とにかく散歩いたしましょう (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 309
レビュー : 36
  • Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167904128

作品紹介・あらすじ

本と散歩ですべてのりきれる。珠玉の随筆集ハダカデバネズミとの心躍る対面。同郷のスケーターの演技を見る感動。永眠した愛犬ラブと暮らした日々。創作の源泉を伝える46篇。

感想・レビュー・書評

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  • 小川洋子さんの綴る日常は、小川さんの描く静謐な小説の世界と地つづきになっているようだ。
    物語という世界の片隅で、慎ましくひっそりと呼吸する住人たち。小川さんは、彼らの小さな声を一生懸命聞き取りながら、一生懸命物語として記している。同じように、現実の世界でも遠慮がちな小さな声を小川さんはちゃんとキャッチし、その存在をそっと丁寧につまみ上げる。
    「る」と友だちの姪っこちゃんも、愛犬ラブとの散歩道も、コインみがきのバットライナーさんとフィッシュ・カウンターのブッカーさんも、みんな物語の世界へと導かれていく。
    優しく、楽しく、時には切なく。
    愛することを祈るように心に響く。

  • おいしいウィスキーのように、シンプルでいて、深み、豊かな香りが溢れる。そんなエッセイ集。

    常人にはない視点で、日常のなんでもないことを繊細に掬い上げ、想像力の海へ解き放つ。
    小川さん自体が世界に対して、自分に対して、周りに対して好奇心があるからこそ、世界、自分、周りを信じているからこそここまで熱い想いをもち、世界を切り取れるのだと思う。

    文章はさすがにうまく、これだけ比喩や例え話を駆使して、陳腐にならないことがすごい。(これは村上春樹と通じる部分)

    ハダカデバネズミに対する愛。子供へ対する愛。ブンちゃん(桜文鳥)、ラブ(犬)への愛がにじみ出る。
    小川さんの優しさに包まれ、ほんわか幸せになる。

    小川さんの経験談。昔読んだ小説が自分が思っていたストーリーと違ったというのは、自分は経験がない(というよりストーリーをすぐ忘れている)ので、さすが小説家は、ほっといても自分自身の物語が湧いてきてしまい、読んだ文章も自然に動き出してしまうのではないだろうかと思った。

    そして色々な本の紹介がちりばめられているのも嬉しい。
    ポールオースターの本の内容の紹介、ノルウェイの森のひたすら歩き続けることに対する記述など、もともとすごい作品なのだと思うが、小川洋子に語られることで、なるほど、そういう面があったのかと新たな発見を得られる。
    「ふしぎなポケット」の詩が持つ多様性、無限の可能性に、少し恐ろしささえ感じた。

  • 小川洋子さんのエッセイ。
    あれだけ静かで、美しい文章を書かれる方なのに、機嫌が悪くなったのを隠すためについつい喋りすぎて失言してしまう話や、素敵な声を持つ人を羨ましがる話など、私でも「あるある」とうなづけるものが多く、親近感が湧いた。
    小川洋子さんが出演されているラジオを聞いたことがあるが、穏やかな人柄が出たような、とても素敵な声だった。
    あとは犬への愛。私も実家で犬を買っているが、小川さんの文章を読んで、犬を愛おしく思う気持ちがより増した。私も犬のようにいつも機嫌よくいたいものである。

  • ほんのしばらく日本を離れていて、その時に読もうと思っていた本だった。
    だけど、不思議なことに日本語を読める気分ではなくて、まったくページを進めないまま持って帰ってきてしまった。

    そうして、日本で読みはじめた時の、いつもの感覚。小川洋子さんだからこそ、私をすんなりと読書に引き戻してくれた気がする。

    小川洋子、という存在が溢れているエッセイ。
    ただ、不思議なことに私がかつて読んできた本をなぞってくれているようだった。
    もちろん、これは私個人の傲慢な思いなのだけど……でも、私と彼女の間に見えない橋が架けられているようで、嬉しい。

