ソクラテスの妻 (文春文庫)

  • 文藝春秋 (2014年12月4日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (192ページ) / ISBN・EAN: 9784167902490

作品紹介・あらすじ

神話と思索と謎解きが、人間の真理を描き出す



ロジックと数理に生きた「最初の哲学者」がたどりついた境地とは。ギリシアの神々と哲人たちに材を取る哲学的ショートストーリーズ。

みんなの感想まとめ

ギリシア神話を基にした短編集は、神々や歴史上の人物のエピソードを通じて人間の真理を探求しています。各物語は短く、読みやすい構成ながらも、独立した作品同士が巧みに相互に補完し合い、視点や人物を変えること...

感想・レビュー・書評

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  • ギリシャ神話にまつわる、こんな面白い短編がたった12編だけで終わっている。わずか182ページなのに面白くて長く書いてしまった。
    短くて残念だと思ってあとがきを読むと、アテネ・オリンピックに因んで、開催の前年から書き始めて12編まできたところでオリンピックが終了。と共に連載が打ち切りになったそうだ。
    たった12作で終わっている理由。
    こんな面白い作品を200作は書く予定だったそうで、これを読んで小さい残念涙がチロッと出た。文庫本になってすぐ買ったのを今になって読んでいるような読者の言い草とも思えないが、とっても面白かった。
    ギリシャ神話ならもっともっと題材はあるし、こんな風に柳流の上から下から斜めから深堀、浅掘りも含めて神話好きを小躍りさせてくれるかも知れなかった。のに。

    ともあれそうなのでゆるゆると読んでみた。
    題名の「ソクラテスの妻」でニヤリ、締めの「ヒストリエ」は読後に手を打つほど。
    だから今ごろ言ってみる。ギリシャはオリンピックの時だけではないのにね。

    短い備忘録

    オイディプス
    汝オイディップスよ、そなたは父を殺し、母と交わるであろう
    神託は宿命、今も残る言葉。そのコンプレックス。

    異邦の王子
    スキュタイの王子は母から故郷ギリシャの話を聞いて憧れた、いざ行ってみるとギリシャ人は酒浸りで殴り合う野蛮人ばかりだった。そこで噂に聞くソロンを訪ねその博識と人格に打たれて弟子になった。彼はソロンから多くを学び、人々から尊敬されるまでに成長して帰国した。そして兄の矢にあたって死んだ。王は言ったギリシャで多くを学んだ息子よスキュタイの掟は忘れたのか。


    白い帆と黒い帆、アテナイの王子に恋したクレタの王女アリアドネの話。
    王子と共に国から出たアリアドネはクレタの歴史の滓から逃げられなかった。
    立ち寄った島にひとり残り、アテナイに向かう王子の舟に密かに死の黒い帆を揚げておいた。

    亡牛嘆
    クレタ王がポセイドンから輝くような白い牡牛を授かった。妃のパシファエはその牛に恋し、名工ダイダロスに作らせた牝牛に入り交わった。そして生まれたのが牛頭人身のミノタウロスだった。彼は迷宮に閉じ込められ運命について考える。もうすぐ人身御供に交じって破滅がやってくる。「破滅」は美しく恋したアリアドネを連れて行った。

    ダイダロスの息子
    父が余りに名高い名工だった故に息子の僕は名前で呼ばれたことがない、母からも。
    父は王妃に呼ばれ本物と見まがうような牡牛をつくった。次は王に呼ばれて入ったら出られない迷宮をつくり生まれた息子の化け物を閉じ込めた。僕と父も閉じ込められたが父は名工、翼を二組作った。「低過ぎず高すぎず飛ぶのだ、高いと膠が溶けて落ちるぞ」ふと下を見るとオヤジが僕の陰に入っていた。僕の陰に。僕は高く高く飛んだ。僕の名はイカロス。

    神統記
    ゼウスは父親を倒したクロノスを冥府につないで王座を勝ち取った。次々に娶った妻たちからは運命の女神豊穣の神詩歌の神など大勢の子供が生まれた。次々に父親を殺すという呪いが断たれてゼウスは不死の神になった。時が経ち戦いに倒れた親たちを想う。死は呪いでなく恩寵だったのではないかと。

    狂いの巫女
    アポロンとの約束を破ったカサンドラは呪いを信じた人々に信じてもらえない罰を受けている。トロイア戦に勝利したアメガムノンが十年ぶりに帰ってきた。貢物の王女カサンドラを連れて。狂った王女が不吉な言葉を叫ぶのを王妃がかばった。彼は湯殿で王妃に首を切り落とされたのだった。信じてもらえない王女のことはポールオースターの「孤独の発明」でも引用されていたけど、なるほど。

