昭和史裁判 (文春文庫 は 8-22)

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  • Amazon.co.jp ・本 (437ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167900380

作品紹介・あらすじ

リーダーたちはどこで誤ったのか? 白熱対談!太平洋戦争開戦から70年。広田弘毅、近衛文麿ら当時のリーダーたちはなにをどう判断し、どこで間違ったのか。半藤゛検事゛と加藤゛弁護人゛が失敗の本質を徹底討論!

感想・レビュー・書評

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  • 半藤一利さんと加藤陽子さんによる、
    先の大戦に関わる対談集、といっても、

    ただの対談ではなく、戦時の主要メンバー、
    全部で5名に対する評価についての内容となっています。

    広田弘毅、近衛文麿、松岡洋右、木戸幸一、そして、昭和天皇。

    一方的な弾劾というわけではなく、それぞれが、
    検事役、弁護士役を入れ替えながら茶話的な感じで。

    まだまだ、基礎知識が足りていないなぁ、、と思いながらも、
    興味深く読めました、、近代史さらえ直さないと、です。

    そんな中、個人的に興味深かったのは、、

     “(先の大戦は)新聞が世論を煽り立てましたから”

    新聞という無責任なメディアについて言及されているのが興味深く。
    つくづくに“情報リテラシー”が必要だともあらためて。

    個人的には『昭和史』への導入本といった気分で読みました。
    ん、ソロソロ本丸を攻めに行かないと、です。

  • 半藤一利と加藤陽子による昭和の戦争に関連する人物の疑似裁判?というより裁判を模した対談。
    まあ!兎に角、微に入り細に入った内容まで立ち入って対談しているのには正直驚いた。昭和の時代だから資料が豊富にあるので、ここまでやらなければダメなのかとも思うが、調べるのも大変だと腰が引けそうな感じがする。

    俎上に乗るのは「広田弘毅」「近衛文麿」「松岡洋右」「木戸幸一」「昭和天皇」の5名。東条英機が何故入っていないのだろうと不思議に思う。対談の対象に入れても太平洋戦争の主犯だというのが、はっきりしていて「裁判」としては弁護の余地がないからだろうか?

    特に最終章の「昭和天皇」の章については、驚きの内容でした。
    P287~288
    半藤:昭和16年は新聞が反米運動のお先棒かつぎでした。新聞が反米の世論を焚きつけたのですが、今度は逆に、世論に新聞も言論を縛られていくのです。
    P302~303
    加藤:(第二次上海事変-1937年に中華民国の上海共同租界で起きた日中戦争の発端となる日中両軍の戦闘の時)天皇は、参謀本部は渋っているけれど、やっぱり海軍が求めるように、上海にもっと陸軍の兵力を投入せざるを得ないと判断する。海軍側への信頼関係もあったせいで、かなり大胆な指導をなさったな、と思うのです。とりわけ昭和12年11月までの、上海作戦が終わるまではその印象を持ちます・・・(略)・・・平沼首相に向かって、「統帥権について、言葉を変えていえば陸軍について、何か難しいうるさいことが起こったならば、自分が裁いてやるから、何でも自分の所に持って来い」と言う。昭和15年までも含めて、日中戦争は天皇が、戦術戦略的なレベルまで降りていって指揮した戦争だったなあ、という印象があります。
    半藤:昭和天皇の中国に対する最初のころの基本的な考え方は、残念ながら「中国一撃論」でした。
    P323
    半藤:昭和天皇はどうやら日中戦争開戦そのものはやむを得ないと思っていた。けれど、対ソ戦開戦の恐れがあるから早く収拾せよと、それを一所懸命言っていたのです。
    P324
    半藤:天皇のみならず軍部や政府の指導者たちには、南進でも北進でも同じ結果を招くとはわかっていなかったのです。いずれもアメリカの対日硬化という結果を招くということが。
    P343
    加藤:元老の西園寺公望が元気な頃、そして牧野伸顕が内大臣の頃までは、とにかく天皇は御前会議を開いては駄目だと。政治的な判断をしてはならない時代でした。でも、湯浅倉平が内大臣になると、湯浅は例によって内務官僚の真面目な人ですから、天皇の統帥権的発言を許すわけです・・・(略)・・・昭和天皇は美濃部達吉の天皇機関説事件が起きたときには、天皇機関説を支持していたにも関わらず、湯浅内大臣になると天皇機関説を逸脱した形で戦争に関与しました。天皇機関説が保障してくれていた君主無答責が、昭和10年(1935)の機関説排撃事件で葬られてしまいますので、終戦のときは、ある意味、天皇の「無答責」を保証する国法学的な解釈がなくなってしまっている。天皇は、太平洋戦争のそれぞれの作戦指導で、御下問というかたちで、統帥部の判断を変更することがありましたので、天皇「無答責」というのは、太平洋戦争中の国務と統帥については、無理があると思っています。軍はそれがわかっているから、無条件降伏できなかったと思います。
    P373
    半藤:それにつけても、最後にもう一言、昭和天皇のまわりには不忠の臣ばかりがいましたなあ。

