- 本 ・本 (480ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167903572
作品紹介・あらすじ
台湾でも大反響! 国を越え、溢れる想い
台湾に日本の新幹線が走る! 巨大プロジェクトに、それぞれの国の人々の個々に抱いてきた想いが繋がる。確かな手触りの感動傑作!
感想・レビュー・書評
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久しぶりに行った書店でドラマ化のせいか、平積みにされていたので買いました。
中心になる話は、2000年からの台湾高速鉄道をつくる会社に勤める多田春香とその周辺。
そして台湾を日本の新幹線が走るまでの話。
多田春香には繁之という、結婚も視野にある恋人がいますが、学生の頃に台湾に遊びに来て、偶然知り合いスクーターで台湾の街を1日だけデートした、エリックという台湾人の青年が忘れられずにいます。
そして春香は台湾新幹線のプロジェクト要員として台湾に派遣されるところから物語は始まります。
「台湾を訪れた日本人の観光客は、ほとんどの人が懐かしさを感じるという。台湾には古き良き時代の日本がそのまま残っている。だから日本人はこの街を訪れると懐かしさを感じるのです。-本文より」
確かに、この2000年から2007年の台湾の物語には懐かしさを覚えました。
台湾の人たちは、スクーターに乗って街を走り、屋台のレストランで食事をします。
なんか、いいなあと思いました。
春香が会社の同僚の林芳慧とその恋人とタイレストランで食事をして、夜の書店で三人で立ち読みをするところは、すごく羨ましいと思いました。今はコロナで夜の外食も、書店で立ち読みも自粛ムードだし…。(本筋に関係なくてすいません)
春香の上司の安西と恋人になる台湾人のユキの温泉デートもとても羨ましかったです。
そして、春香とエリックの再会もあります。
あー、みんな生き生きしていていいなあと思いました。
日本も、コロナ前はこんな場面たくさんあったのにと思いました。
吉田修一さんの作品は『悪人』『怒り』他なども読みましたが、小説巧者だと思います。
何人もの人生模様が、台湾新幹線の周りで交差しますが、その匙加減が絶妙だと思いました。 -
日本製新幹線が台湾に輸出された時のお話。
複数登場人物がいて中国名が多く、話が行ったり来たりするため、最初はなかなか人名が頭に入ってこず苦戦した。が、段々とストーリーが交わっていくにつれて気にならなくなったし、人との関わりの尊さを感じるシーンが多く、温かい気持ちで読み進めた。
また、台湾の街の情景が鮮やかに描かれているのも特徴。異国なのに何か郷愁を感じる描写が多く、行ってみたいなーと思わされた。
全体的な雰囲気が好きな小説でした。
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色々と考えさせられる1冊だった。
日本と台湾、国と国のつながりから
春香と人豪、人と人のつながり。
新幹線建設の背景にある
時間、場所を越えたつながり、
それが路のタイトルを回収しているような気がして
しっかりした文量だけど読み返したい作品。 -
台湾に日本の新幹線が走る事が決まった2000年から、開業する2007年までの話。
商社勤務の春香が、この大きなプロジェクトに参加し、台湾支局で働く事になる。
この新幹線事業が背景になっているが、描かれているのは、登場人物たちそれぞれの想いや人生です。
春香と、学生時代に台湾で出会った青年との再会。
台湾生まれの老人が60年間の思いを胸に台湾へ帰省。
高雄に住む台湾人青年の決意。
他にも春香を取り巻く人々の人生模様。
登場人物は多いが、年別に章が区切られていて分かりやすい。
そして、嫌な人が誰も出てこない!
