心に吹く風 髪結い伊三次捕物余話 (文春文庫 う 11-17)

著者 :
  • 文藝春秋
4.03
  • (22)
  • (30)
  • (15)
  • (1)
  • (1)
本棚登録 : 278
感想 : 29
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167900014

作品紹介・あらすじ

大人気シリーズ、10巻に到達!絵師の修業に出ていた一人息子の伊与太が、兄弟子と喧嘩をして実家に帰ってきた。伊三次とお文の心配をよそに伊与太は働きだすが…。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 目次
    ・気をつけてお帰り
    ・雁が渡る
    ・あだ心
    ・かそけき月明かり
    ・凍て蝶
    ・心に吹く風

    龍之介と祝言を挙げ、不破家の嫁となる”きい”の話から始まる。
    一時期武家の養女になっていたとはいえ、もともと町人の娘であるきいが武家の家になじむのは、本当ならかなり難しいことなのだろう。
    しかし、まず家長の友之進がきいを気に入った。
    苦労人のいなみが、嫁として受け入れた。
    茜だけが面白くない。
    17歳の茜は、自分も年頃の娘であるが、剣の稽古以外に興味はなく、しかし道場で持て余されていることにも気づき…。

    一方、絵の修業をしていた伊与太は、師匠の家から逃げ戻ってくる。
    当面は不破家の中間(ちゅうげん)として、似顔絵描きなどして様子を見ることになるが、修業をするということは、絵をかいていればいいということではなく、師匠や兄弟子たちとの人間関係を築いていくことも必要なのだということに気づく。

    終盤、茜は松前藩の上屋敷にお屋敷奉公することになる。
    24~5歳まで拘束されるので、行かず後家になるが、好きでもない男と結婚するくらいなら…と。
    時を同じくして伊与太も修業に戻ることにする。
    最後に二人の心は確かに一つになったと思うが、武家の娘が町人に嫁ぐというのはよほどのことになるので、この先二人の道が交わるかどうかは…どうだろう。

    松前藩ということは、作者(当時函館在住)の元まで行くことになるのではと、ちょっとドキドキしている。

    さて、この先レギュラーになるかはわからないが、お文が拾ってきた少年・佐登里(さとり)がかわいい。
    生まれてすぐお寺に捨てられた彼は、実の母を捜して銚子から江戸に出てくるのであるが、実に賢くて健気で良いのである。
    お寺から迎えが来て、安い人出として売られて行こうとするのを、出刃包丁を首に当てて抵抗する。
    佐登里まだ数えで5歳。今で言えば4歳。
    最終的に彼は自分で自分の居場所を見つける。

    今、虐待されている子どもたちも、世間は家だけではなくもっと広いことを、そして自分の居場所を自分で見つけるのは、またはよその大人に探してもらうのは、悪いことではないことを知ってほしいなあと思いながら、佐登里の今後を思うのでした。

  • 髪結い伊佐次捕物余話もシリーズ10作目。
    今回は、伊三次の息子の伊予太が戻ってきたのを発端に、さまざまな出来事が絡み合います。

    伊予太は絵師の見習いとなっていましたが、兄弟子とけんかになり飛び出してしまう。
    詳しいことを話さない息子に、親の伊三次とお文はまずは見守るのみ。

    不破の息子・龍之進は前作で、後輩の姉である若い娘きいを嫁に迎えました。
    きいの視点からも描かれ、生き生きしたけなげなキャラクターと行動力で、この世界を明るくしてくれています。

    町人の出のきいに、妹の茜は違和感を隠さない。
    男装で道場に通う茜に、思いがけない縁談が‥
    気の強い茜が唯一素直になるのは、幼馴染の伊予太だけ。
    身分違いだが、お互いの気持ちは‥?
    奥女中に腕の立つ娘を警護役として雇うというのがあるのですね。

    事件が起きては解決するうちに、家族にも成長が。
    意外な展開の中に、納得のいく流れがあって、なるほど~としみじみします。
    それぞれの幸せを祈る気持ちになる読後感。

    愛読していたシリーズですが、ちょっと間が開いて、この後書きで作者が闘病中と知り、驚きました。
    惜しくもなくなられましたが、まだ読んでいない作品を読んだり、好きな作品を読み返したり、頭の中の世界はずっと続きます☆

  • シリーズものなんだけど、前後して読んでいる。だけど、すんなり入っていけるのは宇江佐ワールドです。
    今回も親子の情みたいなものがあちこちに盛り込まれていて良かった。

  • 絵師の師匠のところを飛び出してきた伊与太。

    龍之進に頼まれてお屋敷の中間と人相書きを引き受け、
    このまま小者の道を歩むのかと思いきや、
    龍之進の妹、茜が奉公するが決まり、
    絵師のところにもどる。
    茜との恋話はどうなるやら。

    龍之進の奥方、きいは奔放で良い感じ。

  • 伊佐次シリーズ第10弾。今回は息子の伊予太の周りで起こる 出来事が中心。 不破の息子、龍之進ときいの祝言。 きいちゃんのキャラクターがとっても魅力的。 きっと今後大活躍しそうな気配。 このシリーズのよさは、日々の些細な会話のなかに 琴線に触れる言葉がたくさんちりばめられていて、胸がきゅんきゅん するところ。
    それと、ちょいちょい出てくる夫婦間のいちゃこら(^^)これがたまらん(笑)
    伊佐次とお文さんと共に私も成長している気がする。10年前に初めて読んだときは、まだまだやんちゃだったけども いまや落ち着いたいい夫婦。見習いたいところが多い。

    あ~、それにしても・・・それにしても・・・。
    毎回楽しみにしている宇江佐さんの「あとがき」は衝撃でした。
    病気療養中とのこと、どうぞどうぞお大事に、そしてどうか克服してください。応援しています。

