新装版 「常識」の研究 (文春文庫) (文春文庫 や 9-13)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (269ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167903930

作品紹介・あらすじ

あなたの「常識」、本当に合ってますか?「常識」つまり生活の行動規範とそれを基とした事象への判断を取り上げ、国際化時代の考え方を説く。今こそ現代人が読むべき啓蒙書。

感想・レビュー・書評

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  • 常識とは、簡単にいえばわれわれの日常生活の行動規範であり、同時にそれに基づく判断の基準である。
    常識に関する限り、戦前も戦後も大差はないですから。そのことは、終戦時の日本人を思い起こせばすぐにわかるはずです、と。
    戦前・戦後を通じていえることは、権威は消えたが常識は残った、
    であり、これあるがゆえに日本が維持されていることを思えば、この常識は決して軽視すべきものではない。
    と同時に、それに、落とし穴があることもまた事実でなのである。

    気になったのは、以下です。

    ・地球は食料不足に見舞われるであろうという警告は、エネルギー不足の警告と同じころ、同じ調子で口にされた。
    ・今では、少々奇妙と思われるかも知れないが、戦争は長い間ロマンであり、讃美の対象であり、たとえ、それが悲劇であるにせよ、否定すべき醜悪の対象ではなかった。
    ・革命といえば無条件で讃美された、革命のロマン、の時代も長かった。

    ・人間が一面において、強い、感情的動物、であることは否定できない。そして、多くの場合の、感情、は必ずしもすっきりと割り切れるものでなく、愛憎両端とも言うべき複雑な様相を呈するのが普通である。

    ・官庁がますますそのマル秘主義のガードを固めていったら、将来は、官庁に都合のいい情報しか国民に提供されないということになるであろう。
    ・その結果、国民は官庁に依らしむべし、知らしむべからず、となるなら、否すでになっているなら、これは大きな問題である。

    ・中東という世界を、その歴史と伝統を踏まえてそのまま直視すれば、至る所に以上のような面が見られ、それが互いに入り乱れて現在のような様相を呈していることがわかる。
    ・新聞を読んでも、さっぱりわからない。という状態は、大変に良い状態であると思う。というのはその人は、少なくとも、わからない、ということは、わかった、からである。
    ・それが、虚妄の納得から真の理解への第一歩であろう。

    ・現代は、情報社会だという。しかし情報は、受け取る側にその意思がなければ伝達は不可能である。
    ・この前提を無視した上で、その社会に情報を氾濫させ、取捨選択を各人の自由にまかせれば、人々は違和感を感じない情報だけを抜き出してそれに耳を傾け、他は拒否するという結果になる。

    ・日本における政策決定者は、ゼネラリストであろうから、始めから専門的知識や専門的経験を持っていることを期待することは無理であるし、また、専門的な知識や経験を得るために必要な時間を確保することもほとんど無理である。
    ・したがって、現代社会の持つ多くの複雑な問題に関して、政策決定者は専門家の助言を求める必要がある。

    ・人の振り見てわが振りなおせ、という古諺には、人間とは他人のことはよくわかるが、自分のことは案外わからないものだ、という前提と、他人の中に自分を見て、自ら検討せよという忠告が含まれているのであろう。

    ・現代の世界を見てつくづく感じることは、最も困難なことは決して新しい技術や組織の輸入ではなくて、自己の伝統的文化をいかに保持するかであり、同時にそれを、近代化・工業化・脱工業化という社会的変化にいかに適応させて機能させていくかという問題である。
    ・伝統文化保持のため近代化を排除すれば、その国は転落せざるを得ない。
    ・しかし、近代化のために伝統文化を破壊すれば、混乱を生じて近代化は不可能になり、やはり転落せざるを得ない。

    ・超人はいざ知らず、普通の人間は環境の動物である。そして、環境はしばしばその人間の感情を刺激し、思考を妨げ、判断を誤らす。
    ・同時に、疲労・心労はしばしば悪環境と同じ作用をするから、判断を下すことが任務の人間は、絶対に悪環境に身をおいてはならず、また疲労しない義務がある。

    ・企業であれ、国家であれ、防衛の原則は同じであり、その2つにまったく別の原則が作用するとは思っていない。
    ・その四原則とは
     ①先見性:冷静かつ的確な将来への見通し
     ②正確な線形成に基づく的確な外交関係の確立
     ③上記2つに対応しうる、国内整備
     ④上記3つに対応しうる、軍備、ただし、先の3つに違反していると一時的に優位に立つことはできても、結局はすべてが無意味な努力となるわけである。

    目次

    はしがき
    1 国際社会への眼
    2 世論と新聞
    3 常識の落とし穴
    4 倫理的規範のゆくえ
    5 島国の政治文化
    解説 養老孟司

    ISBN:9784167903930
    出版社:文藝春秋
    判型:文庫
    ページ数:272ページ
    定価:650円(本体)
    発行年月日:2015年06月
    発売日:2015年06月10日新装版第1刷
    発売日:2021年10月21日新装版第2刷

