司馬遼太郎対談集 日本人を考える (文春文庫)

  • 文藝春秋 (2014年6月10日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (368ページ) / ISBN・EAN: 9784167901257

作品紹介・あらすじ

司馬さんの「しゃべり」の魅力に溢れた一冊

「若者を受け入れない社会は動脈硬化した社会」「中国の政治家は、みんな演技家ですよ」――。四十年前とは思えない示唆に富む対談。

梅棹忠夫……日本は“無思想時代”の先兵
犬養道子……“あっけらかん民族”の強さ
梅原 猛……西洋が東洋に学ぶ時代
向坊 隆……日本の繁栄を脅かすもの
高坂正堯……政治に“教科書”はない
辻 悟……若者が集団脱走する時代
陳舜臣……日本人は“臨戦体制”民族
富士正晴……“サル”が背広を着る時代
桑原武夫……“人工日本語”の功罪について
貝塚茂樹……中国とつきあう法
山口 瞳……東京・大阪“われらは異人種”
今西錦司……人類を救うのはアフリカ人

みんなの感想まとめ

多様な視点から日本人の精神性や文化について深く考察された対談集は、時代を超えて今なお新鮮な示唆を提供します。著名な文化人たちとの対話を通じて、社会の変化や人間の営みの普遍性についての洞察が得られます。...

感想・レビュー・書評

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  • 1969年(昭和44)から71年(昭和46)にかけて、
    司馬遼太郎が当時活躍している各分野の著名人と対談をした記録である。
    50数年前の話であり昔話と思い冷ややかに読み始めたが、どうしてそんなことはなく今に通じるリアルな話で読むほどに感じることが多い。

    梅棹忠夫・犬飼道子・梅原猛・向坊隆・高坂正嶤・辻悟・陳舜臣・富士正晴・桑原武夫・貝塚茂樹・山口瞳・今西錦司 

    一部を除いて、よく読んでいる人もあり、あの頃はどんなことを言っていたのか興味もあった。読む本もその頃書いたものなので言っていることは同じはずだが、対談になるとまた別だ。
    この会話のように書いてくれていればと思う。


    ・梅棹忠夫「思想というのは、なにか壮大な舞台装置があるとこれにイカれる人間が多い‥‥思想というのは伝染病みたいなもので、一度ひどいのにかかると当分免疫性ができて、次のがきてもかからない。仏教がやってきたとき、日本はバージンだったからまともに感染して、あげく荘厳な舞台装置というか仕掛けを作ってしまった。カトリックが手ぶらでやってきても免疫ができているからかからない。」

    ・司馬遼太郎「日本人の思想というのはいずれも海の向こうからやってきて、それがいつも多分に悲劇的なんですな。キリスタンの受難にしてもマルキストにしても。それからたとえば水戸学の思想。あれは宋学からきていますでしょう。蒙古帝国に滅ぼされかけた南宋のインテリたちが、南宋こそ正統であるということを言わんがための、いわば尊王賤覇の思想なんですね。この宋学の一番ファナティックなところが水戸学に結実してそれが幕末の革命思想みたいなものになっていったわけで。」

    ・梅棹「近代日本のマルキシズムは、だいたい朱子学の後継者でしょうね。そういう役割を果たしておりますよ。」「朱子学の代替物がマルキシズムで将軍の代替物が天皇さん」「思想は組織への帰属意識とつながっている。どこにも帰属しない人間は思想的コントロールが効かない。無思想・無帰属人間をわんさとかかえた無階層社会、人類が初めて経験する社会にわれわれは踏み込んでいる。」



    ・司馬遼太郎「日本歴史の中で政治家を4人あげよといわれたら、私は信長、秀吉、家康それに大久保利通をあげますね。大久保というのはステーツマンであってしかも陰謀政治もできる稀有の人物ですな。彼は長期のヴィジョンをもっていたしそれを実現するための権力について内科的所見も外科的処置も知っていたし、できたでしょう。たとえばかれは単純な有司専制主義ではなく憲法についても考えていた。」

    ・高坂正嶤「明治を三つの時期に分けて、最初の10年は基礎がため、次の10年は殖産興業で近代化・工業化をやる、その次に綱紀をつくるというわけですね。」
    「権力の秘密を知るためには、異民族を統治するのが一番いい。薩摩藩は沖縄を異民族として統治した。」
    「4人の政治家のうち3人までが戦国時代、‥‥戦国時代という混乱があって、それまでの教科書がダメになったから出てきた」「イギリス19世紀の議会主義に学べ‥‥本当に理解するためにはそれに先立つ時代の血で血を洗う政治的暗闘を知らなきゃいけない。」