    私としては、これまで天皇の戦争責任という問題について、余り考えたことが無かった・・・というより考えることを拒否していた。ましてや昭和史に関しては、読むのも嫌だったが、最近思う処があって、これまでの食わず嫌いな分野まで、やっと手を伸ばし始めました。
    その最初の本にしては、衝撃が大き過ぎた感があります。

  • 「半藤一利」と「加藤陽子」が太平洋戦争に関わった日本のリーダー5人(「広田弘毅」、「近衛文麿」、「松岡洋右」、「木戸幸一」、「昭和天皇」)について裁判風に対談・討論した作品『昭和史裁判』を読みました。

    『日本国憲法の二〇〇日』に続き「半藤一利」作品です。

    -----story-------------
    リーダーたちはどこで誤ったのか?
    白熱対談!

    太平洋戦争開戦から70年。
    「広田弘毅」、「近衛文麿」ら当時のリーダーたちはなにをどう判断し、どこで間違ったのか。
    「半藤゛検事゛」と「加藤゛弁護人゛」が失敗の本質を徹底討論!
    -----------------------

    歴史探偵「半藤一利」と歴史学者「加藤陽子」が、太平洋戦争の責任を問う法廷の形式で縦横に対談した作品、、、

    この手の作品って、対象になるのは軍人が多いのですが、本作品で裁かれる人物は、敢えて軍人を外してあり、「広田弘毅」、「近衛文麿」、「松岡洋右」、「木戸幸一」という歴史を動かした4人の政治家と「昭和天皇」の合計5人が裁かれています。

     ■第1章 広田弘毅
      開廷に先立って
      東京裁判と『落日燃ゆ』  ほか
     ■第2章 近衛文麿
      天皇の次に偉い男
      金はなかった、人気があった ほか
     ■第3章 松岡洋右
      外務省「大陸派」
      伏魔殿、帝国外務省 ほか
     ■第4章 木戸幸一
      自称「野武士」、ゴルフはハンディ「10」
      名家の坊やが抱えたルサンチマン ほか
     ■第5章 昭和天皇
      初陣の日中戦争
      勃発からひと月で海軍の戦争に ほか
     ■あとがき 加藤陽子
     ■登場人物牽引

    検事役の「半藤一利」が彼等の過ちを告発し、弁護人役の「加藤陽子」が最新の研究成果を交えて反論するという展開を基本としていますが、、、

    対談が盛り上がると、検事・弁護人で同意したり、お互いに触発されて立場が入れ替わったりしながら、当事者がどのように考え、どのような気持ちで、そのような行動をとったのかという、当事者の主観的な情報を取り出すような展開となっており、今までに知らなかった新事実を知ることもできることが多く、面白く読めましたね。

    この時代を描いた作品は何冊か読んだことがありますが、軍人が中心の作品が多く、政治家を中心に描かれた作品は初めてだったので、勉強しながら読んだ感じ… 「昭和天皇」が、、、

    「広田弘毅」は「あきれるほど無定見、無責任」だと言っていたことや、

    あっさり日独伊三国同盟を決めてしまった「近衛文麿」に対し「近衛は少し面倒になるとまた逃げだす様なことがあっては困るね、こうなったら近衛は真に私と苦楽を共にして呉れないと困る」と言ったこと等… 二人を信用していなかったことが印象に残りましたね。


    本作品で取り上げられている4人の政治家のことは、あまり詳しく知らなかったのですが… 一番心象が悪くなったのは「木戸幸一」かな、、、

    「昭和天皇」に情報を正しく伝えず、自身の都合により情報を統制したことで、重要な意思決定に影響を与えたことが否定できないですね… そして、自らは責任を逃れているんですからね。

