- Amazon.co.jp ・本 (282ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167901363
作品紹介・あらすじ
その忠義、剛勇、鎮西一の武将なり!筑後柳川の立花宗茂は、秀吉の九州攻めで、勇名を馳せ、関が原で西軍に属して改易となり、のち旧領に戻れたただ一人の武将である。
感想・レビュー・書評
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関ケ原の戦いで西軍に与しながら、旧領に戻れた唯一の大名・立花宗茂の半生。
『その忠義鎮西一、剛勇また鎮西一』と秀吉にも激賞された宗茂が婿養子として入った立花家の義は『裏切らぬということ』。
秀吉に大名として取り立てられた宗茂は秀吉に対する義を通して関ケ原の戦いでは西軍に与するが、その西軍は寝返る者が次々現れ、毛利は宗茂が大坂城での籠城を進言しても決断出来ない煮えきらなさに愕然とし憤って九州へ戻る。
いくら『立花の義』を貫きたくても、その戦いがそもそも『不義の戦』であるのだから何と張り合いのないことだろうか。
ここからが宗茂の長い戦いの始まり。九州においては黒田如水や鍋島直茂に攻められるのを躱し、加藤清正の援助を受けるも彼の家臣になることを厭い京へ出て、一大名となる道を探る。
何となくのイメージで奥州南郷の大名となるまで様々な交渉や裏取引みたいなこともあったのなかと思っていたが、京の日々はただただ耐えるだけだった。
厳しい日々になることを承知でついてきた二十数名の家臣たちはそれぞれ身分を隠して金を稼ぎ、主である宗茂がいつしか大名として返り咲く日を『夢』として耐え忍んでいた。
印象的なシーンがある。
家臣たちが庭先に干飯を作るために飯を干していたのに、急な雨が降り出して留守を守っていた宗茂は慌てて室内に取り込もうとする。
たまたま客人として来ていた本多忠勝が『暮らしに窮して主が日頃にないことをするのを目にして不甲斐なき思いをいたすのは家臣の方でござろう』と稽める。
後に帰ってきた家臣たちの中にはせっかくの干飯がダメになって落胆する者もいるが、長年使えてきた重臣は宗茂の主たる態度に胸を張る。
武士は食わねど高楊枝の更に上をいく、主たる矜持に切なくなるも感心する。
その後、大坂城での戦いを前に徳川家に召し抱えられることになるのだが、宗茂は最初徳川家康に対してあまり良い印象を持っていない。
それはいわゆる真っ向勝負ではなく、『汚い手を使っ』た天下取りだったからだ。
しかしそこにこそ家康のいう『徳川の義』があることを知り、将軍家に『立花の義』を尽くそうと決意する。
この作品には様々な『義』が登場する。
『徳川の義』に『真田の義』、家康に仕え様々な謀を用いてきた本多正信にもまた彼なりの『義』があった。
印象的な人物は正室の誾(ぎん)千代。
父・道雪から立花城の城督を譲られていた彼女は、宗茂を婿養子として迎える際に『この城の城督はわたくしで、あなたは代官です』と言い切る。まるで「女城主直虎」のようだ。
女ながらに武者姿で屋敷を守り、夫・宗茂を助けるために清正勢に向かって女武者たちに銃を撃ち牽制したり、賊に襲われていた公家らしき姫君を助けたり。
これほど勇ましい女性だけに周囲からは『鬼女』と呼ばれることもあるようだが、宗茂にとっては優しい妻であり同志だった。
宗茂が京で耐え忍ぶ生活をしている最中に病死してしまったのが残念。しかし妻亡き後も宗茂は常に彼女のことを思い、彼女なら何と言うだろうと考えながら行動している。
当時の男性だけに側室や継室もいるが、いずれも自ら積極的に動いたということではなく成り行きでそうなったという感じ。実際のところは分からないが、主として慕われるのとは違いモテモテというタイプではなかったようだ。
十九年の時を経てついに旧領へ戻るシーンは感慨深い。心の中で亡き妻と対面するのも映像が見えるようで良いシーンだった。
何より不遇の時をずっと支えてきた家臣たちの感慨は如何ほどだったろう。共に『夢』を持ち続けて良かった。
いつか大河ドラマの主役に取り上げ欲しいなと思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
関ヶ原の戦いで改易されながら、のちに旧領に戻ることができた唯一の武将、立花宗茂をえがく。
おもしろかった。
決して裏切らない〈立花の義〉。
その思いを胸に生きる、宗茂がさわやか。
凛々しく、よきパートナーの正室・誾千代。
宗茂を慕う家臣たちや、宗茂の良さを認める武将たち。
苦しい時期も変わらない彼らが魅力的で、引きこまれる。
真田信繁の〈真田の義〉。
徳川家康の〈徳川の義〉。
移り変わる時代と、それぞれの義の違いも、おもしろかった。
後半は、ぐっとくる場面が多く、何度も泣けた。 -
「西国無双」と称えられる立花宗茂の半生を描く歴史小説。
戦国の世を描きつつ、この作者らしく、妻との心のふれあいが程よい加減で書かれているので、宗茂が人として生き生きと感じられる。
立花の義は、決して裏切らぬこと。
この時代に、これほどまでに不器用で気持ちの良い生き方をした武将がいたとは、恥ずかしながら西国に無知な私は、改めて感動してしまった。
そして、この作品で描かれる家康にも、泰平の世を作るためには手を汚すを恐れぬ、という徳川の義がある。