みんな思い遣りのある人々なのです。
葛藤しながらも困難を乗り越え、明るく生きようとする。
更に、台湾の景色や空気、匂い、温度までもが肌に感じられる程の素晴らしい描写。
美味しそうな料理もたくさん登場し、そそられるのです。
読み終わった今も、台湾の風に吹かれている気がする。 -
文庫ではなく、単行本で読んだ時のレビューです。ご了承ください。 <(_ _)>
※NHK連続ドラマで放送中だが、ドラマもよい感じです。
──台湾は美しい街だ。そして親しみやすい街でもある。
街を歩けば、そこかしこから漂ってくる美味しそうな匂いが鼻腔を刺激し、緑の多い歩道が目を和ませ、さらには、普段なら喧しく感じるはずの、人々の騒がしい声や車のクラクションの音なども、不思議と気にならない。
夜市に足をのばせば、あちこちに立ち並んだ屋台で舌鼓を打つこともできるし、名所旧跡を訪れれば、故宮博物館など、歴史の奥深さを感じさせる逸品ばかりで一日いても飽きることがない。
吉田修一の文章を読んでいると惚れ惚れする。
バランスの取れた長さの美しい日本語文。
これしかないという、的確な接続詞。
前後の脈絡を踏まえた適切な文節の区切り。
心理描写の表現の見事さとそれを挟み込む絶妙な位置。
ほとんど非の打ち所がない。流れるように文字を追うことができる。
文章を読んでいて気持ちが安らぐし、音読すると非常に心地よく耳に響いてくる。
現代作家は数多く存在するが、五本の指に入る巧みさだと思う。
稀に見る資質の持ち主だろう。
だから一つの言葉、一つの文章にその魅力を凝縮させた短編でこそ、さらにその威力を発揮する。
長篇でもしっかりとしたストーリーなら、その才能は存分に発揮される。
ただし、この前の作品「太陽は動かない」では、そんな感じがしなかった。
理由は単純明快。
サスペンス&アクション──タッチの作品などやはり彼の文章にはそぐわないからだ。
彼が実験的にその方面に挑戦したのか、出版社の編集者に唆されたのか知らないが、明らかに失敗作だ。
ああいった路線の作品は他の作家に任せておけばよいのだ。
サスペンス&アクション路線は無機質な文章を書く作家が得意とする分野であって、彼には似合わない、無理がある。
有機的で味わいのある彼の文章の長所を発揮できないのだ。
この最新作「路」は違った。
さすが吉田修一、と思わせるような煌く文章の連続。
台湾で日本の新幹線を走らせる仕事に色々な方向から携わった日本人と、彼らと関係した台湾人のそれぞれの視点からの物語。
ひとりひとりの人物造形も心理描写も非常に丁寧だ。
序盤から中盤にかけては、日本人、台湾人それぞれの友情や恋愛、台湾在住時代への郷愁が描かれ、一見ばらばらでさまざまなエピソードの一つ一つが、きらきらと光り輝いている。
例えば、台湾人である劉人豪と日本人の多田春香が九年ぶりに再会する場面。
物語としては単なる一部分に過ぎず、ことさら泣くようなシーンでもないのだろうが、なぜか胸が熱くなる。
一言一言、さりげない比喩や文章が心の中に深く沁み込んでくる。
この部分だけでも一つの短編小説として完成されているような深い味わいの会話と描写。
そう、珠玉の短編がいくつも交じり合って重厚感のある長篇を成立させている、そんな不思議な魅力を持った小説なのだ、これは。
物語は終盤に進むに連れ、多くの点と点が複数の線で結び付けられ、ばらばらだった登場人物の位置が近づき、少しずつ絡まりあっていく。
その伏線回収の仕方も見事だ。
戦後台湾から日本に引き上げた葉山勝一郎と台湾からの留学生劉人豪の年の離れた友情。
新幹線開通のため台湾現地で仕事に取り組む多田春香と整備士を目指すようになる陳威志の出会い。
流れた時、止まった時間、記憶の片隅に残る思い出、奇跡的な再会。
遥かなる過去と過ぎ去った時間、でも変わらなかったお互いの熱い思い。
ところどころに散りばめられた、過去の思い出に対する無念、あるいは後悔の情を抱く場面。
それらのシーンに出会うたびに、涙が頬を伝う。
登場人物から吐き出される言葉の意味。作者の書き綴る情景描写や心理描写。
それらが一体となって紡ぎ出された世界に、しばし目が潤む。
すべて吉田修一の創り上げた劇中の仮想空間に過ぎないのに、言いようのない幸せな世界と時間を共有した気にさせてくれる美しい作品だ。
長年の間“思い出”という名に変わり、切り取られていたリボンが、再び結び付けられ、新しい未来と時間を創り始める。
そんな幸福感を味わえる、お薦めの一作です。 -
台湾に日本の新幹線が走る、それを実現させるまでのお仕事小説かな、と思い購入
単純に、新幹線を開通させるまでの苦労話に留まらず、そこに関わるいろんな人(日本人や台湾人)の目線で、物語が展開されていきます
主人公は台湾に新幹線を開通させるプロジェクトに取り組む若手女性社員の春香。春香が、この仕事に携わるきっかけを与えてくれたのが、彼女が学生時代に旅行で台湾に訪れた時に出会った現地の男性、エリックとの出会い。
メインはこの2人が軸に展開されますが、そこに絡んでくる登場人物の人生、生き方、出会い、
