- Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167903282
作品紹介・あらすじ
いま、そこにある個人情報の危機を描く警察小説
行政サービスの民間委託プロジェクトを進めるエンジニアが誘拐された。サイバー犯罪捜査官とはぐれ者ハッカーのコンビが個人情報の闇に挑む。
感想・レビュー・書評
-
SF作家藤井太洋さんの警察小説。
ITを知りつくした藤井さんだからこそのリアルさで、IT社会の問題やビッグデータの危機が描かれる。
〈京都府警サイバー犯罪対策課の万田は、ITエンジニア誘拐事件の捜査を命じられた。協力者として現れたのは冤罪で汚名を着せられたハッカー、武岱。二人の捜査は進歩的市長の主導するプロジェクトの闇へと……。行政サービスの民間委託計画の陰に何が?〉(あらすじより)
事件は天下の警視庁の管轄ではなく、京都府警と滋賀県警というどちらかといえば地味め(ごめんなさーい)、というか人情系刑事ドラマが似合いそうな府県警の管轄で起きる。捜査するのは今や全都道府県警察に当たり前に存在するサイバー犯罪対策課だ。
SF作家が描く警察小説だからといって、あの人気小説のような新型近接戦闘兵器などは出てこないし、さまざまな特殊能力を有する捜査員が所属する特捜部なんてものもない。ここには地道に犯罪捜査を行う刑事がいるだけだ。
小説内でリアルに描かれるのはビッグデータの危機だけではない。当然のごとくそれはIT業界の内幕にも及び、その結果、派遣社員のエンジニアが壊れていくしかない業界内の現状をまざまざと見せつけてくる。
たとえばホワイトボードに書かれた「3/202」の意味。たとえば民間企業のエンジニアがときおり見せる座り方。そういう業界内の人しか知りえない、または業界人であれば当たり前すぎて気にもかけない情報がちょこちょこと挟まれることで、エンジニアのおかれた地獄のもようが真実味を帯びてくるのだ(2015年文庫化。今はどうなっているのだろうか)。作者ならではの描写だと言っていいだろう。
それにしても悪事を働いた奴らはどうしても許せない。腹立たしくて仕方ない。卑劣極まりない手を使いある人物の人生を狂わせ、また狂わそうとする。さらには真実に近づいた人物の人生までも破滅させようとし、そしてこれからもそんな人たちが数多く生まれるところだった。
私の愛する滋賀の地で、こんな恐ろしいことが起きようとしていたとは殴ってやりたくなる。
※この物語はフィクションです。実在の人物や場所、団体などとは一切関係ありません。
←ええ、ええ、わかっていますとも。わかっていますけどねっ!
あと、自分の個人情報はしっかりと自分で守らなくちゃと思いを新たにした。個人情報保護法ってプライバシーの保護を行うために制定された法律ではなかったなんて、恥ずかしいけど今まで知らなかった。
IT用語や個人情報関連の話もバンバン出てくるけど、今回も読んでるうちにわかってくるから安心してください。いつもながらの藤井マジック☆
とはいえ、最後の一文に呻く。
これは一体……。どちらにとればいいのだろう。うう、どっちだ。……うん、決まってるだろ。
「帰ってこい!」
思わず叫んでしまった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
藤井太洋さんの本は、知らない世界に自然と連れていってくれる。一気読みしてしまう。ITのエンジニアとか、中国の不可解さとか、システムネットワークとか、全く未知なのに、知りたい欲を楽しく満たしてくれました。
-
サイバー犯罪捜査官とサイバー犯罪の元容疑者がタッグを組んで個人情報絡みの事件を追いかける警察小説。 元容疑者である武岱のキャラが立っていて、その存在感に本筋の話が絶妙にフックアップされている。
