地下の鳩 (文春文庫 に 22-2)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167901158

作品紹介・あらすじ

大阪ミナミの夜に生きる人々の光と陰暗い目をしたキャバレーの客引きと、夜の街に流れついた素人臭いチーママ。情けなくも愛おしい二人の姿を描いた平成版「夫婦善哉」。

感想・レビュー・書評

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  • 夜の街で働く人々の物語。
    ホステス、客引きの男、おかまバーのママ。
    猥雑で欲に満ちた世界の中で、どうにか強く生きようとする人間の弱さと美しさ。

    自分自身、ホステスやママではないけれど一応夜に営業するお店をやっているから、そういう職業は人の嫌な面を見てしまう機会が多いことも実感していて、そうなるとどんどん警戒心や猜疑心は増す。
    人を見る目ばかり長けてしまうのはあまりいいことだとは言えない。
    道化る瞬間も普通よりは多いかもしれない。
    悩み苦しみながら向き合い、食べていくために自分を納得させようともがく。
    そういう空気がこの小説じゅうに流れていた。

    この本に出てくるおかまのミミィのこと、ずっと考えてる。彼女の洞察力にドキッとさせられること多々だった。
    女であることに甘えてる瞬間、私もけっこうあるのかもしれない。

    傷があるから強くなれるのか、傷のせいで弱いままになってしまうのか。
    その深さや残る痛みにもよるけれど、みんな何かを抱えながら、それでも人からは楽しげに見えるように生きている。
    夜の世界はもしかしたら、そういうのが顕著なのかもしれない。

    鋭い小説だった。

  • む。むむむむむ。むむう。なんか、いい。なんかしらんけど、ええなあ。って感じの本でした。不思議な本だな、って。なんかしらんけど、ええなあ。そんな表現が、いっちゃん、しっくりきましたね。自分の中では。うむ。この本、好きです。

    この認識が正しいのかどうかは謎ですが、「うーん、、、ハードボイルド」って、思いました。一読して。こんな感じは、なんだか、自分の中では、ハードボイルドなんだな、って感じ。西 加奈子さん、こんな話も書くんだなあ、ってのが、なんか、驚き。

    関西弁が。というか、大阪弁?が、抜群に良いですね。僕が住んでるのは京都なんで、大阪とはちょっと、言葉が違うのかもしれませんが、この物語で語られる関西弁、というか大阪弁?には、なんだか、嘘偽りのかけらもない、って思いました。マジで自然。マジで普通。

    今すぐにでも、阪急電車に乗って、梅田に行って、駅のベンチに座っていたら、こんな感じの言葉、そこらじゅうから聞こえてくるだろうな、って感じの、ホンマにこの場所に根付いた言葉、って感じ。好きです。

    「かなわんなー!」ではなくて「かなんなー!」なんですよ。「ありがとー」ではなくて「ありがとぉ」なんですよ。この感じ。マジで関西弁、好きなんですよね。

    あと、夜の街の雰囲気。そこで働く人々の雰囲気。バリ出てます。すげえな。って思った。西 加奈子さん、実際に、夜の街で働いたこと、あるんか?ってくらいに、すげえこう「この人たちはマジで生きている」感がヒシヒシと。リアルすぎる。素敵ですね。

    「地下の鳩」
    この話で言うと、みさをが働いている「群」のチーフの女性、すげえ好きです。あの、カメラ持ってる場面、マジで良い。勝手に、このチーフの女性、映画化したらならば。江口のりこに、演じてほしいなあ。とか、思った。合いそうだ。

    あと、主人公?の吉田は、リリー・フランキーが似合いそうだ。なんだか、そう思ったんですよね。みさをは、、、誰に演じてほしいかなあ?ちょっと、直ぐにはでてこないなあ。安藤サクラ?リリー・フランキーと安藤サクラだったら、是枝監督の「万引き家族」やんか!でもまあ、万引き家族は、大傑作だと思いますね。何の話だコレ?

    それにしても、みさをは、何故にあんなに、食べては吐き、吐いては食べ、を、繰り返したんだろう。謎だ。意味不明だ。意味不明だけど、なんだか、まあ、バンバンにリアルなんですよね。いやあ、好きな話だなあ。

    「タイムカプセル」
    苛めはマジでヤバい。という事が、よく分かる。そんな話ですね。というか、苛め、は、絶対に、ある。残酷な話ですが、「苛めた側」と「苛められた側」が、大人になった時。その時に、何を、どう、消化したうえで、大人(らしきもの)に、なっているのか?ということですよねえ。この話も、バンバン好きですね。

