- 文藝春秋 (2015年12月4日発売)
本棚登録 : 199人
感想 : 34件
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
Amazon.co.jp ・本 (288ページ) / ISBN・EAN: 9784167905064
作品紹介・あらすじ
仙台在住の著者が3.11を描く現代小説
ある出来事がきっかけでピアノの音を聴くと「香り」を感じるという「共感覚」を獲得した調律師、鳴瀬の喪失と再生を描く連作短編。
AIがまとめたこの本の要点
この本を表す言葉
みんなの感想まとめ
共感覚を持つ調律師、鳴瀬の物語は、喪失と再生の過程を描いた感動的な連作短編です。彼はかつてのピアニストとしての未来を事故で失い、妻を亡くした後、音に匂いを感じる「嗅聴」という感覚を得ます。物語は、彼が...
感想・レビュー・書評
-
本書を読みながら、宮下奈都さんの『羊と鋼の森』(ピアノ調律師の青年の成長物語 2016年本屋大賞受賞作)を思い出していました。
本書の単行本は2013年刊なので、『羊と鋼の森』より少し前ということになりますね。
7話からなる連作短編集で、ピアノ調律師・鳴瀬の再生の物語です。
元ピアニストの鳴瀬は、10年前、事故により妻とピアニストとしての将来を失い、以来、音から匂いを感じ取る「嗅聴」という共感覚を得ています。
連続する作中、異なる状況下での微妙な音や匂いの繊細さが上手く表現されています。
鳴瀬は、亡き妻がもっていた「嗅聴」と調律の仕事を辿ることになります。様々なピアノ・依頼主と出会いながら自分と向き合い、少しずつ〝妻の幻影からの解放〟に向かうはずでしたが‥。
執筆(連載)中に東日本大震災が発生し、仙台在住の著者は、途中中断しながらも、第6話から物語を転調することにしたようです。個人的には、震災を物語に取り込むことが、「唐突」ではなく「必然」だったのだろうと思います。
余韻の残る、不思議ととても清々しい読後感でした。暗い印象になりがちな物語に、義理妹の存在が健気で可愛らしく、救われる思いがしました。不謹慎かもですが、ある意味〝胸キュン〟の側面もあり、震災云々を抜きにしても良質の物語だとおすすめできます。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
たくさんのこうなるはずだったということが、大きな音をたてて崩れてしまった2011年3月。この物語も、予定していたラストとは違ったのだろうな。それでもここまでの作品となるのは、すごいと思う。評価が辛めなのは著者のファンだからであるのと、今の気分とはちょっと違っていたから。3との4の間にしたい。成澤くんがどうなったのか気になる…
-
マタギ同様、調律師という全く身近に存在しない職種の人の日常や感情を疑似体感でき楽しめた。
また、愛する人との死別、共感覚、震災といったキーワードが物語を繋ぎ、主人公や読者の心をまさに調律する柱として存在し、切なくも力強く胸に響く作品に仕上がっている。 -
かつて、プロのピアニストとして活躍しながら、事故により妻を亡くし、今はピアノの調律師として生きる主人公・鳴瀬 玲司。
彼は、共感覚の持ち主であった。
共感覚とは、例えば、音に色を感じる「色聴」や、音に匂いを感じる「嗅聴」など。
事故に遭う前は「色聴」であったが、事故後、亡くなった妻と同じ「嗅聴」となった。
様々な出会いを経て、彼の調律師としてのキャリアが高まっていくが、十年経っても妻の思い出が離れない。
そんな中、仙台市で遭遇した東日本大震災。
その巨大な爪痕は、彼の共感覚の力を奪ってしまう。しかし、それは、妻との本当の別れでもあった...(涙)。
最後、彼の新たな旅立ちに、幸多かれと祈りました
小説としては、途中から大きく展開が変わります(転調)が、後書きの「解説」を読みますと、作者である熊谷氏の境遇に納得が出来ました。
ぜひ、続編を期待したいです。 -
いつか見た空の色のように悲しくて、苦悩は音のように打ち震え、彼女の香りのようにふっと私の前から消えていく。音の中に『色聴』『嗅聴』を感じ取ることが出来る、一人の調律師のお話。どんなことにも意味があるのなら、彼にとっての色や臭いは、小さなことでもちゃんと繋がっていられる為の限りない手段だったのかもしれないと思いました。ラフマニノフの音階が急に途絶えた。その静寂は、何の痛みも感じずに失くしたわけではないのだと伝えてくる。これでいい、一度忘れた後、また思い出せばいい。ショパンの別れの曲がそっと彼の背中を押してくれているような気がした。
-
共感覚を持つピアノの調律師の鳴瀬玲司を主人公にした喪失と再生を描いた7編を収録した連作短編集。