    ・辻悟「病理現象であるといえば、一般に病理を持たない一般健康人とは異質で不連続なものと見られ勝ちなのですが、人間の精神を取り扱う場合にはそうとはいえないことなんです。人間心理の、いってみれば自然におち入る一つの結果なんだと見る方が正しいと思います。‥‥(全共闘のセクトについて)仲間を支えているのは同質性ですね。他人の中に自分と同質のものを見ることで、仲間が成立するわけです。この同質性を守ろうとすれば、自然に異質なものを排除しようとします。同じ人間の中で、この心理に左右されるのが差別の出発点です。こうなれば明らかに不健全で、だから人間の精神が健在であるためには、同質性を相対的なものとしてとらえ、また同質性を守ろうとする姿勢が持っている閉鎖性を自分から乗り超える心がけを持っていなければならない。セクトの細分化は、それとは逆行していますから、これは明らかに不健全で、どこかに彼らが乗り超えることができない狭さがあるわけで彼らの課題でしょう。」



    ・貝塚茂樹「中国の政治は文人政治なんです。中国では軍人はヤクザ同様の人間なんですね。力があれば天下は取れるけれど、軍人である限りは尊敬されませんよ。ですから軍人が天下をとってもみな官僚になってしまう。政治を担当するのは、儒教的教育を受けた官吏、官僚です。ですから中世的封建制といっても、西洋の騎士や日本の武士が支配しているのとはぜんぜん違います。」

    ・司馬遼太郎「中国は何千年間という、おどろくべき長期間にわたる中央集権主義の官僚社会ですね。さらにはヨーロッパ風の論理的学問でないにしても、政治学の発達面では世界に冠たるものがあろうと思います。一面に官場の大腐敗というものも何千年の伝統を持っていて、宋以降、その腐敗を許しがたいという精神がでてくる。それが王陽明になるのではないか。つまり、官僚社会の腐敗を現実に見て、その中からでてくる思想ではないでしょうか。」「文人政治以前には中国にはすばらしい武があった、いま漢以前の武を呼び戻さなければならない。そういうことをわざわざ書かねばならない歴史的な異常事態がが清朝末期から起こった。」

    貝塚「五・四運動のころは、陳独秀と、とくに胡適は全面的西洋化を主張した。‥‥ところが毛沢東は、戦争中の新民主主義論では中国の文化の批判的継承をとなえた。‥‥文化革命後中国みたいな古い国を新しくしようと思ったら、従来のものとはすべて訣別して、新しいものをつくる覚悟じゃないといけない。」
    「中国のイデオロギーというのは非常に地についている。その点日本のイデオロギーは‥‥個人的なテンペラメント(精神的気質)」

    ・・・・。

  • *星5つ相当です
    1970年あたりの対談集ですが、2025年の今読んでも全く古くない。むしろ今起きていることについて書かれているのか、と思うほど素晴らしい内容でした。
    人間の営みは基本的に変わらない、歴史は繰り返す、過去に学ぶ、すべてこの本において改めて気付かされる内容でした。
    中でも、日本人の精神性は変わったのではと思わなくない(当方は1980年代生まれ)空気感を感じておりますが、この本でたとえば梅原猛、犬飼道子とやりとりされている内容は普遍的で非常に価値が高いと思います。内容が素晴らしいので、他のことに気をやらずに過ごせる年末年始やGWなどにじっくり向き合うのが良いかと思います。自分の場合は仕事が立て込んでおり、内容の素晴らしさを認めながらも没頭しきれない部分がありました。後日必ず時間をとってまた見直したい本です。

  • たぶんもう20年くらい前に買ったまま本棚の隅に隠れてしまっていた一冊。
    コロナの巣ごもりでたまたま手にして読むことに。

    あとがきに昭和46年(1971年)6月とあるから今から50年も前の対談集だが、日本はまだ万博の余韻冷めやらず高度成長の春を謳歌していた時代。
    司馬遼太郎もまだ40代後半で国民作家として不動の地位を確立し脂が乗り切っている頃。対談の相手は梅棹忠夫、犬養道子、梅原猛、向坊隆、高坂正堯、桑原武雄、貝塚茂樹、今西錦司等全員が明治大正生まれの当代一流の学者、文化人。

