カウントダウン・メルトダウン 上 (文春文庫 ふ 42-1)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (578ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167905361

作品紹介・あらすじ

未曽有の原発事故が問う日本という国の形福島第一原発事故の調査をプロデュ―スした著者。さらなる取材を敢行、明らかになった驚愕の真実とは。第44回大宅賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 東日本大震災による福島第一原発危機への対応を詳しくたどった本。国家の危機管理運営がどうなっているのか、想像を超える問題と責任を前にして人と組織がどう動くのか、そのためにどういった準備が必要であったのか、手に余る問題の前で想像力が停止してしまうとはどういうことなのか、など様々なことを考えさせる。保安院上層部の面々や清水社長をはじめとする東電上層部の事態に対する反応は事の重大さを思うと目を覆うばかりだ。しかし、そのことを無遠慮に批判することができる人が果たしてどれだけいるだろうか。保安院の中村幸一郎を更迭したこと、菅首相が原発訪問したこと、SPEEDIのデータを出せなかったこと、など初期時点での後知恵でのミスも見られるが、そのことを単に批判することは誠実ではないだろう。

    本書の内容は、時系列の通りに記述されているわけではなく、その点では非常に読みにくい。少なくとも事故にまつわる大きなトピック、水素爆発、注水対応、住民避難などについての全体像をある程度知っていることが前提になっている。複数のトピックをそれぞれ詳しく追うとなるとこの形式しかなかったのかもしれない。読む側としては、事前にタイムラインを押さえておくべきだろう。

    最後に書かれた、管首相への評価、吉田所長への評価は読むべきものがある。あのとき民主党が政権を取り、菅直人が首相であったことは日本にとって不幸だったのか。必ずしも不幸ということではなかったというのが著者の見解だ。「イラ管」と言われ、「聞いたことだけに答えろ」という管に対して、報告が遅くなるのは当然の帰結であった。「怒られる」ということで報告や意に沿わない行動を取らなくなるものが出てくる状況は致命的だ。事故を統括する首相としての評価は、「個別の事故管理(アクシデントマネジメント)にのめり込み、全体の危機管理(クライシスマネジメント)に十分に注意を向けることがおろそかになったことは否めない」と民間事故調で報告された通りだろう。「国家的危機に際して、国民の胸に響く言葉を発することがついぞなかった」と言わしめるのは一国のリーダー、政権党首としては間違いなく失格であろう。ただ、東電に対して人命最優先ではなく撤退の選択肢がないことをわからしめたことは危機対応時の指揮官としては評価できるのではないのだろうか。言葉を選ばずに言うと、東電の作業員は死んでもいいと言ったのだ。そのときに彼自身も責任を取る覚悟もできていたのではないかと信じたい。民主党が政権にいたことが不幸であると言われたが、著者の言うように必ずしもそう言うこともできないだろう。危機対応をした官邸政治家は、あの危機の時、リーダーが管でよかった、と心底、信じているという。

    また覚悟と言えば目立ったのは吉田所長以下の原発に残った東電社員および関連会社職員と自衛隊のことを避けることはできない。「総理。どう思うかと聞くのはやめてください。行け!と言ってください。命令されてやるのが自衛隊です。相談されても困るんです」という折木幕僚長の覚悟。関わった多くの人は、いずれ死ぬのだからという思いを持ったことだろう。

    吉田所長については、事故初動対応に問題があったことも指摘されている。津波対策をはじめとする事故予防策に責任を持つ立場にあったが、十分な備えを取らなかったことも批判されるところである。それでも、吉田所長でなければ、あの事故の統率はほとんど不可能だったというのは衆目の一致したところだ。吉田所長は、体調を悪くし、事故の2年4ヵ月後の2013年7月に亡くなった。放射能の影響ではないとされたが、原発対応の心労が彼の健康に影響を与えることになったのは疑いようはないだろう。
    一方、実際の危機管理の点では、福島第二の増田所長が「本当のヒーロー」だと米原子力規制委員会幹部であったカスト―氏は評価する。福島第二は単に運がよく深刻な事故にならなかったのではなく、その可能性は十分あったところを適切で大胆な処置によりその危機を免れたことを知って本当によかったのだと思う。