台湾そのものの自然、食べ物や街の雰囲気も詳しく描かれていて、想像しながら読んでいると、とても楽しく、魅力的で、むちゃくちゃ行きたくなりました。近々、絶対に台湾行ってみたい!と言う気持ちにさせてくれる内容でもありました。
その時は、絶対に新幹線にも乗らないと^ ^ -
台湾高速鉄道に欧州連合と競い合った結果、日本の新幹線が採用されるところから、紆余曲折の開業までの7年間の日本と台湾の様々な人々の関わりを描いた感動の物語。2012年11月単行本、2015年5月文庫本。
台湾新幹線は1999年12月に採用が決まり、2007年1月に開業する。実は当時車両部材に関わるビジネスに携わっており、台湾新幹線の部材にも関わったのでより興味深く読んだ。
物語はビジネス中心の話ではない。主人公は日本の総合商社で入社4年目の台湾新幹線プロジェクトの担当者多田春香と上司の安西誠を中心にビジネスは進行するが、春香が大学時代に台湾旅行で知り合った台湾の大学生で、現在は日本の大手建築設計会社で働いている劉人豪との巡り合いのドラマが併行して進行する。劉人豪の神戸淡路震災への想いと行動と多田春香の台湾震災への想いと行動、二人の友人達の想いが二人を運命の再会へと導く。
ビジネスの方は順調とはいかず、安西はビジネスと家庭への苦悩を抱えながら、純な台湾ホステスに惹かれていく。
また日本統治下にあった台湾で生まれ、高校生の時に終戦を迎え、日本に引き揚げその後大手建設会社の専務までになり今は引退している葉山勝一郎と劉人豪が知り合い、日台の別のドラマも併行して進行する。台湾時代のわだかまりを抱えた勝一郎の残り少ない人生の再生ドラマにも心を動かされる。
その他高校卒業後もバイト暮らしで人生に何の展望も持っていなかった台湾の若者陳威志が台湾新幹線の整備工場で働くようになって多田春香と関わり、日本人の子を生んだシングルマザーの彼の幼馴染張美青と整備工場での勤務をきっかけに結婚し新しい人生を歩むことになったりと様々な日台の人々が描かれる。
併行して進む各人のストーリー展開が台湾新幹線の開業で一つの姿になる。
台湾新幹線の開通を通して、日台様々な人々の思いが強く結びついていると感じる。そして日本と台湾は他の外国との関係とは違う強い温かい絆があるように感じる。台湾が好きになる本だと思う。
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ノスタルジックで、ロマンチック。
以前ドラマで観てから、ずっと読みたかった本書。
大好きな台湾の街、風景、匂い、湿度、その全てが台湾の新幹線事業の立ち上げから開通までを背景に、様々な人間模様と共に語られる。
素朴で、好奇心旺盛で、真面目で親切な台湾の人達、何故だか懐かしさを感じずにいられない街並み。それらが鮮やかに胸に迫り、そしてここに登場する、懸命に生きる人たちの思い、悲しみや喜びや希望、友情、仕事への情熱、愛がどちらかといえば静かに、けれどとても丁寧に描かれている。
非常に読みやすく、時間が許せば一気に読めたと思う。
読後は、非常に満たされた、爽やかな気持ちになれた。
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台湾新幹線開通までのプロジェクトなんちゃらみたいなお話ではないが、皆それぞれの路(みち)を模索しながら着実に歩いている姿に胸を打つ。純粋に「人って素晴らしい」と思える作品。
著者プロフィール
吉田修一の作品






怨みに報いるに徳を以てす 、...
怨みに報いるに徳を以てす 、台湾というとこの言葉を思い起こします。蒋介石が日本軍に対して取った温情は素晴らしい事だと思っていたのですが、実は蒋介石と国民党は非人道的な政策をもって台湾の人々を苦しめたらしいと知ると日本軍に示した温情も裏に何かあったからなのかと思ってしまいます。
台湾に親日家が多いのは国民党のあまりの酷さを知ったからそれ以前の統治者日本が素晴らしかったと感じたのだろうという意見を聞いたことがあります。
だから台湾には台湾の人々にとって良き時代だった日本統治時代の雰囲気が残るのだろうか。
「路」は先日のNHKドラマで観ました。
たった3回だけの放送だったので原作をどれ程表現できているかわかりませんですが、日本の技術者が日本の新幹線こそ絶対のものだとして台湾側に全てを受け入れるべきだとして、台湾の独自性を認めようとしないところに、例えば統治者であった日本の台湾に対する政策の中に潜んでいたかもしれない「我々が施す政策があなた達にとって最高なのは間違いない」といった思い上がりのようなものが重なって見える思いでした。
是非原作も読みたいです。
コメントありがとうございます。
私は台湾の歴史などは無知でよく知りません。
最近、他にも台...
コメントありがとうございます。
私は台湾の歴史などは無知でよく知りません。
最近、他にも台湾を舞台にした小説(『僕が殺した人と僕を殺した人』)を読み、少し知った程度でお恥ずかしいです。
ドラマは予告編をちらっとみただけで、観ていませんが、小説はすごく面白かったです。
お薦めです。
もし読まれたら、レビューも楽しみにしています!