  • 1981年に刊行された著作の新装版。

    タイトルが気になって購入したのだが、思っていた内容ではなかった。他の方のレビューが詳しいので気になった方はそちらへ(笑)

    「期待の倫理」という話が印象に残っている。
    「いわば、ある社会的地位にある者に当然に期待される倫理であり、その際『だれでもやっている行為ではないか』という抗弁は当然に許されない」

    筆者の言葉を借りるなら、「権威は消えたが常識(倫理)は残った」ということだろう。
    敬意を持たされるどころか、サービスを求められる「ある社会的地位」にある人たちが、けれどもその期待に応えられないとなると、常識の代表であるメディアを筆頭に晒される。

    こういったことに、各々違和感を感じながらも、その構図は変わらない。
    人間とは、何て変化を生まない生き物だろう。
    私たちは、流れの速い時代を生きていると自負していながら、単に巻き込まれているだけなのかもしれない。

  • 1980 年前後の世の中 (日本, 世界) の状況に関するエッセイだが, 古さを感じない. ということは, 1980 年から 40 年たっても人の考えや行動には大きな変化がないということであり, それが「常識」というものか?
    世界情勢に関するところは私の知識不足もあって理解が難しかったが, 「倫理的規範のゆくえ」「島国の政治文化」は理解できた. 防衛の四原則 (先見性, 外交関係確立, 国内整備, 軍備) の考え方や, 政治家に何を期待するか (裏口入学の斡旋を期待する人もいれば, 絶対的清純を期待する人もいる), 報道の立ち位置 (社会を動かす意思を持たずに冷静に報道することこそ, 社会を動かす) など, 2022/07 の参院選前だからこそ特にインパクトがた.
    解説を書いた養老孟司は山本七平の作品をすべて読むことを勧めると記した. 私もチャレンジしようかと.

  • 各章が細かく分かれていて読みやすかった。
    世界と日本の違いとか、仕事のこととか、メディアのこととか、現代にも通じるところが多々あり共感したりなるほどと思ったりして面白かった。
    若者は生産性のある仕事をするべき、とあった箇所にどきりとした。印象的だった。

  •  メディアが溢れる日本で、海外ニュースは現地の歴史的情報等が抜け落ちている為に、浅薄な''日本人的世界''の情報としかならない。解説者等が勝手に理解した情報で視聴者や読者に受け入れ易い形に変換され発信されている。

  •  1981年、終戦からかなり経過し、現在にとってはさほど遠くない過去と把握している時期に著された、「日常生活の行動規範とそれを基にした様々な事象への判断」たちである。著者のことはよく知らないが、中島義道の本の中で紹介されていたので、手に取り読むことになった。
     「事象への判断」が書き溜められたものだけあって、いろいろな短文が寄せらられており、範囲が広い。中で印象に残ったのは、「『理想郷』からの逃避」で述べられる社会主義の果ての閉塞感、「革命の狂気」にあるホロコーストの異常性、「”問題化”という問題」にある日本のマスコミ・政治・官僚特有の論点すり替え、自己の感触と違うものほど価値があるという「情報の価値」、「『なるなる論』の功罪」なる今日あまり見ない権力抑止、「教科書批判」「技術以前の問題」など。
     ゴシップめいた確かめようのない「事実」を取り挙げることもなく、社会情勢を簡潔にとらえ、常識の論点を際立たせる文章が気味よく、物を書くお手本にしたいと感じた。

  • 本来、情報は自己の感触と違うものほど価値があり、同じなら無用である。この事が無視され、人が自己の感触と違うものを拒否すると、人は盲目同然となる。情報が氾濫すればするほど逆に人々は自己の感触を絶対化していく。各自がそれぞれ自分で感触し得る世界にだけ住み、感触し得ない世界とは断絶する。情報の氾濫が逆に情報伝達を不可能にしていく。本人は多くの情報に通じ、社会の様々なことを知っていると言う錯覚を持つ。この点で最悪のケースを呈しているのが日本。

  •  
    ── 山本 七平《「常識」の研究 20150610 文春文庫》新装版
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4167903938
     
    (20180220)
     

  •  30年以上前の本の復刻版。タイトルに惹かれて入手。

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著者プロフィール

1921年、東京都に生まれる。1942年、青山学院高等商業学部を卒業。野砲少尉としてマニラで戦い、捕虜となる。戦後、山本書店を創設し、聖書学関係の出版に携わる。1970年、イザヤ・ベンダサン名で出版した『日本人とユダヤ人』が300万部のベストセラーに。
著書には『「空気」の研究』(文藝春秋)、『帝王学』(日本経済新聞社)、『論語の読み方』(祥伝社)、『なぜ日本は変われないのか』『日本人には何が欠けているのか』『日本はなぜ外交で負けるのか』『戦争責任と靖国問題』(以上、さくら舎)などがある。

「2020年 『日本型組織 存続の条件』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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