絵のある自伝 (文春文庫)

  • 文藝春秋 (2014年5月9日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (256ページ) / ISBN・EAN: 9784167901028

作品紹介・あらすじ

『旅の絵本』『ふしぎなえ』『ABCの本』などが世界中で愛されている画家の、初の自伝。
「自伝のようなものは書くまい」と思っていたが、日本経済新聞の「私の履歴書」欄に原稿を寄せるうちに「記憶のトビラがつぎつぎに開いた」、と大改稿大幅加筆。人情味のある豪傑な義兄、小学校で隣の席だった女の子、朝鮮人の友人、両親、弟……昭和を生きた著者が出会い、別れていった有名無名の人々との思い出をユーモア溢れる文章と柔らかな水彩画で綴る。
「わたしも、冗談が多すぎた。でもまだ空想癖はやまない。しかしこの本に書いたことはみな本当のことで、さしさわりのあることは書かなかっただけである」とは著者の弁だが、炭鉱務め、兵役、教員時代など知られざる一面も。
50点以上描き下ろした絵が、心温まる追憶は時代の空気を浮かび上がらせ、読む者の胸に迫る。楽しく懐かしい、御伽話のような本当のお話。

みんなの感想まとめ

多彩なエピソードが詰まったこの自伝は、著者の人生の軌跡をユーモアと温かさで描き出しています。幼少期から戦争を経て、絵を通じた表現の道を歩む中で出会った人々との思い出が、柔らかな水彩画と共に綴られていま...

感想・レビュー・書評

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  • 2020年12月に亡くなった安野光雅さんの自伝エッセイ。安野さんのどこかほっとするような挿絵と手書きコメント入りである。

    幼年時代から(執筆)現在に至るまでのエピソードを時系列に並べた構成となっている。戦争に振り回され、大好きな絵も思うように学ぶことのできなかった青春時代。戦後は苦労してようやく絵の仕事につくことができ、今ではご存じのとおり、安野さんの絵を見たことがない人はないほどの活躍ぶりである。
    現代の私たちには想像もできないような過酷な人生だったと思うが、安野さんのユーモアたっぷりの口ぶりと柔らかな水彩画でずいぶん中和されているような気がする。

    心に残る人物エピソードも興味深い。小学校の同級生で、貧乏だが明るい子だったというつえ子は、田畑を耕して4人の息子全員を大学にまで通わせた。畑をおそうイノシシ以外に心配はない、というつえ子の現状をうれしく思う安野さんの友への思いが温かい。

    「ABCの本」を海外で出版する際、英米の編集者から思いもよらない指摘を受けた話などは、文化の奥深さを感じるエピソードだった。相当大変だったと思うが、面白い体験だと思えるのが安野さんらしい。

    友情に厚く、ユーモアたっぷりで、心の中にまっすぐな芯の通った人柄が感じられ、改めて安野さんの絵本をじっくり眺めたくなった。

  • 2024年、北九州市立美術館に安野光雅展を見に行って、グッズショップで購入しました。子どものころから安野光雅さんの絵本に親しんできたので、私が夢中になっていたあの絵本は、このようにして作られたんだなとか、こんな秘密があったのね、なんて発見もあり、読んで良かったです。絵は一つのエッセイにつき1つ、ささやかに添えてある感じです。

    印象深いエピソードがたくさん載っている。戦時中のエピソード、子ども時代のことも興味深い。
    私が一番好きな安野光雅さんの絵本、「旅の絵本」シリーズがいかにつくられたかのエピソードもあって、読めて良かった。一冊目の中部ヨーロッパ編に脱獄犯が描かれていること。これはよく覚えているし、子どもの頃の私も気になってしょうがなかった。脱獄犯が他のページにもいるらしいと編集者が目を皿のようにして調べたと聞いて、しまった、描いておけばよかったと思ったらしい(笑)。で、6冊目のデンマーク編で、逃げている脱獄犯がいるらしい。(確認しなきゃ笑)。
    旅の絵本シリーズは文字は全くなくて、批判もされたらしい。しかし、安野氏いわく「絵や音楽をことばの説明を仲立ちにして見たり聞いたりしようとするのは、ことばに頼りすぎた者の悪い癖である。その癖が長じると『この絵は何なにを表している』とか、『何を意味している』というように、ことばで整理して判じ物を見るような目で見るようになる。そして、絵とはそういうものだと思いはじめるだろう」とのこと。
    そう考えると、姉と二人でほおを寄せ合って、「旅の絵本」を飽きもせず眺めていた幼い頃の私の、絵本の鑑賞の仕方は、本当に純粋で、それ以上ないくら正しいやりかただったのではないかと思う。
    最後の方は、親しい人たちとの別れのエピソードが多くなって、読むのが少し切なかったです。

  • 具体的なことがとてもよかった。ディテールがおもしろい、興味深い。
    祖父母のライフヒストリーの聞き書きをしたいと思った。

  • 1926年生まれ・・・とプロフィールをみて、ふと、かこさとしさんと同年生まれだったんだなと気づく。戦争を知っていて、その体験を絵や言葉で伝えうる大きな存在がまたひとり、いなくなってしまった。世に出された作品を、繰り返しかみしめたい。