  • 前回は不破家の不肖の長男の話でしたが、今回はその妹茜と伊三次一家の長男が中心。
    子供のころから気の強い我儘お嬢の茜。
    宇江佐さんの描く男勝りの御嬢さんって、結構リアルにやな女の子であることが多い。
    負けず嫌いでプライドが高く、自分を守るために周りを傷つけることを正当化するいわゆる自称サバ系というか、嫌われるタイプの女政治家。
    茜もそのタイプで、媚びるなんてまっぴら! 若い嫁にでれでれする兄上も下町育ちの自覚のない兄嫁もなんだか許せない! 批判するけど、いびりじゃないもん!
    いやはや子供のころから変わってない! てか成長してない! 不破さんちの子育てどちらも微妙に失敗してます!
    けれど、伊三次さんちの穏やかな長男といるときは、かわいい。
    ぶったたいて泣かせていた幼少時代から彼のことだけは心から信用して懐いている。
    そのギャップがかろうじて茜の好感度を保たせている感じの序盤。
    伊与太もいい子過ぎたために、我慢しきれず切れた結果、父親の後を継ぐ道を蹴ってまで選んだ絵師の道を逃げ出してしまう。
    ここらへんの苦悩の伊三次を見ると、おねーちゃんのあのころの気持ちがやっとわかったか、と思います。
    ただ伊三次と違って伊予太は帰るところもあり、どーんと受け入れてくれる肝っ玉母さんもいたので、全然アマちゃん。
    どっちがいいかというのは分からないけれど、黙って待ってくれる両親の気持ちもちゃんとわかってるし、意地悪だと思った兄弟子たちに親切にしてもらったことも思い出す素直な伊予太くんを見るにつけ、伊三次や文吉の子育ては成功の部類かも。
    伊三次が泥棒されて、相手を訴えるときいなみさんに説得された言葉を思い出します。
    勝手な解釈ですが。
    伊三次を便利扱いして現在も仲の悪い義理の兄も、伊三次の娘は本当にかわいがっているし、人って変わっていくんだなぁとこの大河シリーズを読んで思います。
    表紙の二人の行く末も気になりますが、今回も大活躍だったきいさん、かなりいいキャラでかわいく健気で次回も期待してますが、
    宇江佐さんの悪い癖が出ないことを切に願います。
    シリーズは大丈夫か、いまのところ…

  •  久々に読んだ髪結い伊三次捕物余話シリーズ。なんとこれが10作目。しかし相変わらずの世界だ。うまい。ほんとにうまい。主役の伊三次、女房のお文に息子の伊与太と娘のお吉ができて早10年、お吉の大きくなってしっかりものになったこと。そして伊三次の雇い主同心不破友之進と妻のいなみにこれまた息子の龍之進と娘の茜の一家。ちょっと頼りなかった龍之進が成長して今回はきいを妻に迎え、気が強く男勝りの茜は縁談を蹴って大名家の奥勤めに出る。大きな時の流れの中で物語りの人々がそれぞれ年を経て成長し、老いてゆく。一応は捕物話の連作短篇なのでそれぞれの小話にちょっとした事件が起こっては解決してゆくのだけれど、ここまで続くとそんなエピソードはそれこそ単なる挿話に過ぎないのであって、これはもうこの二組の家族の家庭小説なのだと思う。茜はお文に似ていると作中で誰かが言っていたけれどほんとにそう。「伊与太はそう言ってくれた。滅法界もなく茜は嬉しかった。本当か、本当だね、伊与太、約束だよ、茜は子供のような声で確かめる」。これはまさに伊三次と文吉ではないか。

  • 第2世代が立派な大人になり、活躍しています。
    ニューメンバーも加わったりなんかして。

    でもって、本来の主役であるはずの伊三次たち第1世代は、ジブく脇を固める立場になっております。

    ますます今後の展開が楽しみではありますが、あとがきによれば、宇江佐センセは癌の闘病しながら執筆をつづけているとのこと。

    病気の御快癒と、作品が今後も永く続くことを、心より願うものであります。

  • みんな大きくなって。伊佐次とお文のやり取りが減って寂しいものの、世代交代は止むを得ぬか。龍之進の妻、きいの人物造形が素敵だ。

  • 北原亜以子の「澪つくし-深川澪通り木戸番小屋」に続く、「髪結い伊三次捕物余話」を読んで、江戸市井の雰囲気をたっぷりと堪能した。
    この「髪結い伊三次・・・」は、「深川木戸番・・・」と並び、お気に入りのシリーズの一つです。(あと一つは、諸田玲子の「お鳥見女房」シリーズ)。

    第1作から愛読しているが、最近は時代が進んで、主人公だった伊三次・お文よりも、その子の世代が活躍しており、これもまた彼ら家族を作者と一緒に見守っているということで、一つの楽しみといえるか。
    この十巻では、龍之進の妻女となった「きい」のパーソナリティが印象的だった。
    作者の文庫あとがきによると、癌と闘いながらの執筆だという。一日も早い回復と、伊三次シリーズがまだまだ続くことを、切に望みます。

全29件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1949年函館生まれ。95年、「幻の声」で第75回オール讀物新人賞を受賞しデビュー。2000年に『深川恋物語』で第21回吉川英治文学新人賞、翌01年には『余寒の雪』で第7回中山義秀文学賞を受賞。江戸の市井人情を細やかに描いて人気を博す。著書に『十日えびす』 『ほら吹き茂平』『高砂』(すべて祥伝社文庫)他多数。15年11月逝去。

「2023年 『おぅねぇすてぃ <新装版>』 で使われていた紹介文から引用しています。」

宇江佐真理の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×