ぼくは勉強ができない (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 286
レビュー : 28
  • Amazon.co.jp ・本 (269ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167903619

作品紹介・あらすじ

不朽の青春小説が今再び!勉強はできないが女にはモテる――高校生・時田秀美に女は皆ときめき、男は皆あこがれた。著者書き下ろしメッセージも収録。

感想・レビュー・書評

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  • しぶとく続く(笑)
    「10代の頃に読んだ作家を再読しよう」企画の第四弾。

    山田詠美は村上春樹や村上龍と並んで
    学生時代からよく読んでた作家だけど、
    中でもいちばん好きで
    思春期に自分っていうものを作る上で最も影響を受けた作品が
    「ぼくは勉強ができない」でした。

    新装文庫本の綿矢りさの秀逸な解説の言葉、
    「私にとって本作は美学という科目の教科書で、ただ勉強するだけでは得られない、個人がどう世の中を粋に生きてゆくか決めるスタンスを教えてくれた。血肉となって現在でも身体の中で息づいている」
    がこれ以上ないほど僕の思いを言い得ていて
    「ああ~、僕だけやなく、みんなコレを読んで大人になったんやなぁ~」と分かって感慨深かった(笑)

    今回再読してあらためて思ったけど、
    僕に学校では決して教えてくれない「生き方」を教えてくれた17歳の時田秀美くんはフィリップ・マーロウ同様に
    今でも自分にとってのヒーローだった。

    しかし、なぜ四半世紀も前の作品が
    これほどの影響力と支持を集めてきたのか。
    まぁ読めば分かると思うんやけど、なんと言っても17歳の主人公・時田秀美くんの凛としたカッコ良さに尽きる。
    カッコ良いと言っても喧嘩が強いワケでも、スポーツ万能なワケでも、飛び抜けてイケメンなワケでもなくて(笑)、
    (秀美くんは人気者ではあるが、性格はむしろ穏やかでヘラヘラして、威厳がないし貧乏人であります笑)

    偏見に支えられた大人たちや
    媚びへつらったり、間違った美意識で動いてるクラスメートたちとの戦い方、向き合い方、苦悩する姿が、とにかく男前なのです(笑)
    (僕が学生時代に初読みした秀美くんの感想は、なんと色気のある男だろ~だった)


    母子家庭は不幸なのか。
    避妊具を持つことは不純なのか。
    優しそうに見える子がクラス委員になってはいけないのか。
    (そこにあるのは勉強ができなきゃ委員長の資格がないという大人たちが決めた暗黙の了解だ)

    大人たちが植え付ける偏った価値観に一人立ち向かい、
    大人たちが作った暗黙の了解や常識に異議を申し立てる
    詩人のようにロマンチックな少年。

    父親の顔すら知らない秀美くんを
    「一度言ったことは簡単に引き下がらないカッコいい男になるのよ」と言って育て上げてきたのは母親であり、おじいちゃんの愛である。

    クラスのみんなに向かって「僕は勉強ができない」と平然と言ってのけ、
    「恋は勉強より楽しいのだ」と先生やガリベンくんに
    この世の真理を提示してみせる心意気と気概。
    自分を過大評価することなく、
    人生で大切なのは決して学校の勉強ではないのだと言い切る颯爽とした姿は、
    本当のカッコ良さや男らしさを求め真実を模索していた青臭い学生の僕には本当に衝撃的だった。

    そして年上の女性である桃子さんとの恋愛の中で
    人は恋人とでなくても寝てしまうことがあると知ったり、
    人生を構成しているのは殆どが無駄と呼ばれる領域で
    恋愛には不健全で淫らな精神が必要だということ、
    事実は事実で定義とは違うということ、
    自分の中にある嫉妬の感情や憎しみの感情の存在に気づいたり、
    書物が人間にもたらす効用や喪失感を初めて知ったり、
    秀美くんが物語の中で人生の勉強をこなしていくと同時に
    読む側の僕らも見過ごしていた大事なことにふと気付かされていく。
    (この小説が凄いのは、今読んでもストンと腑に落ちたり、目から鱗の瞬間が沢山得られること)

    「大学を出ないとろくな人間になれない」という大人はいても
    「いい顔の人間になりなさい」と諭す大人の少ない事実。
    (秀美くんはまさにそう言われて育ったのだ)

    カッコいい生き方とはなんぞや
    など
    この小説には本当にいろんなことを教えてもらった。

    彼氏と自由恋愛する秀美くんの母親。
    近所のおばあちゃんに恋をしては秀美くんのムースで髪を整え、秀美くんのお気に入りの服を勝手に拝借するお茶目なおじいちゃん。
    バーで働く秀美くんの恋人の桃子さん。
    可愛く見えるための努力を惜しまない幼なじみの真理。
    美しく病弱な副委員長の黒川礼子。
    すべてを計算し尽くす、媚びた美少女の山野舞子。
    先生と生徒ではなく、男同士として接してくれるサッカー部の顧問の桜井先生。
    魅力的な登場人物がひしめき、
    難しいことは抜きにして
    純粋に青春ストーリーとして楽しめるのがまた素晴らしい。

    歯切れのいいリズミカルな文体。
    メッセージ性とユーモアの絶妙なバランス。
    懐かしいホームコメディの香り。
    青春と呼ばれる季節に生きる者の苦悩と喜びを瑞々しい感性で描いた
    今でもまったく色褪せない名作です。


