- 文藝春秋 (2016年4月8日発売)
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感想 : 7件
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Amazon.co.jp ・本 (176ページ) / ISBN・EAN: 9784167905941
作品紹介・あらすじ
カツカレーの食べかたを巡って諍いとなり、同棲相手の秋恵を負傷させた貫多。秋恵に去られる事態を怖れた彼は、関係の修復を図るべく、日々姑息な小細工を弄するのだが――。「どうで死ぬ身の一踊り」の結末から始める特異な手法で、二人の惨めな最終破局までを描いた連作私小説集。〈秋恵もの〉完結篇。(解説・鴻巣友季子)
みんなの感想まとめ
人間関係の微妙なバランスと、愛情のもろさを描いた作品は、読者に深い感情を呼び起こします。カツカレーを巡る諍いから始まる物語では、同棲相手の秋恵を負傷させた貫多が、関係の修復を試みる様子が描かれますが、...
感想・レビュー・書評
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私のブログ
http://blog.livedoor.jp/funky_intelligence/archives/1998053.html
から転載しています。
西村賢太作品の時系列はこちらをご覧ください。
http://blog.livedoor.jp/funky_intelligence/archives/1998219.html
「棺に跨がる」
例のカツカレー事件後のお話。同居女性秋恵の「豚みたいな食べっぷりね」にキレて足蹴にし、肋骨を折るというDVをしでかした後、藤澤清造の縁者と宴会をするために能登に来た貫多。反省というよりは病院や警察に駆け込まれたらという懸念が先に立ち、ひたすら秋恵の連絡を待つ貫多。結局、修復することなく本編を終えるのだった。時々、西村賢太作品をどう読んで良いのか分からなくなる。つまり、文学として読めばいいのか、反面教師として学ぶ姿勢で読めばいいのか、果ては娯楽小説として楽しめばいいのか。その曖昧さが西村賢太作品なのかも知れない。
「脳中の冥路」
前編の続き。秋恵の機嫌を取るべく東京ドームに野球観戦へ誘う貫多。場を取り持つべく発する台詞も冷や冷やもの。
「東京に出てきてる九州の田舎者どもがこぞって押しかけてやがるのかな」
「そんなに郷土愛に燃えてんならよ、彼奴らはてめえのくにで働いて暮らしてりゃいいのにね。東京が狭くなって仕方ねえや」
「全く、ぼくのような生粋の江戸っ子にとっては実に傍迷惑な話だよ」
「お前も東北の田舎っぺだったね。東北人が東京ででかい顔してるのも目障りに違げえねえが」
結局タクシーで帰るか否かで揉めて終わるのだった。貫多はエゴイストというよりは完全な人格障害だな。
「豚の鮮血」
更に続編。秋恵の機嫌を取り戻そうと貫多が取った方法は、カレーライス作り。が、「すっぱい」「ブタくさい」「あー、お水が美味しい」などと散々な言われよう。最後は逆ギレする貫多なのであった。
「破鏡前夜」
なるほど、この1冊は秋恵との別れのシリーズなのか。全て繋がっており、短編集というよりは長編小説として楽しめるのだ。結末を書くと、貫多が藤澤清造の月命日のため七尾に赴いた一泊二日の間に、秋恵に逃げられていた。ま、極悪非道な貫多のもとでよく持ったほうか。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
それならおまえの股ぐらにもラップをまけ。
その悪罵ににやつかせてもらった秋恵もの、終わりとは寂しい。 -
あー、細い糸一本でようやく繋ぎ止めてたものが、ついに切れて終わってしまった。読んでて辛かった。大事なものを自分のせいで失ってしまう、そういう臨場感があった。
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【人間存在の情けなさと愛おしさに迫る連作私小説集】カツカレーから諍いとなり、同棲相手の秋恵を負傷させた貫多。関係修復を図り、姑息な小細工を弄するが。〈秋恵もの〉完結篇!