「XPウィルス」の作成と配布の罪で逮捕された武岱は2年に渡る勾留の末に不起訴処分となるも、長期の勾留期間によって蝕まれた彼の身体は痩せこけ釈放された頃には骨と皮の亡者然に成り果ててしまう。しかし、その2年後には驚くべきことに彼は筋骨隆々・頭脳明晰というスーパマンへと変貌を遂げていた。 そんな武岱がかつて自分の取調べ担当だった捜査官とコンビを組むという「設定」を軸にして、主要登場人物達(主に警察関係者)のキャラが本筋の流れの中で自然に深掘りされていくのが良かった。
手垢のついたような構成の話だとしてもキャラに魅力・奥行きがあると見える光景が全然変わってくる。 -
出張のお供に小説を持っていきました。
犯罪小説はあまり得意ではないのですが、
テクノロジーな世の中になっているので、
それに関連しそうなネタであって、
ちょっと新しい著者にトライしてみたいということで
この小説を読んでみました。
ビック・データ時代に警笛を鳴らすような小説で、
これからはますますデータを扱う人の
倫理観が求められてきそうな小説です。
著者はもともとIT業界出身のようで、
至る所に出てくるテクニカルタームが素人には理解できません。。
でも、小説の大枠はちゃんと理解出来て、
スリリングな展開を楽しめるので、問題ありません。
IT系の人なら業界のことをよく理解しているので、
もっと楽しめるんでしょうかね?
これからの時代、どんな人でもデータやAIなどとは
切っても切れない関係になってしまうので、
こういった小説で時代のニュアンスを感じておくのはとても良いと感じました。 -
ビッグデータを握ったものが、世界の覇者になれると思われる。GAFAが個人情報の元締めとなる。
インターネットが、実に便利になったと喜んでいたが、実は、個人情報がダダ漏れである事実の中で、それを意識的に統合しようとするものは、その情報自体が、マーケティング手法にとって大きな商品になるばかりでなく、あらゆるものがデータ化されて分析されていく。収入、貯金、ポイントカードの購買記録、その嗜好、犯罪者、病気履歴、親族関係、人脈。思想経歴、エッチサイト閲覧経歴、遺伝情報、などなど。ネットで繋がる限り、もはや個人情報を守ることができない。フェイスブックに顔写真を載せれば、監視カメラにより行動履歴はもはや全て監視される。スマホを持てば、GPS機能によりどこに行ったか、どこにいるのかもわかり、それが盗聴機能まで果たすことがある。
XPウイルスを作ったとされる 武岱が卓越した情報技術をもち、身体も強健で、あらゆる監視カメラや個人情報の流出をさせない人物設定が、本当にできるのとさえ思う。顔認証は、個人情報の中核ともなる。そのためには、整形を繰り返す事も可能だが、歩行様式や骨格までは変えられない。
まぁ。名誉毀損というか肖像権の侵害に対する裁判に勝つことで、生活費を稼ぐというのは、ちょっと、せこいのであるが。
サイバー対策の万田警部、そして 沢木警視。武岱を追いかけるが、物的証拠が上がらず、状況証拠でしかない。取り調べの可視化という問題がとわれながら、結局は冤罪を生み出してしまうとい現実。犯罪があっても、犯罪者として自覚がなく、倫理という不確かなものしか残されていない。
それにしても、プログラマーたちの残酷な下請け状態。労働環境の悪さと その悪さを改善するための方策もなく「仕事を奪われる」「能力がない」と見られるという個人に抱え込む体質。
こういうビッグデータの持つ危険性をもっと警鐘を鳴らすことは、必要である。 -
IT業界の苛烈さは伝わってくるが、ITエンジニア誘拐事件に至る過程って、あまりに陳腐過ぎてことばにならず。文庫本の帯コメントから、期待大であったから尚更ざんねんの一言。多少救われるのが、過去に冤罪で逮捕され、捜査に協力する武岱のキャラが立っていたことぐらいかな。
-
犯人不明で終結したウイルスを持ちいたサイバー犯罪、目的不明の猟奇誘拐事件。複数の事件が絡み合いやがて大きな闇に近づく王道のサスペンス。IT関係の現代の問題を扱いながら警察小説としてまとまっていた。