    アイギナの悲劇
    旱魃にはオリーブで作った女神像を安置せよと神託が下った。オリーブの木がないエピダウロスはアテナイに頼って像を作った。毎年生贄を送ることを条件に。だが独立したアイギナに像を盗まれた。当然生贄は送られない。怒ったアテナイが攻めてきた。事情を聴きに来た使者が煽ったのだ。そしてアテナイの戦士は全滅したが一人生き残ったあの使者は自分の話上手に自惚れていた。結果戦士たちの妻に殺された。

    最初の哲学者
    タレスは知識を求めてはるばるエジプトに来た。だが知識人の神官はそれを伝えようとしなかった。だがピラミッドの高さはいかに、という問いをやすやすと解いた。
    知識を得て帰って来たが人々は素朴な知恵で彼の説を信じなかった。彼を人々に信じさせたのはオリーブの豊作だった。星から豊作を知ったといい、財を成した彼を人々は信じるようになる。彼の言葉は今でも生きていて「イオニア学派」と呼ばれギリシャ哲学の幕を開けた。タレスと星の話は彼の死後も人々の胸に生きていた。

    オリンポスの醜聞
    ヘファイストスは青銅を鍛えながら貧しい身体を見て、これでもギリシャ12神の一人なのかと思う。人々は彼を鍛冶屋と呼んで崇めている。神殿も戦車も彼が作った。その上愛の女神アフロディテが妻だった。彼女は「愛(エロス)」「欲望(ヒメロス)」を従えて神々の欲望を掻き立てていた。彼女は破壊の神アレスに恋をした。ヘファイストスは細い網を作ってベッドに仕掛けた。ベッドを吊りあげられた二人は集まった神々の嘲笑の中にいた。ヘファイストスはその時ふとばかばかしくなった。神々の不満顔を見ながら仕掛けを解いた。
    そしてしみじみと思った美醜など幻影だ。

    ソクラテスの妻
    悪妻だと言われたが彼女はその訳が分からない。
    世間離れした夫をかばってどこが悪妻なの。みすぼらしい衣服をはぎ取ったこと。何度もはだしで歩かないでといったがとうとう呆れてそのままにしていること。広場で水をぶっかけたこと、夫の言葉を理解しないで口汚くののしること?一緒に暮らしてみないと分からないわ、どうしようもない夫なのに。「無駄なものはいらない」って甲斐性がなくて買えないだけなのに。議論では負けたことがないから殴られたりけられたりするのよ。裁判だって援助を断ってああいうことになったのよ。理解せずに愛することが悪いことなの。

    女王メディア
    メディアはギリシャから来たイアソンに一目ぼれした。様々な障害を乗り越えてきた船団を率いる男。
    目的は金羊皮と聞いて落胆した。父は牛を使って耕し作物を作れ、収穫後に望みをかなえよう」牛は怪獣で手に負えるものではない、メディアの助けで金羊紙を盗んで船出したギリシャの一行。メディアはついてきた弟を八つ裂きにして海に捨てた。それを王が拾って葬っている間に帰還した。しかし国は乱れていた。王が変わっていた。メディアは彼を助けたが残虐な本性を知られてしまった。彼は無惨にも死にメディアは生き残ってしぶとく生きた。

    ヒストリエ
    ヘロドトスは驚いた。長い千三百年という歴史をエジプトの司祭は証明して見せたのだ。記録を使って。記録することに驚いたのだ。ヘロドトスは何でも質問した。彼は好奇心の塊だった。そして知ったことに驚いた。そして同じものが一つもなく変化していることに。
    彼は世界を旅して見聞きすることに常に驚いた。そして書き記した。風習、伝説、歴史や異国の人々について。
    その上優れた判断力で書く事柄を取捨選択した。その記録をギリシャ人に読み語って聞かせた。だが冷たくされることもあった、聴衆は聞きたいことだけを聞く。
    ペルシャ戦争の記録で筆をおいた。

    ヘロドトスの残したものは“ヒストリエ”と名付けられた。
    古いギリシャ語で“調査・探求”を意味するこの言葉に、英語で「ヒストリー」日本語で「歴史」の訳語がつくのは、ヘロドトスが生きた時代の何世紀も後のことだ。
    ヘロドトスは今「歴史の父」と呼ばれている。