    少なくとも政権交代がなったおかげで当時の様子がありのままに出てきているということもきっとあるだろう。歴史にたらればはないが、自民党が政権についていたとしても同じように問題になり、場合によってはよりひどいこととなった可能性もある。事故の経験と個々の失敗については、しっかりと認識をして改善につなげてほしい。それは単純な原発反対を言うことだけではない。

    映画『シン・ゴジラ』と合わせて改めて読むとよいかもしれない。

  • 自衛隊とか下請けとか

  • 3.11に付随して起こった福島第一原発事故。その当時の政府、東電、自衛隊、地方自治体といった動きが整理されているノンフィクション。

    以前、別の著者の『メルトダウン』というノンフィクションも読んだけれど、随分前だったこともあり、こちらの方がより詳細に描かれているように感じた。

    中でも、政府と東電のやり取りは、情報伝達不足がハッキリ伺えて、こんな最中で国民の前に立たなくてはならなかった政府の心情も分かるなあ……というか、ここまで骨抜きな一流企業が存在することにただただ恐怖する。
    人間力として、原子力を持つレベルに達していないという記述があったけれど、本当にそう。
    有事の際に守るべきものが人間ではなく、体裁であるような面々が扱って良い技術ではないのだと思う。そのために技術力が後退したって、私個人は構わないとさえ考える。

  • 福島第一原発事故でメルトダウンが起きた原因や経緯について、関係者への取材や資料・回想録を元に綴ったドキュメントの上巻(2016/01/10発行)。

    既に言い尽くされたことですが、改めて東京電力と官僚の福島第一原発事故に対する行動の酷さに唖然とされました。只、当時「イラ管」と揶揄されていた管直人 元総理が行った原発事故対応が、当時の状況から考えると意外にも真面だったように感じ驚きました。
    怒鳴りちらし、周りの人間を委縮させ、落ち着き無く動き回るなど問題を上げれば限が無い管直人 元総理ですが、それでも右往左往し責任回避に明け暮れる東京電力や官僚を福島第一原発事故収束に向け、指示・命令していたことは評価するべきかと思います。

    あまりにも酷い当時(ひょっとしたら現在も?)の東京電力や官僚に何とコメントすれば良いのか判りません。

  • 福島第一原発事故の真相に深く斬り込んだノンフィクション。

    福島第一原発事故に関連するノンフィクションは何冊か読んだが、これほど東電と政府の愚かさを客観的に描いた作品は無い。

    結局のところ、原発はブレーキの無い自動車を制限速度超過で乗り回すようなものであり、危機管理能力やインテリジェンスを全く備えていなかった東電、政府が被害をより深刻化させたのだということが良く解る。

    また、最近では福島第一原発事故は何処へ行ったのやらと思うことが多い。まだまだ深刻な事態が進行中だというのに、世論や政治は原発再稼働へと傾き、挙句、東京オリンピックに浮かれている。事故から5年目を迎え、健康被害の拡大も非常に心配なところ。果たして、この国に未来はあるのか…

  • 【未曽有の原発事故が問う日本という国の形】福島第一原発事故の調査をプロデュ―スした著者。さらなる取材を敢行、明らかになった驚愕の真実とは。第44回大宅賞受賞作。

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著者プロフィール

一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長。1944年北京生まれ。法学博士。東京大学教養学部卒業後、朝日新聞社入社。同社北京特派員、ワシントン特派員、アメリカ総局長等を経て、2007年から2010年12月まで朝日新聞社主筆。2011年9月に独立系シンクタンク「日本再建イニシアティブ」(RJIF)設立。福島第一原発事故を独自に検証する「福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)」を設立。『カウントダウン・メルトダウン』(文藝春秋)では大宅壮一ノンフィクション賞受賞。

「2021年 『こども地政学 なぜ地政学が必要なのかがわかる本』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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