    この人の影響… 日本国家に与えて悪影響は計り知れないな、、、

    でも、程度は違えど、他の3人も同類なのかもしれませんね… だからと言って、別な人物がいれば歴史が変わったかと言うと、あまり大きな差はなかったのかもしれないな。

    世論や軍部の情況を鑑みると、大きく転換することはできなかったかも… という気もします。


    あと、個人的に初めて知ったのは、

    「昭和15年(1940年)の日独伊三国同盟調印は、欧州戦線でのドイツの大進撃から、早晩に欧州ではドイツが勝つとなることを見越して、終戦までに戦勝国の仲間になり、終戦後にアジアでの勢力を拡大(フランス領やオランダ領を支配)しようという火事場泥棒的な発想があったんじゃないか」

    「昭和16年(1941年)の日ソ中立条約調印は、ソ連を枢軸国側に引き入れ、最終的には四国による同盟を結ぶ(日独伊ソ四国同盟構想)ことが目的と言われているが、それ以上にアメリカのアリューシャン列島への進出を恐れたために早期調印となったのでは」

    という2点かな… 勉強になった一冊でした。

  • 昭和史の大家二人の対談集だけに広く深く縦横無尽に話が進む。生半可な覚悟では付いていくのも大変。

  • 昭和史の重要人物にスポットを当てて、検察側(半藤氏)、弁護側(加藤氏)に分かれて議論を交わすという企画に惹かれて購入しました。


    かなりレベルの高い議論が交わされますが、基本的な概念についても注を付けてくれているので、助かります。
    それでもある程度の前提知識がないとついていくのは辛いかもしれません。

  • 日中戦争に関しては、トラウトマン工作がひとつのターニングポイントであったと思うが、陸軍が講和を望んでいるのに政府が戦争を止めさせないというのがどうも理解できなかった。が、本書によると、日中戦争が終わってしまうと、陸軍がソ連と戦争を始めるのを警戒して、政府主導で日中戦争を継続しようとした(その方が安上がりなので)。という分析には驚いた。要するにガス抜き的に日中戦争は継続したって事になるのか???。
    また、戦後処理を見越しての日独伊三国同盟に関する見解(仏印進駐も援蔣ルートの遮断ではなく、ドイツへの牽制?)も新鮮だったし、松岡は実は国連脱退を望んでいたのではないか?等々、これまでにない視点が多々あり大変興味深い。
    対談本は概して中身が無いのが多いのだが、本書は検事と弁護士という役割分担があり、対談がナアナアにならないような仕掛けになっていて、かなり中身が濃い内容になっている。
    問題は語られている内容がどこまでホントなのか?という事だが、半藤氏がこれまでの伝聞情報を披露して批判するのに対し、加藤先生が実証的に反論・コメントするというスタイルになっているので、それなりの信頼性はあるのかと。今回は被告人が政治家となっているので軍人を専門とする半藤氏がやや劣勢で弁護側の加藤先生が優勢という印象。作家と学者のレベルの違いもあるのかもしれないが。

  • 広田弘毅、近衛文麿、松岡洋右、木戸幸一、昭和天皇を取り上げ、戦争に至る道に軍人以外の人々がどのように関わっていったのか、半藤氏が検事役、加藤氏が弁護役となり大いに語る。

  •  半藤氏のわかりやすい記述による戦中、戦後の一史。対談風になっているのでよりよかったのか、加藤氏のコメント、弁護?がよかったのか、時代背景とともに把握できた。無論全てを網羅しているわけではないが、類書をあたるうえでの大きな参考になる。そして通史感覚を得られるのが良い。
     高校の教科書っというわけにはいかんだろうが、良い教材にもなるのでは?

  • 加藤氏と半藤氏の対談形式で、
    ・広田広毅
    ・近衛文麿
    ・松岡洋右
    ・木戸幸一
    ・昭和天皇
    について。
    このあたり詳しくないので、難しかったけれど、面白かった。

  • 縦横無尽、マニアック

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著者プロフィール

半藤 一利(はんどう・かずとし):1930年生まれ。作家。東京大学文学部卒業後、文藝春秋社入社。「文藝春秋」「週刊文春」の編集長を経て専務取締役。同社を退社後、昭和史を中心とした歴史関係、夏目漱石関連の著書を多数出版。主な著書に『昭和史』(平凡社 毎日出版文化賞特別賞受賞)、『漱石先生ぞな、もし』(文春文庫新田次郎文学賞受賞)、『聖断』(PHP文庫)、『決定版 日本のいちばん長い日』(文春文庫)、『幕末史』(新潮文庫)、『それからの海舟』(ちくま文庫)等がある。2015年、菊池寛賞受賞。2021年没。

「2024年 『安吾さんの太平洋戦争』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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