  • ギリシアの神話や歴史上の人物たちのエピソードを短く、読みやすく。
    各編の下敷きになっている話からそこまで大きく逸脱せず、ちょこっとだけ心情描写が入ったり、視点をずらしたり。イカロスの逸話はそのなかでもアレンジの効いていて、ちょっと太宰の『駆け込み訴え』リスペクト感も。
    中高生の朝読書などにも向いていそう。

  • ソクラテスの妻クサンティッペは、本当に悪妻だったのだろうか?実際はどうだったのかは分かりませんが、本書での彼女の言い分は理解できる。悪名は、天才過ぎる変な夫を持った妻の宿命なのかもしれません。
    その他、ダイダロスが作った牡牛の模型の中に潜り込んだパシファエ王妃の姿を想像しただけでも笑えてしまいます。
    "愛と美の女神"アフロディテを妻に娶った"鍛冶屋の神"ヘファイストスの苦悩や、スキュタイの王子アナカルシスとギリシャ人の宴席での会話は興味深く感じた。
    ギリシャ神話について知識があったら、もっと楽しめたと思います。

  • こういう短編集は大好き。
    一つの作品が原稿用紙10枚ほど。ギリシアの神話や故事に材を求めたもので、オイディプスの悲劇など馴染み深い逸話が柳先生の筆によって再構成されている。
    標題作は妻の視点からソクラテスの死を描写する逸品かも。アテネ五輪に向けた出版社の持ち込み企画だったようだけど、これまた出版社の都合で短期連載に終わったのは残念。

  • ギリシャにまつわる神話・逸話の掌編集。ソクラテスの妻は悪妻かもしれないが、どうしても責める気になれない。家庭に欲しいのは偉大な哲学者じゃないんだよ……。「恋」「亡牛嘆」「ダイダロスの息子」は続き物っぽい。心の闇が垣間見えるアリアドネに魅力を感じた。「オリュンポスの醜聞」に登場するヘファイストスは、鍛治神としての素晴らしさに溢れており、最後の「ヒストリエ」も総括にふさわしい話で良かった。

  • クレタ島に伝わるミノス王とその息子・牛頭人身の怪物ミノタウロスの伝説について。ミノタウロスを閉じ込めた迷宮を作ったダイダロスの息子イカロスについて。父親を殺し、母親と性的関係を持つという忌まわしい神託から逃れられなかった、オイディプス王の悲劇について。夫イアソンと共に故郷を捨てたコルキスの王女メディアの、激情の結末について。
    12の掌編はそれぞれの登場人物たちが微妙に絡みあい繋がっていき、最後の書下ろし作品「ヒストリエ」にて、歴史の父と呼ばれるヘロトドスが各地を転々と旅しながら見聞きし、書き記した物語として大成する。

    本書のタイトルにもなっている『ソクラテスの妻』は、作曲家モーツァルトの妻コンスタンツェ、文豪トルストイの妻ソフィアと並んで「世界三大悪妻」と名を馳せるソクラテスの妻クサンティッペが語り部。

    「皆さんがおっしゃるほど、わたしはあの人にとって“悪い妻”だったのでしょうか?」

    と、ソクラテスの死後に、クサンティッペから見た亡夫の実像を語る。
    よく知られる物語も、語り部を変え角度を変えて見れば全く違う印象に。哲人ソクラテスと悪妻クサンティッペも、よくあるだらしない夫としっかり者の妻になる。なまじソクラテスが哲学者として絶大な評価を得ていたがために、実像とかけ離れて理想像が独り歩きした。そんなありがちな過程と顛末、本当にあったかもしれないと考えてしまう一篇。

  • 『最初の哲学者』(幻冬舎2010刊)の文庫化なのに、タイトルが変わっていたため気づかなかった。が、読んでみたら殆ど覚えていなかった…。
    ギリシャ(主に神話)に関する掌編12編に、単行本化するときに付けた額縁の小話(ヘロドトスの話)、という成り立ちを文庫あとがきで記している。
    掌編はサラサラ読めて、特にひねったりはしていない。ヘロドトスについての「ヒストリエ」が、短いながら、記録することの意義を痛感させる(記録が蔑ろにされる社会にいるので)。

  • 「ソクラテスの妻」
    表紙がジョジョに出てきそう。


    ソクラテスの妻であるクサンティッペ(Xanthippe)は、歴史上の逸話の中では、かなりの悪妻として描かれている。Xanthippeは、口やかましい女性、口の悪い五月蝿い女のことを指す名詞としても使われている。ある時、クサンティッペはソクラテスに対して激しくまくしたて、彼が動じないので水を頭から浴びせた。それがクサンティッペだ!


