかったことに老年に至るまで自分を責めて責めて、ずっとタキの心の中に後悔としてくすぶり続けたのだ。

    心に残る名作に出会えた。そのことにまずは感謝して、しばらくまだ余韻に浸っていたい。

    • kwosaさん
      マリモさん

      『小さいおうち』
      本当にいい本でしたよね。
      この本に出会えてよかった。素直にそう思えます。

      >うまく言葉にしようとすると、た...
      マリモさん

      『小さいおうち』
      本当にいい本でしたよね。
      この本に出会えてよかった。素直にそう思えます。

      >うまく言葉にしようとすると、たちまち変容してしまう。
      繊細で壊れやすいものを、どうやって掬い取ればいいのかと思う。

      その感覚、とてもよくわかります。
      そういう真摯な心をお持ちだからこそ、マリモさんのレビューは信頼できるんです。

      なんだか、もう一度読みたくなってきました。
      2013/02/21
    • マリモさん
      kwosaさん♪

      コメントありがとうございます。
      本当にいい本でした!
      タキちゃんの高揚がそのままに伝わってきて、私も赤い三角屋根の家と奥...
      kwosaさん♪

      コメントありがとうございます。
      本当にいい本でした!
      タキちゃんの高揚がそのままに伝わってきて、私も赤い三角屋根の家と奥様一家が大好きになっていきました。

      本から受けた衝撃や余韻が大きければ大きいほど、自分の語彙と表現力では追い付かなくなってしまいます。
      でも「すごくいいから、読んでみて!」ということだけ最低限伝わればいいなと思います。
      信頼できるなんて言っていただけてありがたいです!(だいぶ偏ってるので心もとないですが。笑)
      kwosaさんのレビューはいつも楽しくて、こんな風にかけたらいいなぁと思っています。
      これからもよろしくお願いします♪
      2013/02/22
  • H30.10.18 読了。

    ・昭和初期の女中奉公していたタキさんと平井家の人々との日々の交流を描いた作品。銀座パーラーやカリーライス、昭和初期のモダンな東京が目に浮かぶような文章に引き込まれた。最後の結末にも驚かされた。
     そして、信念を内に秘めて生きているタキさんはかっこよく見えた。こういう小説、私は好きです。

    ・「戦争というのは、ハイカラな、最も大事な心に響くものからなくなっていくんだというイメージがあります。」(解説より)
    ・「戦前について調べ始めたら、明治以降に取り入れた西洋文化が成熟した時代だったんだとわかった。粋な時代だった。」(解説より)

  • 面白かったです。直球で戦争の恐ろしさを描いた小説や、逆に淡々と冷たく戦時下を描いた小説よりも、戦時中の街や人々に思いを馳せることが多かったです。読ませる筆力、自然と何かを感じさせる筆力があると思いました。

  • 女中タキの目から見た戦中・戦後の世の中の様子が語られる。
    タキは故郷へ疎開しており、実際の戦火を体験していないので、
    戦争の悲惨さの生々しい記述はないが、
    大切な奥様を失ったことで、その惨たらしさを実感したことだろう。

    タキはいい雇い主に恵まれたので、女中を天職と思い誇りを持って働いたが、
    一般に使用人は雇い主に対して、少なからず羨望や嫉妬を抱くと思われ、
    その意味では使用人が持つ黒い感情にフォーカスした「女中譚」は
    タキとは正反対のはすっぱな女中が主人公で、時代に則したリアリティーがある。
    「小さいおうち」はのんびりしたおとぎ話のようであるが故に、
    それに不釣り合いな「秘密の恋」というスパイスがピリッと効いている。

  •  女中奉公を長年続けてきたタキが書き始めた一冊のノート。それは昭和初期から太平洋戦争終盤近くまである奥様につかえ続けた記憶だった。

     女中の記憶から語られる昭和初期の家族の姿から浮かび上がってくるのは、西洋の文化が本格的に日本に根付き始め、オリンピックや万博開催などで国民全体が活気づく様子だったように思います。

     オリンピックや万博は戦争のため中止になるのですが、その時代ころからタキが女中奉公をしていた平井家の様子も徐々に変化していきます。その変化も劇的に状況が悪くなるというわけでもなく、一歩、また一歩と知らぬ間に戦争の影が忍び寄ってくるあたりが印象的でした。戦争をことさら悲劇的に描くのではなく、あくまで日常の中での戦争を、そして気がついたらその渦中にあった、という風に書かれていたのが印象的でした。
     
     それだけ昭和初期のささやかで平凡な幸せも、平洋戦争にかけての庶民の日常がしっかりと書き込まれていたのだと思います。登場人物たちも本当にその時代にそんな人たちがいたような気持ちにさせてくれる、とても人間味あふれる人たちでした。

     最終章も綺麗に話をまとめつつも、いろいろなことを読者の想像にゆだねさせる展開となっており、深い余韻が残る読後感でした。

    第143回直木賞

  • 戦前から戦中にかけて、ちいさな赤い屋根の洋館で女中奉公をしていたタキさん。
    あまり馴染みのない「女中」というキーワード。
    徒弟制度・丁稚奉公等と同様に今は風化してしまったものですが、情のある主従関係がいいですね。

    現代と過去を少しずつ行き来しながら、次第に物語は古き良き時代へ舞台を移します。

    物語の最初でも出てくるエピソードですが、「優れた女中は、主人が心の弱さから火にくべかねているものを、何も言われなくても自分の判断で火にくべて、そして叱られたら、わたしが悪うございました、と言う女中なんだ」という先生の台詞がずしりと残ります。

    どこか遠い世界の物語を読んでいるようでいて、DNAが懐かしがっているような、不思議な不思議な読了感でした。
    お年寄りが当時の時代を偲ぶ気持ちが、すこしわかるような気がします。

  • 赤い三角屋根の洋館と、時子奥様との出会いは、十四歳のタキちゃんにとって、それはもう夢のような世界であったに違いない。
    戦争という暗い背景があったにもかかわらず、そこでの生活は華やかで、多少のユーモアも交えて、ロマンチックに描かれている。
    「恋愛事件」も、甘く切ない。

    昭和初期の女性たちも、今の時代と変わらず、生き生きと暮らしていた様子がよくわかる。

  • この本については「おもしろいか否か」ではなく読んだ方がいいと思う。女中タキの視点でみた昭和初期。描かれる大部分は奉公にあがっていた平井家(とりわけ時子奥様)であり、第二次世界大戦前後の社会の気風や人々のくらしがみえる。
    戦中も過酷さや貧しさよりタキと時子の間にあるあたたかいものにスポットがあたる。故に切ないラストを迎えるも読後はいい。良作。

    • kuroayameさん
      この本を以前読み終わっていたので、レビューを拝見させていただきとてもうれしかったです♪
      この本を以前読み終わっていたので、レビューを拝見させていただきとてもうれしかったです♪
      2013/02/22
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著者プロフィール

中島京子(なかじま きょうこ)
1964年東京都生まれの作家。『FUTON』でデビュー。著書に『小さいおうち』(直木賞)、『かたづの!』(河合隼雄物語賞・柴田錬三郎賞)、『長いお別れ』(中央公論文芸賞)等。2019年5月15日、新刊『夢見る帝国図書館』を刊行。

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