    子ども時代から少年、そして戦争の日々について、身の回りの小さなエピソードまでよく覚えていらして書かれている。ユーモアたっぷりで、悲惨とか厳しいといった語り口ではないのだが、それゆえに率直な気持ちがにじみ出ていると思う。

    ユーモア、という点で、『農民兵士の手紙』の話がなんともいえずよかった。よかったというのもおかしいのだけど。
    「わたしは戦争には反対だが、学徒と農民を差別することにはもっと反対である。徴兵猶予などと、だれが考え出したのだろうとおもう。」
    徴兵された農民を思っての言葉だが、そのあとに自らの若い恋のエピソードを重ねてこう続けるのだ。
    「しかし、先に書いたように、「花ある君」に手紙を出し、返事をもらった友人がいなかったら、このような公憤と私憤を混同することもなかっただろう。」

    教員になり、画家として立ち、というその後の人生で出会った人との交流も興味深い。また、大上段に構えたものでなく家族など身辺のことに徹していて、ひとりごとを読んでいるような穏やかな気持ちになった。
    さいごの『空想犯』もおもしろい。全くの"空想近況"を書いた年賀状を出してしまう安野さん。人柄の一端がしのばれる、たいへんユニークなエピソード。

  • 安野光雅さんのエッセイ。

    少年時代から歳を重ねるまでの思い出が綴られています。
    生きてきた時代は異なるのに、どこか懐かしい匂いのするお話も多数あり、朗らかな気持ちで読めました。

    そんな中にも安野さんなりの信条や絵を思う気持ちが散りばめられていて、ますます安野さんのファンになりました。

    本の中で、
    妄想と空想は違う。
    妄想は現実と想像の違いがわかっていないが、空想は現実を理解した上で想像していること。
    というようなことをおっしゃっていたのが印象的でした。

    宮沢賢治は教員時代に空想の時間を設けていたようですが、「空想」は自分の世界を広げるために必要な時間だなと改めて思います。

  • 2020年に安野さんは亡くなった。
    それから3年。
    かなりご長命でいられたので、もうすぐ生誕100年にもなる。

    本書は80代に入って生涯を振り返ったもの。

    故郷の津和野の様子。
    宿屋を営んでいた家族のことなどの他、土地の人々のことも書かれている。
    貧しい家に生まれたけれど、立派に子育てをして幸福を築いた幼馴染のつえ子さん。
    「げんきでヘンヨウせいよ」という伝言を残して突然転向した山本虎雄君。
    「過ぎたことはみんな、神話のような世界」と安野さん自身も言うが、しかしどこか味わい深い。

    司馬遼太郎の「街道をゆく」の取材に同行したこと。
    ダイアナ妃来日時のレセプションに参加したこと。
    『ABCの本』が海外でも読まれ、英語圏の人々からさまざまな意見が来たこと。
    そんなことが飄々とした文章でつづられていく。

    昭和四十五年の年賀状の話は傑作である。
    その年賀状は収録されているので、そこだけでも十分見る価値がある。
    顰蹙を買う可能性もあるけれど、ユーモアのセンスがない自分には、こんなことができる人はうらやましくて仕方がない。

  • 絵を描く人なのに、言葉選びも無駄がなく洗練されていると思った。私の親世代より少し上くらいだと思うけど、その時代のことが気軽に抵抗無く(固く古めかしい感じではなく)読めて良かった。大型本屋の戦争特集か何かで平積みされているなかで、読みやすそうだなと思って見つけた。大型書店はこういう出会いがあるから本当に好き。

  • 安野光雅さんの自伝。エッセイ。
    絵のことはあまり書かれてなかった。絵本がすごく大好きでいろいろ読んだので、少しでも詳しいことがわかればと思ったが。ただ書き下ろしの絵が沢山で有難い。ABCの本については残念。いろいろ考えて描かれたのに駄目出しが多かったり無断で使われたりあまり良いことがない。それでも大好きな絵のひとつ。

  • 私とは生きた時代が違うので
    想像の及ばない場面もあるけれど
    この本を通して、人間って強いんだなと
    私も含め今は守られすぎて
    かえって自由がないんじゃないかなと
    そんな気がする
    親や兄弟姉妹、友達
    さっぱりとした関係で
    寄りかかったりしていない
    でもひとりで行きているようで
    その時近くにいる人同士
    助け合い気を掛け合いながら
    行きているように思う

  • 日本経済新聞の「私の履歴書」(2011年2月連載)とはまったく違った印象。大幅に加筆、連載後の後日談もある。水彩のイラスト(55葉)も花を添える。
    37の各章に、いくつもの小話風のエピソードが散りばめられている。そして安野氏お得意の謎めいた箇所も随所にある。だから、安易に読み飛ばすわけにはいかない。
    「つえ子のこと」、「村松武司」、「ダイアナ妃のこと」の章がいい。安野氏は『旅の絵本』にチャールズ皇太子とダイアナ妃の婚礼の儀式を描き込んだことがあった。そのため、ふたりが来日した折に英国大使館主催のパーティに招待された。「ダイアナ妃のこと」には、その時のこと、そして悲劇的な死のことまでが綴られている。
    最終章の「空想犯」は、連載にはなかったボーナストラック。ある年に、冗談の凝り過ぎた年賀状をみなに送ったため、思わぬところで問題を起こしたという話。しゃれもここに極まれり。