    Xanthippeの代名詞として語り継がれている時点で当時は相当な厄介具合だったに違いないと思ったが、こんな逸話が言い伝えられてきた時点で察するべきである。怖すぎる!逆に噂が噂を呼んで真実ぽく語られ、受け継がれたならば、不幸なことこの上ない。


    表題は、クサンティッペは本当に厄介女で悪い妻だったのか?と言う疑問を持って読みたい短編だ。そう、バイアスは捨て去って読みましょう。きっとクサンティッペは悪い妻じゃないかも知れない。ソクラテスだって偏屈が行きすぎた天才偏屈なのだから気が荒すぎるくらいが丁度良いかも知れないのだ。


    そして、分かっちゃう。そりゃ水をぶっかけたくもなるし、あんた何を言ってるんだと言いたくもなる。夫婦喧嘩が為されないもやもやがクサンティッペにはあったのだ。これって現代人も共感できますよ!クサンティッペ!と言ってあげたい。


    因みに、当時の古代ギリシア社会では、女性は15歳前後で30代くらいの年長の男性と結婚することが通例。ソクラテスが70歳辺りで死んだ時、彼には三人の子がいて内、10歳位年齢が離れていた兄弟もあったようだ。


    すると、大体ソクラテスが50代の時に15歳前後のクサンティッペと結婚したことになる。しかし、ソクラテスを調べながら超ロリコン結婚か、ありえないな、とか思っていたら、今だって法律上では女子は16歳から結婚出来ることを思い出す。つまり、古代ギリシアから法は全然発展していないのだ。こんな時代をソクラテスはどう思うんだろう。こんなもんさと言うのだろうね。

  • ギリシャ神話を題材にした短編集でした。ソクラテスの妻は悪妻として有名ですが、ソクラテスの様な突拍子も無い行動を取る夫を持つと文句も言いたくなるだろうなと感じさせられた。

  • 平明と言えば聞こえはいいけど、アッサリし過ぎて物足りない。なんかデジャブだなあ、阿刀田高とかぶるからかしらん…と思ってたら、「最初の哲学者」改題、とあとがきにあった。版も題名も違う本で中身一緒って、どうしたら事前に知れるんでしょう?身銭切って買ってたら怒るぞ。出版社の良心問題だよな。

  • 名前と何となくこんな事したよね?という程度は知っているギリシャの神々のショートショート。実際の伝承を調べて比べると初めて皮肉が理解出来る。
    軽く読めるけど違和感を感じるという面白い作品。

  • ギリシャの歴史や神話をベースとした短編集です。一話一話が短いため、無理なく読めます。知識ゼロでも楽しめます。

  • お馴染みのギリシャ世界の話を少しだけ視点をずらして語り直すという趣向。そこそこお気楽に楽しめますよ。あっという間に読み終わるけどっ

  • ギリシア神話の本を傍らに置いて読むべき本です。

  • ギリシャ神話 短編集
    あんまり入ってこなかった…。

  • 読みやすいギリシャ神話。これまでギリシャ神話を読もうとしたことがあったけれど,だいたい興味を失ってしまった。しかし,この本は,たぶん登場人物を厳選し,エピソード間のつながりを計算して配置し,文章は平易なのでストレスなく読める。

  • 文庫本かで再読。ギリシャ神話の神々や英雄の話を神話としてではなく、人間臭い物語として再構築した短編集。

  • ギリシャの神々のあまりに「人間臭い」所業に隠喩をまぶした短編集。

  • ギリシャに関するお話、13編。それぞれ、読みやすくて、面白い。

  • スバイものでなはなく、
    もうひとつ恒例の歴史もの。
    ソクラテス、ミノタウルスなどなど。
    ほんとはこうだったのかも?

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著者プロフィール

一九六七年生まれ。二〇〇一年『贋作『坊っちゃん』殺人事件』で第十二回朝日新人文学賞受賞。〇八年に刊行した『ジョーカー・ゲーム』で吉川英治文学新人賞と日本推理作家協会賞をダブル受賞。他の著書に『象は忘れない』『風神雷神』『二度読んだ本を三度読む』『太平洋食堂』『アンブレイカブル』などがある。

「2022年 『はじまりの島』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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