東日本大震災という決して忘れられない喪失の日を挟んで描かれた作品であるせいなのか、東日本大震災の前に書かれた最初の2編と後半の5編とでは明らかに味わいが変わる。特に主人公が過去に決別するという最終話には、強い怒りやもどかしささえ感じる。もしかしたら、それは著者が自分自身に向けた想いなのかも知れない。
『少女のワルツ』はオープニングを飾るのに相応しいハートウォーミングな短編。この連作短編集の方向性を示したかに見えたのだが…
『少女のワルツ』、『若き喜びの歌』、『朝日のようにやわらかに』、『厳格で自由な無言歌集』、『ハイブリッドのアリア』、『超絶なる鐘のロンド』、『幻想と別れのエチュード』を収録。 -
書店平台でタイトルに惹かれ購入。
思いもかけぬ展開で 心を掴まれた。
読み始めた時には…まさか東日本大震災に
この物語が繋がってゆくとは思わなかった。
素直に設定にひきこまれ
綿密な取材に裏打ちされた調律師の世界に
感心させられた。
共感覚という言葉の実在も 初めて知った。
そんないくつもの要素が 豊かな文学世界と
多くのテーマ性を支えている。
佳作だと思う。 -
この小説は2010年から2012年に書かれたとのこと、その間に東日本大震災が起こった。共感覚という音を嗅覚でも感じることができる調律師の小説は震災時の場面から大きく転換した。いくつかある調律師を主人公とした小説の中でもその事件によって別の意味での臨場感がでることになり、まさに時代を現したものとなっている。
-
ピアニストだった鳴瀬は、妻を失う事故に遭った後は調律師として生きている。
音によって色を感じる色聴、においを感じる嗅聴という共感覚が興味深い。
いくつかのピアノの調律を通して、彼の持つ嗅聴の背景が描かれていくが、
ある時点で、急に静かな世界観が一変する。 -
-
あまり小説になりにくい調律師のお話。
匂いを感じるという少し視点が興味深かった
後半の 急な転調な感じは否めないが、それだけ筆者に避けて通れない 次元の体験だったことがわかる -
なんだろう、やはり途中で投げ出されたって印象なのかな。それは地震のせいなんだけど、本来こうなるべきではなかった物語なのがわかってしまったから、この評価。
-
「あの日」がすべてではない
奥さんを亡くしたことと
「あの日」は関係ないし
義妹との関係性も。
師匠である鷹栖が一調律師ではなく
コンサートチューナーを勧めるているのは
挫折した元ピアニストに対してである。
彼が持っている共感覚の「臭覚」は
何かを切り開くもので
解決する手段ではない。
人が再生するのに必要なものが何なのか
もう一度「あの日」抜きで考えてみたい。 -
初読みの作家さん。主人公の特殊な力で浮かび上がる演奏者の心。とても面白かった。
あらすじ(背表紙より)
交通事故で妻を亡くし、自身も大けがを負った結果、音を聴くと香りを感じるという共感覚「嗅聴」を得た鳴瀬玲司は、ピアノの調律師を生業としている。さまざまな問題を抱えたピアノ、あるいはその持ち主と日々接しつつ、いまだに妻を忘れられずにいた鳴瀬だったが、ある日、仕事で仙台に向かうことに―。 -
第6章の転調は、正直しっくりこない。解説を読んで作家さんの気持ちは理解できたけど、私は、震災がなかったらどんなエンディングになってたのかなぁ?と思うし、それが読んでみたかった。
-
共感覚を持つ元天才ピアニスト、鳴瀬が調律師として生きる物語。
10年前の大事故を境に「色聴」だったものが「嗅聴」とでもいうべきものに変わっていて、そしてそれは事故で亡くなった妻が有していた感覚だった。喪失感を抱え続ける鳴瀬はその嗅聴を、妻の一部を宿していると思って・・・思いたいと、思っている。
調律師として一流の腕を持ちながらも、前進することを選べずにいる彼の姿はもどかしく見えるが、それよりもっと、切々とした筆致のせいもあってか、痛々しく哀しく見える。
このまま、細々とやっていくのかと思わされた矢先――、震災が起こる。
実際、執筆途中での発生だったとのことで、べつのプロットがあったはずなのに、このことを作品に入れずにはいられなかったのだろう。仙台に住む熊谷氏はこのあと、気仙沼を舞台にした作品を書いている。
生々しい街の描写、東京へ帰るだけなのに逃げるような気になる鳴瀬、そして自分の中の妻、だった共感覚の消失。どとうのような展開の後のラスト、調律に出向いた被災地でピアノを弾くシーンの、光に満ちたイメージが良かった。 -
【直木賞作家が描く魂の再生の物語】ある事がきっかけで、ピアノの音を聴くと「香り」を感じるという「共感覚」を獲得した調律師、鳴瀬の喪失と再生を描く感動の物語。
著者プロフィール
熊谷達也の作品