    是非とも若いうちに読んで欲しいなぁ~

  • 読んだことがなくとも、タイトルを知っている人は多くいるのではないかと思う有名な作品。

    この時期に改めて文庫化されたのは、何故だろう。

    書き下ろしもあり、綿矢りさの解説も入っているので、好きな方は再読に適していると思う。

    ところで、私はいわゆる型に嵌った人間だと自分では思っているので(まあ否定されることも多いが)、秀美くんのような人物はただただ不安を呼び起こす。

    もちろん彼が飄々と人生を楽しみ、女性を愛し、時に憂う毎日に水をさそうとは思わない。
    その点で奥村先生は、職業上、面倒な試練にぶちあたってしまったなあ、と可哀想にも思う。
    けれど、秀美くんに関わることで、何かふいに自分の気持ちがバーンと傷付いてしまうんじゃないか、ただそれが不安なのである。

    そういう意味で、彼に一矢報いた山野舞子は上手だとも思うし、心から祝福を送りたい。
    まあ、実際、山野舞子のようなキャラクターと関わりになることも私は遠慮するだろうけれど。

    学生時代に読んでいたとしたら、もしかしたら秀美くんにほんの少しの憧れは抱いたのだろうか。
    三角形の角が六つ揃う瞬間を、目の当たりにしたいとも思えたんだろうか。(この例えは、数学的に本当に美しい視点だと思う。秀逸!)

    ともあれ、大人になった私は秀美くんに関わらずにいられることを願っているのであった(笑)

  • 時田仁子の「後で苦労したっていいじゃない。痛い目に合わなきゃ学べないこと、沢山あるわ。」にすごく共感しました。
    人生って本当にそうだなーと、逆に痛い目にあって苦労したことのほうが、自分を後から守ってくれる教養につながるし、自分の軸になるものになると思うから。

  • 懐かしい。まだ本なんてあまり読まなかった高校生のときに影響を受けた本(歳がばれるな)。大人になった今読んでもやっぱりいい。

    高校生の頃は割とまじめな方だった私は、秀美くんみたいな男の子が周りにいたら友達になれなかったかもしれない。でもきっとほんとは憧れて、羨ましいとさえ思っていたはず。自分のことを「ぼく」って言える高校生なんてなかなかいない。人に迷惑をかけたりルールから外れることを「かっこいい」と勘違いしてしまう思春期の男の子たちに交じって、秀美くんはとてもまっすぐ素直に生きてるだけなんだ。本当のかっこよさっていうのはここなんだ。
    片親だとか貧乏だとか、興味本位で勝手にレッテルを貼る大人たち。「可哀想」なのかどうかは、周りが決めることじゃない。学校で学ぶことは「勉強」だけであって欲しくない。「眠れる分度器」の角のたとえ、泣けました。

    お母さんもおじいちゃんも本当にすてき。そしてこんなすてきな本を生み出してくれた山田詠美にも感服です。

  • 笑えるところもあり、ジーンとくるところもあり。
    山田詠美もっと読んでみようかなぁと思った

  • 四半世紀後の秀美くん、文庫のみ。短編かと思えば前書きみたいなもの。賢者の愛とA2Z、読みます。

  • 再読
    大人になった秀美くんに逢いたいがために、特別編が書き下ろされた本作を再読。
    我が青春の1冊。

  • 勉強は、一つの手段でしかない。
    選択肢を広げることができる、ツールのひとつ。

    ただ、手っ取り早く幅を広げることができて、
    周りからわかりやすく評価しやすい。
    だから、勉強しろと言われるし、学歴は大事と言われる。

    勉強ができなくてもいいと言えるほどに、
    強い人が、どれだけいるだろう。
    今、そういう人が減っているのでは?

    勉強して、学歴というアイテムがなければ
    自分が無防備になってしまう、そのことが怖くて
    つい武装しようと思ってしまう。

  • 上から目線で説教臭くて押し付けがましい小説だった。主人公は他人に対する優越感に浸っていて不愉快。なるほどその通りだなあと思うことも書いてあるのだが、登場人物のキャラもセリフも展開もいかにも「教育的」で鼻白む。とはいえ、こういう小説を苛々せずに軽く流せないところは自分の精神的未熟さの表れだとも感じた。

  • ストーリーの最初の方の秀美の考え方や環境は、何か羨ましくなる。 もし、今同じ世代に彼がいたらどうしたら彼のようになれるのだろうかと考えてしまうだろう。 話を読み進めていくなかで、発覚していく周りと違う家庭環境や苦悩。それを乗り越えてきたからこその考え方なのだと思う。 自分と比較して考えてみてもとてもリアルで、勉強になる一冊だった。

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著者プロフィール

山田 詠美(やまだ えいみ)
1959年、東京生まれ。明治大学文学部中退。85年『ベッドタイムアイズ』で文藝賞受賞。同作品は芥川賞候補にもなり、衝撃的なデビューを飾る。87年には『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で直木賞受賞。89年『風葬の教室』で平林たい子文学賞、91年 『トラッシュ』で女流文学賞、96年『アニマル・ロジック』で泉鏡花文学賞、2000年『A2Z』で読売文学賞、05年『風味絶佳』で谷崎賞、12年『ジェントルマン』で野間文芸賞、16「生鮮てるてる坊主」で川端賞を受賞している。その他の著書に『無銭優雅』『学問』『タイニー・ストーリーズ』『明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち』などがある。

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