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こいつ嫌い。不快感。秋江の別れかたナイス。
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最後の「秋恵」モノ。別れちまったわけだから。藤澤清造の墓に額づいているうちに。サヨナラ。一切は彼の傍若無人な打擲による、恋人の当然の報い。相反する形容が彼の顔には並ぶ。「誇り高い」↔「甘ったれ」。ここに私小説としての、書き手としての西村賢太がある。エッセイではない。すきま風が吹き込む。僕が彼の新しい小説を手に取ることは、もうないのだとおもうと、秋恵との別れであり、西村賢太、私小説の主人公である北町貫多との別れでもあると思うと感慨深い。
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芥川賞作家、西村賢太氏の『秋恵もの』と呼ばれる連作小説集です。『どうで死ぬ身の一踊り』の直接的な後日談で貫多と秋恵の関係が崩壊に向かって突き進んでいく様子を見つめた4編です。相変わらずの貫多でした。
芥川賞作家。西村賢太氏による非道極まりない連作小説集です。俗に『秋恵もの』といわれる小説を4編、収録されております。
物故作家の全集を出すという理由で秋恵の実家から300万円もの大金を引っ張った上でことあるごとに秋恵に罵声を浴びせ、暴力を奮い、彼女がパートで勤めたお金で生活したお金で深々と淫蕩に浸る…。
そんな西村氏をモデルとした主人公北町貫多とその彼女の秋恵…。西村氏のナビゲートによると、本書はデビュー作である『どうで死ぬ身の一踊り』(角川文庫)のストレートな後日談になります。
『どうで~』で口論、暴力の末に秋恵の肋骨を蹴ってヒビを入れてしまった北町貫多。それを境に二人の関係は一気に冷え込み、崩壊へと突き進んでいきます。『棺に跨る』では『歿後弟子』を称する貫多の師匠である物故作家。藤澤清造の墓の隣に自分の生前墓を建立し、その祝いの席でのことと、関係が急速に冷え込む秋恵とのメールでのやり取りが合間にはさまれながらも展開します。もちろん、墓の費用は秋恵の父親から引っ張ってきた300万円から捻出したものでございます。
『脳中の冥路』では関係が冷え切り、もはや貫多が何を言ってもそっけない態度しかとらない秋恵をつれて、ナイターに行くのですが肝心の秋恵がまったく乗り気ではなく、貫多が何を話しかけても
『………』
とまったく取り合わない描写にすさまじいばかりのリアリティを感じました。
帰り道に貫多が焼肉を食べに行こうとしたら、電車にするかタクシーにするかでもめたのをきっかけに秋恵の怒りが爆発してしまうのです。
「あたしの体のぐあいがこうなのに、焼肉だもんね」
とあたりはばからず絶叫する彼女に共感するか、相変わらずの貫多の暴言にカタルシスを感じるかで評価が分かれるところです。
『豚の鮮血』では冷え切った関係を改善したい一心で、貫多はカレーを作ります。しかし、カレーは以前、秋恵が作ったカレーを貫多が貪るように食べていた際、彼女がその様子を
「豚みたい」
といった瞬間、彼の怒りが爆発して後はいつもの展開になったという顛末から二人の間で避けられていたメニューでした。
カレーを作ったはいいものの、豚肉を多く入れすぎたために酸味が強くなり、イヤイヤながら食べるのでした。貫多が残りのカレーにシーチキンを入れたところで秋恵が
「…気持ち悪い」
といったところで彼の怒りが爆発するのです。
あとはお決まりの暴言とラップの紙筒で彼女の頭を殴り(あれは品物によってはかなり痛いものもある)秋恵は嗚咽を漏らし、貫多もまたやるせない思いを胸にするのです。
最後は『破鏡前夜』と題し、いよいよ貫多と秋恵の間に永遠の別れがやってきます。藤澤清造の月命日のために能登へ行く貫多。それを促す秋恵。その前にも彼女は態度を元に戻しはしたのですが、それには重大な『意図』があって…。
法要を済ませて貫多が家に戻ってきたとき、秋恵の姿と彼女の私物の一切が消えたという場面は本当に寂寥感に満ち満ちており、読みながらある種の共感さえ覚えてしまいました。
テーブルの上にある一枚のメモ用紙に
『いろいろ考えたけど、やはりもう無理です。短い間でしたがお世話になりました。私は実家には戻りません。お金は、必ず父に返してください。このことでは、そのうち父から連絡がいくと思います』
これは筆者いわく、全文を引用しているそうで
「よくやった! 西村賢太」
というある種の喝采と、
「ここまでやってよく秋恵のモデルとなった女性から訴訟を受けないのかなぁ?」
という一抹の不安が抜けませんでした。
貫多はこの文面を目にしたとき、あまりのショックで『下腹部の瞬間的な弛緩の因による大放屁をぶちまけつつ、我知らずその場にへたり込んでしまった』とあり、ショックの大きさがうかがえました。
西村氏の私小説は女性にはウケはよろしくないだろうなぁと苦笑いしつつ、読みながら引き込まれていくのです。そして、小説世界をなおいっそうのこと引き立ててくれるのは信濃八太郎氏によるすばらしい装画によるところが大きいことも見逃せないところでございます。
※追記
本書は2016年4月8日、文藝春秋より『棺に跨がる (文春文庫 に 18-3)』として文庫化されました。西村賢太先生は2022年2月5日、東京都の明理会中央総合病院でご逝去されました。享年54歳。死因は心疾患。この場を借りて、ご冥福を申し上げます。
著者プロフィール
西村賢太の作品