  • 面白かったです

  • 安野さんの絵を意識してみていたかと言われれば、そうでなかったように思う。風景のイメージが強いのもなぜだろう。。

    「昭和を生きた著者の人生」が突き刺さる。自分はそれを祖父に見ていただろうか。

  • 感想
    絵を描く人の鋭い目線。刺々しい切れ味はなく優しさに満ちている。それでいて他人が気づかない細部に気がつき大局を汲み取る。時代の空気を感じる。

  • 思い出話。著者の人柄がよく分かる。
    同世代の人が読んだら懐かしく感じることも多いだろう。

  • 今、一等になるために走るのではない、いつか大人になって一等になっても得意にならず、ビリになってもくじけないプライドを持つ日の為に走るのだ

    試験というもののありかたが、教育の方向を決定づけているという変なことになりつつある。

    絵は説明ではない。(略)壁に飾る絵に題名はあっても文字はない。

    空想の時間

    などなど、普段感じてることがさらっと書かれていて、あぁ、間違ってない、というか、自分の気持ちに肯定感を得たような。

    戦中、戦後を生き抜き、沢山の絵を残し、令和の世の中まで見て逝かれたのだと思うと尊敬しかない。

  • 安野さんのふわっとした絵が大好き

  • 安野さんの生きた時代の息づかいを感じたのが良かった。ずっと続いているような錯覚に陥るけれど、母と父、祖父母、私と兄弟、甥っ子、それぞれを取り巻いてきた、取り巻いている時代の空気は、自分の生きた年齢に合わせてその感じ方は矢張り違うもので、それをまざまざと実感したというか。同じ時代を生きているということだけで、どうしてこう容易く「私とあなたは同じ」だなんて思ってしまえるんだろう?甘えもいいとこだ。厳密に言えば、同世代と言えども違うこともあるわけなのに。

    「同じだね」って、時にぐっと人との距離を近づけてくれるけれど、同時に同じくらい「我々は違う」って、忘れないでいることって、とっても大事なんだなって、ふと思った。

  • 一緒に組んでる方に感化されて。

  • 安野光雅の絵本は、大人でも、楽しめる本が多い。
    数学のえほん、ふしぎな壺、等、絵も素敵だし、じっと見つめながら、数字の数を計算している自分が居た。

    この本の、「ハナ ハト マメ マス」と、「サイタ サイタ サクラガサイタ」で、年代がわかるらしかったのは、亡くなった母が、直接年齢をを聞くのは、失礼にあたるからか、「サイタ サイタ、、、」の時代ですか?なんて自分年齢に近い方に訊ねていた事があった。
    なるほど、、、と、

    戦中の大変な時代が、少年時代なのに、千人針の事や、盧溝橋事件等も、良く記憶しておられる。

    安穏と、生活出来る時代で無かったのであるのが、この本で、良く分かった。
    弟が、熊本の陸軍幼学校に入った、と、書かれており、今の戦前生まれの高齢者は、戦争のために、皆大変な時期を過ごしたのだと、思った。

    教員になり、給料が150円、生命保険の満期が500円、2階建の家が、500円、、、、なんか、想像できない。

    ABCの本は、大変だったのだ、、、、、
    昔 私は、Aはリンゴ1つ、、Bは熊2頭、Cは人参3本、Dはドーナツ4個、Eは卵5つ、Fは花を6本をフエルトを使って、サイコロを作って、子供のおもちゃを作った。
    何も考えずに、つくったけど、本にしようとしたら、大変な作業がかかるのだと、知った。

    作者の年賀状が、凄い!
    やはり、考える発想が違うのだと、思う。
    1970年の小金井市猫町3の4の5 小金井刑務所 81独房3023号との年賀状の検㊞が、犬のついた名字が、さもありなん、と言う感じで、笑ってしまった。

    何度、眺めても、厭きのこない本である。

  • 安野光雅さんの描くヨーロッパの街並みが好きでした。
    同じ窓が延々と連なるお城や洋風建築と、日本画の平面を彷彿とさせる水彩画がツボで。
    そんな安野氏も、戦中派。
    興味深いお話が多く書かれていました。

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著者プロフィール

安野 光雅(あんの・みつまさ):1926年島根県津和野生まれ。画家・絵本作家として、国際アンデルセン賞、ケイト・グリーナウェイ賞、紫綬褒章など多数受賞し、世界的に高い評価を得ている。主な著作に『ふしぎなえ』『ABCの本』『繪本平家物語』『繪本三國志』『安野光雅文集』(全6巻)『片想い百人一首』などがある。2020年没。

「2025年 『文庫手帳2026』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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