    オカマバーには、まだ人生で、一度も行ったことがない。今後も行くかどうか?となると、行かない気がするのですが、ミミィのお店は、好きです。うん。

    それにしても、40歳付近、という年齢で、死を意識するのは、吉田もリリィも、そうなんだよなあ。数百年前は、40歳付近で、人生あっさり終わってても、不思議じゃないわけなんだもんなあ。そう思うと、2020年現在の日本。超高齢化社会。すげえな、って思う。自分も今、42歳なんですが、何だか身につまされました。まだまだ、死にたくねえなあ。でも今後、どんなふうに、生きていこうかなあ、そう考えさせるって意味では、やっぱこの本、読んでよかった。

    西 加奈子。お見事ですね。そんな作品です。いやあ、好きだなあ。

  • やっぱり西加奈子はすごい
    どの本も胸をえぐる
    見て見ぬふりをしてた自分の中にあったささくれのような棘のようなものが、チクチクうずく

    この小説も、私には似ても似つかぬ登場人物ばかりだが、どこかに自分との共通点が必ずあり、自分の傷を感じながら少し苦しくもなりながら読み進める

    吉田もみさおも、私とは違うが、ものすごくわかる
    ミミィなんて、全然私とは経験も何もかも違うのに、やっぱり自分を見つけた
    最後の故郷に戻って掘り返す部分なんて、まるで今の自分だった

    自分を反芻できる小説は本物
    西加奈子、いつか会って話してみたい
    すごい小説家だな

  • 人間には誰しも影の部分というか、影の経験があるものなんだと改めて思った。
    寧ろ、影がないと人間の趣きがなくなる。
    けれど、しなくてもいい経験をたくさんしている気もする。
    人生に無駄なことは何ひとつないというけれど
    それは間違いないのかな?と疑問を抱かせる作品だった。

  • 生きていれば楽しいことだけじゃなく嫌な思い出やつらい過去、過ちが必ずある。
    それでも自分に正直に生きることは素敵だし難しい。

  • この本を買ったのは数年前になるのだけど、他の西加奈子作品とは文体とか雰囲気が異なるせいか、最初の数ページで挫折するのを繰り返していた作品です。ようやく読み切ることができ、これで西加奈子作品すべて読了!!

    「地下の鳩」はキャバレーの呼び込みをしている吉田と、左右の目の大きさが異なるのが特徴のチーママ・みさをの少し変わった関係がテーマの物語。なんか全体的に不健康な内容なので、読んでてしんどかったです。
    後半の「タイムカプセル」の方が好きです。オカマバーのママ・ミミィがよく描かれていて、リアリティと人間味を感じた。ミミィや菱野が過去に経験したいじめや、ことりが周囲からの目に悩まされたエピソードなど、いじめられた人が何年も何年も苦しめられている様子をここまで丁寧に鮮明に描けるのはさすが西さんだなと思った。私も忘れられない嫌な過去を今でも思い出してしまうから、ミミィを応援しながら読み進めた。

  • えげつなさと人間くささと、複雑な、だけどなんか共感できる、深い感情の描写。やっぱこの人すごいなー。

  • 正月読書。初めての西加奈子だけどすごく緻密な感情を書く方だな。とくに表題作「地下の鳩」、主人公のしみったれた感じと哀しさ、恋が所帯染みていく様子、それに抗うけどだんだん飲み込まれていく過程、とても良かった。また忘れた頃に読み直したいな

    ⚫︎あらすじ
    大阪ミナミの夜に生きる人々の光と陰
    暗い目をしたキャバレーの客引きと、夜の街に流れついた素人臭いチーママ。情けなくも愛おしい二人の姿を描いた平成版「夫婦善哉」
    (文春HPより引用)

  • なんかよく分からなかった。

  • 西加奈子さんぽくない感じだったなぁ。
    最初から最後まで空気が澱んでいて救いのない感じの夜の人達の話。
    最終的に吉田はどうしたかったんだろう。
    日本に戻ってから、やっぱり捨てられたんだろうか。
    終わりもイマイチすっきりしなかった。
    ミミィの章の方がしんどいけど面白かったかな。
    80年代って子供同士に限らず、異質な存在に対して容赦なく暴力的だったんだろうなぁ。
    閉ざされた島や過疎地域なんかはなおさら。
    本章の方でミミィが傷害沙汰を起こして連れていかれていたのがなんだったのか、わかってスッキリしたけどキツい。加害者側が人生満喫してるのを目の当たりにしたら、生きるのをやめたくなるだろうな。
    西加奈子さんの小説はじんわり情緒があるイメージを持ってたので、最後まで暗くてちょっと意外な小説でした。

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著者プロフィール

1977年イラン・テヘラン生まれ。2004年『あおい』で、デビュー。07年『通天閣』で「織田作之助賞」、13年『ふくわらい』で「河合隼雄賞」を、15年『サラバ!』で「直木賞」を受賞した。その他著書に、『さくら』『漁港の肉子ちゃん』『舞台』『まく子』『i』などがある。23年に刊行した初のノンフィクション『くもをさがす』が話題となった。

西加奈子の作品

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