新装版 蚤と爆弾 (文春文庫) (文春文庫 よ 1-52)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167903480

感想・レビュー・書評

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  • 短大生のとき、造形の授業の講師に
    おすすめされた一冊。

    いや、なんでおすすめしてくれたんだ…?と
    思いつつやっと読んだ。
    というか、やっと読みきった。
    (去年の夏あたりから読んでる笑)
    描写が本当にキツい。本当にあってもなくても
    そういう考え方を持っている人が少なからずとも
    いるんだよね。怖い。
    どうしようもない気持ちになる。
    腹立つし、悔しいし、悲しい。怒り。



    私が4年生まで通っていた小学校は
    戦争学習や人権学習に力が入っていて
    毎年終戦記念日のあたりに合わせて、夏休みにもかかわらず戦争の授業(自由参加)が設けられていたなぁ。
    なんか思い出しちゃった。 
    その時はまだ、可哀想だな戦争反対!ぐらいにしか
    思っていなかったけど、大人になって
    そして今の時代になって、この本を読んで
    もっと知らなくてはいけない過去があって
    そこから学んでいかなくてはいかないことがあるんだなって思えた。反面教師にして。


  • 最大の特徴は石井四郎の実名を用いてない事。個人の罪を追求するのではなく、戦時下という特異な環境の中、人間はどこまで人間性を失えるのかという点がテーマになったがゆえだが、その深すぎる罪を考えると、(裁かれるは彼のみでないとはいえ)匿名は却って、この問題への著者の曖昧なスタンスのようで、もやもや感が残った。ただ読み易い分、731部隊の概要や細菌戦とは何か等、あらましを知るには適しているし、異常な実態の描写には良くも悪くも読む手が止まらない。

  • 第二次世界大戦時、細菌兵器を開発していた関東軍防疫給水部の研究と、その研究者の人間像を描いた歴史記録文学。

     軍医の名前や部隊の名称は変えられているみたいです。しかし書かれている実験や研究活動の様子は以前読んだノンフィクションに勝るとも劣らぬ詳細さ。
    そして、事実だけを冷徹に感情を挟まずに書く文体も吉村さんらしいです。

     そうした感情を挟まない文体だからこそ余計に強く浮かび上がるのは、実験の異常さと残酷さです。

     ペスト菌に汚染された大量の蚤の生産のため、体が干からびるまで吸血されるネズミ、より運動能力の高い蚤だけを選別するための作業、
    そしてその残酷さや異常さは人間にも向かいます。凍傷の治療研究のため人為的に凍傷にさせられ、ペストに感染させられる捕虜たち、
    また軍部は捕虜を”丸太”と呼ぶことからも、捕虜を人間として見ていないことが分かります。
    そうした描写の数々は普通の小説以上の凄味にあふれています。

     そしてこの部隊の率いる曾祢二郎の人間性もしっかりと描かれています。
     自らの待遇や軍の派閥主義に嫌気が差し、先駆者のいない細菌兵器に活路を見出す姿や、すでに死刑が決まっている捕虜の実験だから、と言う理由で自らの実験を正当化し、
    研究者としての好奇心を満足させ、ますます狂気の実験にのめりこんでいく様子がとてもリアルに感じられました。

     戦後、戦争犯罪人として次々と軍部の人間が逮捕され、関東軍防疫給水部の隊員たちの多くも人体実験に罪の意識を抱くようになります。
    そんな中曾祢に関してはそうした罪悪感を抱いている様子が描かれないまま生涯を終えたように読んでいて感じました。そこにあるのは、自分は戦争犯罪人だ、という罪悪感以上に実験による研究者としての満足と誇りがあったのかもしれません。

     そして彼の罪を裁かず、研究資料の提供を求めたアメリカの振る舞いから、科学の発展は時にその裏にある罪や犠牲を飲み込んでしまうのかもしれないと思いました。

     戦後、罪の意識を感じた隊員たちと曾祢の差と言うものは狂気の正義とそれによる成果を、戦後の正常な世界でも信じることができたのか、という違いだったのか、と思います。

  • 生物兵器開発。
    寝る前に読む本ではないです。

    正義とは。

著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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