    タイトルにある「散歩」というキーワードが印象的だ。『こころ』や『檸檬』を散歩文学と称してみたり、愛犬ラブとの散歩に思いを馳せたり。
    歩くという行動が、散歩という行為になると、ある種の思索に耽らせてくれる、そんな高貴で気ままな時に変化するのではないか。

    「本に関する限り私の一目ぼれセンサーは優秀で、ほとんど失敗がない。」

    羨ましいことだ。
    彼女は、老いを匂わせるふりをしながら、文章からはいつまでも若さが漂ってくる気がする。
    良いエッセイに出会えた。

  • これも文庫版を購入。単行本を読んだときの感想に、心に残ったくだりを挙げているが、そこに一つ追加。

    「散歩ばかりしている」
    いつもの散歩の途中見かけた、三つくらいの男の子とお父さん。男の子が「パパ、まてまてごっこやろう」と言うと、お父さんは「よし、さあ、まてまて」と言って、男の子の後ろを追いかけはじめた。ただそれだけだが、小川さんはしみじみ見入ってしまう。
    「男の子は世界中に何一つ嘆きなどないという顔をしている。完璧な安心がそこにある」
    うちの息子も昔はこんな顔をしていたなあ、と小川さんは思う。
    「でも当時は、それがどれほどあっという間に過ぎ去ってしまう瞬間か、気づいていなかった。特別に与えられた一瞬だ、などとありがたく思う暇もなかった。自分はあのお父さんのように、心の底からその一瞬を味わっただろうか。日々のつまらない用事に手を取られ、貴重な時間を見過ごしてきたんじゃないだろうか」
    楽しそうな親子連れを見かけるたびに、ちょっと胸が痛いような気持ちになるのは、私もそんな風に感じるからなんだな。

  • 小川洋子さんにお子さんがいることに驚いた。
    お母さんしているところが想像できないなぁ。

    犬のことを
    「呆れるほどの間抜け振りと、偉大な賢者の二つを
    矛盾なく共存させることができる」
    という言葉に共感した。

  • もともと美文であって、それがカジュアルに生活感交えて語るため、いかに世俗的なことや、シンパシー持ちやすいエピソードであっても、どこか常人離れをしているように感じられる。そういう点ではエッセイ本来としては不向きなのかもしれない。
    しかし、読み進んでいくと知らずに蓄積される聖なる心持が不思議だ。
    作者の小説でも味わえるが、エッセイという半ば現実に即しているため、その効果が深い。小説が薬ならばこれはサプリメントといったところだろうか。

  • 読んでで疲れない。
    自然にことばが入ってきてなんか満たされてしだいに溢れていく感じです。笑
    こうゆうの好きです。
    ほかの作品も読んでみたいです。
    しかし、残念ながらunlimitedにはこれしかないんだな 笑

  • 小川さんのエッセイは、いつも暖かな眼差しがあって安心できる。
    あとがきにあるように、「この本を読んでいる間、何も邪魔するものがない静かな場所を 、散歩しているかのような気持ち」になれる。
    忙しい毎日から少し離れて、一休みしたいときに読みたい一冊。

  • 9/22はカーフリーデー
    どんな時も、愛犬と散歩すれば前に進める。
    小川洋子さんによる心あたたまるエッセイ集です。

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著者プロフィール

1962年岡山県生まれ。小説家。早稲田大学第一文学部卒業。88年「揚羽蝶が壊れる時」で海燕新人文学賞、91年「妊娠カレンダー」で芥川賞、2004年『博士の愛した数式』で読売文学賞、本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、06年『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、13年『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞。他の著書『口笛の上手な白雪姫』『琥珀のまたたき』『最果てアーケード』『猫を抱いて象と泳ぐ』など。

「2019年 『深淵と浮遊 現代作家自己ベストセレクション』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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