今まで自分が見ていたものとは違った角度で、関ヶ原からの歴史を見られたように思えて、とても満足の一冊でした。 -
秀吉に「東国にては本多忠勝、西国にては立花宗茂、ともに無双の者である」と讃えられた立花宗茂の一生を描いた歴史長編。
宗茂は婚礼のおりに、新妻誾千代から「立花の義とは、裏切らぬことでございます」と告げられる。
関ヶ原の戦では西軍に属した為、流浪の身となるが、その言葉通りに、生涯自らの道を歩み通す。
誾千代の「お前様は西国無双の武将にございます。必ずや返り咲いて、誰にも負けぬ無双の花を咲かせくださりませ」との言葉を胸に、十数年の浪人生活を耐える。
やがて、本多忠勝の推挙もあり、家康に領地を与えられる。
大坂の陣の際、家康から「秀忠とやがて将軍となる世嗣の傍を離れぬな。決して人を裏切らぬ立花の義を世に知らしめよ。さすれば秀忠と次なる将軍もひとを信じることが出来よう」とさえ認められる。
そして、旧領地へ大名として戻り、誾千代の願いを果たすことができる。
宗茂と誾千代との愛情物語として読むこともできる。
後年、宗茂とともに領地へ赴く菊子が京の公家葉室頼宜の姫とあるが、著者の筆名との関係は? -
あーーーー葉室さんの歴史小説本当にすてき。
間違いない、というか絶対裏切らない。この主人公の立花宗茂のように。(笑)
誾千代のかっこよさたるや言い尽くせない。そして宗茂の男気あふれる、でもスマートな生き方にどんどん引き込まれる。そして辛苦を共にしながら決して主君から離れようとしない、家来達の忠義っぷりに涙涙。
九州の武将ということでなくても、そもそも日本史知識不足の私ですが毎回知らなくてもぐいぐい読まされてしまってます。文章の丁寧さ、一貫した何か太い観念で貫かれた日本人的スピリットが今回もひしひし感じられて、またまたほぼ一気読みしてしまいました。 -
面白かった
実在の人物、立花宗茂の半生を下敷きとした物語。
ストーリとしては、
秀吉によって筑後柳川十三万石の大名に取り立てられながらも、関ヶ原の戦いで西軍に加担したことにより、家臣とともに浪人の身に。
そこから、さまざまな苦労・苦難を乗り越え、ついに十数年後、領地に返り咲くという展開です。
Wikiによると関ヶ原の戦いで改易後、旧領を回復した武将は宗茂ただ一人とのこと。
本作のテーマは、自らの「義」を貫き通す姿。
立花の義は「決して裏切らない」ということ。
戦国から江戸の初期で、逆境に耐えながらもその義を貫き通す姿に引き込まれます。
また、それを支える家臣たち。
そして、本作では様々な「義」が出てきます。
真田の義は「生き抜くこと」
徳川の義は「泰平の世を作るためには、手を汚すを恐れぬ」こと
それぞれの武将の想いが伝わってきます。
さらに、本作では、正室の誾千代との関係が睦ましい。
こういった時代小説だと、そもそもの逸話を知らないので、どこまでが史実でどこからが創作なのかがわかりません(汗)
とはいえ、とても楽しめました。
お勧め -
立花宗茂の人生を描く
名前だけ知っている人物でどんなひとなのか全然知らない状態でこの葉室麟さんが優しい表現で書いているので好きな武将の1人となった。
2016.10.02読了 -
寡聞にして本書を読むまで立花宗茂という人を知らなかったのですが、葉室氏が題材にしたことが頷ける真っ直ぐな人でした。
多くの武将たちが生き残りをかけて時に権謀術数を巡らす戦乱の世の中で、決して裏切らないことを信条に生き抜いたことは驚嘆に値する。また、彼を支える忠臣や女性も皆、この男と共に生きるに相応しい人たちでした。
オマケに家康まで心の底では平安の世を実現するために敢えて卑怯な手も辞さない男として描かれていたけれど、これには少し疑問もある。真田も伊達も格好良すぎだしね。 -
以前に読んだ小説の中にちらっと登場した、立花宗茂。何となく、好きなタイプの人物のような「匂い」がして、題材になっている本を探してたどり着きました。
我が直観をほめたくなるほど、この本に描かれる立花宗茂は大そう魅力的な好人物。西国無双と称される戦上手の武将で、入り婿で九州柳川の城主の立場だったのに、関ヶ原での西軍敗戦により領地を召し上げられ、京で浪々とした年月を過ごす。ようやく家康に許され、大阪の陣では徳川方として将軍家を支えて、その実績を認められ伊達家を睨む東北南郷の地に封じられる。そして、功績認められて最後は旧領柳川に返り咲く…そんな波乱万丈の人生で苦労をしたと思われるのに、明るく誠実なお人柄。
軍師官兵衛、天下人秀吉、狸おやじ家康、独眼竜、そして真田信繁(幸村)…名だたる戦国武将たちとの交流も描かれているのだけれど、これぞご人徳、といったところでしょうか。家来衆にも、領民にも慕われた素敵すぎる人物として描かれており(当然、正室にも側室にも愛されるモテモテぶり)、いささか出来すぎの感もありますが、時にぐっと涙をこらえて読む場面もあり、人の情を感じながら、さわやかに読み終えました。
清涼感あふれる読後感でございました。満足。 -
裏切りや下剋上が当たり前の戦国時代において、義を重んじ紆余曲折ありながらも、筋の通った生き様で戦国時代を生き抜いた、西国の雄立花宗茂を描いた、時代小説らしい清々しい一冊。
著者プロフィール
葉室麟の作品