    さすがに半世紀も前の対談なので、学生運動や公害問題など今の世相とだいぶ変わってしまった話題もあるが、原発問題とか科学技術の発達は人類の未来に幸福をもたらすのかといった文明論などはその本質は今でもまったく変わっていない。

    また当時文化大革命真っ最中の中国との関係について、文化大革命がもし成功すれば思想信条に拘泥しない「あっけらかん民族」の日本人は中国についていくのではないか、などという議論もなされていて、その後の歴史を知っている我々からすれば笑ってスルーという感じもするが、5GやAIでトップランナーになりつつある中国に対して欧米型の自由主義、民主主義より中国型の市場経済型国家主義の方が21世紀には優位に立つのではないかなどと真面目に議論する人が出てきたことを鑑みるに、中国との関わり方という問題は古くて新しい問題である。いずれにしろ中国という大国の歴史に敬意と深い見識を持って未来の日中関係を論じる司馬氏や貝塚氏などの当時の知識人は、今日のいわゆるネトウヨ的保守論客とは相当の格の違いを感じさせる。

    スケールが大きく痛快だったのは今西錦司氏。核戦争が起こって人類の70%が滅亡しても、30%が生き残ればそこから人類はもう一度復活できる。その時人類の救世主になるのはアフリカ人だと。自由で大らかな時代の空気を感じる。

  • 1970年の対談集。司馬さんはじめ鬼籍に入った方が結構おられる。全共闘の話題を見ると45年は長いと感じるが、歴史の話題が多いこともあり、充分示唆に富むものだった。2015.3.30

  • 40年前の司馬遼太郎の対談の新装版だが、今読んでも古びていないのは流石。
    対談相手は、梅棹忠夫、梅原猛、高坂正尭、陳舜臣、桑原武雄、貝塚茂樹、今西錦司等々の超豪華な顔ぶれ。

    面白いのは高坂正尭との対談。
    高坂正尭は当時の「左翼でなければ文化人でない」という時代風潮の中で、現実主義のオピニオンリーダーだった。
    高坂は、赤軍派の「よど号ハイジャック事件」を、「珍しくもナンセンスという点で世界に冠たるハイジャック・・(略)・・北朝鮮はスターリニズムの国だし、それに日本共産党ときわめて近い。そんなところへ彼ら反日共系の学生が行ってなにができるか、少し知識があれば、何もできんだろうということが分かるはず」
    それを受けて司馬が「ほんまにあれは史上類のない低能やな。まったく世界に冠絶したハイジャックです。無知こそ行動のエネルギーであるという精神は、幕末からありますね・・(略)・・大久保以下反幕の政治家は、無知こそエネルギーである攘夷エネルギーをテコにして時勢を動かそうとしたし、さんざんこれを利用した。維新政府が出来たあと、ちょっとボンヤリした人間が、太政官に出かけて行って、いつ攘夷のお取りやめが布告されましたかと、聞きにいったそうです(笑)」といったやりとりの妙味は何とも言えない魅力と面白さがある。
    きっと二人は大阪弁で何の気兼ねもなく語り合ったのだろう。こういう対談を目の前で聞いてみたいものだ。

  • 【司馬さんの「しゃべり」の魅力に溢れた一冊】「若者を受け入れない社会は動脈硬化した社会」「中国の政治家は、みんな演技家ですよ」――。四十年前とは思えない示唆に富む対談。

  • 1970年代の対談集なのに、中身は死んでない。一読の価値あり。巻末の解説は蛇足。

  • 2014.7.6読了

  • 1970年代の対談であるが、対談の内容は普遍的なものが多かった。

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著者プロフィール

司馬遼太郎(1923-1996)小説家。作家。評論家。大阪市生れ。大阪外語学校蒙古語科卒。産経新聞文化部に勤めていた1960(昭和35)年、『梟の城』で直木賞受賞。以後、歴史小説を次々に発表。1966年に『竜馬がゆく』『国盗り物語』で菊池寛賞受賞。ほかの受賞作も多数。1993(平成5)年に文化勲章受章。“司馬史観”とよばれ独自の歴史の見方が大きな影響を及ぼした。『街道をゆく』の連載半ばで急逝。享年72。『司馬遼太郎全集』(全68巻)がある。

「2020年 『シベリア記 遙かなる旅の原点』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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